期待のシンガーMAYA、ついにOTOTOYに現る!
まずは彼女の声に耳を傾けるところから始めてみてはいかがだろうか。詳しくは以下に掲載した本人の発言に譲るとして、このMAYAというアーティスト、ジャズ・シンガーとしての経歴も異色なら、その人となりからも実に濃厚なものを感じさせるのだ。この度リリースされる彼女の新作『Bluesy MAYA in Hi-Fi』もまた、そのタイトルの通りのブルースをテーマにして、彼女の内に秘めたキャラクターのひとつを少しずつ炙り出していくような生々しさを持った作品だ。ジャズという世界にどことなくアカデミックなイメージを抱いている方にこそ、ぜひ彼女のうたに触れていただきたい。
インタビュー&文 : 渡辺裕也
MAYA / Bluesy Maya in Hi-Fi
JAZZを基本にジャンル、言語スタイルにとらわれないオリジナリティーあふれる世界観が各方面で高く評価されているヴォーカリスト、MAYAの新作。女性の複雑な内面性をテーマに、ブルージーな曲を主体にノリのよいニューオリンズ・サウンドまでを収録した内容。オーディオ・プロデュースを評論家の林正儀氏が担当。収録は定評のあるランドマーク・スタジオで行なわれ、佐藤エンジニアよる厳密なマイク・アレンジはもとより、さらに鮮度感を追求すべくクリプトンの最新機材を導入。演奏の空気感やボーカルの息使いまで余すところなく収録した、寺島レコードの中でも一段と磨きをかけた珠玉の一枚。
アーティストのMAYAとしてならば、私はどんなことでもできる
――まだミュージシャンとして活動する前のMAYAさんはどんな音楽に興味を持っていたのでしょう。
幼い頃の話まで戻ると、元々私はいわゆるJポップとか歌謡曲の歌手になりたかったんです。ジャズはまったく考えていませんでした。
――憧れていた歌手がいたのでしょうか。
桑田佳祐さんですね。そこはもしかするとパーソナルな部分が大きいかもしれません。彼の繊細なようでいて大胆なところが魅力的でしたね。きわどいことを歌っているようで、そこから見える繊細さが普通の歌手とはレベルが違うと思っていて。バカを装っている時も、そのさじ加減の上手さが並外れている人だと思います。もちろん音楽的にも素晴らしい。人の心の隙間に入っていけるような曲を書ける人ですよね。本当にすごい才能だと思います。
――そういう作り手の人間的な部分も含めた音楽とのふれあい方は、今でも変わりませんか。
どうだろう。というのも、私はあまり人が好きではないので(笑)。私は自分のことを一言で語れないんですよね。つまり、自分はちょっと話せば「MAYAってこういう人なんだね」とわかってもらえるようなタイプではないと思うんです。それなのに、人と深いつながりを求めすぎちゃっているから、ぱっとすぐ人と仲良くなったりできないんです。だから、人と接するとすごく疲れちゃうんですよね(笑)。ちゃんと自分を理解してもらうためには深いところまでいかないとだめだと思う反面、それだとひとりの人と接する度にすごい労力と時間を費やさなければいけなくなる。かといってうわべだけの付き合いはいやだし、だったらあんまり多くの人と話さなくてもいいやと思っちゃって(笑)
――自分の内面的な部分を他人に理解されたいという気持ちがとても強いんですね。
そうなんだけど、果たして私のような人間が誰にでも理解してもらえるものなのかと思ってしまうところもあって。そういう意味ではひとりが好きなんですよね。そのなかで唯一私を万人にアピールできる場がMAYAなんです。いま話していたのはあくまでも素の私のこと。
――そこは明確に区分けしていると。
自分の本名はある時から捨てました。アーティストのMAYAとしてならば、私はどんなことでもできるんです。ステージでいろんな顔を見せているし、たくさんの人と接している私は、あくまでも演じているMAYAの姿だから、なんでもできるんです。これまで出したアルバムのジャケットを見てもらえればわかると思うんですけど、ぜんぶ表情が違うんです。それも演じている部分のひとつであって、その時々のモードが表れているんです。「今回はこういう女を演じて、こういう声で歌おう」って。これまでずっとそういう感覚でMAYAとしてやってきました。
――では、元々ポップスの歌手に憧れていたところから、ジャズ・シンガーとして活動するに至った経緯を教えていただけますか。
アルバイトを探すために母親と情報誌を見ていたら、生演奏をやっているお店のウェイトレスさんを募集していて。その店の面接に受かった時に、水森亜土という有名な画家でジャズ・シンガーでもある方が、ちょうどお店の生演奏にゲスト・ヴォーカルとして来ていて。ウェイトレスをやっていた私に「発するオーラからしてあなたはジャズやラテンを歌う人に向いている」と声をかけてくださったんです。その時の私はもちろん歌ったこともなかったし、ジャズもなにも知らなかったんですけど、次の月にまた水森さんが歌いに来て、また「本当に目指した方がいいよ」と真剣に声をかけてくださって。それで初めて私もジャズを意識するようになって。ちょうどその時はお店のオーナーさんがハウス・シンガーを探していて、看板として歌ってみないかと誘われていたところでもあったんです。さらに水森さんは「もしプロをちゃんと目指すなら、歌手として育つようにちゃんとした人を紹介するよ」と言ってくださって、それでドラマーの松尾明さんを紹介してくれました。でも当時の私はレパートリーもゼロの状態だったので、松尾さんに出直してこいと言われて。それから50曲くらい覚えてもう一度挨拶しに行って、そこでようやく興味を抱いて頂いて。そこでようやく始まったという感じですね。
――水森亜土さんがすべてのきっかけを作ってくれたと。
そうですね。私は音楽学校に通ったこともないし、ヴォイス・トレーニングすらやったことがなかったから、歌い方もリズムの出し方も、ピアニストとの会話の仕方も、すべてステージに立って緊張しながら覚えていったんです。
――今振り返って、水森さんはMAYAさんのどういうところを見定めて声をかけてくださったのだと思いますか。
パッションかな。私はパッション=生き方だと思っていて。その当時の私はまだ10代でしたけど、それでも同世代の子より自分は大人びていたと思うんです。というのも、それだけの苦労を私はしてきたから。あえて細かくは話しませんが、普通の人にはできない生き方を私は10代後半で味わっているんです。それを水森さんに見抜いていただけたのかなと思います。
――先ほど「MAYAを演じている」とおっしゃっていましたよね。MAYAさんにとって歌うということはパーソナルな表現とはまた別のものなのでしょうか。
演じているというのは、同時にその時の気分や感情を表現してもいるんです。歌には詞がありますよね。それは自分が心に思い描いているものと違う内容のものも多々あって。たとえば心のなかでドロドロしたものを抱えながら、とても明るいうたを歌うときもあるんです。それってうたの意味合いや重みも変わってきますよね。それなんです。モロに直球で「私はこんな思いを抱えているの」と歌うのではなく、オブラートに包んで遊びながら歌う。もちろん時には思いっきり直球な時もあります。それこそ地を這うようなアングラなものだったり、娼婦のうたも歌う。だけどそればかりだと重くなっちゃうから、明るく踊れるようなものも歌います。でも内包された重みはぬぐい去れないものがあるし、それは聞き手が感じ取る部分ですから。
男と女の性(さが)
――では、そんなMAYAさんにとって最初に強いインパクトを与えたジャズ・シンガーを教えていただけますか。
ビバリー・ケニーという白人のシンガーですね。その人は「ジャズをこんな風に歌ってしまうんだ!」という新しいインパクトを私に与えてくれた人です。ルックスも声質もすごくキュートで。いわゆるジャズって、本格的で実力派の人が演奏する大人の世界のものだと思っていたんですけど、彼女のうたはちょっと聴いた感じだとポップスに思えるくらいの軽さを持ったものなんです。でも聴いているうちにそこにもちゃんと彼女の生き方が表れていることがわかってきて。ジャズにもこういう表現があるんだと思いました。自分なりの表現でジャズをやっていいんだって。
――たしかにジャズという音楽には、ある程度のスキルと素養が求められるのは事実だと思います。実際にジャズ・ミュージシャンのほとんどは学校で学んだ人で、MAYAさんのように独学でジャズに取り組んだ方はかなり稀な存在ですよね。そんなMAYAさんから見て、ジャズの世界はまずどのように映っていたのでしょうか。
とても自分の性格と似ている世界だなと思いました。つまり、はしゃがないということ。作り笑顔をしなくてもいいということですね。もちろん私はいろんな方から生意気なやつとして見られました。学校を出てもプロとしてやっていけない人がいることを考えれば、ある意味恵まれていた私がそう思われるのは当然ですよね。いやなことはもちろんたくさんありました。でも、ここははっきりと言えることなんですけど、それまでに自分がしてきた苦労を考えると、ぜんぜんへっちゃらでしたね。苦労でもなんでもなかったし、とにかく私は自分の個性や歌の力、アイデアを磨きながら、セルフ・プロデュースしていく力を養っていったんです。
――MAYAさんは作品毎に別のテーマを選んでいますよね。それはいつもどういう基準でチョイスされているのですか。
大きく言うと、わたしの表現はすべて、男と女の性(さが)がポイントになっていると思います。女性は男性の前でいろんなモードを見せますよね。甘えてみたり、すねてみたりね。それを作品の中で表現していくんです。今回の『Bluesy MAYA in Hi-Fi』という作品もそう。けだるいムードの中で女性は男性にどういう目線を送って、どういう言葉を投げかけるか。ということを表現してる。私は、これまで自分と接してきた男の人が私に投げかけてきた言葉や態度を思い出しながらいつも歌っているんです。つまり、わたしの作品はすべて実体験が基になっているということ。ステージで歌う時もそうですね。
――ここまでのお話を聞いていると、今回のタイトルにもなっている「ブルース」というテーマは、まさに満を持して形にしたものなんじゃないかなと思いました。
そうですね。これまでジャズをやりながらも、ボサノヴァの要素を入れてみたり、キューバ・ラテンの哀愁を取り入れたり、時にはJポップを歌ってみたりして、尚且つそれを数カ国語を使って歌ってきて。そして今度はブルース。こう言うといろんなことをやっているようですけど、実はすべて一貫しているんです。さっきもお伝えしたように、はしゃがない色気と哀愁という、自分がジャズと接して初めて感じたものを私はずっと表現している。それが今回はブルースになったというだけで。
――MAYAさんにはジャズの他に、ラテンという音楽も大きなものとしてありますね。このふたつはMAYAさんのなかでどのように共存しているのでしょう。
ジャズはおしゃれ着を着ているようなイメージですね。そしてラテンはそのままの自分。わたしはそのふたつが好きだし、それをミックスさせたのが自分だと感じています。だから、ジャズとラテンでMAYAなんです。
――同時にMAYAさんはいくつもの言語を用いて歌っています。
ひとつの言葉だけだと自分の感情が収まりきらないんですよ。たとえば自分が与えたいと思っているインパクトがあるのに、英語の発音だけでは物足りなく感じてしまうことがあって。もっと破裂音がほしかったり、それに伴う空気感を求めたりしていくうちに、いろんな言語を覚えていって、いつの間に10ヶ国語くらいを使うようになっていました。そこに関しては満足していますね(笑)。
――こうやって作品に触れて、お話も聞かせていただいて、すごくアーティストとしての自信を感じたのですが。
自信は常にないですよ(笑)。特にうたに関してはないです。
――そうなんですか? じゃあ、今のMAYAさんがシンガーとして足りないと感じているものがあれば教えてください。
難しい質問ですね・・・。シンガーとして足りないと感じている部分は、私個人にとって足りないものでもあるし。
――なぜこういうことを聞いたかというと、MAYAさんが表現者として次にどういうステップを踏もうとしているかが知りたかったからなんです。
なるほど。そうですね・・・・・・ 私を理解し愛してくれるようなパートナーかな(笑)。そういうパートナーを見つけた時の喜びや安心感がはっきりと声にも出るだろうし、そうすればまた違う表現になるだろうなって(笑)。いままでの私はひとりが好きで、強い女のイメージを出したかったから、メイクも真っ黒なシャドウと上下にアイラインをして、男性が話しかけにくいような印象を与えていたんです。でも最近はそれをガラリと容姿を変えて、体重も5キロくらい落として。というのは、それによって私は男性からどう見られるかを知りたかったんです。そんな中で出会う人ってどんな人だろうって。そこでもし愛する人が目の前に現れたら、きっと違う自分がまた生まれると思う。でも、自分の方向性なんて無限にあるし、生きている間に自分を使い果たしたいから、先のことなんてなにも決めていませんね。何が起ころうとすべて受けて立つ。私はそういう感じです。
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LIVE SCHEDULE
2012年4月26日(木)@吉祥寺 MEG
2012年4月28日(土)@横浜 よいどれ伯爵
2012年5月3日(木)@横浜 BarBarBar
2012年5月12日(土)@平塚市西部福祉会館ホール
2012年5月23日(水)@吉祥寺 MEG
2012年5月26日(土)@鴨川 風雲
Bluesy MAYA In Hi-Fi 発売記念ツアー
2012年6月9日(土)@茅ヶ崎 HUSKY'S GALLERY
2012年6月13日(水)@大阪 Mister Kelly's
2012年6月14日(木)@名古屋 Swing
2012年6月15日(金)@静岡 LIFE TIME
2012年6月20日(水)@長野 GROOVY
2012年6月21日(木)@甲府 JAZZ IN ALONE
2012年6月23日(土)@鎌倉 JAZZ CLUB DAPHNE
MAYA PROFILE
JAZZを基本にジャンル、言語(スペイン語、ポルトガル語、日本語、英語、中国語、イタリア語、フランス語、ロシア語)、スタイルにとらわれないオリジナリティーあふれる世界観が各方面で高く評価されている。2000年『Why Try to Change Me Now?』、2002年『She's Something』とインディーズ・レーベルより2枚のアルバムをリリース。満を持してコロムビア・ミュージック・エンタテイメントより、2004年、アルバム『Maya』でメジャー・デビュー。同作にてSwingJournal選定「ゴールドディスク」受賞。翌2005年には、BEST盤を含めた5thアルバム『Love Potion No.9』にて、第39回スイングジャーナル選定・ジャズ・ディスク大賞・ボーカル賞(国内部門)受賞。2006年11月に6thアルバム『 Kiss of Fire 』をリリース。2008年には、ジャズ評論家・寺島靖国の主催する「寺島レコード」に移籍。『MAYA+JAZZ』をリリース。ふたたびSwingJournal選定「ゴールドディスク」受賞。間を置かず、自身初となるクリスマス・アルバム『Have Yourself Merry Little Christmas』をリリース。2009年は、5月にラテンを特集したフル・アルバム『マルチニークの女〜FANM MATINIK DOU〜』をリリース。続いて、11月に、横浜のライブハウスBarBarBarのプロデュースによる『Once Upon A Time』がリリースされた。2010年は9月には、再びラテン・アルバム『YOU BELONG TO ME』リリースされた。進化を続けるMAYAは日本JAZZボーカル界において最も期待、注目を集めるアーティストである。