2022/05/16 19:00

ポップとエッジーさのバランス、今作は、ポップの番です──羊文学『our hope』が望むもの

塩塚モエカ(羊文学ヴォーカル / ギター)

まさに快進撃とも言える活躍を見せるバンド、羊文学。『平家物語』のオープニング・テーマとなった“光るとき”をはじめ、さまざまな場面において、そのサウンドがより多くの人々に触れる機会も格段に増えている。そんな現在の彼らを捉えた華やかなニュー・アルバム『our hope』がここにリリースされた。OTOTOYでは本アルバムをハイレゾ配信するとともに、ここに塩塚モエカのインタヴューをお届けしよう。

アルバム『our hope』ハイレゾ配信中

先日公開されたばかりの収録曲「くだらない」のMV
先日公開されたばかりの収録曲「くだらない」のMV

INTERVIEW : 塩塚モエカ(羊文学)

インタヴュー&文 : 井草七海
写真 : 西村満

正直に告白すると、今作を再生しながらちょっと涙ぐんでしまった。日に日に悪くなっているように感じられる世界と隣り合わせで、自身のちっぽけな生活をあくせくと回している自分……どっちを向いたって希望を信じ切れないこの頃にあって、今作から聴こえてくる澄み切ったサウンドはまるで曇天の隙間から降ってくる真っ白な光のようにさえ思えた。『our hope』──“わたしたちの希望”と名付けられた今作は、塩塚モエカが語っているように、世界を呑み込もうとする闇から光のほうへと走って逃げていくように今という瞬間を生きる、そんなすべての人々のためのサウンドトラックと呼べるかもしれない。透明だけど、決して無傷ではない。喩えるなら、泥の中から懸命にもがいて顔を出した蓮の花の美しさのような……そういう清らかさが今作にはある。

今やお茶の間のTVからもその音が聴こえてくるようになり、音楽シーンのみならずファッション、映画と各所からの引き合いもひっきりなしの羊文学。メジャー・セカンド・アルバムとなる今作『our hope』は、波に乗るいまの彼女たちが送り出す、満を持しての勝負作。ソング・ライティング、作詞から、バンドとしてのサウンド・メイクやアレンジに至るまでどこを取っても一段どころか二段以上レベルアップした印象だ。収録曲は全てこれまでになくキャッチーなキラー・チューン。タイアップ曲も盛りだくさんだ。しかしながらそこに込められた想いはどれも真摯であたたかい。主題歌を務めたアニメ「平家物語」で描かれた、運命に追われる平家の人々に想いを寄せたナンバー「光るとき」は、書き下ろしの主題歌としてだけでなく、同時に、今という時代を懸命に生き抜く人々の生命の輝きへの祈りとしても響く今作屈指の名曲だ。

羊文学が今、私たちにささげる「祈り」とは、「希望」とは。ヴォーカル・ギターにしてバンドのブレーンでもある、塩塚モエカに話を聞いた。

もっと多くの人に届くものを作りたい

──前作はタイトル通りバンドのパワーがそのままパッキングされたような、躍動感のある作品でしたね。と同時に、パンデミックが始まった頃に作られたということもあってか、歌詞には夢と現実のあわいを行ったり来たりするような表現も印象的でした。一方、今作『our hope』は、前作に比べるとより明瞭に、今という瞬間にフォーカスを当てているように感じます。

塩塚:今作の楽曲はここ2年くらいの間にできた曲がほとんどなのですが、その2年というのは、自分にとっても大きな変化があった期間で。もともと東京の郊外の方の実家に住んでいたのが、引っ越しをして、都心の方で一人暮らしをするようになったんです。これまで住んでいた、自然に囲まれていてすぐに現実逃避できるような場所とは真逆の、家の中にいても現実を見ざるを得ないという環境に暮らすようになったことが今作には投影されていると思います。だから、今という現実にフォーカスが当たっているのかも。

──3人のバンド・サウンドであることには前作から変わりはないですが、音像は大きく変わっていますよね。前作が、ある意味でバンドとしての泥臭さを重視した作品だとすると、今作の音はとにかく澄み切っていてまるで真っ白な朝の光が降ってくるようにも感じました。特にギターは、ジャキジャキはしているけれどすっきりと聴き手の体に染み込んでくるような響きの感覚があります。音自体はたくさん重ねているけれど、それぞれの音の間に心地よく余白があるという。

塩塚:そこはまさに今作で試行錯誤したところで。今までは本当に3人だけでサウンドも作ってきていたのですが、今回は他の人の力を借りるというトライをしました。まずギターが、ライブでお世話になっているローディーさんをレコーディングにも呼んで、アンプもこれまでとは違うものを何台か持ってきてもらって使いました。ドラムの音も、テックさんを入れて調整をしてもらっています。ミックスも変わっていますね。3曲目の「パーティーはすぐそこ」っていう曲を作っていた時に、私が「突き抜けてどポップにしたい」ということを繰り返し言っていたんですが、エンジニアの方がそれを今のバンドのモードとして汲み取ってくださって、全体的に抜けのいい音にしてくれたのが大きいと思います。今作にはタイアップの楽曲も多く収録されることもあったので、もっと多くの人に届くものを作りたいなとも思って。なので、1曲1曲がパンチのあるものになるよう目指して作ったという感じですね。

──他の人の力を借りるというトライは、制作前からもともと考えていたのでしょうか?

塩塚:そうですね。今まで全部自分達でやってきたところを、今回はプロデューサーさんを入れることにもトライしたいとは思っていたんです。結果的には入れられなかったんですけど。とにかく、外部の人の力を借りて、新しいアレンジの方向にトライしてみようとは思っていました。実際にやってみて、どっちがいいのかなと悩むことももちろんあったんですけど、挑戦っていう意味ではやりきった感覚があります。

この記事の筆者
井草 七海

東京都出身。2016年ごろからオトトイの学校「岡村詩野ライター講座」に参加、現在は各所にてディスクレビュー、ライナーノーツなどの執筆を行なっています。音楽メディア《TURN》にてレギュラーライターおよび編集も担当中。

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