2016/06/29 20:27

空気公団『ダブル』一週間先行リリース&インタビュー掲載

空気公団 左から窪田渡、山崎ゆかり、戸川由幸

時間は私たちとは無関係に、なにかしらの法則で流れている。しかし、否応なくその中を生きている私たちは、時間に色々な意味を見出し、色々なことを思う。だが、やはり、時間は時間としてただそうあるだけだ。

空気公団に感じるのは、このように世界は「ただそうあるだけ」だが、その中に様々なことがあるという視点だ。アルバムを出すごとに、彼らは様々な方法でこの視点から捉えられる物事を増やしてきた。そして、最新作の『ダブル』は、その空気公団の実験がとてもポップな形で実を結んだアルバムだ。

特定の感情をわかりやすく表すためのポップスではなく、一定の意味に囚われない立体的なニュアンスを帯びることで誰にでも関係することができるポップス。『ダブル』にはそう呼べるような10曲が並んでいる。空気公団へのインタヴューからもこの音楽について知ってもらいたい。

インタヴュー&文 : 滝沢時朗
撮影 : 大橋祐希

OTOTOYでは一週間先行リリース! ハイレゾ配信も

空気公団 / ダブル
【配信形態 / 価格】
【左パッケージ(ハイレゾ)】ALAC / FLAC / WAV / AAC
価格 まとめ購入のみ 3,000円(税込)

【右パッケージ】ALAC / FLAC / WAV / AAC / MP3
価格 まとめ購入のみ 2,469円(税込)

【トラック・リスト】
1.変化する毎日
2.あなたのあさ
3.つながっている
4.失ってしまった何ものか
5.ペン
6.不思議だね(instrumental)
7.マスターの珈琲
8.知らない街へ行こう
9.僕にとって君は
10.新しい道

【performers】
山崎ゆかり、戸川由幸、窪田渡
オータコージ、奥田健介、山本精一
山口とも、tico moon、MC.sirafu
U-zhaan、中村一義
recording,mix&mastering engineer 中村宗一郎

※歌詞カード、ブックレットのPDF付き。

空気公団がようやくひとつの街として出来上がって、循環するようになった(山崎)

――『ダブル』は近作の中ではとてもシンプルなアルバム・タイトルになりましたね。このタイトルにした理由を教えてください。

山崎 : 私は曲が突然思いつくことは全然ないんですけど、次のアルバムはこのタイトルがいいなって思いつくときがあるんです。『ダブル』は写真館にあった鏡に映った女の人の写真を見たときに思いつきました。鏡に彼女が映ってるんだけど、彼女は鏡越しにカメラ目線をしてるんですよ。それを見たときに、裏と表とか、有るものと無いものとか、極端なふたつが写ってる感じがして。ああ、『ダブル』だなって思ったんです。

窪田 : その話に加えて、今回はアレンジのアイディアの話も最初にありました。ひとつの楽曲の中に、2つのバンドがいて演奏してるようなイメージの音像がいいという話でした。ですけど、最終的には〈ひとつの楽曲の中にふたつのバンドがいる〉ような音になっているわけではなくて、コンセプトとして『ダブル』というイメージがあるという感じになっています。

――ジャケット写真もみなさんが2人ずつ写っていて『ダブル』ということですね。

山崎 : これはジャケットのデザイナーさんと〈ダブル〉ってなにかっていう話をずっとしてたんですよ。「空気公団が2個あったら変だ」「東京タワーが2個あったら変だ」「マグカップは2個あっても変じゃない」っていうような話をずっとしてて。それで、2個あったら変なものがいいよっていうことで、私たちが2組いるっていう状態のものになったんです。

――メンバーが楽器を持って全身が写っているという今までになくバンドっぽいジャケットでもありますね。

山崎 : 私は音楽が前面にあって、音楽を作ってる人たちは後ろにいるべきだってずっと考えているんですよ。でも、音って目に見えるものじゃないので、人が前に出ることによって、その人たちの世界が、音楽の中の世界より先に見えやすくなりますよね。「あ、メガネかけてる」「黒い服着てる」って。人から飛び込んでくる情報から、音楽とは別の方向にも世界が広がっていくじゃないですか。そういうことを防ぎたかったんだけど、『ダブル』では、もう人が前に出てても音楽のほうが前にいくっていうことを確信したんです。

空気公団 「僕にとって君は」MV
空気公団 「僕にとって君は」MV

――今作で空気公団のモードが変わったんですか?

山崎 : 今までは自分の中にどれくらい引き出しがあるのかわからずに開けていました。でも、この作品を作ったときに、やっと一周した。やっと赤ちゃんに戻った。そういう感じがしたんですよ。

窪田 : 還暦の時に赤いちゃんちゃんこを着るようなイメージですね。アルバムを作っていったら赤ちゃんになったと。

山崎 : 別の言い方をすると、私はずっと街を作る感覚で空気公団を作っているんですよ。山があって川があって、そこに人も住んでいて。そこには公園もあるし、他にも色んなものがあるわけですよ。それがようやくひとつの街として出来上がって、循環するようになったっていう感じですかね。

――アルバムごとに街ができていく感じがあるんですか?

山崎 : アルバムごとに街にものが増えていく感じです。空気公団は、1枚のアルバムでその時のバンドの表現をするというよりは、空気公団っていう組織としてコンセプトに沿って表現を積み上げています。

窪田 : 個人的には、『ダブル』を作っていて空気公団は自分なのかなって思えるようになりましたね。自分と空気公団の距離感がその時々で変わるんですけど、今回は空気公団を見てる自分と、やっている自分の距離感が一番近い。なので、もうメンバーが顔を出しても空気公団なんだなって。そういうスタンスは変わってないけど、一周して方法は変わっているという意味でも『ダブル』っていう言葉でパッケージできてるなと思っています。ジャケットにメンバーが出るのはデザイナーさんのアイディアではあるんですけど、出るべくして出てるんだなって腑に落ちる感じがあります。

自分から出てきたものが〈空気公団のものだ〉ってわかる速度が上がった(山崎)

山崎ゆかり

――今回はどういった形でレコーディングを進められたんですか?

窪田 : 順番としては、曲をもらって、デモを作って、演奏する人に聴いてもらいます。こちらのイメージを持ちつつも、演奏者の持ってる歌心や線のタッチみたいなものがうまく出るといいなと思っているので、デモの通りにやってもらってはいないですね。3人の間で聴くデモには仮でギターとか入っていたりするんですけど、それは抜いてデモを渡したりもしていました。ゲスト陣のみなさんも付き合いが長いですから、好きにやってくださいという感じです。

山崎 : ほとんどこういう風に弾いて欲しいっていうオーダーはしてなくて、自由な絵描きをキャンパスのところに呼んだっていう感じです。

窪田 : どっちかって言うとそうして欲しいみたいなところもあったりします。どうしても自分の手の内でやってしまうことってありますよね。それをうまく壊してもらいたいんですね。だから、安心して壊してくださいと。

――演奏面で難しかった点などありますか?

山崎 : ベースとドラムはものすごい過酷な録音だったんですよ。オータ(コージ)さんと戸川さんの2人はもうぐったりしてる感じだった。

戸川 : わりと短期間で一気に録ったので。過去にはベースはベースだけで、家でデモに録音を重ねながらフレーズを考えたりとかしていたんですけど、今回はもう一発勝負でアドリブに近い感じでした。デモのドラムに合わせて細かく考えても、本番のレコーディングでドラムが変われば変わってくるので、その場のニュアンスを大事にしてました。

――今回はそういうやり方でうまくいくだろうという自信があったんですか?

戸川 : そんなやり方はじめてだったので、心配はしてましたよ。でも、ライヴをたくさんやるようになって、ある程度みんなの癖や一体感がわかってきたので、なんとかなるだろうっていうところで録りました。

――今までのライヴやツアーの積み重ねがあるからできるやり方ですね。

戸川 : ツアーをやるとこういう録り方に収束するんだなっていう気はしました。ライヴをやらないならやらないで、また別のおもしろい変な形になってたのかもしれないけど、今はこういう形が自然という感じですね。

窪田 : 基本的にマルチトラックで別々に録りってはいるんですけど、演奏しているときはレコーディングという意識ではなかったですね。どっちかって言うとライヴに近い感じ。

戸川 : 今回、鍵盤のテイク数がすごい少なかったよね。ワンテイクが結構あった気がする。

窪田 : その歌詞の世界と言うか、曲が表現すべきことを楽器で歌えればいいんですよ。それができていれば、いわゆる楽典的な尺度からすれば粗い状態であっても、全然いい演奏だって思えるようになったんですよね。

――『春愁秋思』が一発録りのレコーディングで、そこからライヴツアーも色々なところを回るようになってという流れの集大成的な面も『ダブル』にはあるのでしょうか。

山崎 : そうかもしれないね。

戸川 : 集大成とか思ってたわけじゃないけどね。演奏の粗が気になって、100テイクぐらいやり直すっていう時期もあったんですけど、今は自分の演奏に多少粗があっても、全体的に雰囲気がよければ壊すべきじゃないものなんだと思ってます。でも、それは妥協しているわけではなくて、ある種それが正解だからなんですよ。録り直そうとしても、それを超えることができないとわかってるから。

山崎 : 自分の中から出てきたものが、瞬時に空気公団のものだってわかるようになる速度が上がったって言うんですかね。そういうことかもしれない。でも、作品ごとにすごく厳しくなっていて、難しくなってくるんですよね。作る速度は上がったかもしれないんだけど、もうとにかくフル回転で作っています。なので、また新たに挑戦した結果、一回転したことに気づいたっていう感じです。

空気公団的なものからはみ出したものを作っても、山崎ゆかりの世界になる(戸川)

戸川由幸

――戸川さんはtwitterで「デモ出来た時にあまりに俺が絶賛しすぎて2人引いてたっけな。冷静になろう」とつぶやいていましたが…。

戸川 : あまりにも良すぎて…。なんか2人の温度がどんどん下がっていく…。

山崎 : 別に下がってない(笑)

戸川 : 褒めすぎないほうがいいのかなあって、そこは反省しました。

――どの曲なんですか?

戸川 : 「マスターの珈琲」と「僕にとって君は」ですね。「ゆかりさんの新しいドアが開いた」みたいな、よくわからない雑誌の記事みたいなことをメールで送って、後から恥ずかしかった記憶があります。空気公団的なものっていうイメージがあるとしたら、別にそこからはみ出したものを作ってもいいんだっていうか。はみ出しても山崎ゆかりの世界なんだっていうのが、示せる可能性のある曲だみたいなことだったような気がするんですけど、恥ずかしすぎて忘れました(笑)「マスターの珈琲」については、最初はアルバムに入る予定はなかったんですけど、この曲はすごくいいから入れたほうがいいって推しました。

――確かにどちらの曲もいわゆる昭和の歌謡曲のような雰囲気がある曲ですよね。

戸川 : 窪田さんが「マスターの珈琲」のアレンジをあげてきたときに、まさかの本気の歌謡曲だったんですよ。それで、最初はちょっと躊躇して、本当にこれでいいのか? っていうことを2人に聞きました。

山崎 : 自分から入れたいって言ったのに。

戸川 : もうちょっとローファイにしてみるだとか、口当たりを軽くする方法がいくつか考えられたので、それはどうなのかってことを言ったんですけど。いや、それより逆に本気でいったほうがいいだろうという話になって。それで、やってみたら演奏者もなんのてらいもなく本気できたので、今はこうしておいてよかったなと思います。

――歌謡曲のアレンジでも空気公団になっている曲だと思いました。

山崎 : それはさっきの話とちょっとつながってますね。ジャケットに自分たちが出ていても、音楽が前に出てくるっていうところと。

戸川 : つながったね。

山崎 : そういうことなんじゃないかなと思って。歌詞の世界でも同じようなことがありますね。2004年に出した『ねむり』に入っている「窓越しに見えるは」の歌詞に出てくる男の人は、ペンを忘れてきたら買いに行くタイプだったんですよ。それで、今回は「ペン」っていう曲があるんですけど、その歌詞の男の人は買いに行かないタイプなんです。

窪田 : 主人公のキャラが変わってる。

山崎 : 「ペンを忘れてきちゃった、でもまあいいや、会って来たから」みたいな。「窓越しに見えるは」では「ペンを忘れてきちゃった。この状況を書き留めるためのペンを買いに行かなければ」って歌詞を書いてた。だから、歌詞の中に出てくる人もなんとなく変わった。

――テーマとして続いてはいるんですけど、表現の仕方に変化があるということですね。『ダブル』に入っている「知らない街へ行こう」も「旅をしませんか」と似たテーマですが、「旅をしませんか」の歌詞が「僕には何もないよ」なのに対して、「知らない街へ行こう」では「ここに何もないわけじゃない」となってますよね。

山崎 : 私は、『ダブル』の歌詞は本当に今まで空気公団の中によく飛び出してきた言葉が入ってると思ってます。結局、言ってることはひとつしかなくて、それを10曲にしてるんじゃないかって思ったりもするんですけど。でも、「知らない街へ行こう」に関してはあんまりそんな風に思ってなかったので、それは発見ですね。歌詞の中の彼が抱いている、君に対する思いも、そうなってしまったなら仕方ないのかなっていうところまできているかもしれないです。大人になりましたよね。

ライヴの経験によって楽器が増えても散漫にならずにできるようになった(窪田)

窪田渡

――『ダブル』は曲を一聴してなにかの音楽ジャンルを思い浮かべやすいんですが、聴いていくと音の持っている表現の幅がとても広いという感覚があって、それが特に空気公団らしいと思いました。こういう不思議な音はどうやって作っているんでしょうか?

窪田 : 中村宗一郎さんに今回もミックスとマスタリングをお願いしていることが功を奏したのかもしれないですね。前作の『こんにちは、はじまり。』を聴いたときに、中村さんの音ってすごくシックで、これはひとつの楽器だなと思ったんですよ。それで、この楽器を使って色々やってみるとおもしろいなと思って、シングルの「旅をしませんか(2015.5.27)」 『芯空2』のミックスをお願いしました。『ダブル』では、その中村さんがミックスをするんだっていうことを念頭に置いて音を積み重ねたんですよね。

――アレンジについての具体的な工夫なども教えていただけますか?

窪田 : 例えば「マスターの珈琲」は色んなマジックが働いたのですけど、アレンジとしては歌謡曲ですね。なので、イメージとして、音楽番組の「ザ・ベストテン」「ザ・トップテン」「夜のヒットスタジオ」などで演奏していた、テレビ局ごとのハウスバンドがあるわけですよ。TBSだったらゲイ・スターズとか。それで、あの時の歌謡曲って書き譜だから、それぞれの番組で演奏しても、絶対似たような聴こえ方になるんですよ。そういう書き譜の世界って匿名性が高くてすごく気持ち悪い部分があるなと思うと同時に、かえっておもしろくもあって、そこを逆手にとってアレンジしてみようと思いました。だから、本当に譜面で書けるぐらいに音がパーツの組み合わせでできているんですよ。パターン・ミュージックというか。それを「景色を見て表現してみよう」とか、そういうスタンスでやってる僕らがやると、演奏に微妙な解釈のズレが出て来て、そこがおもしろいなと思います。書き譜の世界と表現者みたいなところの分岐点というか。「マスターの珈琲」は、そういうアレンジの方向と演奏者のキャラクターのズレに加えて、中村さんの音像も本来の歌謡曲の音像とは当然少しずれてるところがあって、そこが聴いてておもしろいですね。

――「僕にとって君は」はどうやってアレンジしたんですか?

窪田 : あの曲はバラードなんですけど、本当に嘆いているだけではないんですよね。僕には希望を求めているような感じに聴こえました。そこを一番表現するにはどうしたらいいのかなと思いながら作っていきました。曲が真中ぐらいで転調するので、そこで曲調を分けようと思って、前半はコンボ編成みたいにバンドでしっとりと演奏して、後半はもうフルオーケストラみたいな感じで大盛り上がりにする。そうすることで、歌詞の世界や曲が元々持っている転調によって、何かが変わる感じを表現しようと思って音を並べました。

――ストリングスやホルンが入る編曲は今までにないですね。

窪田 : それは、楽器の数が増えるとすごく散漫な印象になるからですね。でも、ライヴの経験があって楽器が増えても散漫にならずにできるようになったと思ってます。というのも、ライヴは少人数のことが多いので、音を豊かに聴かせるにはどうすればいいだろうっていうことばっかり考えるんですよ。その経験がストリングスとホルンのアレンジには活きてると思います。昔だったら、多分、できないですね。

――「僕にとって君は」に続く、最終曲の「新しい道」もレゲエっぽいアレンジで新鮮でした。

窪田 : あの曲は合唱レゲエですね。中学生の合唱曲っぽい曲をレゲエでやってみようというイメージです。デモはレゲエじゃなかったんですけど、それに近いリズムだったので、これはレゲエの裏打ちにしようかなと。今まではジャンル感が明確に出るアレンジは抵抗があってあまりやらなかったんですけど、まあいいかなと思ってやってみたら、なかなかおもしろかったですね。あと、この曲はメロディが好きなんですが、tico moonの影山さんもすごくメロディがいいっておっしゃっていて、自分で納得してしまいました。

――「新しい道」は中学生ですが、「つながっている」は「みんなのうた」とか教育テレビのような感覚で好きな曲です。やっぱり、そういうイメージなんですか?

窪田 : 自分も「みんなのうた」感があるとは思っているんですが、最初からあったわけではないですね。仮歌の段階でも全然良かったんですけど、中村一義さんの歌が入って今の感じになりました。曲の持っているものを、中村さんの歌でいまく切り取ってもらったなと思います。きっとああいう歌詞を男の人が歌うというところもうまくはまったんでしょうね。

――中村一義さんに歌ってもらおうと思われたのはなぜですか?

山崎 : 私も自分で自分のことがわからないんですよ。でも、もうそれしかないって思いついたらすぐ実行って感じでした。

――以前から交流などあったんでしょうか?

山崎 : いえ、なにもないです。なので、「この曲は中村一義さんに歌ってもらいたいと思っています」ってみんなに言ったら、「その発想はどこから?」っていう雰囲気になって。CDは持ってますけど話したり会ったりしたことは全然ないし、「急に言われても… 」ってあっちも思うかなとは思ったんですけど、中村さんは快く引き受けてくださって。歌はもう私の思ったとおりでした。

――中村一義さんとはレコーディングの前になにか話したりされたんですか?

山崎 : 話してはいないです。メールでやり取りして、手書きの歌詞にここは中村さんが歌うところでここは私が歌うところで、ここはハモるかもしれませんとか、そういう感じのことを書いて渡しました。曲の後半部分のここに何かあるといいと思うんですよとか。

――後半部分の中村さんが繰り返し歌っているところは、中村さん自身が作ったんですね。

山崎 : 歌詞には書かれてないですけど、あれは「手と手をこう」って歌ってるんですよ。中村さんの持ってこられたメモに手書きでそう書いてありました。曲の名前が「つながっている」なので、手と手をつないでいくと全員つながっていくっていうことをイメージしてると思うんですけど。中村さんからは「いいものになりましたね」って言ってもらったので、ああ良かったと思いました。

――山崎さんは「僕にとって君は」で歌い上げていたり「新しい道」ではすごくフラットな歌い方をしてたりと、色々な歌い方をしていますよね。曲によって自然に合わせられるんでしょうか?

山崎 : 実は歌の録り方を今回は変えていて。中村宗一郎さんと、今度『ダブル』っていうアルバムを作りたいんだっていう相談会みたいなことをしたんですよ。その時に中村宗一郎さんが「『ダブル』か。だったら、全部ヴォーカルをダブルにするとか、マイクダブルとか色々あるじゃん」とか「崩れてるのもおもしろいじゃん」っていう話をしてもらいました。それで、いつもレコーディングの時にはヴォーカルのマイクを1本しか立てないんですけど、今回は2本立てすることになりました。なので、曲によってすごく遠い距離で録った歌を主に使ったり、混ぜ合わせて使ったりしています。それは中村宗一郎さんが全部コントロールしてるんですけど。そういう録り方をしたので、自分も違う気分で歌えたのかもしれないです。

窪田 : デモの段階でこういう歌のキャラもある程度は決まってるんですよね。曲によってヴォーカルのスタイルが違うというより、曲が生まれたときからそういうスタイルだったっていう感覚です。アレンジはそれに合わせて服を着させているようなところがありますね。

――インストの「不思議だね」もすごく好きな曲なんですが、色々なシンセの使い方をしていて楽しい曲ですよね。窪田さんがメインで作られたんですか?

窪田 : そうですね。レコーディングに入る直前かな? 花澤香菜さんのリリース・イヴェントがあって、そこで彼女のディレクターさんと話をしていたんですよ。そこで花澤さんのサード・アルバム『Blue Avenue』に入っている「Dream A Dream」っていう曲について聞きました。この曲はスウィング・アウト・シスターが提供しているんですけど、彼らの曲はベース・トラックが3本入っていて、違うシンセ・ベースで同じフレーズを3本重ねていていたんだそうです。あのサウンドってそういうからくりがあったみたいで、そうするとあの野太いデジタル感みたいなものが出る。レイヤーを重ねていくと、シンセの音もまた違って聴こえてくるんだなと。なるほど、と思って今回はベースを3本重ねてみました。そのアイディアから色々と音色を重ねてみたので、最終的にカラフルな曲になったのかなと思います。

――そういったシンセの使い方は『芯空2』からされていますよね。「不思議だね」はそれがさらに一歩進んだという印象を受けました。

窪田 : そうですね。あんまりシンセサイザー音楽みたいな世界はやってなかったんですけど、確か自分はそう言う音楽が好きだったよな? と思って作ったのが、『芯空2』なんですよね。その勢いで、『こんにちは、はじまり。』に入っている「手紙が書きたい」もやりました。今回もその延長にあります。ただ、いつものインスト曲みたいに、細かいフレーズの組み合わせをメインにして作ってはいないですね。今回は、なにかの曲をカバーしたかのような曲を作ってみたらどうかなと思って、歌メロ然としたメロディをリードシンセで弾いて、それを中心に作っています。

――「ペン」のフォーク・ロックな曲調から「不思議だね」になって「マスターの珈琲」で歌謡曲になるという流れはアルバムの中でも印象的ですよね。

窪田 : 『ダブル』は全体を見渡して、ダウナーな部分とポップな部分の両方の要素があるんですけど、「不思議だね」は明るい感じでやったほうがいいと思って作りました。

ジャケットも歌詞もアレンジも、あるところにまとまっていくのがおもしろい(窪田)

――「不思議だね」というタイトルは山崎さんがつけたんですか?

窪田 : 山崎さんです(笑)

山崎 : 自分の中でその言葉が流行ってたんですよ。それだけだと思います。

窪田 : でも、タイトルは人と人との関係性が見えていいなと思います。

――アルバムを通しての流れやストーリーみたいなものはありますか?

窪田 : 全体としてみると、一日の切り替わりや、今から明日に切り替わる瞬間になにかを思うという感じの歌詞が多いですね。個人的には前々作の『夜はそのまなざしの先に流れる』は夜の20時ぐらいから1時まで、前作の『こんにちは、はじまり。』は24時から3時ぐらいまでの真夜中のイメージで、『ダブル』は明け方の感じですね。4時ぐらいの早朝の音楽。2曲目の「あなたのあさ」は、曲名どおり朝方だっていうイメージがすごくあって、「新しい道」はもう太陽がちょっと見えてるぐらいの時間帯で、段々朝になってきたんだなっていう感じですね。

――アルバムごとに夜から朝になっていく流れも、さっきの一周したっていう話とつながるところがありますね。

窪田 : そうですね。

山崎 : なんかおもしろいね。なんでもこじつけるっていう。

窪田 : 言ってしまえばこじ付けなのかもしれないですけど、すごい必然みたいだとも思うんですよね。ジャケットも歌詞もアレンジも全部含めて、気づくとあるところにまとまっていく。それが毎回やっていておもしろいところですね。

空気公団およびメンバーのハイレゾ作品

空気公団 『旅をしませんか(2015.5.27)(24bit/48kHz)』2015年

2003年にリリースされたアルバム『こども』に収録されている人気楽曲「旅をしませんか」のリメイク版。「旅をしませんか」が、日本の『江ノ島電鉄』と台湾の『台湾鉄路管理局 平渓線』の観光プロモーションのテーマソングとなったことを受けて、ゲスト・ヴォーカルに堀込泰行(ex.キリンジ)を迎えて新録されたもの。

WATARU KUBOTA『芯空2(24bit/48kHz)』2014年

空気公団・窪田渡のソロ・プロジェクト・シリーズ第2弾。空気公団の音楽をインストにリアレンジした楽曲を7曲収録しています。ライヴ会場のみで発売されていた作品だったものを、ファンからのリクエストを受けて2015年から配信でもリリースされることに。

空気公団『こんにちは、はじまり。(24bit/48kHz)』2015年

ヘッドフォンで街を歩きながら1人で聴いたり、特別な誰かと2人で聴きたくなるような、どこかプライヴェートな雰囲気が漂うアルバム。ヴォーカル山崎ゆかりの出身地、青森県にある岩木山の登山囃子を取り入れた「お山参詣登山囃子」など全10曲収録。

>>リリース時のインタビュー

空気公団『LIVE春愁秋思』~2011.5.21~at西千葉cafeSTAND(カメラマイク音声/ノイズあり) 2012年

2011年2月から6月にかけて行われた空気公団のツアー〈LIVE春愁秋思〉の模様を収録したシリーズ【LIVE春愁秋思library】の配信ヴァージョン。2011年5月、西千葉cafeSTANDで開催されたライヴの中から10曲がセレクトされている。

空気公団『音街巡旅I ONGAIJYUNRYO(24bit/44.1kHz)』2014年

2013年2月~6月までに開催された空気公団のライヴ・ツアー〈音街巡旅2013「夜はそのまなざしの先に流れる」〉より厳選した演奏曲を収録。ライヴ・アレンジの骨組みを元に、メンバー3人が音を重ねるなどしてリアレンジ。別の作品として生まれ変わった楽曲が13曲並ぶ。

>>リリース時のインタビュー

LIVE INFORMATION

空気公団 『ダブル』ライヴツアー
2016年10月9日(日)@京都磔磔 時間 : 開場 17:00 / 開演 18:00
演奏 : 空気公団+オータコージ+山本精一
チケット : 前売り 4,500円 / 当日 5,000円(ドリンク別)

2016年10月22日(土)@台北・月見ル君想フ(台湾)
時間 : 開場 19:00 / 開演 20:00
演奏 : 空気公団+オータコージ
チケット : 前売り 1,500NTD / 当日 1,700NTD

2016年11月26日(土)@shibuya WWW
時間 : 開場 18:00 / 開演 19:00
演奏 : 空気公団+オータコージ and more
チケット : 前売り 5,000円 / 当日 5,500円

PROFILE

歌・作詞・曲担当 山崎ゆかり 空気公団代表。
ベース・ギター・録音担当 戸川由幸。
鍵盤楽器・編曲担当 窪田渡。

1997年結成。
メンバー交代を経て現在は3人で活動しています。
音源制作を中心に活動しながら、 スクリーンの裏側で演奏するライブイベントや、 音楽を聴きながら作品を楽しむ展覧会「音の展示」等、 様々な公演をしています。

>>空気公団 オフィシャルサイト

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