2021/08/04 17:00

高橋健太郎x山本浩司 対談連載

『音の良いロック名盤はコレだ!』 : 第2回

お題 : ジャクソン・ブラウン『Late For The Sky』 (1974年リリース)

オーディオ評論家、山本浩司と、音楽評論家でサウンド・エンジニア、そしてOTOTOYプロデューサーでもある高橋健太郎の対談連載、第2回。本連載では、音楽、そしてオーディオ機器にもディープに精通するふたりが、ハイレゾ(一部ロスレス)+デジタル・オーディオ環境を通して、改めて“音の良さ”をキーワードにロックの名盤を掘り下げてみようというコーナーです。

毎回1枚の作品をメイン・テーマに、そのアーティストの他の作品、当時作品がレコーディングされたスタジオや制作したエンジニア繋がりの作品などなど、1枚のアルバムから派生するさまざまなな作品を紹介していきます。第2回はジャクソン・ブラウンのサード・アルバム、1974年にリリースした『Late For The Sky』をフィーチャー。

今回も最新のオーディオ機器にてテスト・リスニングしつつの音楽談義。今回は独自技術の円錐体型筐体でおなじみのECLIPSEのスピーカー、TD307MK3と同社のサブウーファー、TD316SW MK2をセットにて再生しました。

ジャクソン・ブラウンと名匠、アル・シュミット

今回、進行用にふたりが用意したプレイリストはコチラ、ぜひ聴きながらお読みください

高橋健太郎(以下、高橋) : 「音の良いロック名盤」の第2回ですけれど、今回は山本さんからの提案もあって、あっさりとジャクソン・ブラウン『Late For The Sky』に決定しました。というのも、この作品のミックス・エンジニア、共同プロデューサーでもあるアル・シュミットが今年4月に亡くなったんです。アル・シュミットは名エンジニア、というより20世紀のレコーディング文化の基礎を作ったひとりです。

山本浩司(以下、山本) : 前回のニール・ヤング『Harvest』も今年亡くなったエンジニアのエリオット・メイザーの話になりました。今回はジャクソン・ブラウンから、アル・シュミット絡みの作品に話が展開できればおもしろいかなと。ジャクソン・ブラウンの『Late For The Sky』は1974年の発売。その前年の『For Everyman』もアル・シュミットが録音とミックスを手がけています。1975年には『The Pretender』、さらに1977年に『Running On Empty』を出していて、このあたりの4枚は僕もすごく好きで学生時代からよく聴いていました。『The Pretender』と『Running On Empty』になるとアル・シュミットの手を離れて、1980年の『Hold Out』で音が明らかに変わってしまう。システマチックな音というか商業主義的な音にね。『For Everyman』から『Running On Empty』までの4枚は、楽曲はもちろん、サウンドもオーガニックでナチュラル、1970年代特有の「ロックの輝き」があるように思います。

高橋 : ジャクソン・ブラウンは、1970年代を通して1年に1作くらいアルバムを出していたんですね。でも、1枚ごとに結構性格が違っていて。もともと彼はアコースティック・ギターで弾き語りをするタイプのシンガー・ソング・ライターでした。周囲にはイーグルスがいたり、バンド的な音楽をやっている人たちとも交流がありました。しかし、デビュー・アルバムを出した時、その中から一番ヒットしたのは“Doctor My Eyes”という、ギタリストのジェシ・エド・デイヴィスがソロを弾きまくるロックっぽい曲だったんですよ。そのヒットが大きくて、セカンド・アルバムの『For Everyman』からはバンドっぽい方向に進んでいきます。そこでギタリストのデヴィッド・リンドレーが加わるんですよね。今回プレイリストにも『For Everyman』から“These Days”という曲を入れましたが。

ジャクソン・ブラウンとアル・シュミットの初のタッグとなったセカンド

山本 : この曲のリンドレーのギター・ソロは素晴らしいですね。

高橋 : ギター・ソロというより、ジャクソン・ブラウンとのデュエットみたいな感覚で進んでいきますね。この曲でのリンドレーとのコンビネーションがあまりにも良かったんで、『Late For The Sky』ではつねにリンドレーが隣にいるような形になったんだと思います。

山本 : 『Late For The Sky』のレコーディングはアルバム1枚通して5人の固定メンバーですね。リンドレーのギター、ダグ・ヘイウッドのベースとヴォーカル、ラリー・ザックのドラム、ジャイ・ワインディングのピアノ。

高橋 : そうなんですよね、『For Everyman』と『Late For The Sky』は音楽の基本線は近いんですけれど、『For Everyman』の時は1曲ごとにドラマーが違って。ジム・ケルトナー だったりゲイリー・マラバーだったり、色んな人が叩いている。“These Days”のピアノはTOTOのデヴィッド・ペイチだし。『For Everyman』はロサンゼルスの有名なスタジオ・ミュージシャンが集めて作った感じでした。対して『Late For The Sky』はすごくバンド的な作りですね。

山本 : 立体感のあるバンド・サウンドが楽しめるアルバムです。今回、OTOTOYで配信されているダグ・サックスがリマスターした24bit / 192kHzのハイレゾ・ファイルを改めて聴いてみたんですが、これはめちゃくちゃ音がいいですね。1993年に発売されたスティーヴ・ホフマン・リマスタリングのDCC Compact Classics版CDの音がいいと思ってずっと聴いてきたんですが、断然このハイレゾの方がよかった。ワイドレンジでナチュラルなサウンド。ハイレゾならではのスケール感があると思いました。

高橋 : 僕も発売当時すでに『For Everyman』よりも『Late For The Sky』の方が音が良いと感じていたんですよね。『For Everyman』の方が上手なスタジオ・ミュージシャンが集まっているから洗練された演奏ではあるんだけど、全体の空気感みたいなものは『Late For The Sky』の方が魅力的なんですよ。スタジオの中にいるメンバーの雰囲気が封じ込められている作品という感じ。

山本 : なるほど。ジャクソン・ブラウンは洗練された音を狙って『For Everyman』で、アル・シュミットをエンジニアとして起用したんでしょうけど、このアルバムのクレジットではアルは共同プロデューサーですね。さらにサウンド面でアル・シュミットに深く関わってもらおうと、そういうことだったんですかね。

高橋 : アル・シュミットってもともとはエンジニア出身ですけれど、一時期はエンジニアをやってないんですよね。プロデューサーとして仕事をしていて。でも、1970年代半ばにトミー・リピューマに「俺のプロデュース作品のエンジニアをやってくれ」と言われて、リピューマとのコンビで仕事するようになるんです。『Late For The Sky』の頃までは、どっちかというとプロデューサーで、レコーディング・エンジニアは人に任すことが多かった。『Late For The Sky』も、アル・シュミットは録音エンジニアはやっていないと思います。

山本 : だからクレジットにはミックスと共同プロデュースと表記されているんですね。

高橋 : レコーディングは3箇所で行っていて、サンセット・サウンドと、その近くにあるハリウッド・サウンドと、エレクトラ・サウンド。このへんのハリウッドのスタジオで、空いていたところを使ってレコーディングした感じだと思います。それぞれの詳細なレコーディング場所はクレジットからはわからない。

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