アレック・エンパイア INTERVIEW
昨年、ATARI TEENAGE RIOTが復活のアナウンスと共にリリースした新曲「Activate!」。この曲を今になって聴くと、どうしても現在の我々が置かれている状況を予見していたように思えて仕方ないのだ。国家政府による情報操作を糾弾するこの曲で、アレック・エンパイアはこう叫んでいる。“Countdown to the meltdown(メルトダウンまでのカウントダウン)”。日本がまさにこの言葉通りの事態を迎えてしまったことに最も震えたのは、他ならぬアレック本人だったのではないか。
そして2011年。彼らは前作『60 Second Wipeout』から約12年ぶりとなる新作『Is This Hyperreal?』を完成させた。「Activate!」で扱ったテーマをさらに拡大させたこのアルバムで、彼らは現代のインターネット社会で個人が危機に晒されていることを何度も訴えかける。パフォーマンスの激しさも手伝って、このバンドは過激なアジテーションを続けているように思われがちだが、実は彼らの掲げるメッセージがそこまでラディカルなものだったことはない。しっかりとリリックに耳を傾けてみると、彼らの主張のほとんどは市民の視点から生まれた常識的なものだとあなたも感じると思う。彼らが他と違っていたのは、その掲げた問題に対する危機意識の高さである。ことの深刻さ、緊迫感を伝えるために最も適したサウンドとして、彼らはBPM200を超える高速ブレイクビーツと耳の奥を擦り減らすようなノイズを選んだ。あの常軌を逸したサウンドはそうして生まれたのだ。「Activate!」でアレックはこうも言っている。“Music is the weapon(音楽は武器だ)”と。以下に掲載されているものは、彼らがフジロックのステージに立つ直前にアレックと交わした約20分の対話だ。この後、アレックはレッド・マーキーのステージ上で福島の現状を嘆き、政府への怒りを露わにし、オーディエンスに何度も“Are you ready to testify?(証言の準備はいいか?)”と煽った。そして今年11月、ATARI TEENAGE RIOTは音楽という名の武器を手に、再び日本の地に立つ。
インタビュー&文 : 渡辺裕也
新たな革命を起こす、12年ぶりの新作!
ATARI TEENAGE RIOT / Is This Hyperreal?
アレック・エンパイアを中心に結成され、新たな音楽ジャンル【デジタル・ハードコア】で世界中の音楽リスナーを狂乱の渦に巻き込んだ伝説のバンド、ATARI TEENAGE RIOT。2010年に長期に渡る沈黙を破り、突然のバンド活動再開。レッドマーキーの大トリとして出演した今年のフジロックでは、登場前から異様な盛り上がりを見せ、決起集会の様相を呈した。1999年の名盤『60 Second Wipeout』以来、12年振りとなる4作目のオリジナル・アルバム『Is This Hyperreal?』は、ATRの存在意義を改めて証明すべく、渾身のアルバムとなっている。
今伝えるべきことがあるんじゃないか
——日本では3月11日の震災を受けて原発事故が起こり、未だに難しい局面が続いています。そんな状況にも関わらず、ATARI TEENAGE RIOTが再び日本のステージに立つことを心から嬉しく思っています。これまでの来日とはあなたの心境もまた違うのではないでしょうか。
まず、ニック・エンドウには日本人の血が流れているからね。それに、例えば90年代のノイズ・カルチャーにしても、僕らの使っているロゴのイメージにしても、アメリカや他の国と比べて、日本と僕らには深いつながりがあるんだ。だから今回の震災はそれこそドイツで起こったことのように心配しているし、とにかく「すぐ日本に行かなきゃ」という気持ちになったよ。もちろん「いま日本に行くのは危険だ」「行くべきではない」というアーティストも中にはいるだろうし、実際、僕らも友達から「いまは止めておいた方がいいんじゃないか」と言われたよ。でも、僕らはいま行かなければだめだと思ったんだ。
——新作はインターネットを媒介とした大量情報社会がテーマになっています。これはいまの日本にとっても他人事ではない問題なのですが、みなさんがこのようなテーマと向き合うことになったのはどんなきっかけがあったのでしょうか。
僕らが活動を再開させたのも、元々はロンドンで一回だけライヴをやるだけのつもりだったんだ。だけど、その時に集まったオーディエンスがみんな若くて、しかもすごくいいリアクションが返ってきたんだよね。そこで「なんで俺たちみたいな90年代に活動していたバンドの音楽に、こうやっていまの若い世代が反応してくれるんだろう。もしかするとまた何か言わなければいけないことがあるんじゃないか」と考え始めて、それから本格的に活動を再開することを決めたんだよ。音楽を簡単に分けると、現実逃避させてくれるものと、困難な状況に対するリアクションを詰め込んだもののふたつになると思うんだ。そうするとアタリは後者になるし、これから先もずっとそうだと思う。で、90年代はテロや国際化社会の危険性、そして差別に対して僕らは歌ってきたんだけど、新しい時代に突入して、自分達が今なにを表現するべきかを改めて考えていたんだ。そこで今の時代を見渡すと、テクノロジーが発展してきているのに多くの人達はまだそういう状況に対して未だにナイーヴで、きちんと準備ができていないように感じたんだ。そんな状態にも関わらず、政府は情報をコントロールしている。本来インターネットというものは、ただ与えられていく情報とはまた別の情報を得られる媒体であるべきなのに、今は政府からのコントロールによって限られた情報しか得られない状況になりつつある。そこでもっと選択肢が必要だと思ったんだ。僕らはそこに政府のコントロールは介入すべきではないと歌うべきだし、それが一番チャレンジングなことだと思ったんだ。
——日本でも情報の隠蔽というのは大きな問題になっています。正しい情報を掴めないが故になかなかアクションが起こせないというのが、現在の日本人の現状でもあるのですが、この日本の状況はあなたの住むドイツではどのように伝わっているのでしょうか。
ヨーロッパの中でもドイツでは比較的しっかりと状況が伝えられていると思う。というのも、ドイツは80年代から反原発運動が表立って行われてきた国だから、保守的な層でも原発に対してはアンチな姿勢を貫いているところがあるんだ。でも、例えばイギリスに行くとそういう部分は見えづらいのかもしれない。そういう情報が一般に広がってしまうと企業や政局に影響が出てしまうんだよね。エネルギーに関しても、電気について考える時なんてせいぜい電気代を払う時くらいで、電気は電源から自然に出てくるものという意識を植え付けられているように感じるよ。企業があって、そこに政府が介入して、どうやって利益を求めるかというプロセスが生まれてしまうと、すぐに経費を削減することばかりに意識が流れて、リスクに対して頭を働かせなくなってしまうんだ。それは本当に許せないことだよね。今回の日本の出来事はあまりにドラマチックというか、極端な例ではあるけど、例えばヨーロッパでも、電車に故障が見つかって修理が必要だったのにも関わらず、経費削減のために手を抜いた修理しか行われず、結果として大事故を招いてしまったことがあったんだ。それは絶対に許されてはいけないことだし、そういうことが起こる度に、ATARI TEENAGE RIOTにはまだ何か伝えるべきことがあるんじゃないかと思ってしまうんだよ。
——新作と12年前にリリースされた前作『60 Second Wipeout』では、3人のフロント・マンのうち、あなたを除く二人が入れ替わっています。歌い手が代われば送り出す社会的な主張にも必然的に変化があったのではないかと思うのですが。
このバンドの手法はずっと変わっていないんだよ。メディアを通して固定メンバーがいるようなイメージが定着していたかもしれないけど、90年代にもメンバーは代わっているし、そこに関しては常にフリーダムなプロジェクトだったんだ。その時にどういうメンバーが加わって、どういうアイデアを交換していくかが最も重要なんだよ。あくまでもこのバンドをプロデュースしているのは僕だし、僕が基礎を固めているところはあるけど、その基礎の上では常にいろんなことが巻き起こっている状況なんだよね。それがATARI TEENAGE RIOTなんだ。そこで今回のアルバムに関して言うと、ニックがかなり重要な責任を負っている。彼女はかつて在籍したどのメンバーよりもこのバンドと重い関わり方をしてくれているんだ。先程話した通り、アルバム全体を通すとインターネット社会に対する問題提起が多くを占めているけど、その中でも「Blood In My Eyes」はまったく違うコンセプトを持っているんだ。あれはニックだからこそ掲げられた重要な問題だと思ったし、バンドとしても取り組みたいテーマだった。とにかく今回はニックの貢献度が最も高くて、それがアルバムに大きな影響を与えていると思う。
——ATARI TEENAGE RIOTというグループ内におけるニックの立場がこれまでになく大きなものになったということですね。今の話を聞いて、あなたの「このバンドは政党のようなものだ」という発言を思い出しました。
今回に限って言えば、アイデア面においてニックの果たした役割は全体の90%くらいを占めているよ。ニックがすごいのは、ソロとしても活動しながら、すぐアタリの活動に頭を切り替えられるんだよね。自分個人の活動と並行して「アタリではこういう問題提起がしたいんだけど」というアイデアをどんどん投げてくる。今回のアルバムのほとんどがそこから生み出されていったんだ。そこがニックの最も素晴らしいところだし、今後のアタリにもいい影響を及ぼしてくれると思う。それくらい今回は彼女がリードしてくれているんだ。アタリの曲作りというのは、まず問題提起があって、それについて話し合って、どういうメッセージに仕立てるかを決めるんだ。そしてそれをサポートするために音楽がある。そうやって成り立っているから、僕らにとっては最初にアイデアがどれだけあるかが重要なんだ。例えばタイトル・トラックの「Is This Hyperreal?」は、これまでのアタリのイメージとは違う感じに聞こえるかもしれない。でもそれが逆にリスナーの興味をそそるだろうと考えたし、「なぜ今アタリはこういうことをやらなきゃいけないのか」とリスナーが思わされるだけのメッセージがそこにはこもっているんだ。すごく重要なトラックだと思っているよ。
——もう時間がきてしまったようです。今の日本にあなたたちのような明確に政治的な主張を音楽で表現し、行動を促すアーティストは決して多くありません。しかし3.11以降、日本の音楽にも少しずつ変化が起きつつあるようにも感じています。そんな今だからこそ、あなたたちのパフォーマンスはオーディエンスだけでなく、日本の若いミュージシャン達にも大きな刺激を与えるんじゃないかと思っています。
ありがとう。これから日本でアタリみたいなバンドが10も20もでてきたらすごいね(笑)。
来日公演が決定! デストロイ!!!
2011年11月17日(木)@恵比寿LIQUIDROOM
OPEN 19:00 / START 20:00
前売 : ¥5,500 (1ドリンク別途¥500)
INFO : BEATINK 03-5768-1277
2011年11月18日(金)@大阪FANJ TWICE
OPEN 18:30 / START 19:30
前売 : ¥5,500 (1ドリンク別途¥500)
INFO : BEATINK 03-5768-1277 / SAMSH WEST 06-6535-5569
2011年11月19日(土)@名古屋CLUB QUATTRO
OPEN 18:00 / START 19:00
前売 : ¥5,500 (1ドリンク別途¥500)
INFO : 名古屋クラブクアトロ 052-264-8211
TICKET
先行予約 8月27日(土) 12:00〜 BEATINK Web Shop
一般販売 9月10日(土)〜
チケットぴあ / ローソンチケット / e+ / BEATINK Web Shop (大阪、名古屋のみ会場での販売あり)
PROFILE
アレック・エンパイア(Programming,Shouts)
ニック・エンドウ(Noise Control)
CX キッドトロニック(MC)
新たな革命が始まる!
1992年、アレック・エンパイアを中心に結成。それまでのロックとテクノの既成概念を覆し、ドイツ国内においては幾度となく発禁を受ける過激なメッセージと極端にヘヴィなサウンド・スタイルは、デジタル・ハードコアというジャンルを作り上げた。1996年、アレック・エンパイアはビースティ・ボーイズと組みレコード契約、アルバム『Burn Berlin Burn』を完成。それ以降、レイジ・アゲインスト・ザ・マシーン、ウータン・クラン、ベック等とのツアーが続き、バンドは全盛期を迎える。そして1999年、3rdアルバム『60 Second Wipe Out』をリリースした。
2000年のオーストラリアのビッグ・デイ・アウト・フェスティヴァルに出演した際には、レッド・ホット・チリ・ペッパーズ、ナイン・インチ・ネイルズ、ザ・クラッシュのジョー・ストラマー、フー・ファイターズ、プライマル・スクリームなど蒼々たる面々がステージ袖で彼らのパフォーマンスに目を奪われた。しかし2001年、MCカール・クラックの死をきっかけに2010年9月までバンドは事実上解散の状態となっていた。
2010年に再結成を記念して、日本を含むワールド・ツアーを行う。その成功に続く形で、新たなメンバーとしてCX キッドトロニックを迎え、2011年6月に最新アルバムをリリース。
2010年にNMEが大絶賛し、今年レッド・マーキーの大トリとして出演したフジロックでは、登場前から異様な盛り上がりを見せ、まさに決起集会の様相を呈した。途絶えることの無いモッシュとエアーを巻き起こし、ステージとフロアが混然一体となった爆発的ライヴ・パフォーマンスを11月17日(木) 東京 恵比寿LIQUIDROOM, 18日(金) 大阪 FANJ TWICE , 19日(土) 名古屋 CLUB QUATTROにて体験することができる。