同人音楽だからこそできる“ハイレゾ音楽制作ユニット”Beagle Kickーー自作スタジオで訊いた、自由な音楽性そしてハイレゾにかける想い
オーディオ・ライター、音響エンジニアとして活動する橋爪徹と、NHKスペシャル・テーマ音楽、映画などの劇伴などを幅広く手がける作曲家、和田貴史による音楽ユニット、Beagle Kick。“ハイレゾ音楽制作ユニット”として活動する彼らの1stアルバム『BRAND NEW KEYS』を配信。今作は、これまでリリースされてきた楽曲に4曲の新曲を加えた結成からの集大成となる作品。清涼感溢れるポップス、フュージョン、はたまた弦楽四重奏など、ジャンルに縛られることのない、ヴァラエティーに富んだ楽曲群を収録。どの楽曲でも、一流のミュージシャンたちによるハイクオリティな演奏が、ハイクオリティな音質で味わえる作品となっている。そんな今作は、どのような手法で、どのような考えを経て制作されたのか。“ハイレゾ”に対する哲学とともに、じっくりと語ってもらった。
Beagle Kick / BRAND NEW KEYS
【Track List】
01. Wonderful World / 02. Listen! / 03. SAILING / 04. 祈りの丘 / 05. Day After Day / 06. Your Time / 07. Longest Time / 08. Tick Tock / 09. Grit / 10. NEXT TO YOU / 11. うたかた / 12. Longest Time(Solo Piano Version)
【参加ミュージシャン】
Guitar,E.Guitar:和泉聡志
Cello,A.Guitar,E.Guitar:伊藤ハルトシ
Guitar:飯室博
Bouzouki,Laud:田代耕一郎
Saxophone,Flute:竹野昌邦
Keyboard Harmonica:服部暁典
Tin whistle:高桑英世
Violin & 1st Violin:室屋光一郎
2nd Violin:伝田正秀 Viola:榎戸崇浩 Cello:奥泉貴圭
Violin:三葛牧子
Keyboard,Piano,Organ:野崎洋一
Accordion:佐藤芳明
Drums:山内優
Bass:田辺トシノ
Percussives:梯郁夫
Chorus:相沢実奈
【配信形態 / 価格】
24bit/96kHz WAV / ALAC / FLAC
単曲 270円 アルバム 1,620円
>>ハイレゾとは?
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本作は、「何も引かない 加えない」をブランド理念にしたACOUSTIC REVIVE製品を使用して制作されている。電源・LINE / MICケーブルには、PCOCC-Aを導体に採用した極太ケーブルを使用。壁コンセント、電源タップ、アンダーボードなども同社製品を活用した。ProtoolsHDXシステムにはACOUSTIC REVIVEの新ブランドであるNAKEDよりNAKED DIGI CABLEを採用。Dimension Cruise Studioの機材ポテンシャルを限界まで引き出し、極めて純度の高いエネルギーに満ちあふれた音源が完成した。(text by 橋爪徹)
『BRAND NEW KEYS』の全曲フル試聴も実施中!!
01. 02. 03. 04. 05. 06. 07. 08. 09. 10. 11. 12.
※ 曲番をクリックすると試聴できます。
INTERVIEW : Beagle Kick
同人音楽という言葉をご存知だろうか? インディーズという言葉と似ているけれど、あくまで好きな音楽を追求していくことに主眼を置き、必ずしも利益やメジャー・デビューを目的としていない活動のことを指す。不況という言葉にまみれた音楽業界とは逆説的に、同人音楽の即売会には数多くの人たちが足を運び、自分の好きな音楽を探し購入していく。そうした即売会の一つである音系・メディアミックス同人即売会〈M3〉において、2000年代前半から音源を販売している作曲家、和田貴史と、当時声優を目指しながら音響のセミ・プロとして活動していた橋爪徹が出会い結成されたユニットがBeagle Kickである。OTOTOYで彼らの1stアルバムを配信するにあたり、本作がレコーディングされた千葉にある和田のスタジオ〈Dimension Cruise Studio〉に足を運び取材を行なった。“ハイレゾ音楽制作ユニット”と名乗っているように、自分たちで機材をそろえ、録り方の方法論まで研究しながらレコーディングを行うなど、ビジネスとは別の視点だからこそできる音楽と機材への探求心。一体、どのような考えのもとBeagle Kickは活動しているのか。2人に話を訊いた。
インタヴュー&文 : 西澤裕郎
写真 : 有田昌弘
同人ってジャンルではないんですよ
——Beagle Kickは「ハイレゾ音楽制作ユニット」と銘打っていますけど、プロフィールにまでハイレゾのことを掲げているユニットは珍しいですよね。
橋爪徹(以下、橋爪) : 元々、僕がやっていたオーディオ・ビジュアルをテーマとしたニコ生番組で、和田さんが作っていた著作権フリーの楽曲を使わせてもらっていたんですけど、その曲を著作権管理団体に登録するから使えなくなってしまうということを聞いて、曲を作ってもらえないかってお話したんです。せっかく作ってもらうんだったら、オーディオ・ビジュアルの番組ですし24bit/96kHzでやりましょうよってお願いして。
和田貴史(以下、和田) : その頃はまだハイレゾで録るっていう事に世の中的に積極的ではなかったんですよね。僕らがやっている同人音楽は、インディーズと意味や定義はそんなに変わらないんですけど、何をコンセプトにしようかは自由なわけですよ。その中で、ハイレゾを積極的にやるよっていうコンセプトに定めたんです。
——和田さんは同人音楽をやる一方、プロとして音楽制作もされてるわけじゃないですか。それぞれの楽曲制作における向かい合い方は違うんでしょうか。
和田 : 全然違いますね。作る音楽自体にはそれほど差は出てないかもしれないですけど、気持ち的には全然違います。仕事はクライアントが必要としている音楽を作るってことに徹しなきゃいけないので、その制約の中で自分の表現をするっていう形で。同人音楽での活動は、橋爪さんからある程度の条件は提示されるんですけど、そこでこうじゃないとダメだっていうのをそんなに言われないので自由度が高いです。
橋爪 : もともと和田さんの音楽の大ファンなので、そこまでは注文しないというか。〇〇っぽいのがやりたいねぐらいは言うんですけど。デモが上がってきても文句の付けようのないのが上がってくるので、いつも一発OKみたいになるんです。
——和田さんは2000年代前半から同人音楽の活動をされていて、橋爪さんは同人音楽をきっかけに、和田さんと繋がることになったんですよね。
橋爪 : 僕の出身は静岡なんですけど、名古屋の同人ショップである〈とらのあな名古屋店〉に漫画とかを買いに行っていたら、何やらわけの分からないCD-Rのディスクがあるわけですよ。バーコードとかもなくて、ジャケットがアニメの可愛い感じで。タイトルが刺激的なので買ってみたら、今まで聴いた事がないような何物にも縛られない音楽っていうのがそこにはあったんです。そういった作品に衝撃を受けて、それ以来〈とらのあな〉で同人音楽を買うようになりました。2003年頃に上京したとき、〈M3〉っていうイベントを嗅ぎ付けて行ってみたら何だここは!? と。当時はオリジナル音源はほんのちょっとだけで、大部分はスクウェアエニックスやPCゲームのアレンジだったりとかで。その中でたまたま和田さんのやっていたサークル「Dimension Cruise」に出会ったんです。
——大元を辿ればアニメとかゲーム音楽から深く掘っていった、と。
橋爪 : 元々ゲーム音楽とかがすごい大好きだったんですけど、フュージョンとかも中学生の時から聴いてましたし、いろんな音楽を聴いてましたね。アジアン・ミュージックのヒーリングのCDを買ってみたり、二胡の音をいいなと思ったり(笑)。
和田 : ゲーム・ミュージックとかを聴いてると、いろんなジャンルの音楽がその中にあるんですよね。そういうところに影響されて、フュージョンだったり、ロックだったり、ケルト音楽だったりに、アンテナが広がるんですよ。
——同人音楽にはゲーム音楽の2次創作という流れもあるわけですが、和田さんがオリジナルの音楽をやっていたのはどうしてだったんですか。
和田 : 単純にオリジナルの音楽を発信する場所が、たまたま同人っていう場所だっただけです。本当にたくさんの人が集まってくれるんですよ。
橋爪 : あんなにCDが売れる場所って希有ですよ。CD不況なんのそのみたいな状況ですから。
和田 : 同人ってジャンルではないんですよ。
橋爪 : 好きな音楽を自由に作って発表する。それを情熱的に買いに来てくれるお客さんがいる。そういう場所があったからこそ、和田さんとも知り合えたんです。本来は音楽を作ってる人となかなか知り合いになれないじゃないですか。ウェブ・ラジオやってるんですけど、曲使ってもいいですか? なんて、なかなか面と向かって言えないじゃないですか。
和田 : それがまた面白くて。売りながら、こういうの面白いですねっていう盛り上がり方を、CDを作る人とリスナーの間でできる。
——ちなみに、お二人で組まれたBeagle Kickというユニット名にはどんな意味が込められているんでしょう。
和田 : サークル名みたいなのを決めようって話になったときに、僕が漠然とビーグル犬が好きで、ちょっと業界に殴り込みみたいなイメージがあって。
橋爪 : へえ、初耳ですね(笑)。
和田 : ビーグル犬のやんちゃなイメージを出したくて、Beagle Kickにしたんです。
——猫パンチ的な感じですか(笑)?
和田 : そうです(笑)。そういうやんちゃな雰囲気をガンガン出したいなと思って、試しに提案したら、特に何も言わずにいいですよってなったんですよね(笑)。
録っている音は最新技術なんですけどね、やり方がアナログ
——Beagle Kickとして初作品が『Your Time』ですけど、これは、どういうふうに作っていったんでしょう。
橋爪 : 僕のオーディオ・ビジュアルの番組があったので、ここの場面で5分、ここは3分っていう感じで、曲のニュアンスを伝えたんです。ある程度の明るめとか爽やかでとかってことは言いましたけど、後はお任せでした。
和田 : 今まで使っていた曲があるので、多分そういうものを求めているんだろうなっていうのはあったので、ラジオのオープニングに合う曲をなんとなく察して作ったというか。
橋爪 : そうしたらとてつもないものが上がってきて、よすぎて泣いてしまったんです。和田さんがここまで本気で作ってくれたんだっていうことが嬉しくて。で、知り合いのプロの女性声優の方にコーラスで入ってもらったんです。
——2作目となる『Tick Tock』は、24bit/176.4kHzという珍しいスペックでの配信ですね。
和田 : 同人なので、やっぱりいいと思ったものを発信しないと意味がないと思うので、ハイレゾで何が出来るのかっていうのをスゴく考えました。シンプルにギター2本の音がいい音に聴こえたらいいんじゃないかと思って、ギター・デュオの曲を作ったんですよね。その時に初めて176.4kHzで録ったんです。なんでそんな細かい数字になっているかっていうと、CDにすることを想定して、44.1kHzの4倍にあたる176.4kHzにしたら結果が変わってくるかなって実験も兼ねていたんですよね。
——実際に録ってみて何か気付きはありましたか?
橋爪 : Pro Tools上でレートに落とす実験をやってみた時に、96kHzと、88.2kHzを作って聴き比べてみたんですよ。そしたらレートが低い方の88.2kHzの方が176.4kHzのニュアンスを残してたんです。それで、ソフトウェア上の中で落とすんだったら確実に整数倍の方がいいねっていう話にはなりましたね。
——次の作品『SAILING』、これに関してはどういう所に注力したんでしょう?
和田 : これはチェロをフィーチャーしたいなっていうのがあったんですよね。個人的には仕事でもチェロの楽器はスゴく好きで、チェロをメロディにして曲を作るっていうのは全然アリだと思っていて。それでいて、ストーリ―性のある曲が作りたかったんです。自分の中では『SAILING』の中の2曲はどっちも好きなんですよね。
——曲を構成してく上で、ストーリー仕立てにするってこともあるんですね。
和田 : そうですね。「SAILING」の場合は曲のストーリーっていうのをすごく考えていて。単純にAメロBメロサビがっていうのじゃなくて、途中でシーンがガラッと変わる所がありますし。物語が曲の中にあるほうが、音楽的な表現として自分は好きというか、そういうのをちゃんとやりたいなと思って作ったんですよね。
——そして『うたかた』です。これは初のDSDレコーディングですね。
和田 : ここまでやっておいて、DSDやらないわけにはいかないだろうと思っていて。DSDって基本、編集が出来ないんですよね。ピラミックスで出来るとしても、あれはPCMに変換してからの編集なので、ネイティブなDSDで全部最後まで作るとしたらどういうものが作れるかなと考えていて。弦楽四重奏だったら、せーので録ってOKテイクを採用にすれば出来るなと思って、4チャンネルで録音をしたんです。最初に少し練習と打ち合わせをして、本番を録り始めて8テイクくらいやって。
橋爪 : 頭からケツまでミスれないので、周りも音を立てれない状況で(笑)。にじむ汗が見える感じですよね。
和田 : それがやっぱり心震わせるんですよ。
橋爪 : いい意味でピリついてるというか。
——ちなみに8テイク録ったうちの何テイク目が採用されてるんですか?
和田 : 最後… かな?
橋爪 : これいいですね!! ってなったんですけど、最後にもう1回だけ録ってみようってことでやってみたら、バッチリだったんですよね。
——このために、DA-3000とMR2000Sを揃えたということですが、その2台でレコーディングを完結させたってことですか?
和田 : マスターはDA-3000を2台カスケードさせた計4chになります。それをアナログ卓でミックスして、KORG MR2000Sで2ch録音して。プレイバックすると最初のノイズが入ってるところから再生されるんですけど、そこから卓でEQとかリバーヴとか調整して、DA-3000を2台回してポン出しみたいな感じで録音したんです。
橋爪 : OTOTOYで配信させて頂いている5.6MHzと2.8MHzのものは、5.6MHzを作ってから2.8MHzに変換したんじゃなくて、よーいドンで2.8MHzも作ってるんですよね。
和田 : だから微妙に音が違うんですよ(笑)。2回まわしているんです。
橋爪 : 普通の商業音源ではやらないような面倒くさいことをやっています。
和田 : この時代に、ものすごく原始的な録音の仕方をしていて、じつは3つ操作しているんです。DA-3000のマルチをまずプレイバックして、SSLのコンプに付いているフェードインボタンを押すと無音からスッと0dbに上がるんですよ。最後、曲のノイズが残る所でフェードアウト・ボタンを押して、最後にマスターを止めるんですよ。
——録っている音は最新技術なんですけどね、やり方がアナログなんですね(笑)。
和田 : でもこの時代にこれをやるってスゴく楽しいですよ。
——ここまでのことを自分たちだけでやってる人たちはいないですよ。
和田 : そこは自信があります。商業ではこういうことをアグレッシブに実験は出来ないので。失敗したらいけないとかもあるし、やっぱり人のお金だし、同人ならではなのかもしれないです。
ぜひハイレゾにも挑戦してほしい
——そして初のフル・アルバム『BRAND NEW KEYS』が完成しました。この作品に関しては、新たに挑戦したことってありますか?
和田 : 音楽的にいうと、アルバムとしてメイン・テーマになるような曲を作りたいっていうのがあったんですよね。
橋爪 : 「Your Time」を超える爽やかポップで、その曲聴いたら誰もが欲しくなっちゃうような曲で勝負したいっていうのが個人的にはあって。それを和田さんに強くお願いしました。
和田 : 自分も元々フュージョンがスゴい好きだったので、自分なりにフュージョンを昇華させていきたいっていう想いがあって。メロディアスで、演奏としても聞き応えがあるっていうのが自分の中のテーマにあって、みんながいい演奏が出せてるのが目標だったんですよね。レコーディングの時も各々が良い演奏が出来るようにディレクションしていきました。結果的に何回聴いても気持ち良くて飽きない曲になったかなと思っています。
——確かに聴いていて、変な意味ではなくずっと流しっぱなしにしておける音源というか。フュージョンとかAORの匂いを感じる作品になってますよね。
和田 : 全体的にBeagle Kickって、ジャズとかフュージョンの香りがどっかあって。そこにこだわってる訳ではないんですけど、たまたま表現したものがそれだった。
橋爪 : 僕も好きだったっていうこともありますしね。
——ちなみに、参加ミュージシャンの方々はどういう方たちなんでしょう?
和田 : ほとんど仕事で知り合った人たちにお願いしていて。仕事でお世話になってるミュージシャン・コーディネーターに相談して紹介してもらった人もいますし、今回初めましてという人もいます。
——和田さんが編集したPVを見る限り、別々で音を録っていったんですよね。
和田 : そうですね、全部ダビングしていきました。
橋爪 : 鍵盤ハーモニカだけは仙台の自分の知り合いの人に録ってもらったデータを送ってもらったって感じですかね。
——1stアルバムにして1つの集大成という感じですね。
橋爪 : 他の楽曲もすごいバラエティに富んでるし、ケルティックな曲もあれば、アナログ・シンセが炸裂してる曲もあったりとか、遊びまくってますね。
——レコーディングにおいては、真空管の機材が多いじゃないですか。アナログ・シンセも使用されています。ハードで録ることにこだわりはありますか?
和田 : その曲を作るのにあたって、アナログ・シンセの音をハイレゾで録ったら気持ちいいだろうなっていうのがあったので、絶対やりたいよねっていう話をしたんですよ。
橋爪 : 倍音がいいよねって(笑)。
和田 : 今回新曲は全て192kHzで録音して、それをアナログ卓でミックスしてDSDでマスター録ってるんですよね。だからPCMでのバウンスではなくて、アナログ・ミックスのDSDマスターなんですよ。
橋爪 : 一旦DSDにしたことによって、音が有機的になったというか血が通ったような感じなったんですよね。PCM臭さが抜けるというか。いかにもサンプリングしたっていうのがなくなって、生っぽくなるというか。
和田 : 変な言い方になっちゃいますけど、アナログを通ることって、音が単純に汚れてるんだと思うんですよ。それは人間の耳としては嫌な変化ではなくて、むしろ心地いい変化になってるんですよね。
橋爪 : ピュアかって言われると違うかもしれないんですけど、人間が生理的に感じる音のよさっていうのはまた別だと思っていて。それを考えると、1度DSDにしたものを96kHzに変換したものは驚くほど音がよかったです。最終的に96kHzになるとしても一度DSDを介するっていうのは、圧倒的に僕等のリファレンスになったというか。こんな面倒くさいことやってるのはあんまりないと思いますけど(笑)。やっぱり和田さんがオーディオ的な感性も兼ね備えてる方なんで、そのへんでいちいち喧嘩したりしなくても済むんですよ。
和田 : 僕も、毎回毎回実験だと思ってるので。自分なりの流儀が定まってるわけでもないんですよね。だから特にこういうことやりましょうってなったら、やってみましょうっていう感じですよね。
橋爪 : もちろん議論して結論が変わっていくっていうのはあるんですけど、こうじゃなきゃダメだっていうのは滅多にないですね。
——ちなみにこれから挑戦してみたいことっていうのも出てきました?
橋爪 : 次はホールで録りたいんですよね。
和田 : またインストになってしまうと思うんですけど、ホールでDSDで一発録りをしたいんです。すぐには出来ないかなと思いますけど、目標としてはありますね。
——ホールで録ることで、どのような効果を期待しているんですか?
和田 : 楽器の鳴りがいいっていうところですね。ここの部屋だと弦楽四重奏ですらちょっと狭いんですよね。ああいうクラシックな音楽って、部屋の鳴りも含めて楽器の音なんで、そこはやっぱりホールが楽器になるって考えじゃないとダメだと思うんですよね。そこまでやって、DSDで録音しなきゃダメなんじゃないかなって。これを同人でやる人もそうそういないと思うんですけど(笑)。
橋爪 : 僕がオーディオ・ライターの活動を始めた頃から、オーディオのことを教えてくれている業界の先輩がいらっしゃるんですけど、まずはクラシックのコンサート行けって言われて。行ってみたらハマってしまって。今は毎月1回聴きにいってるんですけど、ホールのリバーブって、独特の響きで、聴いてて気持ちいいんですよね。それをやっぱり表現出来るのはDSDなのかなって思います。
——さっきの汚れてるんだけど、耳馴染みがよくなるっていうのはおもしろいですね。先日、美空ひばりさんの試聴をしたんですけど、同じようなことを感じました。
和田 : アナログで音が変わることは、変化ではあるんですけど、劣化ではないんですよね。そこが不思議な所で、ノイズが上がっちゃうのは結果的によくない事になることもあるんですけど、気持ちよくなることもあったりするので何とも言えないんですよね。デジタルの場合には、人間には気付かないようなちっちゃな劣化が起きると如実に人間にはよくない感情を与えてしまうんですよ。デジタルって気がつかないだけで、ものすごく劣化を起こしやすい部分なんですよね。そこがBeagle Kickやってて感じた事ですね。
——Beagle Kickでやっていることをまとめると、論文とか考察の文章が書けそうですよね(笑)。
和田 : ただ、これを科学的にやっちゃうと、学者がやる仕事になっちゃうじゃないですか。自分たちは表現する側の人間なので、そういうことをするんじゃなくて、いい音楽を作ってノウハウを積み上げていくっていうのが大事だなと思いますね。
橋爪 : やっぱり感動させましょうっていうのが一番最後の終着点としてあるんです。解析したり、分析したりだけになっちゃうと、面倒くさいオーディオ・マニアになっちゃうので。あくまでも音楽で感動してもらうための方法の1つとして、ハイレゾだったりDSDだったり、アナログを通してみるとかっていうのを選んでるだけなんです。だから、そのどれか1つが特別っていうわけではないんですよね。これからも、そういう心構えでやっていきたいですね。
和田 : とにかく、いろんな切り口で楽しんでもらいたいですね。うちらのポイントって、そこだと思うんですよ。ハイレゾであることもおもしろさの側面でもあると思うし。音楽的な部分もすごく考えてやっているので、そこを純粋に楽しんでもらえればとも思いますし。
橋爪 : そこを楽しんでほしいから、ぜひハイレゾにも挑戦してほしいですよね。
Beagle Kick配信アーカイヴ
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PROFILE
Beagle Kick
自分たちの作りたい音楽を、高音質で届けたいーー
そんな思いから始まった、ハイレゾ音楽制作ユニット「BEAGLE KICK」。昨今にわかに音楽ファン、オーディオ・ファンの間で話題となっている、ハイレゾ音源。CDの3倍から6倍以上という情報量により、まるで目の前で演奏されているかのようなリアリティーを感じることができる。音楽制作者やアーティストが聴いている音をそのまま受け取れるのも魅力だ。そして何よりも、音楽の感動がもっと深まるのがハイレゾであると、僕らは考えている。
生演奏にこだわり、心沸き踊る新体験を提供する。BEAGLE KICKは、同人シーンに現れた超高品質音楽制作ユニットなのである。