2015/07/16 21:46

その表現には“アルバム”であるという必然性がある——フォー・テットのサイケデリックな新作

ポストロックにエレクトロニカ〜テクノ、最近ではベース・ミュージックへも接続するなど、まさにそうした幅広い音楽層から注目を集めるフォー・テット。1年半ぶりの新作『Morning / Evening』。前作『Beautiful Rewind』では、レイヴ・ミュージックへのオマージュをあらわにしていたが、新作はこれまた音楽性をちょいとばかし変化させ、20分ほどのトラック2曲で構成され、彼らしいサイケデリアと実験精神に満ちたテクノ・アルバムとなっている。

Four Tet / Morning / Evening
【配信形態】
ALAC / FLAC / WAV / AAC / mp3(16bit/44.1kHz)

【価格】
まとめ購入のみ 1,543円(税込)

【Track List】
01. Morning Side
02. Evening Side

長尺の時間軸だからこそできる表現

ジ・オーブの新作の直後で、「フォー・テットお前もか」と言いたくなってしまう20分に渡る長尺2曲によるアルバム。とはいえ、音楽的にもこれがまたジ・オーブの音楽性とも共通するサンプリング~コラージュ感の宝庫なのだ。そうそう、クラウトロックのドラッグ・オンなサイケデリック・セッション・コラージュ集、コズミック・ジョーカー(要予習せよ)をテクノへとぶっこんだような、ぶっ飛んだコズミックなサイケデリアがアルバム全体を支配しているのだ。

アルバムは前述のように2曲のトラックで構成されている。「Morning Side」と「Evening Side」である。まずは「Morning Side」。これが言うなればホルガー・シューカイ「Persian Love」ミーツ・リカルド・ヴィラロボス「Fizheuer Zieheuer」といった趣で、インド系のルーツを持つ、彼の出自も感じさせる作品だ。

Holger Czukay - Persian love
Holger Czukay - Persian love
Villalobos - Fizheuer Zieheuer
Villalobos - Fizheuer Zieheuer

硬質なイーヴン・キックのテクノ・トラックを下敷きに、インドはボリウッドの大歌手、ラタ・マンゲシュカル(Lata Mangeshkar : 御年85歳!)のヴォイス・サンプルを延々と雄大にループ。これがまた壮大なドローン・シンセ、オルガンや電子音のコラージュとともに、時にダビーに、時に逆回転しながら、サイケデリックにラタの声がグルグルグルグル…… 。途中、リズムは解体され、ダブ・ミックスで浮き沈み、ドロドロになったところで、これまたラタの声とともにイーヴン・キックが戻って来る。もう完全にドはまりんこ系のトラックですね。これをサイケデリックと言わずになんというんでしょうか? 楽曲終盤はこれまで添え物程度になっていた電子音がいつしか主役をせしめ、様々な音やドローンが行き来して、これまたグッと来るアンビエントなフリーキー・エレクトロニクスへと突入してトラックは最後を迎えるわけです。

Main Teri Chhoti Behana - Padmini Kolhapure
Main Teri Chhoti Behana - Padmini Kolhapure

なぜか全体の印象として、テリー・ライリーの「A Rainbow In Curved Air」あたりを思い出してみたり。対して「Evening Side」は、アンビエントからはじまり後半はざっくりとしたブレイクビーツへと変化していく。音数少な目にスタートした楽曲は、クラスター『II』あたりを想起させる電子音のパルスが控えめにちらりちらりと浮遊するなかを、3分あたりからドローン系の電子音やヴォイス・サンプルが「ふおーん、ふおーん」と踊りでてくると、いつしか豊かな色彩を持って楽曲は壮大に広がっていくわけです。「Morning Side」がハメ系の楽曲とすれば、こっちは完全に瞑想系といった感じでしょう。徐々に女性ヴォーカルとともに、キラキラとオプティミスティックなシンセ音、鳥の鳴き声が湧き出てニューエイジ系のアンビエント・トラックへ。その後、静寂の後から電子音と呼応するようにブレイクビーツ・トラックが出てくるわけです。

Terry Riley - A Rainbow in Curved Air
Terry Riley - A Rainbow in Curved Air

どちらにしろ今作の特徴は、ジ・オーブ、とくに『Orbus Terrarum』あたりを思い起こさせる、オプティミスティックな雰囲気と混沌としながらもポップなコラージュ感が作品全体を支配しているという点。両楽曲とも、20分の時間軸で変化していくのですが、いわゆる曲調の変化というよりも、どこかコラージュ的なんですよね。まるですばらしいDJを聴いているかのような、そんなコラージュ感覚といったところでしょうか。

ソングリスト主体のサブスクリプションが音楽シーンをかき回すなかで、アルバム1枚、長尺の時間軸だからこそできる表現を、そんな感覚を意識させてくれる作品ではないでしょうか。

文 : 河村祐介

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PROFILE

フォー・テット

97年、ポストロック・バンド、フリッジのギタリストとしてデビュー。フォー・テット名義では〈Domino〉 、〈Text〉などから現在までに通算6枚のスタジオ・アルバムを発表。フォークトロニカは彼がいなければ存在しなかったとまで言われた。また本名のキエラン・ヘブデンとしては伝説のジャズ・ドラマー、故スティーヴ・リードとのコラボ・アルバムを3枚発表。レディオヘッドのトム・ヨークから絶大な信頼を得ている。2013年、『ビューティフル・リワインド』を発表。2015年7月に新作『モーニング / イヴニング』をリリースする。

>>フォー・テット Official HP

[レヴュー] Four Tet

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