2022/06/06 18:00

サーフロックのギターの音に未来っぽさを感じるんですよ

──その感覚は音にも明確に表れていますよね。2020年のシングル2枚と空気感が全然違う。“おぼろげナイトクラブ”みたいな浮世離れした雰囲気がほとんどなくて、軽くてしなやかですよね。

前作の『できれば愛を』というアルバムも明るくて抜けがいいアルバムを作りたかったんですけど、作っているうちにどんどん重くなっていって、その後のシングルも重苦しさが拭えない感じになってしまって。自分の場合、放っておくと、どうしても重いほうに向かっちゃうんですよね。音色にしてもこもった音になりがちで、テンポもより遅くなっていったり。今回のアルバムは、そうした重苦しさを全部振り払いたいという強い意志の元に作りました。

──そうした意志はギターの音にも表れていますね。サーフロック風の曲もあって、先ほど話していたロカビリーからの影響も少し感じました。

サーフロックのギターの音に未来っぽさを感じるんですよ。古いんだけど、未来っぽいという。

──歪んでない音ですよね。

そうそう。歪んでなくて、スプリングリバーブがかかっていたり。1960年代後半になると、ロックに自我みたいなものが表れてきて文学的になったり、メッセージ性の強くなってきたりしますけど、それ以前の1950年~60年代前半のロックンロールやガレージには突き抜けた感じのキラキラ感がある。ちょっと青春っぽい感じというか、そういうものをやりたかった。

──前作の制作を始めた時点では「夏休みの最初の日の朝っぽいアルバム」というテーマがあったわけですよね。でも、結果的に重くてシリアスな作品になった。今回こそ「夏休みの最初の日の朝っぽいアルバム」という感じがしていて。

そうなんですよ(笑)。今回「テーマはなんですか?」と言われたら「前回と一緒です」と言おうと思っていました。次ももうそれでいいんじゃないかと。

──歌詞もストレートになっていますよね。アイロニカルな部分や死の匂いが削ぎ落とされているぶん、シンプルに聴こえるのかもしれないけれど。歌詞はどのようなプロセスで書いていくんでしょうか。

ええと、そうですね……なるべく出発地点では頭で考えないようにしていて。「なんで俺こんなこと言っちゃったんだ」みたいなのがボロッとでる状態に持っていって、そのフレーズと曲がハマったとき、それを形にしていくという感じですかね。最初から言いたいことや表現したいテーマがあって、それに向かって書いていくわけではないです。

──そのプロセス自体は今回に限らず?

そうですね。先に曲を作っておいて、曲の勢いにスパッとハマるフレーズが出てくるのを待つというか。言葉と曲のテンション、スピード感がずれていると、フォークみたいになっちゃうんですよ。

──言いたいことやテーマが先行しちゃうと。

そうそう。言葉と音が固まりでスコンと入ってくるような音楽を作りたいんです。

──“君には時間がある”はまさにそういう曲ですよね。「昨日と今日はもう違う そうだ今日会おうよ」という冒頭のフレーズには不思議な中毒性があって、ここ数日、気づいたら脳内再生していました。

リズムとイントネーションが合っていても、プラスで意味が付いてくるから、そこで合わないこともあるんですよ。理想は日本語としてはっきり聞こえてくるんだけど、あまり意味を意識しなくて済む感じ。歌詞に注目しなくても聴けるというかね。歌詞の意味はわからないけど、自然に覚えちゃって鼻歌で歌ってしまうCMソングみたいな感じがいいなと。

──今ふと思い出しましたけど、少し前に甲本ヒロトがテレビに出演して、歌詞について発言したことが話題になっていたんですよ。「若い人は歌詞を聴きすぎ。昔はすべて音で聴いてた。だから洋楽だろうが何だろうが全部格好よかった。ロックンロールは僕を元気づけてくれたけど、元気づける歌詞なんてひとつもないんだよ」(2020年11月21日放送、フジテレビ『まつもtoなかい』より)ということを言ってたんですが、その話と少し重なる感覚ですね。

響きと音に乗ったときのイメージやスピード感をもとに作っていると、(日本語がわからない)外国人が聞いても伝わると思うんですよね。歌詞は文章ではなくて、サウンドなので。そう考えると言葉の壁は逆になくなると思うんですよ。

[インタビュー] 坂本慎太郎

TOP