2016/03/15 15:20

「交易」の間で作られる最新の「伝統」──OKI DUB AINU BAND新作配信

トンコリ(サハリン・アイヌの伝統的な弦楽器)奏者、OKIを中心に、同じくトンコリ奏者の居壁太、そしてTHEATRE BROOKやその他のプロジェクトで活躍のドラマーの沼澤尚、ベーシスト、中條卓という鉄壁のリズム隊。さらにはLittle Tempo周辺からキーボディスト、HAKASE-SUNに、エンジニアの内田直之が参加のOKI DUB AINU BAND。ついに5年ぶりの新作『UTARHYTHM』をリリースする。5年のブランクの後にリリースされた新作でも、アイヌの伝統音楽を媒介にロック、ダブやファンクなどが溶け込んだ、というよりも内側からにじみ出るかのような、かのバンドの音としか言い表せない、大らかで力強いグルーヴがうねっている。

OTOTOYでは本作を1週間先行配信。そして、本作の紹介とともに、5年もの長い月日の間、新作がリリースされなかった理由などインタヴューで訊いた。


OKI DUB AINU BAND / UTARHYTHM
【Track List】
01. UTARHYTHM
02. CITY OF ALEPPO
03. HEKURI SARARI
04. ARAHUY
05. ‘ANKISMA KAA KA
06. UTARI OPUNPAREWA
07. KENKEYO
08. SUMA MUKAR
09. WENKO ROCK
10. KAMUY SINTA
12. RERA TASA BOO
13. NT SPECIAL

【配信形態】
16bit/44.1kHz(WAV / FLAC / ALAC)

【配信価格】
アルバム 2,570円(税込)

INTERVIEW : OKI

カラフト・アイヌの伝統弦楽器“トンコリ”を操る北の鬼才、OKI。彼が率いるOKI DUB AINU BANDが、5年ぶりのニュー・アルバム『UTARHYTHM(ウタリズム)』を発表する。 UTARI(ウタリ)とは「同族」「仲間」「同胞」を意味するアイヌ語。アイヌ音楽とレゲエ/ダブが融合する唯一無二の音世界は、以前にも増してたくましく、ゆるぎないものとなった。「歌」と「リズム」が体を揺さぶり、魂が高揚する。 レゲエやファンク、ジャズを完全に吸収した強靭なドラム・アンド・ベースが叩き出す音の壁を、切り裂き、浮遊するトンコリが、国境を超え、歴史を超えて宇宙を駆ける。

インタヴュー・文 : 春日正信
編集補助 : 稲田真央子
写真 : 大橋祐希

震災以降、音楽が楽しめなくなって

──前作『サハリン・ロック』(2010年)では、サハリンへの旅が創作の契機となったと聞いています。そこから現在まで、世界中のさまざまな場所を回ってきて、OKIさんにいちばん大きな変化をもたらしたのはどこでしょうか?

5年前、震災直後に石巻に行ったときですね。グランドピアノがひっくり返ってしまっていた。ピアノがこんなふうにひっくり返るなんて、普通はありえない……。その光景が、すごく象徴的に思えたんですよ。なにかが根底からくつがえされてる感じがした。 旅をしてきたなかで、もっとも印象が強く残ったところを選ぶとしたら、ここですね。『UTARHYTHM』の裏ジャケットの写真は、そのときのものなんですよ。

──どんな心境の変化がありましたか。

震災以降、音楽が楽しめなくなって、あんまり音楽を聴かなくなっちゃった。興味がそがれていく感じ。 音楽って、楽しいですよね? だからいままですごくワクワクしながらやってたんですけど、「俺はそうやってワクワクしてていいんだろうか?」ってことまで考えたりしてたんだよね。 ミュージシャンのなかでも、その衝撃からさっさと衣替えして対応していった人もたくさんいるとは思う。でも、僕はできなかった。

──では、今回の新作を作り上げるまで、かなりの苦悩があったんでしょうか?

だから、最初にリリース・パーティーの日取りを決めちゃおうと思って、決めました(笑)。退路を断つかたちで。「このままいったら、自分は音楽をやめるだろう」という気持ちと、「いつかはやらなきゃ」という思いがあった。だから、「やっぱり決めますか!」ってことで決めて、それに合わせて作ったんですよ。

──なるほど。絶望からの帰還だったんですね。少し話はそれるんですが、その間、ネパールや台湾など、いろいろな国を回ってますよね。大きくいうと東アジアが多いですよね。

震災以降、モンゴルとブリヤート共和国、ネパール、タイ、台湾、韓国に行きました。

──現地の反響はどうでしたか?

台湾はいつもおもしろいですね。ブリヤート共和国も面白かった。旧ソ連圏でバイカル湖の近くなんですけど、要するにあそこは、アジアの頂点なんだよね。地球って丸いんだけど、モンゴルあたりに行くと少し標高が高くなっていて、アジア全体を見渡しているような感覚になるんですよ。あれは日本では絶対に味わえない。 ブリヤートはモンゴル系で、モンゴルのスタイルとは違うけどホーミーのような喉歌の文化があって、その学校もあるんですよ。西洋化しすぎず、いいバランスでした。 内モンゴルまで行くと、中国の舞台芸術が入り込んだようなスタイルになったりするんだけど、それよりもっと素朴で、むしろロシアのバレエなんかの舞台芸術の影響を受けてるから、ソ連圏の文化が入っていて、本当にかっこよくなっちゃうのよ。

──ロシアとアジアが隣接する地域ですね。

そうそう。ビキン川(ロシア・ハバロフスク地方の沿海地方を流れる川)の流域にも行ったんだけど、あのあたりは「アジアのアマゾン」って呼ばれている、針葉樹林と照葉樹林が混ざってるところで、すごいんですよ、野生動物がたくさんいて。 ツキノワグマにヒグマに、鹿が5〜6種類に、川には1m60cmくらいのイトウが泳いでいて、シマフクロウやヤマネコ、いろいろいるんだけど、その野生動物のトップにいるのはトラなんですよ、シベリアン・タイガー。そういうところにも行きました。

──アイヌ文化とのつながりを感じましたか?

あのへんは大好きだね。故郷のように感じて、やっぱりいいですね。「極東、寒いぞ! 」というのが喜びに近いよね。そういう世界のとらえ方をしない人には無理な世界なんですけど、寒い文化はいいですね。 あと、ツングース系の人たちは「アジア人そのもの」という顔をしているんだよね。たまに日本人もそういう顔の人がいるんだけど。

──それでは、あらためて今回のアルバムについてお訊きしたいと思います。『UTARHYTHM』というタイトルはいつ浮かびましたか?

レーベルがアルバムを出すと決めて、「狙いはなんだ?」って聞いてきたとき、その瞬間に思いついたんですよ。 僕がいままでやってきている生涯的なテーマは「アイヌ音楽のアップデート」。昔のものを掘り下げつつ、そこから名人たちに翻訳をしてもらうという、つまり、昔のアイヌのドラムやベースのリズムを再現してもらうということですね。 それをテーマに決めて、じゃあリズムを置き換えるんだから「リズム」、アイヌの歌とリズムだから『UTARHYTHM』。

──アイヌ語の「ウタリ(同胞)」、そして歌とリズムで『UTARHYTHM』。シンプルで力強く、美しいタイトルだと思います。

それまでは自分にリミッターがかかってしまって、本気が出せなかったんです。ほかの人のプロデュースならできるんだけど、自分とは向き合いたくなかったんですよね。 でも、「これだけシンプルなコンセプトを考えられるんだよね、僕は」と思って、それで立ち直った(笑)。 ということで、昔のアイヌのリズムをベースとドラムに置き換えたのが今回のアルバムです。1年くらい前からやってた曲もあるし、断片的に昔作っておいて途中でやる気がなくなって寝かせていたものもあるし。そのなかからいくつか引き出しからだしてきたのもある。

アイヌ文化は「交易」の産物なんだよね

──アイヌ音楽とレゲエやロック、ファンクをどうやってミックスしているんでしょうか?

最初に引用する音楽を決めてかかるとダメ。「じゃあレゲエ風のものを作ろう」と思っても作れないんですよ。 昔のものを聴いて、ちょっと作業を進めていくうちに、逆にファンクや砂漠(のブルース)が向こうから聴こえてくるの。自分が聴いてきた音楽と結びつくものが出てくるから、そのときが攻め時なんですよ。逆に「ナントカ調でいきましょう」ってやってうまくいったためしはないですね、イケてない感じになって。 そこのサジ加減がこのアルバムはうまくいっていて、ダサくないと思う。

──OKIさんの方法論を私なりに言葉にすると「折衷することでより本質がクリアになる」「異文化と交わるなかで、他者のなかに自己を見出す」というものだと思うんですが、いかがでしょうか?

僕はアイヌバンドとかいって、アイヌの着物を着て偉そうにしてるんですけど、でも僕がいまのまま50年前、100年前に行ったとしたら、アイヌ社会にはまるで役に立たないんじゃないかなと思うんですよ。昔の人みたいには歌えないし、知らないし、経験もない。僕にとってもほかのアイヌにとっても、それは大きなコンプレックスなんだよね。 だからみんな、古典を一生懸命勉強したり、言葉を勉強したりして取り返そうとしている。そういう取り返しの時間なんだよね、いまは。それがひとつの大きな流れになってきている。 アイヌのメインストリームは古典を忠実にやろうとしていますよね。じゃあ僕が忠実じゃないのかっていったら、僕の忠実さ加減は、みんなとちょっと違う。

──「ちょっと違う」というのは?

僕にとってアイヌ文化は「交易」の産物なんだよね。伝統派の人たちによくこの話をするんだけど、サハリンとアムール川が接しているところにある交易所に、極東の先住民族とか清の役人とかが来てて、そういう交易したモノが集まる場が「交易所」だった。 トンコリっていう楽器がどこから来たのかというと、そういうところに原型というものがある気がするんですよね。弾いてみてよかったから、「じゃあ持って帰るか」って感じで。それがカラフト・アイヌの文化になっていく。 逆に本州に目を向けると、アイヌは神様ごとにいろんな道具を持ってるんですけど、その道具の扱い方、祭壇のあつらえ方とかというものは、神道からの借用なんですよね。「なんで民族のキャラとして一番重要なところが借り物なの?」っていうこともあるのね。 だから、アイヌ文化の物質面でのモノの流れは、アイヌが独自に作った要素は少ないですね。むしろパクったもの、そこにアレンジを施していって自分流にするところの能力の度合いというものが、民族を決定してると思うんですよ。

──交易所には、周りの世界のいろんな場所から、いろんなモノや文化が入ってくる。

そうだね、昔のタワーレコードみたいな(笑)。「レゲエのCDこんなにあるの、世界でここだけだよ!」みたいな。 外を見る目、拡大志向がアイヌ民族の特徴なんだけど、いまはそれが拡大しすぎてアイヌ文化が衰退してるんだよね。このままいくと、昔のことが本当にわかんなくなっちゃうよっていうんで、じゃあ言葉をちゃんとしようと。昔のことはちゃんとやろうね、っていうふうになっていってるのが主流だよね。 俺はいまだに船に乗って買いつけに行ってるような、むしろ古いタイプだから。

──伝統文化に共通する問題ですね。落語なんかもそうですけど、江戸時代に当時は最新の時事ネタだった「噺」を、古典として保存するのがいいのか、それともいまの時事ネタをバンバン入れてアップデートしたほうがいいのかっていう。

そのアップデートには、アイヌの文化的な知識も必要なんですけど、音楽スキルがものすごく大事になってくる。アイヌ文化に貢献しているという意味でいうと、このバンドのメンバーの貢献度はすごく大きいと思います。

そろそろ“OKI DUB AINU BAND”という名前、変えようかなと

── OKIさんにとってのダブの魅力ってなんですか?

そろそろ“OKI DUB AINU BAND”という名前、変えようかなと思ってて(笑)。

──ええー!?

だってスカをやらない東京スカパラとか、ダブをやらないアジアン・ダブ・ファンデーションとかいるでしょ。うちらもダブやらないですからね(笑)。「この名前でいいのか? 」っていうのは、俺、すごく思ってる。もっとひとことで言える名前にしようかなって。

──そんな(笑)。あからさまなダブのトラックはないけど、レゲエ/ダブの発想や手法はしっかり音の中心に存在してますよ。

やっぱり、70年代〜80年代初期のジャマイカのスタジオワークが好きなんだよね。ジャマイカ盤の曲の適当なタイトルとかさ。どうしたって好きなんだよなー。個人の趣味がバンドになっちゃってるよね(笑)。 聖と俗が入り乱れてて、下ネタばっかのくせに急にまじめなこと言ったりとか、音楽の中にクソまじめなものとまじめじゃないことも一緒にやるのが、ジャマイカ人の面白いところだよね。 それとか、マイナーな曲って日本人にとっては「暗い」「単調」っていう印象があるけど、ジャマイカ人はマイナーの曲のことを「美しい」っていうんだよね。だからやっぱり好きなんですね、レゲエが。

──今後の予定や構想について教えてください。

まずは、このアルバムの曲をライヴでちゃんと演奏できるようにならなきゃなと。地味だけど、それはすごく大事なところなので。今回のアルバムは、やっぱりこのメンバーでやれてることがすごいなと。あらためてみんなに感謝ですよね。よくぞついてきてくれてるなと。 今後なんですが、北海道ツアーもあったり、海外に行く予定もあります。あとは次の作品の構想もあるので、そっちもそろそろ始めようかなと。

──今回、ほぼ同時(4月6日)にマレウレウのアルバムも出ますよね。

マレウレウは今回、ファーストの再録なんですけど、「よりナマナマしい音で攻めよう」というコンセプトでやりました。 彼女たちは古典なんですけど、いわゆる古典とは違うところがあって。古典のくせにレーベルを持って、事務所がある。セルフ・プロデュースをして、文化を作って、発信していく窓口を持っている。自分たちでお金も集められる。 それとやっぱり、うまく言葉で言えないんですけど、あの4人が持っているアーティストとしてのオーラ、たたずまい、華があるんですよね。

──歌も踊りもとても美しい。大好きです。私のナンバーワン・アイドルです(笑)。

そうなの? すごく愛されてるね(笑)。敷居の高いことを匂わせないんですよね、彼女たちは。 アイヌの古典をやっている人たちは、やっぱりアイヌの文化圏内での活動に制限されてくるし、たとえばそういうコンサートをやっていても、「音楽ファン」じゃなくて「アイヌファン」が集まるというのが多いんですよね。でも、僕らは「交易」なので(笑)。 古典をやりながら、アイヌのなかでもやれるし、外にも行けるっていう、フレキシブルなものになっていると思います。

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内田直之とのダブ・アルバム『Himalayan Dub』リリース時に行われたツアー。その東京編は2011年4月15日に〈渋谷CLUB Quattro〉にて行われた(つまるところ311の直後である)。熱い熱気を、DSDへとそのまま封じ込めた。OKI DUB AINU BANDのポスト311の記録でもある。


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OKI DUB AINU BAND ”UTARHYTHM” 発売記念 LIVE

2016年3月5日(土)渋谷 CLUB QUATTRO
MEMBER : OKI(Vocal/Tonkori/Mukkuri/Guitar), 居壁 太(Vocal/Tonkori), 沼澤 尚(Drums). 中條 卓(Bass), HAKASE SUN(Keyboards), 内田直之(Dub Mix)
開場 / 開演 17:00 / 18:00
前売り / 当日 ¥4,000 / ¥4,500(D別)※未就学児入場不可、整理番号付き
チケット e+ / チケットぴあ / ローソン / 渋谷 CLUB QUATTRO
問い合わせ先 渋谷クラブクアトロ / 03-3477-8750

>>渋谷クラブクアトロ・スケジュール・ページ

PROFILE

OKI DUB AINU BAND

カラフト・アイヌの伝統弦楽器『トンコリ』を現代に復活させたOKIが率いるアイヌ・ルーツ・バンド。電化したトンコリをベースとドラムで強靭に補強したヘヴィなライヴ・サウンドに、アイヌに歌い継がれるウポポ(歌) の伝承曲やリムセ(踊り)、アフログルーヴ、レゲエ、ロック等が混在した越境DUBサウンドで人気を博す。主に海外フェスでのライヴ実績を重ね、アルバム「OKI DUB AINU BAND」(06年)のリリースを機に日本上陸。これまで世界最大規模のワールドミュージック・フェスとして知られるWOMADへの参戦をはじめアジア、アメリカ、ヨーロッパなど世界各地をツアーし、また日本国内でも数多くのフェスやイベントに出演している。 2010年7月には4年振りのアルバム『サハリン・ロック』を発表し、国内でのツアーのほか台湾、ネパールで公演。 11年春にはOKIx内田直之による同タイトルのダブ・ミックス作『Himalayan Dub』をリリース。 2016年3月待望のニュー・アルバムを発表、3月5日(土)には渋谷CLUB QUATTROにてアルバム発売記念ライヴも決定!

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