2014/07/31 17:58

あえてインストで魅せる、優しくも儚い音世界ーーマーク・ビアンキのソロ第2弾作品をハイレゾで

photo by NINELLE EFREMOVA

1996年から活動を続けたシンガー・ソング・ライター、マーク・ビアンキによる1人ユニット、ハー・スペース・ホリデイがその”解散”を宣言してから3年。空白の期間を経て、突如としてリリースされた1曲のEP『Wounds』から約1ヶ月。短い間隔でリリースされる今作はなんと、全編インストゥルメンタルによるEP作品。歌は無くとも、ハー・スペース・ホリデイ時代に見せた多彩な世界観に再び寄り添ったソロ二作目もハイレゾで配信。そもそも何故、彼は今作で歌を歌わなかったのか? その経緯と共に今作のレビューをどうぞ。

Marc Bianchi / A Letter To Nowhere (24bit/48kHz)
【配信形態】
alac / flac / wav(24bit/48kHz) : 単曲 249円 まとめ購入 750円

【Track List】
01. We Broke The Light
02. In The Snow
03. Tokyo Bear
04. A Letter To Nowhere

これは彼から聴き手への”宛名の無い手紙”

宛名の無い手紙に描かれた、4編の言葉のない世界。ハー・スペース・ホリデイとしての活動を終え、3年ぶりに本人名義での配信限定シングル『Wounds』を6月にリリースしてから約1ヶ月。間を空けずにリリースされた今作『A Letter To Nowhere』は、彼の友人であるイラストレーター、Heisuke Kitazawa or PCPの個展用に書き下ろしたインストゥルメンタル楽曲が4曲収められている。

インストゥルメンタル楽曲のみということで、彼の優しく力強い歌声は今作では聴くことが出来ないが、生活にスッと溶け込んでいくような、優しくも儚さのある楽曲が収められている。1曲目から3曲目まではそれ全体が1つの楽曲であるかのように、ピアノやアコースティック・ギターのループと打ち込みのエレクトロニカな要素が混ざり合う。そして4曲目。今作のタイトル・ナンバーでもある「A Letter To Nowhere」。ピアノの優しい音色から始まり、弦楽器やドラム、子供のコーラスが加わって曲が展開していき、最後は波の音が余韻を運ぶ。7分を超える長尺な曲ではあるが、開放感と、閉塞感を同時に感じさせる不思議な感覚が曲の長さを感じさせない。

今作はコンセプトの通り、そもそもは友人に向けたものである。多数の人にという開かれたイメージではなく、手紙のやり取りのような、あくまでもパーソナルな共有感みたいなものがこの作品全体を包んでいる。作品のタイトルが示す通り、これは彼から聴き手への”宛名の無い手紙”なのだろう。歌はないものの、ハー・スペース・ホリデイ時代の彼の世界観にまた歩み寄りを見せたこの作品に、彼へ「お帰りなさい」と返信したい。(text by 高木理太)

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シカゴにおけるインディー、エモ、ポストロックシーンを語る上で抜きにすることができないキンセラ兄弟。その弟であるマイク・キンセラによるソロ・プロジェクトOwen。こちらは2013年にリリースされた7thアルバム。変わらず美しい、安心のキンセラ・クオリティはいつまでも魅力的な輝きを放つ。

Her Space Holiday / HER SPACE HOLIDAY

SSWマーク・ビアンキによる今はなきユニット。サイケ・ポップ、エレクトロニカやフォークなど、15年にわたるキャリアを総括したグランド・フィナーレ的作品である。今回配信のソロ作品とは違う局面とみせているのも興味深い。4 bonjour's partiesの灰谷歩によるリミックス「DEATH OF A WRITER(AYUMU HAITANI REMIX)」も収録。

>>Her Space Holiday特集ページはこちら

Yo La Tengo / Fade

USオルタナ、インディーロックの生き字引、ヨ・ラ・テンゴの2013年作品。トータスやシー・アンド・ケイクのメンバーとして知られるジョン・マッケンタイアがプロデュース。マッケンタイア印のサウンド・メイクによって、とろけるように芳醇で甘美な音世界がどこまでも外へ広がっていくのを感じさせる1枚。

>>Yo La Tengo特集ページはこちら

toe / The Future Is Now

2012年にリリースされた4曲入りのEP。震災後チャリティとして発表された「Ordinary Days」、ACOがゲストボーカルとしてフィーチャーされた「月、欠け」などEPながら中身の濃い作品。日本のインストゥルメンタル、ポストロックシーンにおいて海外からの評価も高い彼らが作り出す、叙情的でありながら、暖かみにも溢れた音世界がここに。

PROFILE

photo by NINELLE EFREMOVA

マーク・ビアンキ

サン・フランシスコ近郊のサン・マテオ出身のシンガー・ソングライター。元々、Indian SummerやCalm といったハードコア・バンドで活動していたが、1996年よりHer Space Holidayとして1人で創作活動を開 始。最初期は、箱庭的スペーシー・ポップであったが、2001年リリースの4thアルバム『MANIC EXPRESSIVE』(アートワークはRadioheadの『Kid A』を手がけたShynola)、『THE YOUNG MACHINES』 (2003年)、『THE PAST PRESENTS THE FUTURE』(2005年)のオーケストラル・ポップな「エレクトロ ニカ3部作」で決定的な評価を得る。その後、がらっと方向性をかえ、オーガニックで力強い歌が詰まった xoxo, pandaをスタートさせる。日本でも、2005年のサマー・ソニック出演、盟友The American Analog Setと のカップリング・ツアー、高橋幸宏のソロ・アルバム『Blue Moon Blue』およびツアーへの参加、Joseph NothingとPianaとのコラボ・ユニットThe Heartbreak Moment、xoxo, pandaとして4 bonjour's partiesを バックに従えての全国ツアー、さらにサッポロビールYEBISU THE HOPのCMに、コーネリアスや曽我部 恵一、クラムボン、高田蓮、つじあやのらと並んで、外国人として唯一人出演するなど、すっかりお馴染みの 存在となっている。また、台湾でも、国内最大級のロック・フェスティヴァルFormoz Festivalの、休止前最 終公演の大トリを務めるなど、絶大な人気を誇る。そんな彼が、2014年、突如Her Space Holidayの終結を宣言。 7月にまさに集大成と呼ぶに相応しい渾身のラスト・アルバム『HER SPACE HOLIDAY』を7月にリリース。

[レヴュー] Marc Bianchi

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