2016/03/29 13:48

“新しい波”が「日常」を覆した——80’s日本ニューウェイヴと出会った大学生が新鋭アーティストをレコメンド

現在20歳の私が数年前、初めてヒカシューと出会ったときの衝撃は大きかった。ポップでひょうきんなサウンドが耳を捉えつつ、どこか冷めた佇まい。歌詞は不可思議で引っかかる。更に「びろびろ」のようなサイケなPV演出、「パイク」のような演劇調、「モデル」PVのクラフトワークのパロディ…。ともかく何らかの「違和感」が、その表現活動全体から立ち上がってくる。それはきっと定型化してしまった音楽や音楽が表現してきたものに対する皮肉だったのではないだろうか。それまで私が音楽に対して感じたことのなかったシュールな知性を感じた。その奇妙な魅力に取り憑かれ、私は80年代テクノ・ポップ周辺、プラスティックスや平沢進などのアーティストに興味が広がっていった。そしてニューウェイヴというキーワードを頼りに、INUやじゃがたらなど80年代日本のアンダーグラウンドで音を鳴らすバンドたちに出会う。テクノ・ポップ周辺とサウンドは異なるポスト・パンク系のバンドたちだが、なぜか惹かれるものがあった。彼らの混沌とした表現の中にもテクノ・ポップ系と同じ、形骸化した「クール」に対する反抗心と、日常に隠された「違和感」の狂気じみた発露があった。


…一方で学生である私は同世代もしくは近い世代の作り上げる音楽にも興味があり、新しいインディーズの音楽もよく聴く。今回は最近のアーティストの中から「ニューウェイヴ」をキーワードに私がぐっときた3組を紹介したい。ニューウェイヴの持つ「既存」「日常」を覆そうとする精神を現代社会に引き継いだ音楽を知ってほしい。

選・文 : 石川美帆

SUPER VHS

YENレーベル系の80年代テクノ・ポップを彷彿とさせるサウンドと、哀愁漂うリフが特徴的なインディーズ・バンド。現在の関東インディーシーンではnever young beachに代表されるような“ビーチ感”がキーワードの一つだが、なかでもSUPER VHSはそのパーカッシブなビートや、リバーヴが効いて響き合う音色から“トロピカル感”が強い。それらが相まって独特の世界観を立ち上げており、オリジナリティを保ちながらも、80年代の正統派継承者であるように思う。デビュー盤であり集大成でもある昨年12月リリースの新作が、ジャンルや時代性に囚われることなく聴き続けられるアルバムになれば、という想いから「CLASSICS」というタイトルになった。まさにこのアルバムを聴いていると時代感覚は失われ、心地よい音の広がりに包まれる。

PROFILE

SUPER VHS

神奈川県は原当麻在住のバンド。2015年の12月にSAUNA COOLからアルバムをリリースした。2011年から活動を開始し、コンピレーションアルバムの参加や海外インディーレーベルからの自主制作リリースは行ってきたが、国内全国流通版は今回が初。2016年2月に入ってからは様々なアーティストのセッション映像を配信するプロジェクト、Tokyo Acoustic SessionからCatch a Waveのセッション映像を公開。

>>SUPER VHS Official Tumbler

灰緑

ニューウェイヴと題したこの特集で、このバンドを紹介していいかどうかは迷った。しかしどうしても彼らをニューウェイヴとして解釈してみたかった。高円寺無善寺にて初ライヴを敢行して以来異才を放ち続けてきた灰緑。自由すぎるサックス、ヴォーカル山口の奇声、ドラム修のアドリブの語り、音頭調・歌謡曲調な記憶の断片からのオマージュ。それらの要素に、私は有頂天や初期ヒカシュー、INUなど80年代日本のニューウェイヴにある狂気と実験精神を感じた。本人たちにそんな意識は1ミリも無くただ楽しんでいるのだろうが、無意識であれ型にはまった音楽や社会に対する皮肉を感じる。制作はスタジオでのセッションから固めていく。練習でも本番でも同じ演奏(? )は二度とできないという。パンクサイケ民謡ファンクなどと称されているが、はっきり言って意味のわからないそのワードは、彼らの意志表示が生んだ産物なのだ。

PROFILE

灰緑

2004年3月刈田英之(ベース)が大学の同級生であった西宮(ギター)を誘ってバンドを結成。刈田英之の弟、刈田修(ドラム)が大学受験で上京したため初心者だったがバンドに加入させる。英之の高校の同級生の山口(ギター・歌)を誘う。その後サンタ(サックス)が加入する。高円寺無善寺で初ライヴをし、それ以来その才能を爆発させ続ける。2012年以降主な活動を見せていなかったが、2015年の夏にサンタ以外の4人で復活する。4人体制でもその個性と才能は変わることなく活動を続けており、2016年も5月にライヴを予定しているようだ。

>>灰緑公式ブログ

ZOMBIE-CHANG

テンテンコ、ブスNY行きたい族と並んでDOMMUNEに出演した際に宇川直宏氏が「激ヤバい!」と称した強者。シンガーソングライターである彼女が自作するビートの効いたトラックと皮肉の効いたリリックはヒップホップを思わせるが、“ヒップホップ”を名乗るにはパーティー感が足りない。どこか冷めていて切なさを帯びている。それは社会に対する違和感であり、彼女と同じ感覚を持つ人は多いのではないだろうか。小柄な体から発せられるヴォーカルは自由自在で、全ての絶妙なアンバランス感が魅力だ。不器用だけど素直な想いが込められた彼女の甘酸っぱい音楽には、何物にも流されずに自分の感覚で生きて行くという明確な意志表示がある。テクノ・ポップ系のニューウェイヴ感に、現代社会の感性を味付けした楽曲が揃う。今まさに旬であり、私たちが求めているアーティストの一人なのではないだろうか。

PROFILE

ZOMBIE-CHANG

18歳で “ゾンビちゃん”として注目を集めた少女がゾンビちゃんを「脱退」し“ZOMBIE-CHANG”として再スタート。オマケクラブからの4曲入作品無料配信や、DOMMUNEのプログラム参加など2015年はライヴ以外にも積極的に活動を開始。2016年1月には初のフルアルバムを最旬レーベル、オマケクラブからリリース。それを記念して2月にタワーレコード渋谷店でのインストアイベントを敢行。今最も注目されているローファイ少女だ。

>>ZOMBIE-CHANG Official HP

私がニューウェーヴと出会ってそれをヒントに同世代の音楽を聴いたように、新しい音楽との出会いがその人の考えかたを変えてしまうことがある。


私と同じ大学生が、エレクトロニカ/テクノ・ミュージックについてレコメンドした記事がこちら。
>>洗練された電子音の世界に酔いしれる、エレクトロニカ / テクノ・ミュージック3作品


これからも様々な音楽に触れて様々な出会いをしていきたい。

この記事の筆者
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