2022/06/06 18:00

ちょっと雰囲気はあるんだけど、抜けがあるというもの

──今回もドラムが菅沼雄太さん、ベース&コーラスがAYAさん、サックス&フルートが西内徹さんというお馴染みのメンバーで録音しているわけですが、演奏に関しては各メンバーにどうやって説明するんでしょうか。デモを渡してそこから読み取ってもらう感じ?

そうですね……たとえば「学園祭に出ているギャルバンドみたいな感じの演奏をしてください」とか。

──(笑)。

ベースにしても、一個一個、一生懸命音を追いながら弾いている感じというか。ドラムで言うと、毎回スネアで一回一回、音が止まるような感じとか、そういうことは言いますね。

──先ほど話に出ていた「重くならないように」ということは各メンバーにも伝えてあったんですか。

フレッシュな感じを出したいんですけど、みんな長い年月ずっと演奏している人たちなんで、十代みたいにフレッシュな感じというのは無理じゃないですか。初々しさを狙うのも醜いし、下手うまみたいな、稚拙なふりもみっともない。人間性から滲み出てくるものに加え、メンバーの関係性から滲み出てくるものもあると思うんですよ。

──そこの落としどころを見つけるのはなかなか難しそうですね。

そうですね。果たしてそれができているのかどうかはわからないですけどね。でも、こういうことはレコーディングに限らず、常に考えていることなんですよ。ライヴの練習をしている時も、もっと前のメンバー集める段階でもずっと考えていたことだから、それは染みついていると思う。

──今回は“それは違法でした”と“まだ平気?”という2曲にKEN KENのトロンボーンが入ってますけど、彼が参加することになった経緯は?

レコーディングは毎回ドラムとベースと僕の3人でリハーサルして組み立ていくんですが、そのタイミングではサックスの西内さんは参加してないんですよ。ある程度曲が固まった段階で「ここにサックスを入れてほしい」とか「ここの裏メロでフルートを」とかお任せで吹いてもらうんです。“まだ平気?”はKEN KENのトロンボーンとの2管でやりたいって西内さんに言われて、それでいいんじゃないと。1曲目の“それは違法でした”は、基本的にリズムボックスで自分の家で作ったデモそのままなんですよ。まだ歌詞ができてない段階で、“まだ平気?”と同じようにホーン・セクションを入れたら良さそうだなとパッと思いついて、その場で聴いてもらってレコーディングしました。

──“それは違法でした”にはKEN KENのソロもあちこちに入ってますけど、KEN KENは本人のキャラクター自体、円熟とか渋さとは無縁な感じがありますよね。それが曲とうまく合っていると感じました。

そうですね。KEN KENには「曲と関係ないトロンボーンを吹いてくれ」ってお願いしたんですよ。意味もわからず、最初から最後までとにかく吹いてもらって。ほぼ編集しないでそのまま使ったんですけど、できあがったのを聞かせたらKEN KENがびっくりしてましたね。あれは狙ってもできないし、ある程度曲を聴いてもらったうえでやってもらったら、あんなふうには吹けなかったと思います。

──“物語のように”のMVはベリーダンサーのTanishqが出演していますが、あれは坂本さんの発案だったんですか。

そうです。あの曲は女声のコーラスがずっと入っているので、コーラスの感じを映像にも入れ込みたくて。でも、(コーラスを担当している)AYAちゃんが出る感じでもないし、だからといって関係のない若いモデルを呼んでくるのもどうかなと思って。そのときにタケちゃん(Tanishq)を思い出したんですよ。YouTubeにある適当なベリーダンスの映像を見つけて、この曲に合わせて流してみたら動きの感じとコーラスがぴったりハマって。ベリーダンスの動きに合ってるんじゃないかと思い、連絡しました。

──坂本さんが描かれたジャケットもいろいろと深読みをしたくなってしまいますね。顔がふたつあるのは二面性を表しているのか、とか。

このジャケットもなるべく考えないように適当に描きました。それをパソコンに取り込んだりしながら、ちょうどいい具合に持っていったというか。ちょっと雰囲気はあるんだけど、抜けがあるというものが今回のアルバムに合ってるかなと思って。

──このアルバムを作り始めたころに比べるとライヴも徐々に再開されていて、よくも悪くも社会のムードが変わりつつあると思うんですね。そうしたなかで坂本さんのなかで心境の変化はありますか?

そうですね……変わっていくのはこれからかな。世の中的にはどんどん悪くなっているし、希望を持てる要素が何もないじゃないですか。

──そうですね。

そのなかで閉塞感を切り抜けるというか、聴いたこともない革新的な表現を発明して世の中を変えようというヴィジョンもないんですけど。もっとなんか地味にできそうな気がしてるんですよね、そういうことを。


関連作品

サックス、フルートなどで坂本のソロ・バンドには欠かせない西内徹によるリーダ作

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すでに入手困難な坂本慎太郎のアルバム未収録の7インチ音源もハイレゾ / ロスレス配信中




プロフィール

坂本慎太郎
1967年9月9日大阪生まれ

1989年、ロックバンド、ゆらゆら帝国のボーカル&ギターとして活動を始める。
2010年ゆらゆら帝国解散後、2011年に自身のレーベル、”zelone records”にてソロ活動をスタート。
今までに3枚のソロ・アルバム、1枚のシングル、7枚の7inch vinylを発表。
NYの”Other Music Recording Co.から、1stアルバム『How To Live With A Phantom (2011)』と2ndアルバム『Let’s Dance Raw (2014)』、”Mesh-Key Records”から3rdアルバム『Love If Possible (2016)』をUS/EU/UKでフィジカルリリース。2017年、ドイツのケルンでライブ活動を再開し、国内だけに留まらず、2018年には4カ国でライヴ、そして2019年USツアーを行う。今までにMayer Hawthorne、Devendra Banhartとのスプリットシングルや、2019年、サンパウロのO Ternoの新作に1曲参加。 最新シングルは「小舟」(2019年)を7inch /デジタルでリリース。

様々なアーティストへの楽曲提供、アートワーク提供他、活動は多岐に渡る。

zelone records 【HP】
http://zelonerecords.com/
【Twitter】
https://twitter.com/zelonerecords
【Instagram】
https://www.instagram.com/zelone_records/

[インタヴュー] 坂本慎太郎

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