
扇谷一穂が、『たくさんのまばたき remixed by egamiyu a.k.a eg dub』をリリースします。本作は、4月28日にリリースされた彼女のオリジナル・アルバム『たくさんのまばたき』より、「on the line」「baby you're my destiny」「草とウサギ」の3曲を、異なるバックトラックでリミックスしたもの。リミックスはegamiyu a.k.a eg dub、マスタリングは高橋健太郎が手掛けました。アルバム購入者へは、彼女自身がアートワークを手掛けた、オリジナル・ウェブ・ブックレットをプレゼント。絵画と音楽と異なる二つの手法で、心に広がる風景を表現する彼女の世界を是非体感してください。
扇谷一穂 / たくさんのまばたき remixed by egamiyu a.k.a eg dub
2010年5月14日販売開始
1.on the line(作詞 : 扇谷一穂 作曲 : 扇谷一穂/横山裕章)
2.baby you're my destiny(作詞 : TAJ MAHAL 作曲 : TAJ MAHAL)
3.草とウサギ(作詞 : 扇谷一穂 作曲 : 扇谷一穂)
remixed by egamiyu a.k.a eg dub
mastered by Kentaro Takahashi
さて、何から話せばいいものか。この『たくさんのまばたき』という作品、ちょっと聴き所が多すぎて、どこから伝えようかすっかり困ってしまった。ヒップホップ、ジャズ、はたまたアンビエントから室内楽に至るまでを手中に収めたトラック・メイキングにはとにかく高揚させられるし、その色彩豊かなサウンドを違和感なく聴かせる構成力も見事の一言。しかし、やはりこの作品を最も魅力的に輝かせているのは、扇谷一穂自身の艶のあるアルト・ヴォイスだろう。今回オトトイでは『たくさんのまばたき』に収録された3曲のリミックス音源を配信するのだが、これがまた原曲とは異なるアングルから彼女の資質をはっきりと浮かび上がらせたような素晴らしい仕上がり。彼女の歌声が重なると、不思議とどんな音色もいきいきと躍動し始めるのだ。ちなみに『たくさんのまばたき』のパッケージ盤は、画家でもある彼女の絵画作品が挿し込まれた絵本仕様となっているので、是非そちらを手にして、このリミックス音源と合わせて楽しんで頂きたい。
インタビュー&文 : 渡辺裕也
自分の好きな音楽をもっと自分なりの形で表現していきたい
——オリジナル作品としては2002年の『しののめ』以来となる訳ですが、このタイミングで出す事になったのは何かきっかけがあったんでしょうか?
2007年に『Canary』というカバー・アルバムを出したんですけど、「今後はどういうスタンスでやっていくんだ?」とはよく周りから言われていたんです。私は人が作った曲を歌うのも大好きだし、それは今後もやっていきたいんですけど自分の好きな音楽をもっと自分なりの形で表現していきたいという気持ちはもちろんずっとありました。『Canary』を出した時には、もう一度オリジナルの作品を出したいという気持ちに向かっていきましたね。
——今回のアルバム、僕の周辺ではかなり盛り上がってます。特にアンダー・グラウンド・ヒップホップ好きのある男子がやたらと熱くなっていまして。1曲目の「on the line」のつんのめったビートは確かにヒップホップですよね。
それは嬉しいですね。確かにあれはアンダーグラウンド・ヒップホップのブレイク・ビーツを聴いて「あ、これがいい!」と思って作ったんです。まず私が持っているMPCでループを作って、そこにピアノを乗せた段階で横山裕章さんに預けて、さらにイメージが加わったところでメロディを固めていきました。
——アレンジャーの方とアイデアを投げ合いながら曲を作っていくのですか?
今回はそういう作業が多かったですね。自分がやりたい事をきちんと伝えられたし、私にはない発想をたくさん与えてもらいながら、イメージをどんどん膨らませる事が出来ました。実際に私がヒントを得た音楽を聴いてもらって「この感じを出したい」と言ってみたり、私の描いた絵を見てもらって「この感じなんです」と伝えてみたり(笑)、みなさんからすれば、かなり大変な作業だったと思います。オオヤユウスケさんにアレンジして頂いた「秋波の送り方」に関しては、みんなでひとつの部屋に集まって、その当日にイメージを擦り合わせながら一気に録りました。それも楽しかったですね。
——イメージを伝える材料として、やはり絵はよく使われるのですか?
そうですね。BE THE VOICE と一緒に作った曲は特にそうかもしれませんね。逆に彼らから「あの絵の感じにしてみたら?」と提案をされることもありました。

——周囲の方々は扇谷さんの絵画作品をどのように捉えていたのでしょうか?
絵と音楽にギャップを感じるとよく言われていたんです。音楽に対してはわりと大人っぽい印象を持たれるんですけど、絵は優しくて素直なイメージで見られることが多かったですね。確かに昔は背伸びをしていた所もあったと思うので、その意味では今回のアルバムで絵と音楽のイメージは大分近づいたような気がしています。ただ、自分ではそのふたつを特に住み分けして考えていたつもりはなくて、どちらも好きな事を好きなようにやってみたらそうなったというだけなんです。
——扇谷さんの絵画作品のほとんどは女性を描いたものですよね。特定のモデルとなっている人はいるのですか?
特にモデルはいません。もう思いつくままに描いています。個展を開く時は毎回テーマを決めるのが大変なんですけど、今回のアート・ワークに載せたものは音楽の挿絵みたいな感覚で描く事が出来たので、すごくスムーズでしたね。例えば「気球のワルツ」を作っている時には、白い丸襟のブラウスを着ている、背筋が伸びている女の子が常に頭の中にいたので、その子の絵を描きました。曲のイメージは自分の中ではっきりとしているので、それをそのまま描いたんです。
——歌詞もそのイメージに従って書いているのですか?
『しののめ』を出して以降も曲自体は作り続けていたんですけど、歌詞がなかなか書けなくて。今回も録音前のギリギリで仕上げたものがけっこうあります。自分は締切がないとだめだという事が今回ではっきりしました(笑)。
——では、前作以降のストックをまとめたという訳ではないんですね?
もちろんおぼろげなイメージはあったんですけど、具体的にしていったのは今回のアルバムを作り始めてからですね。特に詞に関してはそうです。
ネガティブなものは出したくないと思ってます。
——小さい頃に能をやっていたそうですね。
3歳から13歳辺りまで、お謡いと仕舞のどちらもやっていました。中学生の時に自分が能をやっていた時の事を思い出しながら、改めて声を出してみたら「これは変わった声だな」と思って(笑)、この声をなにか面白いものに使おうとしたのが、音楽を始めたひとつのきっかけです。だから、作家や歌い手になりたかったというより、自分の発する声がサウンドとして面白いと感じたから音楽に興味を持ったんです。例えばその当時流行っていた歌を聴いていても、こんなに低い声で歌う人はあまりいなかったし。当時からジャズが好きで、ナット・キング・コールと矢野顕子さんの『WELCOME BACK』を毎晩交互に聴いて寝ていました。『WELCOME BACK』もパット・メセニーやチャーリー・ヘイデンが参加していたジャズ寄りの作品なんです。
——中学生とは思えない趣味ですね(笑)。家族からの影響もあったんですか?
父親の仕事がグラフィック・デザイナーで、レコード・ジャケットのデザインをやっていたから、レコードが家の中にたくさんあったんです。そういう意味ではいろんな音楽に触れる機会は多かったかもしれませんね。まずはナット・キング・コールが好きになって、そこからサラ・ヴォーン等に広がっていきました。彼らの深みのある低い声が好きだったんです。そこで「自分にも出来るかな」と思って。大学生の時はジャズ研究会で2年くらい歌ったりしていたんですけど、その辺りから、あまりジャズに捉われず自由にやりたいと思うようになってきて、曲を書いて日本語で歌うようになっていきました。ちょうどその時はハンバートハンバートの佐藤くんも同じ大学のサークルにいたので、その辺りの友人に手伝ってもらいながら、自分の声を使って何が出来るかを試していました。いろんな音楽を知っていく中で、そこに自分の声を取り入れたらどうなるかを考えながらやっていたんです。
——確かに扇谷さんの声には黒っぽいフィーリングがありますね。その一方でトラックからはブラックだけでなく様々な音楽からの反響が見えます。
それは参加してもらった方から頂いたアイデアも大きいですね。あと、学生の時に六本木のウェーブが学校の近くにあって、毎日のように通ってはいろんな音楽を聴いていたんです。そこで音楽の地図がどんどん拡がっていきましたね。それこそ民族音楽からアンビエント、40年代のジャズなんかがランダムに置いてあるお店だったので、そこから得た影響は大きいと思います。
——最近、僕の友人の絵描きが「精神論ではなくてロジカルに考えた結果、創作に必要なのは愛情だと気づいた」と言ってたんですが、扇谷さんの作品にもそれは当てはまる事でしょうか?
ゴンチチさんが今回のアルバムに寄せてくれたコメントがまさにそんな感じでした。それはすごく嬉しかったんです。でも自分では「愛を伝えたい」という意識を持って創作に取り組んだ事はないかもしれませんね。ただ絵も音楽も、ネガティヴなものは作品として出したくないと思っています。
——彼の言っている愛というのは、つまりコミュニケーションという言葉に近い意味合いなのかなと思ったんです。
なるほど。絵を描く時にそれは確かに言えるかもしれません。私がなぜ人物を描くかというと、自分が知らない人を生み出しているような面白さを感じているからなんです。そこから出来上がったものを見て自分が愛情を持てない時は、いい絵にはならないんですよね。愛情を感じた時は、つい「可愛い」って言っちゃいますよ(笑)。でも音楽に関しては少し違うかもしれない。

——音楽に対してはもう少しドライに接している?
目に見えないものだからでしょうか。絵は音楽を始める前から身近にあったし、父の仕事の関係もあって家には画材もたくさんあったから、視覚的なものには最初から馴染み易かったんだと思いますけど、音楽にはまだわからない事が多いというか……。難しいですね。景色が見える音楽を作りたいとは思うんですけど、それがさっきの愛情と結び付くものかはよくわかりません。でも今回アルバムが出来上がった時、「死ねないな」という気持ちにはなりました。
——(笑)死ねない?
「道路を渡る時はもう少し気をつけよう」とか(笑)。だから子供が出来た時の気持ちに近いのかもしれませんね。生きている事を強く感じられたというか。だから責任感を持たなければいけないと思ったのかな。子供を産んだ事もないから、うまく表現できないんですけど。逆に満足のいく絵が描けた時はそういう気持ちになるかというと、そうではないんですね。
——扇谷さんの絵が今のような画風になっていったのはいつ頃からなのですか?
さっき「音楽と絵の雰囲気が今回の作品で近づいた」という話をしましたけど、それは最近になって絵のタッチが変わってきたというのも関係しているんです。『しののめ』を作っていた時はすべてアクリル絵の具を使って、自分の意図した色だけで描いていたんですけど、今回のアート・ワークは水彩とアクリルの両方を使って描いたんです。水彩はすごく不確定要素が多い画材で、水の加減で滲んだりして、すごくライヴ感があるんです。最近はその不確定な感じを楽しんでいるんです。
——さっきお話してくれたアレンジャーとのやりとりとも近い感じがしますね。
そうかもしれませんね。『しののめ』の時はやりたい事がはっきりとしていて、それ以外の要素は排除するような感じだったんですけど、今回の作品でたくさんの人に関わってもらいながら、いろいろな作り方、録音方法を学んでいく中で、これまで気づかなかった事を多く発見できました。それが水彩の不確定要素を楽しむようになった時期と重なったというのも、面白いですね。これまでの構築的な世界に窮屈さを感じていたのが、絵と音楽の両方に表れたのかもしれません。
——『たくさんのまばたき』という言葉は何を意味しているのでしょうか?
去年の8月に開いた個展のタイトルが『たくさんのまばたき』だったんです。今回のジャケットはその個展の時に描いたものです。ちょうど制作期間が重なっていたこともあって、アルバムも個展も同じようなテンションで作ったんです。今回のアルバムは「キラキラしていて、ドリーミィでうっとりした雰囲気があって、なお且つエッジが効いたものにしたい」と最初から思っていたんですけど、そのキラキラしたドリーミィな感じというのは、私の中では何かに憧れている時、何かを好きになった時にあるんです。そういう気持ちを抱えた時って目がパチパチとするじゃないですか。少女漫画の、目に星が輝いているような感じですね(笑)。
——そこも常にポジティヴなものを発していきたいという事なんですね。
自分が好きなものを好きでい続ければ、それが前に進める原動力になる事もあるし、忘れた頃にそれが自分を救ってくれる事もあると思うんです。
美しさを奏でるミュージック
カフェ・ミュージックの大本命!! BE THE VOICEの4年ぶりのオリジナル・アルバムは、爽快で疾走感ある良質な大人のポップス・アルバム
2009年3月7日に行われた「Classic Style Concert 2009 ゴンチチの生音三昧」名古屋しらかわホール公演を収録した、最新LIVE盤。 NON PAで行われたゴンチチでも珍しい貴重なコンサートを収録した本作は、ゴンチチならではの癒しのメロディーから、躍動感溢れるアグレッシブな楽曲まで選りすぐりの8曲を収録。ゴンチチの真骨頂であるギター2本だけの演奏は、本来持つ楽曲の完成度やダイナミックス、上質なメロディーが存分に堪能出来るまさに極上の「快適音楽」! アルバム購入特典(PCのみ)には、コンサートの魅力の一つとなっている「コンサート・トーク」を収録。これぞ配信限定ならではの「ゴンチチ三昧」なアルバム。
佐藤元彦(JacksonVibe)、加藤雄一郎(MEGALEV/NATSUMEN/Calm)、オータコージ(曽我部恵一BAND/The sun calls stars)ら、様々なバンドやフィールドで経験を重ねてきた7人で構成されたバンド。自主制作で2003年に発売された前作『LightEmittingDiode』以来、実に6年ぶりの本作は、ジャズ、アンビエント、ミニマルやエレクトロニカなどの要素を含んだサウンドと、メンバーがそれぞれ持ち寄ったフィールド・レコーディングによる音の断片がサウンド・スケープを作り出しています。
PROFILE
東京生まれ。幼い頃より能とバイオリンを習う。聴き手の心の深部に届くような歌声が紡ぎだす音楽。柔らかな視線を感じるタッチと、モダニズム感溢れる豊かな色彩で 描かれる絵画。二つのスタイルで心に広がる風景を自由に表現している。
Live & 展示 Info.
たくさんのまばたき展 スペシャルライヴ
5/30(日)@下北沢 mona records
時間: 19:00/OPEN 19:30/START
料金:¥2,500(Food&Drink付)
問合: チケット予約について
mona recordsでは前売チケットを電話、メール、店頭販売にて行っております。電話・メールによるチケットのご予約はお一人様2枚までとさせていただきます。前売チケットの予約・販売は公演の1ヶ月前から前日までです。
【電話予約】03-5787-3326 / 16:00〜24:00
【店頭予約】12:00〜24:00
『たくさんのまばたき展』
展示期間:2010 5/1ー 31@下北沢 mona records
『たくさんのまばたき』中の「on the line 」「みずうみ」「free bird」「ばら色の空」に使用した絵の原画を展示しています。 ※一部作品を販売しています。