ソウル、ファンク、ロック・ビートで織りなされた万華鏡的サウンド——トロ・イ・モワ、約2年ぶりの新作をリリース
R&Bやロックなど、あらゆるシーンを超えて人気を博しているトロ・イ・モワが、約2年ぶりとなるアルバム、『What For?』をリリース。フジロック・フェスティバルやHostess Club Weekenderなど日本でも数多くのステージを披露してきた彼は、国内でも常に大注目の存在である。これまで彼は作品をリリースするごとにR&Bを基調としながら、ロックであったり、様々な要素を取り入れたチルウェイブなど新たな側面を見せ続けて来た。ドラムのビート感と相まった独特なメロディ・フレーズ、溶け合うサイケデリックなシンセが心地の良い今作は、ポップでシンプルでありながらも着実に聴き手を虜にするであろう。そんな新作『What For?』を、ぜひレヴューと共にお聴きいただきたい。
Toro Y Moi / What For?
【配信価格】
WAV / ALAC / FLAC / AAC : 単曲 205円 / まとめ購入 1,543円
【Track List】
1. What You Want / 2. Buffalo / 3. The Flight / 4. Empty Nesters / 5. Ratcliff / 6. Lilly / 7. Spell It Out / 8. Half Dome / 9. Run Baby Run / 10. Yeah Right
彼の音楽の射程が更に広がっていることを存分に示している
「トレンドはあえて避けると思う。そこに重点を置いてやっているからね。」
トロ・イ・モワのプロジェクトについてチャズ・バンディックは過去のインタヴュー(Qeticでのインタヴュー参照)でこう語った。そんなことを思い出しながら新作『What for?』を聴いて、けむに巻かれたような気持ちになる。難解なのではない。むしろ、開放的でストレートなバンド・サウンドなのだ。意外なまでのサウンドの転換。それでも、彼が手放そうとしなかったのは“甘さ”だ。
スウィートなメロディに、緩めのファンクネス、それがリヴァーブして、もやがかかったように広がる。音数は過剰にならないようコントロールされる。チルウェイヴと呼ばれた、ぬるま湯のようなダンス・ミュージック・ムーヴメントのさきがけとなる形で、チャズのソロ・プロジェクト、トロ・イ・モワの活動は急速に活発になっていく。特に2012年にリリースされたセカンド・アルバム『アンダーニース・ザ・パイン』はチルウェイヴ自体の代表作として各メディアで絶賛された。アルバムごと全体のトーンは変化しているものの、前作までの彼は、パーソナルな感触の残るダンス・ミュージックをビートのループによって構築してきた。
打って変わって、ライヴ・バンドのメンバーとともに制作された今作は、バンドとしてのグルーヴが主眼に置かれている。ミックスについても、バンドのタイトな演奏を活かしシンプルに。結果として、トロ・イ・モワが全作品通じて持ち続けていた、甘くポップなメロディー・センスがよりはっきりと響く形となっている。収録曲では「Buffalo」、「Lilly」、「Spell It Out」などが、これまでのライヴ・サウンドにも近い、緩やかでファンキーな楽曲。一方驚かされたのが、70年代的な雰囲気のPVとともに先行して発表された「Empty Nesters」などで聴くことのできる、パワー・ポップ / USインディー的なサウンドだ。リズム隊のグルーヴィーな演奏を土台に、ぐしゃぐしゃした音のギターがシンプルなフレーズで鳴らされる。こうした楽曲がメロディアスなヴォーカルと呼応して瑞々しく響く。制作時にインスピレーションを受けていたというビッグ・スターだけでなく、彼が若い頃に触れてきた様々なポップ・ミュージックが透けて見えるようだ。
これまで音全体の手触りを繊細に追求してきたトロ・イ・モワは、幾多のライヴを経て、バンド・サウンドにおいても自身の満足できるグルーヴを獲得するに至っているのだろう。バンドというフォーマットの中で、甘いメロディー・センスをこれまで以上に明確な形とした。『What for?』は彼の音楽の射程が更に広がっていることを存分に示している。(text by 小林ヨウ)
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PROFILE
Toro Y Moi
2009年にCarpark Recordsからリリースした『Blessa』で一躍注目を集め、2010年にファースト・アルバム『Causers of This』を発表。その弛緩したドリーミーかつトロピカルなエレクトロニック・サウンドで、インディー・ポップ・シーンに静かなる旋風を巻き起こしている。2011年、1年という短いスパンで『Underneath the Pine』をリリース。前作でのエレクトロニック / サンプリング的な音づくりを排し、自分で演奏した生音を主体にナチュラルなサウンドを展開した。「Toro」はスペイン語でBull(牛)を意味し、「Y Moi」はフランス語でAnd Me(と私)を意味している。
>>Tobias Jesso Jr. Official HP