或る感覚 INTERVIEW
噂のビッグ・マウスがついに登場だ。昨年、10代限定の音楽イヴェント"閃光ライオット"のファイナリストに選出されて注目を浴びたことに始まり、その後もフロントマンのタチバナロンによる歯に衣着せぬ言動、そして人を食ったようなパフォーマンスも手伝って、徐々にその名を広めていた現在二十歳の血気盛んな4人組、或る感覚。満を持してのファースト・アルバム『カウンター』がついに完成だ。
このタイトルからもお察しいただけるように、現状のシーンに盾突こうという気概剥き出し。とにかく彼らは仕掛ける気満々である。今回こうして本人たちと対面してみても、わざわざ言わなくてもよさそうな憎まれ口が出てくる出てくる…。それもすべて、他の同世代と自分たちは違うんだという強い自己顕示であり、この我の強さは近年の若手ロック・バンドには決定的に欠けていたものかもしれない。話の合間で時折見せるナイーヴな側面も含めて、実際にタチバナロンはとてもチャーミングな男だった。さて、ここで重要なのはもちろん、こいつらが本物か、それともただの大ホラ吹き野郎どもか、ということ。その真価は、ぜひ『カウンター』で確かめていただきたい。
インタビュ―&文 : 渡辺裕也
自分のメロディはやっぱり武器になる
--どういうつながりでこの4人は集まったんですか。
タチバナロン(以下、ロン) : 僕とKouが岩手出身で、高校生の時から一緒に軽音部でバンドを組んでいたんです。
Kou : 3年間ずっと同じクラスで(笑)。
ロン : “大人の遊園地”っていう、たぶん当時の高校生バンドのなかでは日本で3番目の指に入るくらいのかっこいいバンドだったんですけど。
--へぇ(笑)。音楽性はどんな感じだったんですか。
ロン : 3ピースの歌モノで、“こじらせたcinema staff”みたいな感じでした。54-71を、どうにかしてナンバーガールみたいな感じに聴かせようとして、まったくそうはならなかったようなバンドというか。で、一時cinema staffに声が似ているとよく言われてたので、自分で勝手にそう名乗っていたんです。それで意気揚々と上京してから、大学のサークルに顔を出して。そこでtoeとクラムボンが好きだと言っていた大野に「だったら弾けんの?」と訊いたら、「弾けないフレーズはないよ」と返されたので、じゃあバンドに入れてあげよう、と。北原もパンテラが好きだと言っていたから、こいつも入れてあげるか、と。
--(笑)。それは単純に趣味が合うってこと?
ロン : そういうわけでもないんですけど。
北原ジャンクション(以下、北原) : 僕は高校のころにちょっとバンドをやっていたくらいなんですけど、その大学のサークルでロンと会って「なんだこいつは!」と思って。風貌から発言から、明らかにこいつは異質だったんです。そこでバンドに誘われて、軽い気持ちで引き受けたんですけど、正直こんなにちゃんとやると思ってなかったから、ちょっとビビっちゃって。
大野 : 俺は高校の時に上手い人が周りにまったくいなかったから、大学で上手そうなやつを探していたんです。そうしたらタチバナがいて。で、話だけを聞いていると、なんかすごそうなことを言ってるから(笑)。実際に “知性のギター”っていう曲のデモをもらって聴いたときは、「これだ」と思いましたね。
Kou : 僕はロンが高校の軽音部に入ってくる前から、先輩と一緒にバンドをやっていたので最初にロンと始めたころは、音楽性が合わなくてなかなか楽しめなかったんですけど、自分としては、当時からベース一本でプロになろうっていう気持ちが強かったんです。

--北原君を除けば、みんなプロ志向が強かったんですね。
ロン : 間違いなく自分はひっかかりの強い音楽を作っているとずっと思っていました。特にメロディはそう。どの音楽を聴くときも「自分ならこんなメロディにするのに」と思いながら聴くようにしていて。それこそ今ってナンバーガールのフォロワーがいくらでもいて、もはやそれがひとつのジャンルみたいじゃないですか。そのなかでも頭ひとつ抜けたものが作れているっていう自信がありました。
--自分もナンバーガール・フォロワーであると自覚しているんですか。
ロン : 自覚していたし、そのフォロワーのなかでも、自分は最も大衆受けするメロディを書いているんじゃないかっていう、漠然とした気持ちが高校の時はずっとあって。
--その気持ちは上京後も揺るがなかった?
ロン : それが、うまいバンドがたくさんいてびっくりしましたね(笑)。音楽性はともかく、演奏のテクニック的なところで、けっこう衝撃を受けました。曲についても、自分と同じようなことを考えている人はけっこういたし、それでも売れていないバンドがいくらでもいるということにまず直面して。同時に、自分のメロディはやっぱり武器になるとも感じたから、そこの意識はより強くなりました。あと、大野のギターは初めてスタジオに入った時からものすごかった。こいつよりかっこいいフレーズを弾けるやつはいないと思いましたね。
大野 : 俺はバンドアパートからの影響がでかくて。そこから、だれも思い浮かばないようなものを弾いてやろうという気持ちがどんどん強くなっていったんです。同時に聴きやすいものでありたいというのが、ロンと共感したところで。
クソみたいな曲を書いているやつらが嫌いなんです
--現在みなさんは二十歳とのことですが、同世代と切磋琢磨している感覚はありますか。
ロン : 僕らの世代には、大人の力を借りて成り上がった実力のないバンドと、実力のあるバンド。逆に実力はあるけど、大人の目につかなくて人気が出ないバンドがそれぞれいて。で、俺はそうやって目をかけてもらいながらクソみたいな曲を書いているやつらが嫌いなんです。
--その実力あるなしの違いって、具体的にはどんなところに表れているのかな。
ロン : 衝撃的なライヴをするバンドって、なにがそんなにすごいのかを考えていくと、やっぱりパンク的な解釈とか、精神的な部分で優れている人達なんですよね。それは上京して思うようになったんです。たとえばイースタン・ユースなんかがそう。俺はナンバーガール・フォロワーだけど、人間の内面がかぶることってないはずで。つまりどんな人間にもオリジナリティは確実にある。人格をさらけ出すことができれば、だれともかぶらないものが作れるはずだと思って。
--そのオリジナリティの話は、このバンド名ともつながるもの?
ロン : メンバーそれぞれが最初に聴き始めた音楽に、アジアン・カンフー・ジェネレーションっていう共通項があって。うちらくらいの世代からすると、アジカンってわざわざ会話に出すまでもなく、けっこう誰にとっても重要なバンドで。で、アジカンの“或る街の群青”っていう曲から「或る」を拝借したんです。ただ、そのあとに付けた「感覚」は、正直いまは納得してない(笑)。
北原 : 失敗だね(苦笑)。
--そうなの?
ロン : こいつ(北原)が言ったんですよ。最初は、なかなかセンシティヴな感じでいいかなと思っちゃったんですけど、今にして思えば中二病剥き出し(笑)。若気が至りすぎて、正直名乗るのが恥ずかしい(笑)。
--そこまで変な名前かなぁ。
ロン : 高校生のころに好きだった子が、ずっと「感覚だけで生きていたい」と言ってて。その子の話が頭にあるときに、こいつが「感覚ってどう?」みたいなことを言ったもんだから、つい「やべえ、このドラマー当たりだわ!」と思っちゃって(笑)。

--(笑)。或る感覚が初めに大きく注目されたのが、去年の<閃光ライオット>ですよね。同世代のバンドが競い合うあのイヴェントには、どんな意識で臨んでいたんですか。
ロン : その頃からいろんなレーベルの人たちがちょいちょいライヴを見に来てくれていたんですけど、そこで新人発掘の人から「閃光ライオット出たらいいじゃん」と言われて。俺は出ることをためらっていたんです。でも、どうせ出るなら本気で盾突いてやろうと思って、“知性のギター”という、高校生を相手にするにはまったく聴きやすくない曲で受けてみることにして。これでもし決勝まで行くようなことがあれば、あとは優勝だろうと思ってた。結果は… まあ、実質上は俺らだったと思います。
--一番かっこよかったのは自分らだと。
ロン : それは絶対にそう。完全にぶち壊してやろうと思って、それこそ54-71のビンゴさんみたいに上下ジャージで出たんです。みんな、ラヴ・ソングとか平気で歌うじゃないですか。「なんでこんなに“愛している”なんて言葉を恥ずかしげもなく言えるんだろう」と思ってたから、そこで自分も全力で「アイ・ラヴ・ユー」とシャウトしてみたらどうかと思って、その曲をやったんです。
--リアクションはどうだったんですか。
ロン : 2ちゃんで叩かれまくった(笑)。すごかったよね?反吐が出るって(笑)。
--良し悪し含めて反応があったと。そこは本人からすると、してやったりだったのかな。
ロン : でも、あの時は異常に汗をかいてたからな(笑)。「死ね!」くらい言えばよかったんですけど、やっぱり自分も一九歳だったので、微妙にビビってましたね(笑)。最後に「ありがとう」って言っちゃってましたから(笑)。
--ちょっと弱気になったんだ(笑)。
ロン : で、さっきから自分でナンバーガール・フォロワーだと言っちゃってますけど、そのフォロワーのなかでも飛び抜けた存在のハヌマーンというバンドがいて。だから、今度はハヌマーンを潰そうと思って。
--また強気だねぇ。
ロン : それで、そのハヌマーンの “比喩で濁る水槽”っていう曲をパロって、さらに原曲よりかっこよくした“重槽の底で泳ぐ魚”っていう曲を書いたんです。そうしたらすぐ「パクリだ」と言われ始めて。
--そりゃそうだろう(笑)。
ロン : ホントに叩かれまくったんです。でも、それで興味を持ってくれた人もけっこういて、ハヌマーンのファンも俺達のライヴを見に来てくれてたんですよ。で、実際にその曲を聴いてもらえれば、誰が聴いてもハヌマーンの原曲を改良してあるってわかると思うんです。だって、足りないところを足したんだから。
--その「潰す」っていうのはどういう意味なのかな。
ロン : 実は、今となってはハヌマーンのヴォーカルの方(山田亮一)とは仲が良くて。というか、話してみたら、なんか俺とそっくりなんですよ。完全に同じ思想でバンドをやってる。つまり、彼にとってのナンバーガールが、俺にとってのハヌマーンだったというか。
--ああ、「潰す」っていうのは、親殺し的な意味合いなんだね。
ロン : そういう感じです。「越えてやる」っていうことですね。で、ハヌマーンのヴォーカルが今やっている、バズマザーズっていうバンドが、6月9日に初めて東京でライヴをやったんですけど、その対バンが、パクりバンドの或る感覚で(笑)。しかもその時の俺たちは絶好調で、どうも見え方として、「パクリがハヌマーンに勝った」みたいな感じになったらしく、2ちゃんのスレが盛り上がっちゃって。

--(笑)。よく自分もチェックしてるねぇ。
ロン : いや、違うんですよ!「或る感覚」で検索すると、2ちゃんがすぐヒットしちゃうんですよ(笑)。それでどうしても目についちゃう。でも、似ているのはさっきのその曲だけで、他は全然違うっていうのもそこからうまく伝わったから。話したら本人とも打ち解けちゃったし(笑)。「アンチだったけどファンになりました」って言ってくれる人もたくさんいて、結果的にはよかった(笑)。
--それはロン君からすると狙い通り?
ロン : いや、自分としてはうまくオマージュしたつもりだったから、あんなに叩かれると思ってなかった(笑)。「これが炎上マーケティングってやつなのかぁ!」と思いながら、毎日具合が悪くなってました(笑)。今となっては、「こいつらクソだ」とか言われてもまったく気にしないんですけど、その当時は言われるたびに毎回凹んでましたね。「なんでこれがわかんねーんだよ!」って。でも、それを自分から説明するのもダサいし。アンチも多くなったけど、その分ライヴの動員も増えたから、そこで相殺できたかなって。
--その当時の状況を3人はどう受け止めていたんですか。
北原 : 面白かった(笑)。叩かれているときのロンは悲壮感がすごかったけど(笑)。
ロン : それはやっぱりありましたよ。自分としては圧倒的にキャッチーでポップなものを出したつもりだし、それこそ、細かすぎて伝わらないモノマネをしたつもりはないから。それでも意外とうまく伝わらないっていうことはその件でよくわかった。俺もそのさじ加減がわからなかったし。
--そのハヌマーンの件にしても、<閃光ライオット>にしても、けっこう狙いを定めた曲で勝負してきたみたいだけど、今回のアルバムではどんなことを考えましたか。
ロン : 今回は歌詞をかなりちゃんと書いてて。さっきも話したけど、歌詞ってどこまで人間性が表せるかだから。そこで僕は、間違った日本語を使いたかった。というのも、明らかに言葉として間違っているフレーズが、気持ち悪くて耳から離れなくなるっていう経験が過去にあって。そういうものを自分でも書きたかった。とにかく、聴き流されるようなものにはしたくなかったから。思わず歌詞カードを確認したくなるような言葉が、このアルバムからはどんどん出てくるはずです。
--サウンドについては?
ロン : まず “知性のギター”とは違ったイメージを打ち出したかった。今やりたいことは、あの時とはまた別なので。あと、店舗限定で出した『CITY STYLE ALTERNATIVE』が、4曲ともかなり攻撃的でシングルっぽいやつだったから、今回はあえて曲調に統一感をなくして、ぜんぶ違う感じにしたかった。もっといろんな音楽がつくれるっていうところを見せたくて。俺たちの嫌いなバンドって、ふり幅が狭くてやれることも限られているのに、日の目を浴びているやつらがけっこういるから、そういうやつらとは違うよ、と。そういう意味で『カウンター』っていうタイトルにしたんです。
--現状ではその同世代にまだリードされているってことだよね?
ロン : でも、そういう近い世代のバンドで、先にとんとん拍子で進んだやつらには、これですぐに追いつけると思う。それに、俺たちのライヴをいろんなところで見たいと言ってくれているファンが今はいるから。“ヒーロー”っていう曲は、その人たちのために書いた曲です。自分でもクサい曲だと思うんですけど、それこそハヌマーンのときみたいに伝わらなかったりしたら、いやだから。これはもう「聴けばどんな曲かわかるだろ」っていう感じで。
とにかく自分の人間性を隠さずにどんどん出していきたい
--自分たちを好いてくれる人が増えたことは、バンドのモチヴェーションに大きく作用した?
ロン : やっぱかっこよくなきゃいけないなと思って。だから、いま気にしているのは体型(笑)。結成当時から比べるとかなり体重が増えてて。俺、太ったよね?
大野 : それでもけっこう戻ったけどな(笑)。
ロン : まあ、人間性を崩さない程度にはかっこよくいたいと自分でも思うから。パンクがどうこう言っといて、腹が出てたら説得力ねえよなって。それに、僕も葛藤はあるんですよ。自分が凡人に思える部分もあるし、逆に普通の人より面白いと思っているところもある。そこでどこまで出しゃばれるかは、二十歳の段階ではまだよく掴めていなくて。歌詞にしても、いまの段階で最高のものなんて書けないのはわかっている。二十歳で書いたものより、27歳の時に書いたものの方がいいに決まってるし、それ以上に30歳で書いた歌詞の方で絶対によくなってるはずで。
--年齢を重ねるごとにクオリティは確実に上がるはずだと。
ロン : だって、今もまだ自分は中二病なんで(笑)。俺は“暗い穴ボコ目”っていう言葉を何回も歌詞で使っちゃうんです。つまり“レイプ目”のこと。俺、家にいるときはずっとそんな目なんですよ。それがホントに恥ずかしくて。それも経験を重ねれば、もっと違った書き方ができるようになっているはずだから。

--3人はどうですか。
大野 : 今回はまったく練ってないんです。今回はただ出てくるものを弾いた。そこにどんな反応が返ってくるのかは楽しみですね。自信はあるので。
Kou : 演奏に関しては自信があります。EPでは見せられなかった多様性が出せたと思うし、このバンドの可能性も改めて感じられました。
--北原君は、最初はバンドに気おくれしていたと言ってたけど、今はどうですか。
北原 : 正直に言うと、俺は<閃光ライオット>のときには、もう辞めようと思ってたんです。その頃はバンドの雰囲気も最悪だったので。
ロン : あぁ、そうだった。実はその時点で解散を決めてたんだよね(笑)。
--そうだったんだ!
北原 : <閃光ライオット>が終わったあとの企画で最後の予定だったんです。バンドもピリピリしてたし、俺は早く終わらせたかったですけど、なぜかその<閃光ライオット>で、めちゃくちゃいいライヴができちゃって。終わったあと、バンド内の雰囲気もちょっとほっこりした感じになってて(笑)。そこで改めてメンバーと真剣に話し合って、EPのリリース前に決起集会を開いたんです。その時点で俺はこのバンドに骨を埋めようと思ってました。
--<閃光ライオット>の手ごたえは相当だったんだね。
ロン : だって、そんときの俺、クソかっこよかったもんね。
北原 : そうそう(笑)。なんかみんなよくて。そこから俺は一気にバンドが楽しくなったんですけど、実はそのあともひと悶着あって(笑)。
大野 : (笑)。またタチバナが天狗になってたんですよ(笑)。
ロン : すっかり王様みたいになってたね(笑)。
大野 : 曲のフレーズもすべて自分がつくるとか言い出して。それで俺とKouはやさぐれて。
Kou : それで俺も一度は脱退を決めて(笑)。
--(笑)。今のバンドのコンディションはどうですか。
大野 : いいですよ。まさにこのアルバムは最高にコンディションで録れたと思います。
--このバンドで同世代を出し抜いたら、そこからはどうするつもりですか。
ロン : 俺はいろんなところに噛みつくし、それが恥ずかしいことだとはまったく思ってないんだけど、時によっては意味のない糾弾をしているっていうことは、自分でも薄々気づき始めてて(笑)。そこで損している部分もあるんですよね。だからこそ、とにかく自分の人間性を隠さずにどんどん出していきたい。それって意外とみんなやれてないから。特に同世代のバンドはそう。そいつらより俺らの方がずっと生々しいことをやっているはずだから。