2010/08/06 00:00

USインディー・シーンの重要バンドVERSUSが、オリジナル・メンバーでの本格的なバンド活動を再開。そして実に10年ぶりとなる新作をリリースしました! これはもう、事件ですよ! 繊細なメロディーに、琴線を刺激する声、そしてバーストするギター、叙情的なストリングス…。まさにUSインディーの良心そのものといった、10年の不在を全く感じさせない、瑞々しく輝く傑作! 20年にも渡って多くのバンドに影響を与え、リスペクトされ続けている稀有なバンドの「今」の音をどうぞ。
ON THE ONES AND THREES / VERSUS
1. Invincible Hero / 2. Nu Skin / 3. Into Blue / 4. Gone to Earth / 5. Cicada / 6. Erstwhile / 7. Pink Valhalla / 8. Saturday Saints / 9. Scientists / 10.The Ones and Threes / 11. Neither Nor / 12. Death Ray

今、最も盛り上がるUSインディー・シーンから新たな音源が… 等と、昔から嫌というほど耳にしてきた。詰まるところ、見えそうで見えないものって「楽しい」ものなのである。おそらく日本に渡ってくるUSインディー・シーンの情報はごく一部であって、認知度としてグレイ・ゾーンのバンドが、国や地域を問わずわんさかいるのであろう。

今回紹介するのは、USインディー・シーン伝説のバンドVersus。日本でも知る人ぞ知るバンドである。1990年にNYにてリチャード・バルユットを中心に弟のエドワード、紅一点フォンテーン・トゥープスによって結成され、幾度のメンバー・チェンジを繰り返し、Teenbeat、CarolineやMerge等から5枚のアルバムを出し… 云々。後はプロフィールを見れば分かる事だが、とにかく活動歴が長いベテラン・バンドと言える。とはいえ彼らは2001年に実質的な活動停止をしているので、実際のバンド歴は蛇の道ほど長くはない。だが、活動が停止している間も長い期間様々なUSインディー・シーンのバンドに影響を与え続けた功績は大きい。今作『ON THE ONES AND THREES』は10年ぶりの音源であり、オリジナル・メンバーでの再始動への景気づけの祝砲一発目。鳴らされる音は表現のエネルギーに満ちている。決して、そこら辺のおっさんが「久しぶりにやりますか」って出せる音ではない。

リチャードが弾く粒子の荒いギターの音色は、紛れもなく90年代を音楽と共に歩んできたからこそ出せる貫禄であって、90年代にグランジ、オルタナ、パンク、エモ・コア、ヒップ・ホップ… と、せっせと音楽を探していたリスナー達にとっては、時代をフラッシュ・バックさせてくれる音ではないだろうか。フォンテーンのコーラスもエドのドラムも、本人達は意識していないだろうが、奇をてらう様な独特なヴァイブスと湿度をもち、NYという街が運ぶどこか混沌とした音像に仕上がっている。本作のエンジニアはAnimal Collective、Cat Power、Spoon、そして最近ではDirty Projectors等を手がけたNicolas Vernhes。Versusはcaroline時代の2枚を彼と共に作っている。こうしたバンド特有の、精神性を詰め込んだ音だけにVersusは頼らず、メロディーやコーラス、音色を実に丁寧に作っている。多種多様の人種、文化が混じり合うNYの混沌さを持ちながらも、どこか普遍的で美しいメロディとPOP感覚、叙情的な展開、そして温もりを感じさせるサウンドが、Versusが様々なバンドにリスペクトされ続ける所以なのだろう。Mooolsやbloodthirsty butchers等、熱い日本のバンド・マンからも熱い支持を受けているのも頷けるサウンドである。

VersusはSuperchunkやYo La Tengo等と並んで、20年に渡って様々なバンドに影響を与え、それらのバンドがUSインディー・シーンの血を巡らせてきた。その血は今も脈々と受け継がれ、ベテランのSonic Youth、ブルックリンでは言わずもがなのAnimal Collective、孤高のWilco、最近注目を集めたFleet FoxesやDirty Projectors等、新旧USインディー・シーンの音楽の幅、精神性を挙げればきりがない位のバンドがひしめいている。それは今に始まった事では無く、Versusはその基盤を作ったバンドの一つであり、生ける証人であり、しかも今も尚音楽で発信しようとしてるのだ。

90年代に入ってますます音楽を聴くスタイルと精神性が広く一般的に意識され、聴く側の趣向もより個人的になった。おかげで日本に入ってくる音楽の範囲は広がったが、その情報量を視認する為、細かくジャンルというものに区分けされた感も否めない。ある意味部屋割りされた状態の中で、Versusは知る人ぞ知るバンドに「なってしまった」だけであり、もっと普遍的に聴かれても良いバンドである。日本にいるVersusファンにとってそれが良いか悪いかは別としてだが。

日本の大手音楽雑誌は、ジャンルを区分けし、グランジやオルタナといえば挙ってもうこの世に居ない偉人の特集を何度も組み、一人のアーティストを神格化させようとする。Versusのような現在進行形のバンドに目を向けず、音楽再生の無い部屋で、アイス・コーヒーを飲みながら「暑いですね」なんて言っているのである。(text by 内田武瑠)

USインディーの歴史を繋ぐミュージシャン

NEW LEAVES / Owen
シカゴのポストロック・シーンの支柱的存在ジョーン・オブ・アーク。その中心であるティムの実弟でありドラマーでもあるマイク・キンセラがその素晴らしい唄声を披露するソロ・ユニット。すでに3度の来日を果たし、日本でも確固たる人気と評価を誇る。3年ぶり5作目となる本作は、前作同様、ネイト・キンセラやブライアン・デックといった巧みなサウンド・デザイナーらの協力のもと、3年間かけてSomaやEngineといったスタジオから母親の家まで様々な場所で断続的に録り貯め続けてきた珠玉の作品集。父親になるという人生における大きなイヴェントもはさみ、益々温かみ、優しさを纏っていくマイクの唄心が十二分に味わえる。まさに円熟を感じさせる10曲。

Fleet Foxes + Sun Giant EP / Fleet Foxes
2006年結成。シアトル出身の5人組。老舗インディペンデント・レーベル、SUB POPに所属。ロビン・ペックノールド(Vo/G)が、高校時代の同級生、スカイラー・シェルセット(G)と共に創作活動を開始。間もなく、残りのメンバーも加入し、現在の編成となる。海外では2008年2月、EP『Sun Giant』でデビュー。同年6月、デビュー・アルバム『Fleet Foxes』をリリース。 バンジョー、マンドリン、ピアノやフルート等、多種多様な楽器を使い、壮大なサウンドと美しいコーラス・ワークで、デビューと共に世界中のメディアから大絶賛を浴び、2008年海外主要メディアの年間チャートの上位を独占した。アルバム・オブ・ザ・イヤー1位獲得7誌。2位獲得2誌。現在、彼らのライヴのチケットは、世界中でソールド・アウトが続いており、賞賛と注目を浴びているバンドである。

Yoi Toy / YOMOYA
日本語ロックのニュー・スタンダードとも言うべき、ゼロ年代型シティ・ポップの名盤。プロデューサー/エンジニアに、OGRE YOU ASSHOLEの出世作『アルファ ベータ vs, ラムダ』やmooolsの名盤『モチーフ返し』を手がけた7e.p.の斉藤耕治と多田聖樹を迎え制作された2ndアルバムは、常にライヴのクライマックスを演出してきた11分強の大曲「雨あがりあと少し」をはじめ、フィッシュマンズにも通じる浮遊感を漂わす「サイレン、再度オンサイド」、オルタナティヴ感とフォーキーメロディーが見事に融合した「Chorus」、そしてJ-POPチャートに登場してもおかしくないほどの訴求力を持った名曲「フィルムとシャッター」、「世界中」などといった充実ぶり。確実にバンドがネクスト・レヴェルに上ったこと、そして大きな舞台に羽ばたくであろうことを確信させる、溢れんばかりの魅力、パワーが宿った8曲+α。

PROFILE

1990年、NYにてリチャード・バルユットを中心に、弟エドワード、紅一点フォンテーン・トゥープスによって結成。プラス/マイナスのジェイムス(バルユット兄弟の末っ子)、パトリックも一時在籍するなどメンバー・チェンジを繰り返しながら、Teenbeat、Caroline、Mergeから5枚のアルバムをリリースし、インディー・ポップのメロディー・センスと、グランジやオルタナのラウドさを併せもつ稀有なバンドとして、スーパーチャンクやヨ・ラ・テンゴらと共にUSインディー・シーンでリスペクトを集め続けるも、01年に活動休止、個々の活動に入る。それから実に10年ぶりに届けられた新作『ON THE ONES AND THREES』は、まさにUSインディーの良心そのものと言うべき傑作に仕上がった。

[レヴュー] VERSUS

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