2013/06/07 00:00

8年ぶり、フル・アルバムとしては4枚目となるボーズ・オブ・カナダのアルバム『Tomorrow's Harvest』。これまでの活動同様、ヴェールに隠されたその全貌が6月5日ついに公開された。果たして、その姿とはいかに?


Boards Of Canada / Tomorrow's Harvest
【価格】
mp3 単曲 200円 / まとめ購入 1,500円
wav 単曲 250円 / まとめ購入 2,000円

【TRACK LIST】
01. Gemini / 02. Reach For The Dead / 03. White Cyclosa / 04. Jacquard Causeway / 05. Telepath / 06. Cold Earth / 07. Transmisiones Ferox / 08. Sick Times / 09. Collapse / 10. Palace Posy / 11. Split Your Infinities / 12. Uritual / 13. Nothing Is Real / 14. Sundown / 15. New Seeds / 16. Come To Dust / 17. Semena Mertvykh

エレクトロニカ・シーンの謎に包まれた立役者

“エレクトロニカ”――このタームが、そして、そう呼ばれる音楽がポピュラーになりすでに10年以上。前時代感すらあるこの言葉は、便宜上の括り以外、その言葉が持つイメージに、いまそこまで有用性は無いと言っても良いだろう。

ある意味でポピュラー・ミュージックとしては、ずいぶんとアブストラクトでアヴァンギャルドな姿勢を持ったこの音楽がここまで一般的に、音楽ファンに浸透したのは、ほぼメディアに登場し、自らを語ることのない、このスコットランド人の兄弟(注1)が作り出すサウンド=ボーズ・オブ・カナダの音楽性なしではなし得なかった事態ではないだろうか。例えばエレクトロニカのもうひとつの巨頭ともいえる彼らの朋友、オウテカの攻撃的な実験性だけではここまでエレクトロニカが広がりを見せたかどうかは、簡単に疑問が浮かぶ。オウテカの冒険からこぼれ落ちてしまったサイケデリアやメランコリアといった質感。それを持ったボーズ・オブ・カナダの音楽性は、さらに多くの人をエレクトロニカという音楽へ引き寄せたのではないだろうか。

2006年のミニ・アルバム『Trans Canada Highway』以降、ほぼ完全な沈黙をまもっていたボーズ・オブ・カナダ。その沈黙は、ファンをさらに煙に巻くようなゲリラ的な方法で破られた。4月のレコード・ストア・デイにて各所で“発見”された謎レコードにはじまり、YouTubeの動画でのヒントなど、まるでRPGのような謎解きによって、本作『Tomorrow's Harvest』のリリースが発表されたのだ(注2)。

新作にて立ち現れた、変容するサイケデリア

新作を聴いて、ひとつ大きな変化をあげるとすれば、それはやはり、その音のトーンだ。そのトーンはこれまでの作品に比べ、どこか暗い。そう、とにかくどこか暗いのだ。ダークな作品では決してないのだが、これまでの作品のような、聴くものを暖かく包みこむような穏やかな空気感は後退している。

そのトーンの要因とは? ひとつの要因として、よりミニマルになった音数や構成があげられるだろう。前作『The Campfire Headphase』の作品などで見せた、生楽器のサンプリングによるフォークトロニカ的な要素の減少し、リズム・パターンもよりシンプルにまとめられている。また、これまでの作品になかった要素と言えば、そうしたミニマルな構成故なのか、リズムやシンセのムードに立ち現れているインダストリアルな質感だ。これらの要素が本作を貫徹する、前述したトーンの源泉ではないだろうか。

強いてこれまでの作品で比較すれば、〈Warp〉以前の作品、〈Skam〉(注3)からの1995年の作品「Hi-Scores」あたりの感覚に近いサウンドと言えるだろう。この感覚、なんとなく昨今のテクノ~レフトフィールドなインディ・ロックにてひとつの流れとなっているインダストリアル・リヴァイヴァルとも共振するようなものさえある。そういえば、1980年代後半に彼らが影響を受けたアーティストとして、過去の数少ないインタヴューにてニッツアー・エブ、フロント242、そしてコクトー・ツインズ(注4)の名前を上げていた(Pitchfork、『The Campfire Headphase』リリース時のインタヴューより)。本作に流れる少々のゴシックの香りと、インダストリアルな質感はこのあたりが出ているということもあるだろう。

とはいえ、彼ら特有のサイケデリックなムードが無くなったと言われれば、そうではなく。これまでと比べれば低空飛行ながら、さすがの存在感を誇っている。ふわりと脳内が空中へと浮かぶ、暖かな“トビ”から、地面へと体が同化していくような弛緩的な“トビ”へと変化していったという感じだではないだろうか。これまでの作品が幻覚剤だとすれば、こちらはダウナーな麻酔薬の“トビ”だ。1990年代後半から、2000年代中ごろまでで、そのサウンドでひとつのジャンルすら確立してしまったとも言える彼ら。が、8年振りの作品で、こうした変化をした。今後、どのような方向性へシフトするのか? (いや、しないのか)。本作のリリースのインフォ同様、まるで謎解きのようなフィールドがまた広がったようにすら思えるのだ。(text by 河村祐介)

注1 : メンバーはスコットランド出身の兄のマイケル・サンディソン (Michael Sandison)と、弟のマーカス・イオン(Michael Sandison)のふたり。このふたり、実の兄弟だったということが前作『The Campfire Headphase』のリリース時のインタヴューで自ら暴露し話題となった(活動をはじめた当時、テクノで兄弟と言えばオービタルの印象が強く。それに絡めて揶揄されるのを避けたためだという)。
注2 : この経緯は、日本オフィシャルのページにてまとまっている。URL
注3 : オウテカのふたりも、その運営に深く関わるAndy Maddocks(オウテカのふたりとのGescom名義でも活動)によるマンチェスターのレーベルで、1990年代初頭からリリースを行う。匿名性やノン・プロモーションにこだわり、謎に包まれたレーベルで、そのサウンドはエレクトロニカ・シーンに大きな影響を与えた。
注4 : ニッツァー・エブ、フロント242はともに80年代後半~90年代初頭にヨーロッパで台頭したエレクトリック・ボディ・ミュージックの代表的アーティスト。打ち込みを中心として、肉体的なハードなビートが特徴。インダストリアル・ロックへと繋がっていく側面がある。ヨーロッパでのそうしたサウンドの受け入れの土台となった部分は少なからずあり。また、その後のヨーロッパでのハードコア・テクノにも影響を与える。コクトー・ツインズは、〈4AD〉を1980年代の第2期ともいえるゴシック・ロックの代表格。

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PROFILE

Boards Of Canada

左からMichael Sandison、Marcus Eoin

スコットランド出身、Michael SandisonとMarcus Eoinの2人によるテクノ・ユニット、1980年代後半から音楽活動を始め、1987年に自身のレーベルである“Music70”から最初のアルバムをカセットテープの形でリリースした。1996年にSkamレコードと契約しシングルをリリース。1998年には“ワープ・レコーズ”からアルバムをリリースした。ワープに移籍した後、初期のカセットテープのみでリリースしていた作品の一部を限定盤で再発する。現在までに通算5枚のアルバムと複数のシングルをリリースしている。ボーズ・オブ・カナダ名義の他、ヘル・インターフェース(Hell Interface)という変名での活動も行い、4曲を発表している。

>>Boards Of Canada HP

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