2016/06/16 17:42

夏の魔物、メジャー3rdシングル発売記念!!ーー第2弾 柴那典が迫る成田大致の「人間サンプリング・アート」

夏の魔物のメジャー3rdシングルがヤバい!! 両A面である表題曲「魔物、BOM-BA-YE 〜魂ノ覚醒編〜」の作曲は前山田健一が、そして「バイバイトレイン」では作詞を大槻ケンヂ、作曲をYO-KINGが担当。楽曲演奏にはウエノコウジ、クハラカズユキまで参加している。そんな同シングルのリリース、そして6月24日には新宿FACEにて開催されるレコ発ワンマン・ライヴに向け、OTOTOYでは2回にわたり夏の魔物を大特集!! 前回の成田大致、ケンドー・チャン、玉屋2060%座談会に続き、2回目となる今回は夏の魔物のリーダーである成田大致に、ライター / 編集者 / 音楽ジャーナリストの柴那典が単独インタヴューを敢行。「音楽の話しかしない」というテーマを設け、夏の魔物の本質に切り込んだ。


6月22日リリース、夏の魔物の3rdシングルを予約スタート!!

夏の魔物 / 魔物、BOM-BA-YE 〜魂ノ覚醒編〜 / バイバイトレイン
【配信形態】
ALAC、FLAC、WAV、mp3 単曲 250円

【TRACK LIST】
1. 魔物、BOM-BA-YE 〜魂ノ覚醒編〜
作詞 : コールドストン・スタナ・前山田健一 / 作曲・編曲 : 前山田健一 / ナレーション : 杉田智和 / ゲストギター : 鈴木修)
2. バイバイトレイン
(作詞 : 大槻ケンヂ / 作曲 : YO-KING / 編曲・鍵盤 : ハジメタル / ドラム : クハラカズユキ / ベース : ウエノコウジ / ギター : 越川和麿)
3. グギギギギギギギ デッドエンド!
(作詞 : コールドストン・スタナ / 作曲 : 田中公平 / 編曲 : 伊藤賢治 / ゲスト・ヴォーカル&ギター : 和嶋慎治(人間椅子))
4. 魔物、BOM-BA-YE 〜魂ノ覚醒編〜(Inst.)
5. バイバイトレイン(Inst.)
6. グギギギギギギギ デッドエンド!(Inst.)

>>予約注文についてはこちら
夏の魔物現象2016
メジャー3rdシングルレコ発ワンマンGIG
第一部 : ブラックDPG LAST DANCE 〜破滅に向かって〜
第二部 : 〜MAMONO BOM-BA-YE 2016〜
2016年6月24日(金)@新宿FACE
時間 : 開場 19:00 / 開演 19:30
出演 : 夏の魔物、ブラックDPG
スペシャルゲスト : 伊藤賢治
チケット : 前売り 3,000円 + ドリンク代
「チケットぴあ」で発売中

INTERVIEW : 成田大致

「ロック × アイドル × プロレス × ヒーロー!?」とか「あらゆるエンタメをクロスオーバーさせた」というキャッチコピーを聞いても、正直なところ「一体何がやりたいの?」と思っていたので、筆者初取材の今回は「音楽の話しかしない」というテーマを設けた成田大致インタヴュー。話の途中で、ようやく夏の魔物というユニットが本質的に何をしようとしてるのか判明した気がする。話の中でも出てくるが、キーワードは「人間のサンプリング・アート」。DJが音をサンプリングして曲を作るのと同じように、作家やミュージシャンや映像作家などに声をかけ、1人ひとりの才能をサンプリングして楽曲やMVを作っている。で、そういう意味で、フェスの「夏の魔物」とユニットの「夏の魔物」は、実はアウトプットの形が違うだけで、構造的には同じことをやっているとも言える。

一体どういうことか。詳しくは以下のやり取りを読んでみてほしい。

インタヴュー&文 : 柴那典
写真 : 大橋祐希

左から、成田大致、柴那典

>>>特集第一弾 成田大致、ケンドー・チャン、玉屋2060%座談会はこちら

ただ「曲書いてください、何でもいいです」っていうのは言ったことない

ーーこれまでいろんなメディアに登場していると思うんですけど、そのわりに夏の魔物は曲の話が少ないなと思っていて。

成田 : まさにそうなんです。実際、自分のパーソナルな部分の話ばかりで、中々曲の話を聞いてもらったことがなくて。たぶん、音楽的な側面みたいなところを掘ったインタヴューって、前回のリリースで曽我部さんたちと対談した時にやっと話せたくらいですね。

ーー結局、成田大致という人間そのものが1番のコンテンツになっている。しかもそれが過剰に伝わっているがゆえに、なかなか曲まで興味がたどり着かない。

成田 : はははは(笑)。絶対そうなんですよ。

ーーというわけで、今回は「音楽の話しかしない」というテーマでインタヴューしようと思います。実際、メジャー・デビュー以降、かなり力と熱量の入ったシングルを3枚作ってきてるわけですからね。

成田 : はい。お願いします。作品も揃ってきた段階で今改めて喋るのがベストかなと思うので。

ーーその曽我部さんたちの対談でも語ってましたけれど、実際、楽曲制作にあたっては、いろんなミュージシャンや作家さんに「こういう風にやってくれ」っていうのをかなり細かい要望を出してるんですよね?

成田 : そうですね。イントロからアウトロまで、めちゃめちゃ細かく要望を伝えてます。

ーーたぶん、そういう発注の仕方をする人ってあんまりいないと思うんですよ。これ、どんな感じでやってるんですか?

成田 : わりと具体的なワードを出すように心がけています。その人のどの曲のどこが好きとかどういう部分に感動した、みたいなことまで伝えてますね。例えば曽我部さんに「東京妄想フォーエバーヤング」を書いていただいた時は、ここは「キラキラ」のイントロみたいにとか、ここは「青春狂走曲」の大合唱感をとか。この必殺技がほしいとか、ここでこういうメロディがほしいとか、デモを作っていただく前に具体的に伝えるんです。ただ「曲書いてください、何でもいいです」っていうのは言ったことないです。

ーーしかも、「これが好き」とか「こういうのが欲しい」って思ったものを、1曲の中に沢山詰め込みますよね。

成田 : そうですね。だいぶ詰め込みます。自分の中で、こういう構成にしたいっていうのが明確にあるんで。

夏の魔物のメジャー・デビュー・シングルを掘り下げる

ーーその具体例を、メジャー・デビュー以降のシングル曲を振り返りつつ聞いていきたいんですけど。まずは「恋愛至上主義サマーエブリデイ」。これはSILLYTHINGの「サマーロマンサー」という原曲があったわけですけ、どうやって作ったんですか?

夏の魔物「恋愛至上主義サマーエブリデイ
夏の魔物「恋愛至上主義サマーエブリデイ

成田 : この曲に関しては、俺がバンド時代に作ったデモがあって、そこから作り直しました。本当に鼻歌から作った初稿みたいなもので。まず大前提として、俺、楽器ができないんです。でも当時はまだメンバーがいたのでバンド・アレンジでデモまで作ったのですが未完成で。当時ヒャダインさんの影響をがっつり受けてて、そういうのをバンド・サウンドに落とし込みたいっていうのが根底にあって作った曲なんですけど。

ーーそれは納得のいくものではなかった?

成田 : 当時は一生懸命だったんですけど、やっぱり今以上にやり方がわからなくて。頭の中でやりたいことはあるけど、それがアウトプットできなかった。「恋愛至上主義サマーエブリデイ」を作る前にも、2回「サマーロマンサー」はレコーディングしてるんですよ。1回目はバンド・アレンジ、2回目は打ち込みで。そうして、どんどん自分がやりたいことに近づいてきて。で、メジャー・デビューのタイミングで、やっぱり氣志團の「ONE NIGHT CARNIVAL」みたいに再録したいなと思ったんです。初稿のデモから肉付けして、IOSYSのARMさんっていう、東方アレンジ・シリーズで知られている電波ソングの第一人者の方にお願いして。その方と一緒に自分の頭の中で鳴っていたトラックを再構築したいと思って作ったのが「恋愛至上主義サマーエブリデイ」です。

ーーこの曲が完成したことで、ユニットとしての夏の魔物が何をやろうとしているのか、見えてきたところはありました?

成田 : そうですね。ARMさんが自分の期待に全部応えてくれて。想像以上というか、全部が理想的だったんです。それに、ギターはまさかのGLAYのHISASHIさんが参加してくれて。

ーーHISASHIさんにはどういう風に声掛けたんですか?

成田 : HISASHIさんはポニーキャニオンの方にご紹介していただいて。「もってけ! セーラーふく」とか、HISASHIさんが自分の好きなアニソンを1人で弾いてみたみたいなのをニコ動にアンオフィシャルで上げてたんですよ。あれを見て、「こういう感じのHISASHIさんのギターがほしいな」と思ったんです。で、ちょうどポニーキャニオンに入ったタイミングでレーベルメイトだし、青森出身で同郷なんで、全部奇跡的にハマった感じですね。

ーー作詞は後藤まりこさんですけれど、これは?

成田 : 実は最初の「サマーロマンサー」を制作する時に作詞をまりこさんにお願いしてたんですよ。でも、いろいろあって実現できなくて。自分としてはいいタイミングでまりこさんと一緒にやりたいなと思っていて。魔物のメジャー・デビューが決まったと同じくらいに、まりこさんも作家活動を始めるとツイートしていて「あ、今しかないな」と思って依頼しました。たしか、打ち合わせの時に山本さほ先生の「岡崎に捧ぐ」っていう漫画を持って行って。この本のセンチメンタルな感じや、高橋留美子先生のドタバタラブコメ感を、まりこさんらしい感じで書いてもらえますか、って言って作詞してもらったんです。

ーー「どきめきライブ・ラリ」は大森靖子さんの作曲ですが、これはどういう風にお願いしたんですか?

夏の魔物「どきめきライブ・ラリ」
夏の魔物「どきめきライブ・ラリ」

成田 : 大森さんにはいつか書いてもらいたいってずっと思ってたんです。「もしも大森靖子さんにアニメのオープニングのタイアップがついたら…」っていう、「もしもシリーズ」って自分の中で言っていろんな方に依頼しているのですが、そういうお願いをしました(笑)。

ーーそういうお題があったんだ。

成田 : はい。それで、尺と構成を細かく伝えました。サビ始まりで、A、B、サビ、ラップ、サビ、A’、Cメロ、Dメロでケチャみたいなリクエストを送って書いてもらったんですよ。

ーーなるほどね。かなり尺や構成を決めるんですね。

成田 : ものすごくこだわってます。この曲は「リンダリンダ」みたいに始まりたいというのがあって。打ち込みの最高峰が「恋愛至上主義サマーエブリデイ」だとしたら「どきめきライブ・ラリ」の方はロックテイストを強くしたいと思って。でもバンドで録る予算はなかったので、編曲を浅野尚志さんに頼んだんです。

ーー浅野尚志さんはインディ時代からの関係ですね。

成田 : 当時LADYBABYというユニットを俺がサウンド・プロデュースしていて。ニッポン饅頭という楽曲を作る時に、浅野さんが編曲でハジメタルさんがキーボードという組み合わせで曲を作りたいなと思って色々と曲を作っていたので、その経験がこの楽曲には生きていますね。

LADYBABY「ニッポン饅頭」
LADYBABY「ニッポン饅頭」

成田 : ハジメタルさんには「どきめきライブ・ラリ」は、ミドリの中でも「春メロ」や「POP」のような、メロディアスな感じのピアノで引っ張っていくものにしたいです、と伝えて。で、この曲のポイントはともかくドラマティックさなので、ギターは絶対西さん(越川和磨)しかいないと思って。西さんには、とにかくどっからどう聴いても西さんっていうギターを弾いてほしいとお願いしました。

夏の魔物のメジャー第2弾シングルを掘り下げる

ーー「東京妄想フォーエバーヤング」はどうですか? さっき少し話しましたけど、まずどんなイメージがあったんでしょう。

夏の魔物「東京妄想フォーエバーヤング」
夏の魔物「東京妄想フォーエバーヤング」

成田 : ソカバンの新曲みたいな感じの曲が聴きたいなと、いち曽我部さんファンとして思ったんですよ。あのキラキラした多幸感みたいなものを表現してもらって、エモーショナルな曲にしたいなと思っていて。あとは、このシングルに関しては「東京」っていうテーマがあったんです。くるりの「東京」、銀杏BOYZの「東京」、そしてサニーデイ・サービスの「東京」に負けない楽曲にしたいと思っていて。で、曽我部さんが作ってきたデモの段階ではまさに「曽我部さん節」って感じだったんですけど、そこからARMさんとかなりやりとりして自分たちなりの色をつけていく感じでした。この曲は本当にリテイクが多かったですね。サビに突入する前のヒット音の感じとか手塚(治虫)先生ばりにリテイクお願いしたり… あとアウトロの雰囲気をソカバン・バージョンの「青春狂走曲」みたいにしたくて。かなり細かく、フィルの指定までしました。

ーーBIKKEさんを起用したのは?

成田 : 絶対ラップは入れたいと思ってたんですよ。当時ちょうど「少年ジャンプ+」の「とんかつDJアゲ太郎」にハマってて、普段は白黒なんですけど突然カラーページが出てきて、主役のアゲ太郎のDJを見てヒロインの苑子ちゃんが感動するみたいなシーンがあって。そのハッとする瞬間みたいなのをBIKKEさんに作ってほしいなと思って。「ブギー・バック」じゃないけど、「あの頃の僕ら感」というか、ああいう渋谷系みたいな感じを。

ーーこれ、BIKKEさんにはどういうオファーをしたんですか?

成田 : そのコマを送ったり、自分がソウルセットのここが好きだとか、5億リツイートしたくなる感じの歌詞でとか色々送りました(笑)。

ーーははは、なるほど(笑)。そしてこの曲の作詞は作家の山内マリコさん。歌詞を書くのも初めてですよね?

成田 : 初めてです。山内マリコ先生の「ここは退屈迎えに来て」っていう作品がものすごく好きで、自分はその本の中で、この章の、この子のこういう気持ちを歌詞にしてほしいですって言って。地方の人が憧れる東京、上京してうまく行かなくて戻ってきて地方でモヤモヤしてる人にも届く「ここは退屈迎えに来て」のような曲というか、そういう世界観を表現したかったんですよ。

ーーそして「ダーリンno cry!!!」。これはSundayカミデさんの作詞作曲ですが、どんな風にお願いしたんでしょう?

夏の魔物「ダーリン no cry!!!」
夏の魔物「ダーリン no cry!!!」

成田 : この曲はメジャーに行く前に作ってたんです。Sundayさんとプロレスについての対談をしたことがあって、その雑談の中で言ったら「OK!」ってなって。で、出す形も場所も決まってないけど曲を作るやりとりがはじまって。

ーーこれは、Sundayさんのどんな感じが欲しいと思ったんですか?

成田 : Sundayさん節というか、ああいうメロウなピアノ弾き語りでもいけるみたいな曲がいいなと思っていて。一緒にスタジオも入ったんですよ。Sundayさんがピアノを弾いて、俺が歌って。そこから肉付けしていった感じです。やっぱり尺と構成をまた細かく指定して(笑)。で、この曲はバンドでやりたかったんです。それまでバンドから離れてた自分がバンドに戻った。

ーーそこまでバンドにこだわったのは?

成田 : ミドルテンポ以下のこういうバラードって、バンドでしかできないことじゃないですか。でも、自分が表現したいものを形にできる方となかなか出会えてなくて。こういう音がほしいとか、こういうプレイがほしいとかっていうのをSILLYTHINGの時からずっと悩んでたので。このタイミングでBOBOさんとフミさんと西さんとハジメさんとできたのは本当に最高で。

ーーBOBOさんとフミさんって、リズム隊としては相当強力ですね。

成田 : そうですね。それもBOBOさんのInstagramか何かで、フミさんといつか音を鳴らしたいみたいに書いてたのを覚えてたので(笑)。フミさんは高校時代から憧れの女性ですし、BOBOさんとはずっと一緒にやりたいと思っていただけに、夢のようでしたね。

ーーこの曲は越川さんのギター・ソロが味わい深いですね。これも指定した?

成田 : ものすごく指定しました(笑)。やっぱり西さんのギターって自分の理想系なんですよ。で、「ここのギターソロは西さんが引っ張ってジョン・フルシアンテみたいに最終的に絶頂に達して、顔で弾く感じのギターでお願いします」ってLINEを送りました(笑)。

ーーそのオファーには100%応えてくれましたね。

成田 : そうですね。本当に、西さんのらしさが全部出ましたね。

ーーしかも、そのギターソロを弾いてる場面でMVではベッド・インの2人がギターを持って出てくるっていう芸の細かさね(笑)。

成田 : そこもなんですけど、頭の中で鳴ってる音と、映像化したいことが、メジャー以降はやっと形にできるようになったんですよ。それまではできなかったんです。「こういう感じのことをやりたい」っていう迸る思いはあったんですけど、なかなか形にならなくて。

ーーそれが形にならなかったのは何故ですか? 予算的な問題?

成田 : いや、予算じゃないです。正直、すごくお金が掛かっているプロジェクトと思われてそうですけど、実際は違うんですよ。確かに掛かっている部分はありますが、実際はものすごくジリ貧ですし、関わっているみなさんも本当に熱意だけで参加してくださっているので。

ーー予算ではない。じゃあ何がポイントだった?

成田 : 俺に単に経験がなかったんです。バンドをやめて、本当はこういうことをやりたいとカミングアウトしてSILLYTHINGで職業作家さんとのコラボをやって、DPGで打ち込みを始めて、いろんな曲の作り方とかを学んでいって。LADYBABYのサウンドプロデュースとかもやって。いろんな経験を積んで原点に回帰した感じなんですよ。

夏の魔物、メジャー3rdシングルを掘り下げる

ーーそして、今回のシングルの「魔物、BOM-BA-YE 〜魂ノ覚醒編〜」に辿り着いた。これはヒャダインさんが手がけたわけですけど、ヒャダインさんのどういうところに影響を受けたんですか?

夏の魔物「魔物、BOM-BA-YE 〜魂ノ覚醒編〜」
夏の魔物「魔物、BOM-BA-YE 〜魂ノ覚醒編〜」

成田 : ヒャダインさんの曲のドラマティックなところ、曲構成にはすごく影響を受けています。ジェットコースターみたいな展開で、サビはキャッチーで、曲全体で1曲みたいな感じ。そこに一番影響を受けてるのかなって思います。ヒャダインさんとROLLYさんの存在は自分の中でかなりデカいですね。

ーーヒャダインにはどんなオファーをしたんですか?

成田 : ヒャダインさんには5年くらい前、THE WAYBARKからSILLYTHINGに変わる前にお願いしたことがあって。その後も何回もオファーしてるんですけど実現しなくて。で、今回は5年前にメモしたことを起こして打ち合わせに臨んだんです。当時から杉田さんのナレーションを入れて、組曲『ニコニコ動画』のような構成を1曲で表現するっていうことをメモしていて。要は5年前にやりたかったことをそのまま今やったんですよ。

ーー作詞はコールドストン・スタナ・前山田健一という名義ですけれど、歌詞はどういう風にして作っていったんですか?

成田 : これ、最初のデモは6分オーバーの曲だったんです。それをまず再編集して、構成をこんな感じでいきたいとお願いして。で、ヒャダインさんに高須クリニックのパートの前にルパン三世のタイプ音とかを入れてくれとか、おかわりをいっぱいして。最初のデモの段階で、ヒャダインさんの仮歌が入っていたんですが、そこに入っていたワードをディレクターさんと相談して何箇所か残すことにして。で、インディの時から関わってくれていてずっと俺たちを観続けてくれている只野菜摘さんに「俺たち夏の魔物にしか歌えない、今の俺たちらしい歌詞」にしていただきました。

ーーこれができたことによって、5年前の自分に借りを返した感はあるわけですね。

成田 : そうですね。その時の初期衝動をやっと具現化できたというか。当時ヒャダインさんの曲に自分が感動したポイントも全部入れたかったので。どこからどう聴いてもヒャダインさんの曲、っていうのがやりたかったんですよ。なので「ヒャダインクラップ」みたいな、ヒャダインさんの曲でしか出てこない音色も全部使ってほしくて。「スタメン全部揃えてください」って言ったんですよ。やっとできたという感じですね。

ーーでは「バイバイトレイン」はどうですか? これはどんなものを作りたかった?

夏の魔物「バイバイトレイン」
夏の魔物「バイバイトレイン」

成田 : 「バイバイトレイン」に関しては、本来ならば自分が1番好きな曲調なんですけど、バンドをやめてから直球な曲をずっとやってなかったんですよ。THE HIGH-LOWSみたいな本質的なロックみたいなものと自分自身は遠い存在だしできないなと思っていて。好きなものとやりたいことは違うなって当時は悩んでいたんですよ。でも、やっぱり「魔物、BOM-BA-YE」みたいな曲とこういう曲の両極端なものをできるのって夏の魔物しかないんじゃないかって感じて、あえてやってなかった曲調にチャレンジしてみました。

ーーこれは作詞が大槻ケンヂさん、作曲がYO-KINGさんですけれど、まず誰に声を掛けたんですか?

成田 : 最初は大槻さんですね。大槻さんの「あのさぁ」という曲が大好きなんですが、そういうセンチな部分というか、ちょっとほろりとするポイントを抑えたラブソングがやりたいと思ったんです。で、OKいただいたんで「グミ・チョコレート・パイン」の中で自分が好きなシーンがあるので、そこをやりたいって言ったんです。写メでそこのページを送って、「ここを歌詞で表現してもらえますか?」って言って。

ーーじゃあ、YO-KINGさんにはどういうお願いをしたんですか?

成田 : YO-KINGさんは、ソロの『IT'S MY ROCK'N'ROLL』とか真心ブラザーズの『KING OF ROCK』みたいな、ゴリッとしたロック・テイストの強い感じが欲しいなと思って。お2人のいいところをいただいて一緒に作ったというか。「リンダリンダ」とか「BABY BABY」みたいな感じを出したいというのも漠然とあったんで、歌詞の「バイバイトレイン」という必殺ワードも、大槻さんに何十個もアイディアを出していただいて決めました。

ーーで、この曲ではウエノコウジさんとクハラカズユキさんがベースとドラムをやっている。ミッシェル・ガン・エレファントのリズム隊ですね。

成田 : これも、最初はバンドで録れる予算がないと言われてたんです。でもこの曲はバンドじゃなきゃともかく成立しないと思ったし、いろんなほかの予算を抑えてもらってもいいからともかくバンドで録らせてくださいと懇願してバンドでできることになって。ハジメさんにデモを上げてもらって、ギターは西さんという所まで決まって。で、ベースとドラムはいっぱい案はあったんですけど、「あっ!」と思って。まず、ウエノさんに電話したんです。同時にクハラさん側にもコンタクトをとって。奇跡的にみんなとんとん拍子に決まって、ほんとこのシングルはたくさんの奇跡が揃ったなぁと思います。

夏の魔物は「人間のサンプリング・アート」である

ーーなるほどね。全部で6曲分、かなりじっくり話を聞いてきましたけど、ユニットとしての夏の魔物が何をやろうとしているのか、ようやくわかった感じがある。

成田 : 本当ですか!?

ーー僕の考えでは、夏の魔物が何をやろうとしてるのかを一言で言うと「人間のサンプリング・アート」だと思うんです。DJだったら自分の好きな曲をサンプリングして、そのパーツを組み合わせて曲を作るわけですよね。それと同じことを人間相手にやってる。その曲を作った本人を連れてきてるわけだから。

成田 : ああ、そうですね。もともと俺、ミックステープを作るのが好きなんですよ。好きな子にそれを渡したり車で聴いたりして。それを音楽で表現したいみたいなのが大前提にあるんです。なので、曲の作り方と、それが出来る過程もすごくそれに近いと思っていて。

ーー正直、僕も、この成田大致という人、夏の魔物というグループは何をやろうとしてるんだろう? って思ってたんですよ。でも、「そうか、この人は人間のサンプリングをしてるんだ」って思うとすごくスッキリする。「だからこんなに無茶振りするんだ」ってようやく理解できた感がある(笑)。

成田 : はははは(笑)。映像に関してもそれはかなりありますね。「東京妄想フォーエバーヤング」なんて、頭からケツまで監督のスミスさんに「こういうのが撮りたいです」っていうのを伝えたり、楽曲も含め、みんなで一緒に作ってる感覚なんですよ。曲と映像が全部リンクしてないと世界観ってわかりづらいじゃないですか。

ーーでもね、ミュージシャンに対しても映像作家に対しても、「ある程度はお任せするので、この枠組みの中であなたがいいと思うものを作ってください」というのがノーマルな発注だと思うんです。それが相手の作家性を尊重しているということだから。だけど、成田大致という人のやってることはそうじゃないですよね。「あなたの持ってるこのパーツをこの図面のこの場所に持ってきてください」っていう。

成田 : 夏の魔物の曲作りは映画に近いのかなっと思ってます。俺自身は楽器も弾けないし、作詞や作曲もみなさんのようにはできない。でも、自分が監督となってキャストや演出部、照明さんやカメラマンさん達に協力してもらって、「みんなで監督の頭の中を具現化していきましょう」って作品作りをしていってるのかなって感じますね。

ーーで、そういう意味では、ようやくフェスの「夏の魔物」とユニットの「夏の魔物」は、実は本質的に同じことをやっていると言える。どっちもブッキングによるアートである。

成田 : あ、そうですね。イコールになりましたね。

ーーそんな感じありません?

成田 : いや、すごく思います(笑)。フェスのブッキングしてても、やりたいことがすごくわかりやすくなったなと思ったんですよ。漠然とモヤモヤしてたものが、ようやく具体的に言えるようになったんです。

ーーそういう意味では、夏の魔物は、ファースト・アルバムをリリースする前に、フェスを10回リリースしてるみたいに考えるとわかりやすい。

成田 : はははは(笑)。そうですね。なので、今のタイミングで全部良かったなと思うんです。

ーーでも実際、これまでDPGも夏の魔物も「一体何がやりたいの?」って言われることは多かったと思うんですけど。どうなんでしょう?

成田 : それはライヴができなかったからなんです。頭の中でやりたいことが鳴ってても、それがライヴの形にならなかった。バンド時代は同じ方向を向けるミュージシャンにも出会えないし、打ち込みになっても、歌える子も踊れる子も当時は見つからなくて。頭の中ではショーが出来上がっているのに、それができないから飛び道具やネタで誤魔化してた部分もたくさんあって。もちろんそれは面白かったし、過去を否定するつもりもないですけど、やっぱり自分が表現したいものは音楽なので。遠回りしたけど、一人ずつ仲間を見つけて、ようやく最高の形になった感じです。

ーーメンバーが今の5人になったっていうことが大きかったんですね。

成田 : そうですね。自分の思っている方向、やりたいことが一致していて本質的な部分を理解していたのがアントーニオ本多さんと大内さんだけだったんです。そこから塚本舞とケンドー・チャンと出会って。やっぱりメジャー以降ですね。

ーーそれに、夏の魔物がメジャー・デビューしてからは、ちゃんと成田大致という人が真ん中にいますよね。

成田 : 特にDPG時代は自分の歌をフィーチャーしなくていいと思ってたんです。だけどやっぱり、作品を作れば作るほど、やりたいことが具現化できていけばいくほど、自分が歌わなきゃ意味がないって思ってきたんですよ。やっぱり、自分の歌いたいことは自分が中心になって歌った方がいいんだって思って。ちゃんとやらなきゃって言うと変ですけど――。

ーーちゃんとしてるって本当に大事なことですよ。

成田 : 今はヴォーカリストとして集中してステージに立てているんです。それも自分ひとりの力でなく、メンバー含め関わっているみんながいるからだと思っています。もっともっとみんなと、たくさん作品を作りたいし、ライヴをしたい。今はそれだけですね。

>>>特集第一弾 成田大致、ケンドー・チャン、玉屋2060%座談会はこちら

夏の魔物の過去作もチェック

夏の魔物 / 東京妄想フォーエバーヤング/ダーリン no cry!!!

夏の魔物によるのメジャー第2弾シングル。「東京妄想フォーエバーヤング」(作詞 : 山内マリコ、作曲 : 曽我部恵一、編曲 : ARM(IOSYS)、ゲスト・ヴォーカル : BIKKE(TOKYO No.1 SOUL SET))との両A面曲となる「ダーリン no cry!!!」は、作詞・作曲ともにSundayカミデ(ワンダフルボーイズ / 天才バンド)が書き下ろした壮大なロッカバラード。

夏の魔物 / 恋愛至上主義サマーエブリデイ/どきめきライブ・ラリ(イラストジャケット Ver)(24bit/48kHz)

夏の魔物によるのメジャー・デビュー・シングル。「恋愛至上主義サマーエブリデイ」(作詞 : 後藤まりこ、作曲 : 成田大致・ARM(IOSYS)、編曲 : ARM(IOSYS)、ギター : HISASHI(GLAY))は名曲「サマーロマンサー」をリビルド。両A面曲となる「どきめきライブ・ラリ」は、大森靖子が書き下ろし、越川和磨、ハジメタルが参加。

LIVE SCHEDULE

夏の魔物現象2016
メジャー3rdシングルレコ発ワンマンGIG
第一部 : ブラックDPG LAST DANCE 〜破滅に向かって〜
第二部 : 〜MAMONO BOM-BA-YE 2016〜
2016年6月24日(金)@新宿FACE
時間 : 開場 19:00 / 開演 19:30
出演 : 夏の魔物、ブラックDPG
スペシャルゲスト : 伊藤賢治
チケット : 前売り 3,000円 + ドリンク代
「チケットぴあ」で発売中

「夏の魔物現象2016」ROAD TO 10th ANNIVERSARYシリーズ 〜地獄篇〜
2016年7月15日(金)@新宿BLAZE
時間 : 開場 18:00 / 開演 18:30
出演 : 後日発表!
チケット : 前売 3,500円(+ドリンク代)
「チケットぴあ」にて発売中

「夏の魔物現象2016」ROAD TO 10th ANNIVERSARYシリーズ 〜天国篇〜
2016年8月5日(金)@新宿ReNY
時間 : 開場 18:00 / 開演 18:30
出演 : グッドモーニングアメリカ、清 竜人25、夏の魔物、and more...
チケット : 前売 3,500円(+ドリンク代)
「チケットぴあ」にて発売中

AOMORI ROCK FESTIVAL’16 〜夏の魔物〜 10周年記念大会

2016年10月01日(土)@青森県東津軽郡平内町夜越山スキー場
時間 : 開場 6:30 / 開演 7:00(予定)

出演者第2弾 :
夏の魔物 with ヒャダイン、人間椅子、BELLRING少女ハート、藤井隆、清 竜人25、POLYSICS、曽我部恵一、ROLLY、アーバンギャルド、SCOOBIE DO、THE NEATBEATS、バンドTOMOVSKY、HINTO、ザ・チャレンジ、ゆるめるモ!、生ハムと焼うどん、DJ やついいちろう、クリトリック・リス、吉田豪、杉作J太郎、久保ミツロウ・能町みね子、and more...

チケット :
・先行早割券 7,500円
※先行早割購入特典 : 当日会場にて記念グッズプレゼント!
【先行早割券受付URL】http://w.pia.jp/t/nnm-p/
※受付期間 : 6月1日(水)23:59まで
・一般発売 : 8,000円
・4人セット券 : 29,000円
※一般発売&4人セット券は、6月25日(土)より〜販売開始予定
・中高生 : 3,000円(当日券のみ)
・当日券 : 9,000円
※入場時ドリンク代別途 500円

PROFILE

夏の魔物

青森で毎年開催されているロック・フェス〈夏の魔物〉の公式ユニットとして主催者の成田大致を中心に結成。 《ロック》、《アイドル》、《プロレス》などあらゆるエンタメ要素をクロスオーバーさせたライヴを行う。2015年8月、ポニーキャニオンよりシングル『恋愛至上主義サマーエブリデイ / どきめきライブ・ラリ』をリリースしメジャー・デビュー。2016年1月に発売したセカンド・シングル『東京妄想フォーエバーヤング / ダーリン no cry!!!』はフジテレビ系「めちゃ×2イケてるッ!」の主題歌として抜擢され、オリコン週間チャート25位を記録した。2016年6月には前山田健一作曲による『魔物、BOM-BA-YE〜魂ノ覚醒編〜』をリリースする。

official website

[インタヴュー] 夏の魔物

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