2011/06/22 00:00

TACOBONDS インタビュー

東京の3ピース・ロック・バンド、TACOBONDS。ライブ・ハウスに頻繁に訪れる人なら彼らの演奏を一度は目にした人も多いのではないだろうか。一年中ライブ・ハウスを駆け回る正真正銘のライブ・バンドが、panic smileの吉田肇をプロデューサーに迎えて5年ぶりのアルバム『NO FICTION』を完成させた。東京ボアダムの主催バンドでもある彼らに、同じく東京ボアダムに参加し、普段からライブでの共演も多いowllightsのミヤナガサトルが特別取材。ここ1、2年で「東京ボアダムのー」という括りで語られることも増えたように思うが、今回は敢えて「東京ボアダム」の話題は封印!(理由は、インタビュアーも参加しているイベントだけに、励まし合いのようになったらつまらないので…。)ライブによる「現場主義」から積み上げられた鉄壁のグルーヴを見事に作品に封じ込めた本作にフォーカスを絞り、いかにして曲が生み出されるのか、その創作哲学を紐解いてみた。

インタビュー&文 : ミヤナガサトル

TACOBONDS / NO FICTION
プロデューサーに吉田肇(PANIC SMILE)を迎えて制作された、約5年ぶり2枚目のフル・アルバム。プログレ、ポスト・パンク、サイケデリックはたまたクラブ・ミュージックまでを飲み込み吐き散らかされた全11曲!

1. NICE DAY / 2. 1998 / 3. THIS COUNT / 4. FICTION / 5. BPM4 / 6. TRAVELLER’S HI / 7. 3CC / 8. CHUCK WILSON / 9. FRIED FISH / 10. FLAT / 11. RENDEZVOUS / 12. BPM4(Accidental_Ver.)

☆アルバム購入特典者にはボーナス・トラック「BPM4(Accidental_Ver)」がついてきます!

ライブしかイメージしていない

——もう何十回も聴いたんだけど、1曲目の「NICE DAY」のカウントから演奏が始まる瞬間に、すごくトキメキました。

ユキヨ(以下、Y) : うそ? 何で?
オガワナオキ(以下、N) : 地味に始まったでしょ?

——いや、僕は大好きです。ドカーンて始まるよりも、じわじわと。しかも最初のカウントおかしくないですか? 何度聴き返しても拍数が分からない。3カウントで始まって、そのあと3.5くらいで頭に入る。

ヤノアリト(以下、A) : いや、普通に4カウントだよ。
N : いや、アリト3カウントでやってたよ。
A : ええ??
N : いつも3(カウント)じゃない。
Y : いつも3だよー。
A : ええ!!??
N : (笑)。無意識。
Y : 習慣的にそうなってる。
N : 雰囲気ですよ、雰囲気。どっちか思い出せないくらいフリーでやってる。必然です(笑)。CDにカウントを入れるかどうか結構迷ったんだけど、カウントが入ってるほうがグルーヴ感出るねって話になって入れた。

——カウントは絶対入れて正解だと思います。まず頭で拍数が分からないアルバムの始まり方なんて聴いたことがない(笑)。今回の作品は、もちろん全曲通して素晴らしいんですが、CDって1曲目の始まり方と4曲目くらいがまでが非常に重要だと思っていて、アルバムの前半がよければそれで引き込まれる部分がある。そういう意味で1曲目の「NICE DAY」から始まり、ライブでは定番の4曲目「FICTION」と5曲目「BPM4」になだれ込んでいく辺りのカタルシスが作品として成功していると感じました。この曲順は誰が考えたんですか?

A : 吉田さんです(笑)。
N : この並びはね、実は録った順なの。レコーディングをして、MTRに入っている順番通りにmixデモを聴いていた時の並びがこの曲順。その時、曲順どうしようかって話をしていたら、吉田さんに「この曲順がいい。偶然だけど、この順番が一番いい」って言われて。だからこの曲順はある意味偶然。俺らが「録ろう」って言って思いついた順なんです。

——つまり録音する順番が「思いついた順」という部分が重要だったかもしれないですね。

N : 簡単な曲からやっていこう! みたいな(笑)。
Y :  「とりやえず絶対録れる曲からやろう」って。体力使わなくていいやつ(笑)。

——そっちの理由ですか(笑)? でも録音として入りやすい順番が必然的に聴く人の耳にもフィットしやすい流れになっているということかもしれないですね。TACOBONDSって結構拍数が複雑に入り乱れている曲もあるけど、そうと感じさせない部分があると思います。序盤の1~4曲はシンプルで、そこから段々複雑な構造の曲、「あれ、何かおかしいなこの曲」っていう印象が後半につれて深まっていく感じ。

N : そっか。だから複雑な曲が自然と後半に来たのかもね。

——ライブのセット・リストだと4曲目「FICTION」と5曲目「BPM4」の演奏順は逆だなと思って。だからアルバムでは「BPM4」~「FICTION」ではなく「FICTION」~「BPM4」という並びにしたということで、このアルバムは非常に深いなぁと。

全員 : (笑)
Y :  深読みしてる。
N : 偶然です。

——例えば曲作りでも、今の曲順の話みたいに偶然性だったり、発想を優先するといった感じでしょうか?

N : 利率で言うと、反射神経の率がめちゃくちゃ高い。スタジオで合わしたときの感覚。
A : 曲の大元は「それいいじゃん」っていう閃きでいくけど、そこから一つの曲として頭から終わりまで決めるのは、かなり考えながら作ってる。

——そのわりにはコード進行も練られているなと思いますが。

N : コードは後から付けたのもあるし。最初から出していた音をそのまま採用することもある。ギターだとどの音程を使うとか、どのフレーズを使うかは二の次で、3人の組み合わせのグルーヴを考えている事が多い。だからずっと1音で演奏していることもある。で、その1音がそのまま採用になっちゃったのが「BPM4」(笑)。

——「BPM4」は一番TACOBONDSを象徴している曲だと思います。コード・チェンジの仕方も非常に巧妙、しかもライブで盛り上げる。でも曲の構造だけを紐解くと、ずっと同じフレーズっていう(笑)。

A : (笑)。あの…、僕ら本当にひとネタの曲が多いです。
Y :  Bassがアルバムを通してひとネタでゴリ押ししている。聴いてもらうとですね、どれをとっても超簡単フレーズです。今ふと思ったんだけど、私のベース凄い簡単だから、Bass初心者の女の子に凄いいいと思う。

——スコア・ブックとかいいですね。自主のスコア・ブック。

A : 手書きのスコア・ブックとか。Bassだけの。
N : バンドのスコア・ブックにしたら超難しい。どうやって書けばいいのか。

——曲の展開について考えてみると、かなりライブをイメージしているのかなって気がするのですが。

N : ライブしかイメージしていない。ライブでそこそこ経験を積んでからは、完全にライブだけをイメージしている。例えば「FICTION」のリズム・チェンジした瞬間は、自分たちでも気に入っている所で、リズム・チェンジの瞬間が気持ちよくてライブでも盛り上げる。普通プログレとかの要素を取り入れてるバンドがリズム・チェンジした瞬間って気持ち悪いから、最初は乗れないはずなのに、俺らはリズム・チェンジした瞬間が気持ちいい。そこがレアだよねって言われたことがある。

——確かに。でもプログレとかって言われてるけどバンドのイメージとしてはプログレの印象は全く感じさせない。

A : まあ、プログレ通ってないからね(笑)。
N : プログレっぽくなると。曲としてはボツになる。「これプログレっぽすぎんだろ」ってアリトと笑ったりして。
A : 逆にその笑っちゃう感じが好きで格好いい時もあるんだけど。
N : 笑えて面白い時もあるね。

——プログレ・ベタみたいなことですか(笑)。そうすると自分たちで曲を納得したものに完成させる基準値はどこにあるのですか?

N : プログレっていうのは具体例で出しただけで、基準値は明確には決めてないかもしれない。その日の体調で決まることもあるし(笑)。
A : 3時間で出来る曲もあるし、1年経っても出来上がらない曲もある。

——それは演奏した瞬間にOKとなるのか、後で聴き返してOKにするのか、どちらでしょうか?

N : 多分見る人が見たら凄い勿体無いと思われると思うんだけど、俺らのスタジオに入っている時間て、半分くらい聴いてる時間なの。

——嘘!? 半分も聴いてるの?

Y : あ、聴かないの? 私このバンドしかやってないから分からない…(笑)。
N : 演奏したのを録って、その場で聴く。聴いて「やめよう。ボーツ! 」みたいな(笑)。その繰り返し。
A : 最初に音出している時は難しいから自分で精一杯。どこがどうなっているのか分からない。
Y :  アリトはここが4拍でここが5拍ていうのを刻むのが必死で、他のパートは聴いてないの。
N : 組み合わさった時のグルーヴは、全体で聴かないと分からない。例えばハイハットの刻みを指針にしよう、それを聴きながら各々が演奏して、合体させて、曲になる。

——だとしたら凄いエンターテイメントに根ざした作り方ですね。演奏している瞬間が気持ちいいという作り方のアーティストの方が多いと思う。演奏している自分自身は気持ちいいかどうかは判断できないってことは、その先というか、聴いている人の側に立って判断しているということですよね。

N : でも演奏したものを最初に聴くのは自分たちなんで、自分らがそれを聴いて良いかどうかだから。演奏して聴いて、それを繰り返してその良さが分かってくる。
Y :  聴いた時の印象が弾いてる時に段々分かって、「こういう風に聴こえてるんだな」っていう風に感じながら、少しずつ良くなっていく。
N : たまにそれでラビリンスにはまって、二度と再現出来なくなる(笑)。作り方からしてミニマル・ミュージックみたいな感じなのかな。聴いてるうちにグルーブが分かってくるっていう感覚。作曲の仕方がミニマル。で、最後まで分からないで終わる時もある。「無理だ」みたいな(笑)。

構成要素は複雑なんだけど、それを分かりやすく伝えたい

——ボーカルだった佐々木さんの脱退というのが、 今回のアルバムの方向性を決定づけたと感じるのですが、ボーカルが抜けた時、 新たにメンバーを入れようとは思わなかったんですか。

N : 佐々木が抜けるって言って、3週間後くらいにライブが決まってたの。俺はその時、意地でもキャンセルしたくなった。意地でも絶対続けるって思って、3週間後のライブに向けてしょうがないから3人でスタジオ入って。

——2009年の5月頃ですね。

N : YUKIYOが歌ったり俺が歌ったり。それで録音したのを聴いたら、これは無理だなって思って(笑)。それでゲスト・ボーカルというのを思いついて、ボーカル無しと有りの音源を2枚渡して5人にオファーした。最初にお願いしたbossston cruising maniaの鹿島さんが凄い格好よくて、味を占めて暫くゲスト・ボーカルで続けようと思った。PANIC SMILEの吉田さんにもお願いして。そしたら吉田さん何故かピアノで参加して(笑)。それはYoshida Hajime+TACOBONDSで音源になってます。その後(元)マヒルノの赤倉君、墓場戯太郎さん、GROUNDCOVER.の望月さんにお願いした。

——ゲスト・ボーカルで暫く活動を続けて結局3人に戻ったわけですが、それは何故ですか。ボーカルを入れるってうのはバンドのキャラクターを決めるので、現実的に難しかったということでしょうか。

N : ゲスト・ボーカルも面白かったんだけど、パーマネントなメンバーでないとツアーも行けないし曲も作れない。そのままでもネクスト・ステップに行けないから。一応ボーカル募集というのはサイト上でしてたの。応募もあった。でもスタジオ入る前に、3人でいいんじゃないかという話になって。その人たちには悪いけど、俺らの中で結論が出ていて。

——ファースト・アルバムは佐々木さんのボーカルが中心になっていて、そういう意味ではストレートなロックアルバムに感じるんですが、今作はよりシンプルでありながら、ちょっとCLUB MUSICっぽい印象も受けます。ボーカルが抜けて3人になったという経緯がよりCLUBっぽいサウンドを形付けていったのかなと思うのですが。

A : ああ〜、そうなんだよね! さーちゃん(佐々木さん)が抜ける少し前くらい、ファーストが出てから2年後くらい(2008年)に、変拍子に飽きてきて、何かこう「8BEATやりたいな」みたいに感じてた。その時ちょうどTHE MUSICとか80’sっぽい四つ打ちのサウンドが流行りだして「あんな四つ打ちなんか一生やるか! 」って思ってたんだけど、TACOBONDSっぽいアプローチで8BEATも四つ打ちもやっちゃえばいいんじゃないってみんなで話してた。
N : その時期ダンス・ミュージックにしたいねって話が結構あったね。
A : あとその頃から、変拍子バンドが増えてきて、じゃあ逆に8BEATやろうぜみたいな気持ちがあった。
N : 時を同じくして、俺も変拍子って言葉が使いたくなくなって、もう変拍子って言葉が好きじゃない。それを売りにするのは凄いダサイなと思って。何かをディスってるわけではないんだけど、変拍子にしたくて作った曲なんて最悪じゃん。結果として変拍子になった曲しか俺らはやってないぜっていうのをアイデンティティにしたいから。

——つまり変拍子自体を楽しむ姿勢にアンチであると。

N : 「こんなに変だぜ、凄いだろ」っていうのは格好悪いなって思ってた。何かこう、出てくるフレーズで「これ格好いい」って思ったのが単純に変拍子が多かっただけで、そこは頭で考えて作ってるというよりも、スタジオで出したのがたまたま変拍子だったということですね。あとファーストが出るちょっと前くらい(2005年頃)っていうのは、一番オルタナ・バンド界隈で変拍子が流行してたの。それで予想通りそのあと四つ打ちが増えて、俺はそれに対して、「俺は違う。俺は常にそこがスタンダードであったんだ」っていうのがあった。

——CLUB MUSICっていう印象は、いい意味で踊りやすいビートだし、複雑にも感じない。でもライブ見ると決して単純な構成ではないですよね。

N : でもさ、俺は割とこのバンドの曲ってシンプルだと思ってる。構成要素は複雑なんだけど、それを分かりやすく伝えたいっていう気持ちがある。
A : あとは、技術的に出来ないっていう側面もある。これ以上先に行くと、本気のプログレだったりアバンギャルドな形になるのかもしれないけど、自分たちが出来るマックスの技術で作っている。そのギリギリのラインがポップになってる理由なのかなって思う。
N : 俺らが何でも出来るバンドだったら是巨人みたいになってると思う。
一同(笑)
N : 是巨人、すげー好きだけどね!(笑)

——そこでマニアックにになり過ぎない、ポップな形に落とし込んでいるのが、幅広いファンから受ける、人気の理由なんじゃないですか。

Y : (笑)。人気あるのか?

——そう言うと思って敢えて言ったんですけど(笑)。でもCD聴いて改めて思ったのは「変なことやってて面白いでしょ」という姿勢から何段階も上の部分で作り込まれてて、複雑でありながらも、技術的な理由と言えども落とし所としてシンプルに、踊りやすい楽曲に仕上げているので結果的に奥行きが出ている。音楽的に入りやすいし奥行きも感じる。だからねぇ、売れてほしいなって(笑)。

Y : 売れるかなー。大学生に買って欲しい。

——僕が学生でこのCDが視聴機に入ってたら、最初のカウントで迷わず買う。

一同 : (笑)

——CDだけだとライブ以上にYUKIYOさんのボーカルが印象として強く残るので、そこもポップな印象を濃くしている。相対性理論に対するアンダーグラウンド界からの回答か? って思ったり。

A : (笑)。相対性理論ももともとアンダーグラウンドだけどね。
N : 俺実は相対性理論めっちゃ好き(笑)。
Y : そうなんだ~。
N : 例えば次の作品はそのぐらいの歌モノにしちゃうとか、できたらいいな~。

——3人で活動を続けて、何が出来るかという模索の結果が、今作を決定付けたということだと思いますが、今後もこの3人で続けていくのでしょうか。

N : そうだね。これからはボーカルっていう部分をいかにフィーチャーできるかとか、完成形というのはないから、この3人でもっと突き詰めていきたいですね。

LIVE SCHEDULE

TACOBONDS『NO FICTION』レコ発
2011年7月6日(水)@東高円寺二万電圧
w / MASS OF THE FERMENTING DREGS / OUTATBERO / ときめき☆ジャンボジャンボ / (Special Opening Act)CAPTAIN SENTIMENTAL+TACOBONDS

Tokyo BOREDOM in Kyoto
2011年7月23日(土)〜7月24日(日)@京都METRO
w / 非常階段 / FLUID / ゆーきゃん / BED / DODDODO / ふつうのしあわせ / SuiseiNoboAz / PANICSMILE / and Young… / BOSSSTON CRUIZING MANIA / イデストロイド / VELOCITYUT / YOLZ IN THE SKY / GROUNDCOVER. / オシリペンペンズ / worst taste / OUTATBERO / シャムキャッツ / Alan Smithee's MAD Universe / ULTRABIDE / odd eyes / TACOBONDS / Limited Express (has gone?) / TRIPMEN / キツネの嫁入り / V/acation / したっぱ親分 / skillkills …and more bands!!!!!

TACOBONDS PROFILE

ARITO YANO : drums
NAOKI OGAWA : guitar / vocal
YUKIYO : bass / vocal

2003年2月より現在のメンバーとの活動を開始
2005年5月 自主レーベル『nonsense fiction』より音源を発表
2006年3月 disk union DIW より1stアルバムをリリース
2009年1月 東京BOREDOM! の企画に参加
2009年4月 オリジナルVo脱退、現在の3人編成となる
2011年6月 2ndアルバム 『NO FICTION』をリリース

[インタヴュー] TACOBONDS

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