日々の生活のなかには、ただそこに音があるだけで救われる瞬間がある。阿部芙蓉美とゆうらん船の音楽は、まさにそんなときに鳴っている音楽だ。バンドとソロ、世代の違いはあれど、どちらも人間のままならなさを捉え、その感覚を音に潜ませ、漂わせたまま手から放つ。そこには音楽に対する希望や祈りが含まれているように感じる。今回、〈SHIBUYA SOUND REVERS2025〉での共演を果たす、阿部とゆうらん船の内村イタルのふたりを招き、対談を行った。お互いの楽曲に抱くイメージや制作において心がけていること、そして音楽と…
2021年12月に結成されたkurayamisakaは、今や国内外で最も注目されているロック・バンドへと成長を遂げている。EP『kimi wo omotte iru』から約3年を経て、彼らはついにファースト・アルバム『kurayamisaka yori ai wo komete』を完成させた。12曲・45分超のこの作品には、バンド・メンバーに共通する“ある想い”が込められているという。サブスクが主流のいま、なぜ彼らはあえて“アルバム”にこだわるのか──。その背景を探るべく、kurayamisakaの中核で…
京都大学のサークル仲間の先輩、後輩で結成されたyoeiというバンドは、京都の次の新しい潮流の柱になりそうな重要な存在だ。彼らのファースト・アルバム『さかいめ』が、〈SUBMARINE RECORDS〉からリリースされた。彼らのサウンドの特徴は、ロック、ポップ、フォーク、サイケデリックのエッセンスを自由に取り入れながら鳴らす、耳馴染みの良いメロディ。そこで作詞作曲を担う福田宗一郎(Vo./Gt.)が描くのは、誰にでも持ちうるであろう“普通”の景色や感情だ。yoeiの音楽性をいち早く評価したライター、岡村詩野が…
トニセン(20th Century)のバック・バンドを原型に、江沼郁弥(Vo./Gt.、元plenty)を中心として2023年に結成されたDOGADOGA。藤原寛(Ba.、元andymori)、渡邊恭一(Sax/Cl./Fl.)、古市健太(Dr.)というユニークなメンバーが揃い、身も心も開放させるようなラテンのリズムでリスナーを踊らせている。そんな彼らが〈DAIZAWA RECORDS〉から最新EP『あっ!』を発表した。刹那的な高揚を抱えたまま一定の速度で最後まで駆け抜けていく、夏の夜をいっそう彩ってくれ…
25年、つまりは四半世紀という歳月を、“妖怪ヘヴィメタル”という唯一無二の旗を掲げながら駆け抜けてきた陰陽座。メタル冬の時代に船出し、時代に流されることなく“自分たちの音楽”を貫いてきたバンドは、どのようにこの道を歩み続けてきたのか。そして、最新作『吟澪御前』に込められた思いとはいったいどういうものなのか。陰陽座の音楽的核を担う瞬火に、その軌跡と現在地、そして未来について話を訊いた。...…
aldo van eyck (アルドファンアイク) のライブには毎回驚かされる。ただし、その驚きの質は毎回異なる。先月ついに届けられた待望の3rdアルバム『das Ding』は、ポストパンクからオルタナ、ジャズ、R&Bまでを混然と放り込んだ、全20曲・71分の大作だった。そのリリースツアー東京公演は、随所に逸脱を孕みながらも、得も言われぬ統一感を感じさせるステージだった。あの一本筋の通りかたは、あらかじめ意図されたものなのか。それとも、バンド自身にとっては「まだ崩し足りていない」途中経過にすぎないのか。今回…
いま、Hammer Head Sharkはめまぐるしい進化の途上にある。2018年、ながいひゆ (Vo/Gt) と福間晴彦 (Dr) を中心に結成した彼らは、メンバーの入れ替わりを経て、現メンバーは太平洋不知火楽団などのサポート経験を持つ後藤旭 (Ba)、自身のバンド・GLASGOWでも活動する藤本栄太 (Gt) という最強の布陣で構成されている。音源はもちろんのこと、とりわけライブに定評のある彼ら。その噂は波紋のように広まり、2024年10月にはカナダ各地を回るツアー〈Next Music From T…
ロックバンド・keinが、次なる地平へと踏み出した。前作『PARADOXON DOLORIS』で強烈な個性を提示した彼らが、メジャー2nd EP『delusional inflammation』でさらにその輪郭を広げる。メンバーそれぞれが、自身のルーツや衝動、そして音楽への矜持をもって“メジャー感”と対峙し、あくまでkeinらしい歪さと美しさを保ったまま、さらにダークでラディカルな世界観を展開している今作。その制作の舞台裏を、眞呼(ボーカル)、玲央(Gt)、aie(ギター)、攸紀(ベース)、Sally(ドラ…
the dadadadysが、結成3年目にして初のCDリリースとなるファースト・アルバム『+天竺』(読み:プラステンジク)をリリース。FRUITYを想起させるパンクからオルタナ、既発曲のリアレンジまで、てんこ盛りの一枚だ。そんな本作には、混沌とした時代を生き抜くために、上も下もわからないままでも前を向いて足を動かしていく──そんなバンドの泥臭い姿勢が色濃く反映されている。冒頭曲“GO jiGOku!!”の「生きては恥晒し (我々は我々だ)」という一節からも、恥をかくことをおそれずに、不恰好でもがむしゃらな…
インディーシーンで着実に実力をつけてきた、2人組バンド、なきごとのメジャー・デビューEP『マジックアワー』が完成した。空が魔法のように染まる一瞬を切り取ったこの作品には、恋の温度差を描く“短夜”(MBSドラマ特区「彩香ちゃんは弘子先輩に恋してる2nd Stage」エンディング主題歌)、愛と創作を重ねた“愛才”(深夜ドラマ「それでも俺は、妻としたい」のオープニング主題歌)、などどの楽曲にも繊細な視点と確かな物語が息づいている。「ポップだけどロックでありたい」。そんなバンドとしての美学が、今作ではよりくっきり…
ゆうらん船が〈カクバリズム〉移籍後初となるアルバム『MY CHEMICAL ROMANCE』をリリースした。『MY 〇〇』3部作の締めくくりであり、同名のバンドも脳裏によぎるタイトルを冠した本作は、DTMを駆使した歪んだノイズの質感や、ディストーションまみれの轟音ギター全開のバンド・サウンド(=ケミカル)と、永井秀和(Pf)の耽美なピアノと情緒的な歌詞が描く物語(=ロマンス)が入り混じった、バンドの新たな指針となる一枚だ。 ...…
結成25周年を迎えたART-SCHOOLが放つミニ・アルバム『1985』は、2003年に発表された『SWAN SONG』を“今”の感覚で再構築するという試みから生まれた作品だ。荒々しさや切実さのなかに、月の光のように静かに射し込む優しさや希望──そんな余韻を纏った本作は、これまでの旅路を振り返ると同時に、新しい景色へと向かう意志に満ちている。そこには、木下理樹(Vo. / Gt.)の創作の核にある“敬意”と“ときめき”が息づいている。自身の感性を決定づけた音楽や映画との出会い、心を奪われたあの瞬間のきらめ…