2013/03/25 00:00

OTOTOY連載企画、熟JUKE塾の第一回がスタート!

ダンス・ミュージックの新ジャンル「ジューク」とはいったい何か? OTOTOY編集部の和田ボンゴと、新宿LOFTで「SHIN-JUKE」というイベントを始めてしまうほどジュークに取り憑かれた新宿LOFTのブッキング担当・望月慎之輔が、日本のクラブ・シーンの未来を担うであろうそのジュークの“今”を追求する熱血企画がスタート! 第一回は、国内で強い存在感を示しているジューク / フットワークの国内レーベルBooty TuneからDJ APRIL。そして国内外問わず、ジューク / フットワークの音源を多数リリースし続けているmelting potより海法進平を招いて「ジュークとは何なのか?」を掘り下げる!

左から和田ボンゴ、望月慎之輔

第一回目 : DJ APRIL、海法進平

和田ボンゴ : 自己紹介をお願いします。

海法進平(以下、海法) : インパートメントという音楽制作会社でmelting botという名前で、Planet Muの流通とプロモーションとをやっておりますディレクターの海法です。
DJ APRIL : Booty Tuneに所属しているDJで、ブッキングや様々なアーティストのCDの制作を手伝わせてもらっています。
望月慎之輔(以下、望月) : 新宿LOFTの副店長でブッキング担当です。SHIN-JUKEというジュークのイベントのブッキングをしています。宜しくお願いします。

和田ボンゴ : 望月さんとDJ APRILが出会って、SHIN-JUKE(新宿LOFTで行われているジューク・イベント)が始まった?

望月 : そうですね。最初はPlanet Muのジューク・コンピレーション『Bangs & Works vol.II』を見たのがきっかけで。実際に日本人がやっているジュークの現場には行ったことがなかったんですが、ある時DJ APRILさんを知人から紹介してもらって、ジュークのイベントに足を運ぶようになって。そこから徐々にハマっていきました。

和田ボンゴ : 「SHIN-JUKE」は、これまでに2回やってますよね?

望月 : そうですね。
DJ APRIL : 1回目は壊滅的でしたね(笑)。Traxman(シカゴを拠点に、90年代から現在まで活躍する、ジューク / フットワーク・シーンの顔役的存在)の来日公演の次の週の開催だったんだけど、やってる人間も皆燃え尽き症候群みたいになってしまってて(笑)。

Traxman

和田ボンゴ : ジュークはまだ盛り上がっていますよね?

DJ APRIL : もう終わりじゃないですか(笑)。

和田ボンゴ : この記事で初めてジュークを知る読者もいると思うのですが、そもそもジュークってどういう音楽なんでしょうか?

DJ APRIL : ジュークはジュークとして独立して生まれたわけではなく、80年代に始まったシカゴ・ハウスの延長線上にある音楽と考えてもらえれば分かりやすいです。シカゴ・ハウスといえばLarry HeardやFarley Jackmaster Funkに代表されるようなジャックハウスやアシッドハウス、ディープ・ハウスが有名ですが、ジュークと直接リンクしていると言えるのは、90年代に入って生まれたゲットー・ハウスですね。90年代頭から半ば頃に世界的に流行したジャンルで、Jeff MillsやDerrick May、Richie Hawtin、日本だと田中フミヤ、石野卓球などがDJプレイしたことで、テクノのリスナーを中心に「シカゴ・リバイバル」というブームも手伝ってかなり人気を集めました。「ダンスマニア」というレーベルが非常に有名ですね。ゲットー・ハウスが一番流行った93~96年頃、DJ FunkやRobert Armani、Paul Johnsonのような売れっ子のアーティストたちは、海外にどんどん出ていくんです。そんな人気者がいなくなったシカゴのゲットーから、DJ Deeon、DJ Milton、DJ SlugoといったDJたちが、少し毛色の違うサウンドを提示し始めます。TR808(ローランドが1980年に発売したリズム・マシン)のベースやタムの音を使用した、以前よりバウンシーかつミニマルなトラックものが増えてくる。
望月 : ジュークを通過した耳で聞くと、こういうゲットー・ハウスもかっこいいなという発見がありますよ。YouTubeなどで聞いてみるといいと思います。

左からDJ Deeon、DJ Funk

DJ APRIL : バウンシーなトラックものの登場で言えば、機材が変わったことが大きいんですよね。元々ゲットー・ハウスのBPMはだいたい130~135ぐらいで、音源もアタックが強い「TR909」というハウスの定番ドラムマシンを使うことが多かった。BPMが160前後のジュークへと進化していく過程で、ゲットー・ハウスのテンポがどんどん上がっていくんですが、そうなると909(ローランドが80年代前半に発売したドラム・マシン)のキックだとうるさいと。当時マイアミ・ベースが流行していたこともあって、808の丸いブゥーンというベースや音源が主流になっていったんですね。乱暴にまとめると、その延長線上に今のジュークがあるのかなと。しかし、シカゴでそういう変化の機運が出始めたころを境に、リバイバル・ブームも終わり、国外ではゲットー・ハウスの人気が落ちていく。
望月 : その後、めっちゃローカルなものになっちゃったんですよね。
DJ APRIL : そうですね。日本でもD.J. Fulltono(以下、Fulltono)やDJ Familyなど、精力的に活動していたDJはいましたが、マーケット的には徐々にシュリンクしていったのが事実だと思います。とはいえ、シカゴの現場では海外の停滞はどこ吹く風で(笑)。ローカルでは以前根強い人気があって、BPMはますます上昇し、150~155ぐらいまで上がっていきました。これがジュークと呼ばれるようになるんです。セントルイスかどこかのスラングらしいのですが、呼び名の正確な理由はありません。DJ PunchoとGant-Manが名付けたのが始まりと言われています。早くなったゲットー・ハウスがジュークに名前が変わったということですね。2000年代初頭ぐらいから、徐々にジュークのビートに変化が出てきます。4拍子のハウスビートだったのが、変則的なビートへと形を変えていく。4拍子から崩れていったビートのことを、一般的にジュークの進化形である「フットワーク」と呼んでいますね。

RPBOO

和田ボンゴ : フットワークとジュークの違いは?

DJ APRIL : 純にいうと踊りやすいのがジュークで、踊りにくいのがフットワークです。ジュークは大箱などで流れるようなパーティのための音楽でもあるのですが、フットワークはダンス・バトルに特化した音楽なんです。シカゴには、アメリカの他の地域と同じようにいろんなダンスクルーが存在します。フットワークが生まれる以前は、ジュークを使って彼らはショーケース・ダンスやバトルも行っていましたが、ブレイク・ダンスのようなバトルの現場で、より早くより複雑なダンスを演出するための音楽として、ジュークのリズムが、踊りづらく変則的になっていったんです。バトルの場合、普通の4つ打ちだとダンサーに展開が予想できてしまいつまらない。難しいビートの方がダンサーのスキルが映えるということですね。2004年頃のDJ RoやDJ Thadz、DJ Soloなどの曲を聞くと、ゲットー・ハウスの4拍子と比べるとかなり変則的になっているのですが、それが2008年ぐらいからさらにどんどんノリづらくなっていく。シカゴの外に音楽が流通しなかったことで、純粋培養が進み実験性が高まったのかもしれません。その意味で、この5月にPlanet MuからアルバムをリリースするRP Booは、踊りづらいフットワークの極北ですよ(笑)。 彼はゴッドファーザー・オブ・フットワークと呼ばれるDJで、彼の作るトラックは本当に異常です。聴いている方がビートを探らないとノレない感じですね。まあ慣れてくると分かるんですが。ネタの頭やハイ・ハット、スネアの位置など、曲によって全然違ってくるから、はじめて聞いた人は「なにこれ!?」ってなる。
海法 : ハイ・ハットないときは、どうやってリズムを取ってるの?
DJ APRIL : ネタの頭やスネア、ベースが多いですね。スネアがズレてる場合は、どこかにガイドとなるビートがあります。

DJ Solo

和田ボンゴ : それだとお客さんが聴いても分からないですよね?

DJ APRIL : フットワークに限って言えば、もともとダンサー目線の音楽なので、一般リスナーを想定して作られていない。レゲエのダブ・プレートじゃないですけど、あるダンサーのためだけに作られたようなビートも存在します。タイトルがダンサーの名前の曲も少なくないですね。ダンサーとトラック・メイカーの間だけでどんどん複雑になっていく。そんな異常なシーンが「発見された」というのが現状だと思います。

和田ボンゴ : ダンスの文化は今のシカゴでも活性化している?

DJ APRIL : シカゴの南部と西部では、ダンス文化自体は盛んですね。ただそれだけで生計を立てるのは非常に難しい。だから、日本やイギリスに行ってメイクマネーするという、立身出世の方法論にもなっています。ダンスや音楽でなんとかしてゲットーから出たいと思ってるんですね。

Flying LotusやKode9などもフットワークをプッシュしてる(海法)

海法進平

和田ボンゴ : 海法さんのレーベルでジュークを出すきっかけとなったのは?

海法 : Planet Muは、元々色々なジャンルの音楽を出していたんです。例えばチル・ウェーブ、ブレイク・コア、グライムやダブステップなど。だから色々チェックはしていたんですが、ある時、DJ Nateの12inchを初めて聴いたときに、とんでもないのがきたと思って(笑)。それでYouTubeでチェックして、初めてダンスとセットになっていることを知ったのが、自分とジュークの出会いですね。その後、DJ Nateのコンピを出したり、Dommuneで知ったDJ AprilやBooty Tuneから色々と繋がっていった感じです。自分は、UKのベース・ミュージックを並行して聴いていたんですが、James Blakeがフット・ワークのビートを使ったり、MachinedrumやAfrica Hightechもフットワークを取り入れていれたり、いよいよ面白くなってきたな、と。Flying LotusやKode9などもフットワークをプッシュしてますね。
DJ APRIL : Addison Grooveとかもね。Swamp81というレーベルから出ている彼のFotcrabというBPMの遅いジュークがあるんですが、イギリスから出てきたジュークのアナログは、これが最初じゃないでしょうか。ダブプレートを刷って配っている段階で、イギリスのダブステップやグライムDJの間では「ヤバいのが出た」ってかなり噂にはなっていたみたいで。

和田ボンゴ : Dommune(2012年10月11日にJUKE解体新書を放送)がきっかけで、ジュークの存在が日本でも公になっていったという印象ですが、以前からシカゴ関係の音源を収集していたんですか?

DJ APRIL : 僕は昔からシカゴ・ハウスを聞いてきているので買ってはいますね。ジュークは流通している音源が少ないので、その辺でもコレクトするのはなかなか大変です。ちょっと話がずれますが、音源の収集と言えば基本的にシカゴ・ハウスはデトロイト・テクノの当て馬的な位置にいると思っていて。デトロイト・テクノの人がシカゴ・ハウスをDJで使ったりすると、ディスク・ユニオンのシカゴ・ハウスの値段が上がるみたいな事があったり。最近ジュークが注目され始めてるので、そろそろシカゴ・リバイバルがくるんじゃないかと思ってるんですが全然来ないですね(笑)。そういう部分でシカゴ・ハウスを聴いている人は音楽を良く聴いてる、テクノとかハウスを良く知ってるというイメージだと思います。「コア」な感じというか。でも本当に好きな人は、僕らみたいなシカゴ・オタクになってますが。僕個人としてはそういうオタク的な流れは一端置いておいて、色々な人が自由にやってくれたほうが良いなと思ってます。それができる自由さが日本のシーンにはあるかなと。Traxmanなどからジュークを知っていった人が、自分の音楽とジュークを僕らが分からないやり方でリンクさせていって、シカゴ・ハウスをずっと聴いてきた人にはないチャンネルを開いてくれている。だから、僕が最初にシカゴ・ハウスについては話したことはもう忘れてほしいですね(笑)。

和田ボンゴ : DJ クワイエットストームが、桑田つとむ名義で『This is House』(※1)を出した時に一瞬注目を集めましたよね。

DJ APRIL : あのミックスCDが出た時、クワイエットストームさんは凄いと思いました。シカゴの大学にも通ってらっしゃったようですし、ヒップ・ホップとハウスを両方同時に吸収していらっしゃったんでしょうね。単なる知識というレベルではなく、ヴァイブス含めて本当にその周辺の音楽を愛している感じがしますね。シカゴ名盤なのでぜひ聴いて欲しいです。

和田ボンゴ : シカゴの街はどういうところなんですか?

DJ APRIL : ジュークが生まれたところは、人がいっぱい死ぬようなマーダー・キャピタル(殺人首都)ですね。治安も悪いですし、生活も厳しい。ただ、シカゴはデトロイトみたいな、ブラックマシン・ミュージック的な物語がなかなか紡ぎ出せない町なんですよね。社会的あるいは政治的な抑圧が、音楽的な初期衝動を生み出すというより、ひたすら快楽性に対する強烈な欲求があるような感じがします。論理とか、構築されたコンセプトを必要としていない。下品なボイス・サンプリングやスカスカのビート、最悪な音質。まあ、ディープ・ハウスやジャック・ハウスの流れもあるので、一概には言えませんが、個人的にはジュークの系譜ではそれがシカゴの土地性だと思います。なので賢く綺麗にまとめるのは難しいですね。

和田ボンゴ : 日本で、ジュークがクラブで使われていた時期はあったのですか?

DJ APRIL : ほとんどないですね。昔から聴いてましたという人はいるんですが、本当に好きな人しか掘っていない様なジャンルだったので、DJも非常に少なかった。関西のFulltonoさんが唯一かけていたぐらいですが、それでもジュークを流した途端、フロアから人がすぐいなくなってました。ただ、Fulltonoさんはお客さんのそういうリアクションでも掛けるのをやめなかった。その強さがなかったら現在のようなジューク・シーンはありえなかったと思います。

左からD.J. Fulltono、クレイジーケニー

和田ボンゴ : 日本のDJでジュークのパイオニア的存在の人はいますか?

DJ APRIL : 00年代から言えばたくさんいらっしゃいますが、シカゴ・ハウスからゲットー・ハウス、ゲットー・テック、ジューク、フットワークまで全部並行してやってるという意味では、やっぱりFulltonoさんじゃないでしょうか。ジュークのルーツでもあるゲットー・ハウスやゲットー・テックも含めれば、DJ Familyもパイオニアのひとりだと僕は思います。
海法 : タワー・レコードのバイヤーさんでDJ Familyを知っていて、その延長線上でジュークも知っているという。

和田ボンゴ : 今ジュークが広まってきている感じはしますか?

DJ APRIL

DJ APRIL : 僕が自分で「今人気出てきてますよ」って言うとかなり怪しいですけどね(笑)。
海法 : きてると思いますよ。ジューク、フットワークというキーワードが『Bangs & Works vol.2』が出た時あたりから確実に広がって、とりあえず自分の音楽に取り入れようというトラック・メイカーからの反応が多かったような気がしますね。そしてTraxmanのブレイクがきっかけで、音楽の評論家が騒いだり雑誌でも取り上げられるようになり始めて。
望月 : Traxmanは、ミュージック・マガジンのクラブ部門で年間ベストでしたもんね。
DJ APRIL : 現在の日本のジュークのレベルは非常に高いですね。クオリティーもトラック・メイカー人口もシカゴの次ぐらいじゃないかなと思います。D.J. Fulltono、DJ Aflow、Paisley Parks、Satanic porno cult shop(以下、サタポ)、Boogie Mann、隼人6号やUncle Texx等、多くのトラック・メイカーは、すでに海を越えて評価されていますし。
海法 : フォーマットにもよるんですけど、CDのセールスに関してはテクノ、ハウスよりも勢いがあるとは思いますね。
DJ APRIL : あと、海外の音楽が日本で育って、シーン自体が世界の最先端の一角を占めているという現象は、珍しいんじゃないかなとも思います。

和田ボンゴ : 2000年を超えたあたりからベース・ミュージックが日本でも盛り上がって、定着していきましたが、ジュークも今後そういった形で残っていきますか?

海法 : どうですかね(笑)。
DJ APRIL : 僕は流行に関わらずこれからもシカゴを聞くと思いますが、流行廃りがある業界ですからね。ただ、海法さんの立場だと流行らないといけないと思うので、海法さんの生活を守るためにも頑張っていきたいですね(笑)。日本のリスナーが「日本のジュークが一番好きだ」と思えるようなシーンになれば細々とでも残ると思います。
海法 : この2年間を見てきて、根付いてるものがやはり強いと感じますね。そのときだけで一部の人が楽しんで終わっちゃうジャンルも多々あるので。
DJ APRIL : 望月さんはBooty Tune以外はどういう感じで見えているんですか?
望月 : 地元にいながらトラックを作って、地元でもパーティーをやっている人が色々いるので、それは凄く良いと思います。
DJ APRIL : 確かに。ローカルに広がった音楽が、日本の中でさらにローカライズされてるのは面白いですね。ヒップ・ホップみたいに土地柄が出てきたらもっといいかも。

和田ボンゴ : ジュークのダンス・バトルが日本でも起こるようになったら面白いですね。

DJ APRIL : 個人的にはそっちに行き過ぎるのは違うかなと思っています。ダンス・バトルは、音楽同様にクラブや音楽の非日常を楽しめる要素だと思うんですが、音楽よりもダンスが強くなりすぎると、シカゴの真似事が日本に出来るだけで面白くないなぁと。日本は日本なりに、ダンスも音楽も楽しめるスタイルが作れれば、シーンにも奥行きが出てくると思います。また、SHIN-JUKEを見ていて、ロックのライヴのようにパフォーマンスを楽しむ音楽としても全然アリだな、というのは感じました。ちなみに和田さんはどういうところがいいなと思ったんですか?

和田ボンゴ : 最初Dommuneの番組を見た時は全然分からなかったです(笑)。まだ、そこまで聞いてはいないんですけど、一つのダンス・ミュージックとして、DJでかけたら面白いなって思えました。テクノ、ハウス、そしてジュークとそれぞれ変わらない立ち位置になれば面白いなと。

DJ APRIL : なるほど。実際はそれでいいと思うんですよね。僕の周りで、音を聴いているうちに好きになっていく率というのが、ジュークは他の音楽よりも明らかに高いんです。ジュークって音楽的に異端過ぎるんですよ。拍が取れないとか、ダブステップであるような「ドン」、「タン」というような一定のリズムがないんですよね。1人が作ってるアルバムの中のビートが全部違うっていうことが普通なので。そんな音楽、普通の人には受け入れがたいと思うんですよ。だから、面白さの糸口を掴むまでに時間がかかると思うんです。ちょっと古いですが、吉田戦車のマンガを読んでて、これ何が面白いのかなって思って、何回も読んでるうちにある日突然「なるほど!」ってなったときに世界が一気に広がるような(笑)。そういう受け取られ方でもいいんじゃないかなって。ジュークを勝手に解釈してもらってもいい。「俺はダブステップとしてジュークをかけるぞ」でもいい。いつも若いDJやトラック・メイカーにお願いしてるのは、自分のオリジナルでやっていいからって。色々やって、好きなジューク出してって。そうしないと面白いものが出てこないじゃないですか。誤解くらいからしか今の時代に面白いものって出てこないから。調べれば答えがすぐわかっちゃうし。YouTubeでダブステップの作り方まで教えてくれる。やり方を教えるとかじゃなくて、勝手に発見してもらったほうが面白いものが生まれると思うんです。だから、僕は想像力の縛りになるような歴史の話は極力避けたい。もし知りたかったら聞いてっていうぐらいです。

海法 : YouTubeで色々出てくるから、サーフィンしてるだけで遡れるんですよね。フットワークの映像とか出てくるし、自分で調べてわかることも多いです。
DJ APRIL : でも本当そういうことだと思います。90年代末ごろ、僕は凄くテクノが好きだったんですけど、その時はネットがないので、DJのプレイを120分テープに録音して、レコード屋の店員にそれを聞かせて、誰の曲ですかって調べて買ってたんですよ(笑)。結構な人がやってることだと思いますが、そういう形でしか曲を得られなかった時代だったんですよ。何にせよ自分で掘って見つけた時の喜びとかあるじゃないですか。公式リリースがすごく少ないので、発見が得やすい状況になってるんです。リスナーが自分の回路を開けるアーティストと出会って、全てがクリアになるというか。そういうのが、ジュークでは有り得るところが面白いなって思いますね。今の音楽って秘密が少ないと思いますが、でもジュークは秘密、僕らも分からない謎だらけの音楽なんですよ。

和田ボンゴ : ジュークが好きな人の中でもそれぞれスポットが違うんですね。

DJ APRIL : 違っていいと思うし、むしろどんどん違っていって欲しいですね。
海法 : ビート・ミュージックの拍がずれていくというか、脱臼する感じとか、決まったとこにスネアがこないとか、そういう面白さもあったり、もちろんベース・ミュージックのハーフ・テンポの面白さとか、人によってはまるポイントも違うんだなって分かったし。今だったらヒップ・ホップとか。

和田ボンゴ : 崩した感じとラップ?

海法 : そうですね。ラップが入ってくる感じとか。海外ってラップってないんですか?
DJ APRIL : シカゴにはラップはあるんですよね。2000年代の中頃ぐらいなんですけど、シカゴのローカルだけで流行っているジュークを取り入れたヒップホップとか結構あって。それが一時期ちょっと流行って、廃れたっていうのがあるみたいです。今のフットワークを取り入れてラップをしているっていうのは、シカゴに1曲か2曲ありますけど、拍というかバースも全然合っていないんで。とりあえずラップ乗せたってことなんですけど(笑)。ちゃんとやったのは、間違いなく日本が最初です。次回はヒップ・ホップの話になると思うんですけど、これは本当に日本だけの試みなんで。冗談抜きで、現在世界最高峰の何かを日本は作っちゃっているんですよ。イギリス人も一切真似していない、できないやつを。それをやっちゃいましょうよって、Trinitytiny1(twitter)と食品まつり(twitter)が手掛けたのが『160or80』(※2)なんですね。ちなみにイギリスやフランスではリスナーが付いて来れないので、フットワークのDJをすることはできないらしいです。だからフットワークでラップする機会とかもないし。

ジュークが持っている面白いところを理解してほしい(DJ APRIL)

和田ボンゴ : 日本人のジュークのクリエイターの中で、日頃から楽曲を作って活動してる方を教えてもらえますか?

DJ APRIL : かなりいますね。大阪のFulltonoさん、サタポ、東京のD.J.G.O.、横浜のペイズリーパークス、静岡の隼人6号、広島のクレイジーケニーあたりがメジャーじゃないでしょうか。

ペイズリーパークス

和田ボンゴ : 彼らはジュークにこだわるってよりも、様々なシーンに広げていこうという意識があるんですか?

DJ APRIL : 人によりけりですね。ジャングルやダブステップなどとのコンセントになるような曲も少なくないですよ。基本的にはジュークだと思いますが。それもフットワーク。複雑なビートばかり作る感じですね。白人がノリやすいものを作ろうとかそういう気持ちは一切ないんで、完全にシカゴのどコアな部分を打ち抜くために頑張っている感じです。サタポ、ペイズリー、ケニーが非常に多作です。
海法 : トラック・メイカーの皆さんって踊らせないというか、そういうのって意識して作るんですか?
DJ APRIL : たぶんサタポに関しては、踊らせないというよりかはキテレツにいきたいっていうのはあるんじゃないですかね(笑)。メインで作ってるトラック・メイカーのughさんは変わった人なので、複雑にし過ぎてメンバーから「やりすぎや!」ってよく言われてるようです(笑)。怒られて、ちょっと戻すっていう。ペイズリーパークスは、完全にシカゴのど真ん中のジュークが好きなんで、普通のビートじゃないものを作りたいと。ケニーはその折衷に重さやドープさが加わってる感じですかね。
海法 : ケニーさんの振り幅って凄いですよね。めっちゃ綺麗な曲と激しい感じのと。
DJ APRIL : 本人ナード・コアも好きらしいんで。そういう笑わせる感じとか意識はしてるみたい。
望月 : だってアニソンのイベントでDJやるんですもんね。
DJ APRIL : ミニスカートがフリフリの女の子の後にケニーが低音出まくりのジュークのライヴをして、客が喜んでるって「どういうシーンやねん」って思いましたけどね(笑)。

Satanic porno cult shop

和田ボンゴ : 望月さんはジューク・シーンの中でどういう人が好きなんですか?

望月 : ペイズリーパークスは面白いなって思ってて、DJじゃなくてライヴができる人っていうのが良いなって。DJも聴いてて単純に面白いです。まだまだ自分の知らない音楽はいっぱいあるし。ライヴ・ハウスに勤めてるというのもあるんで、ライヴができるトラック・メイカーだったりとかは気にして見ちゃいますね。だからサタポもすげー面白かった。
DJ APRIL : Boogie Mannっていう横浜の子で、その子のライヴも結構面白いですね。作る曲も相当レベル高くて、即現場に投入できるクオリティがある。しかもメロウなんで、女の子が喜びますよ。あと同じくモテジュークで人気の正体不明のPicnic Womenのライブも見てみたいです。
望月 : ジュークで女にモテたいっていうね。
DJ APRIL : モテたいすね~。ビッグになろうとかいう意識はないんで。お金が儲かるとは思ってないし。
海法 : でも、今のマーケットだと圧倒的に男のほうが。

和田ボンゴ : (笑)。

海法 : どういったコミュニティ、知り合いが多いかっていうのもあると思うんですけど。でも野郎は多いですね。
望月 : あと眼鏡率も高い(笑)。
DJ APRIL : 眼鏡率高い(笑)。OUTLOOK FES(※3)にFulltonoさんが出たんですけど、Booty Tuneファミリーで集合写真を撮ったら8割くらい眼鏡で、エロサイトを見過ぎなんじゃないかって(笑)。

和田ボンゴ : (笑)。シカゴでは今でもジュークは鳴ってるんですか?

DJ APRIL : ジュークという音楽やフットワークは都市部では知られてないですし、ラジオでも流れません。レコ屋にも並ばない。残念な話なんですけど、ゲットーを除いて、シカゴでは人気はないですね。

和田ボンゴ : そうなんですね。今年は日本独自のジュークが盛り上がりますかね?

DJ APRIL : どうですかね、盛り上がるかどうかは分かんないですけど、フットワークという音楽が楽しいなって思ってもらえるようにしたいです。今の時代、流行ってるという概念が、変わって来てるでしょ。流行というよりかは、ジュークが持っている面白いところを理解してもらえたらなと。あとはオタク臭を消すためにがんばっていくのみですね。デオドラントしていく(笑)。女の子とか集まるパーティでシャンパンとかもって「フー」っていけたらいいですね(笑)。
望月 : それ見たら流行ってんなって(笑)。
海法 : それが基本ですね。
DJ APRIL : ジュークの主要なアクトの多くは30代なんですけど、この先オラオラ系でやって行けるなんてたぶん誰も思ってない。人間的に魅力的なシーンを作らないと、リスナーは寄って来ないですから。僕はいつか「ジュークのイベント行けば誰かいるでしょ?」みたいな感じを実現したいです。クラブに行っても1人ぼっちにならなくて済むという。昔は「あのハコ行ったらいつもの人たちがいる」ってあったと思うんです。ジュークをきっかけにした、リアルSNSみたいなコミュニティになれば楽しいですね。

※1 : ヒップ・ホップDJとして活躍しているDJ Quietstormが、25年前のシカゴ・ハウスの体験を基に現代にそれをリアルに蘇らせるべく、桑田つとむと言う別人格が作り上げたオールドスクールなシカゴ・ハウス・アルバム。
※2 : 世界初の企画。ジューク / フットワークと呼ばれる音楽・ダンスのムーブメントの160BPMビート上で、日本における錚々たるメンツのラッパーがアクト。ジュークが広まる機会にもなった話題作。
※3 : 欧州クロアチアのプーラで9月の第1週の週末に4泊5日で開催される。欧州、更には世界最大ともされるベース・ミュージックとサウンド・システム・カルチャーのフェスティバル。今年も新木場ageha / STUDIO CAOSTにて開催されることが決定。

まだまだ少ないOTOTOY'S JUKE! 今後に期待して下さい!

VA. / Footwork on Hard Hard Hard!!

80年代からシカゴで活動し、2012年『"DA MIND OF TRAXMAN』をPlanet-Muから発表し、多くのシーンを震撼させたシカゴ・ゲットー・サウンドのゴッドファーザーTraxmanや、収録曲が「ジューク / フットワーク」スタイルでの初CDリリースとなるKID606、世界中の「ジューク/ フットワーク」プレイヤーによる楽曲をコンパイルする「World Wide JUKE」シリーズの主宰者Juke Ellingtonらの海外勢に加え、日本国内に向けて精力的に「ジューク / フットワーク」を紹介しつづけ、海外でもその名を知られるD.J.Fulltono。そして、彼が主宰するジューク / ゲットー・テック専門レーベルBooty Tuneに所属するD.J.G.Oがここに集結! とどまることを知らない進化の過程をぶっ壊れるほどの重低音と共に体感しろ!

Y.A.S / D.J. G.O. footwark Remix
Y.A.S / B-komi D.J. G.O. Remix

静岡を代表するMCでありながら、UMBでの活躍もめざましいY.A.Sが、ありのままの現状を詰め込んだ2nd Album『ワルアガキ』を発表。その2nd Album『ワルアガキ』のリミックス・ヴァイナルが2013年の春に発売予定だが、それに先駆けてOTOTOYで収録曲3曲を先行配信! レーベル主宰Cge za farmerの働きかけにより、東京在住のジュークのトラック・メイカー / DJのD.J.G.O.にリミックスを依頼。また大阪のSota Furugenにマスタリングを依頼し、全く新しい音源として世に送り出す。

>>>Y.A.Sの特集はこちら

PROFILE

Booty Tune(DJ APRIL)

2008年、D.J. Fulltonoのセルフ・レーベルとして「Booty Tune」を発足。日本のダウンロード・サイト「KING BEAT」からEP3作品をリリース。2010年、D.J.G.O.が加入。ジューク / フットワーク・トラックを量産。D.J.Fulltonoが後にBooty TuneメンバーになるD.J.Kuroki Kouichiと共に、ポッド・キャスト・ラジオ「SPEED KING RADIO」に出演。ジュークについて解説する。2011年、大阪、東京(MODULE&DOMMUNE)、名古屋を回るジュークをフィーチャーしたツアーがGoodweather主催の元に決行。来日アーティスト・キャンセルのアクシデントに見舞われるも、ジュークの魅力を広めることに成功。DOMMUNEにて放送された「JUKE解体新書」がベスト放送に選出され「DOMMUNEオフィシャルガイドブック」に全トーク内容が掲載される。英字新聞「Japan Times」にジューク特集が一面に組まれ、Booty Tuneの活動がD.J.Fulltonoの特大写真と共にドキュメント・タッチで掲載される。Planet Muからリリースされた『Bang&Works vol.2」のライナー・ノーツ&特典MIXCD(JPN.Only)をBooty Tuneが担当。2012年、日本盤『Traxman / Da Mind Of Traxman』のライナー・ノーツ&PVをBooty Tuneが担当。「Outlook Festival 2012 Japan Launti Party」にD.J.Fulltono (with Booty Tune Allstars)が出演(その時の模様)。「ミュージックマガジン7月号」の「ジューク・フットワーク特集」に執筆協力および1コーナーを担当。MIXCDシリーズ「SPIN DA WAX」をスタート。レーベル初のCDリリース。第一弾はTraxmanのDJMIXを完全オフィシャル・リリース。9月よりインパートメントより全国展開。2013年、UKのストリート・カルチャー雑誌「HUCK MAGAZINE」に日本にJapanese Footworkシーンの特集が掲載。写真はポーランドのBartosz Holoszkiewicz 、記事はD.J. Fulltonoが担当。Booty Tuneを取り巻くジューク・ムーブメントを世界に紹介。

Booty Tune offcial web

melting Pot(海法進平)

インディからクラブ、ドープからポップまで、世界各国のあらゆるシーンで流動的に生まれるフレッシュなアクトをサポート&リリース、テン年代的折衷主義のオルタナティブなブティック・レーベル。

melting Pot official HP

[連載] Y.A.S

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