コーネリアスの右腕、美島豊明が奏でるテクノ・ポップ――mishmash*Julie Watai、最新作から6曲をハイレゾ配信

コーネリアスのサウンド・プログラマーとして知られ、2008年には米グラミー賞にもノミネートされた実績をもつ美島豊明(イラスト右)。音楽、映像、ウェブサイトといった総合的なプロデュースを担当するマスヤマコム(イラスト左)。元アイドルでありながら、現在はヴォーカリスト、写真家としても活動するJulie Watai(イラスト中)。この3人からなるプロジェクト・チームが、mishmash*Julie Wataiだ。

OTOTOYでは、2月1日(土)より行われる「美島豊明のLogic教室 Season 2 ~アレンジ実践編~」の開催を記念して、彼らの最新作『セカンド・アルバム』から6曲を収録した"OTOTOY Edition"をハイレゾ配信(24bit/96kHzのwav)。さらに、アルバムの中から「起電力ロマンス」をフリー・ダウンロードでお届けします(2月6日まで)。ポップでキュートなテクノ・サウンドの上に、ヴォーカロイドを思わせるJulie Wataiの歌声が見事にハマった今回のアルバム。チップチューンをベースにしながらも、美島が組み立てる楽曲はゴージャスな響きを持っています。美島豊明とマスヤマコムに自由に語ってもらったインタヴューと併せてどうぞ。

mishmash*Julie Watai / セカンド・アルバム (OTOTOY Edition)
【配信形態 / 価格】
WAV(24bit/96kHz) まとめ購入 : 750円 (単曲は各150円)
mp3 まとめ購入 : 500円 (単曲は各100円)

【Track List】
01. 起電力ロマンス
02. 回れ右、逃げるんだ
03. ハートブレイカロイド
04. Electromotive Romances
05. Do a 180
06. Heartbreakeroid

>>「起電力ロマンス」のフリー・ダウンロードはこちら

INTERVIEW : 美島豊明 × マスヤマコム

左から : 美島豊明、マスヤマコム

聞き手 : 菅原英吾

あそこまで耳に残るメロディーって、いまどき少ない

――今回配信されるmishmash*Julie Wataiの『セカンド・アルバム』について、まずは制作の経緯から訊かせてください。

マスヤマコム (以下、マスヤマ) : じつはmishmash*Julie Wataiとしての活動はファースト・アルバムの『mishmash*Julie Watai』でいったん終わりにしようかな、と思っていたんです。実際、Julieちゃん以外のヴォーカリストでレコーディングも進めていたし。でも、ファースト・アルバムの後にシングル的な位置づけで配信した「起電力ロマンス」という曲が予想以上に好評だったんですよね。ミュージック・ヴィデオがYouTubeで6万回以上も再生されたり、有線の問い合わせランキングに入ったり、「この曲はCDで発売しないの?」って尋ねられたり。でも僕、いまCDってほとんど買わないんですよ。どうですか?


「起電力ロマンス」のミュージック・ヴィデオ

――そうですね。買わなくなりましたね。

マスヤマ : ですよね。自分が欲しいと思わないものを作って売るのはどうなのかなと。それでCDを作って売るのはやめました。でも、何らかの形でパッケージ、モノを買いたいという人はいるわけだから、それはそれで作りましょうと。で、CDはついてないけど、それを"アルバム"と呼んでみるのはどうかなと。

――なるほど。『セカンド・アルバム』というタイトルは直球に見えるけど、じつはひねりの効いたタイトルなんですね。

マスヤマ : そもそも「アルバムって何?」っていう話もあって。いま思うと、このヴォリューム感はアルバムというより17センチLP盤という感じもしますが。

――たしかに。でも最近は「LPって何?」っていう人もいるかもしれませんね。

マスヤマ : 一応説明しておくと、アナログ・レコードの時代にあったんですよね。サイズはシングル盤と同じ17cmなんだけど、回転数を遅くして収録時間を長くしたものなんです。シングルだと400円で2曲しか入ってなかったけど、LPだと600円くらいで4曲入ってるからお得っていう。

――そうですよね。さきほど「起電力ロマンス」が大きな反響を得たと言っていましたが、それはなぜだと思いますか?

マスヤマ : プロモーションがうまく噛み合って、SNSで口コミが拡散できたというのもあるし、ミュージック・ヴィデオに起用したタカハシヒロユキさんのイラストの魅力というのもあったでしょう。でも一番は原曲のよさじゃないですかね。(※「起電力ロマンス」は、YouTubeやSoundCloudに個人で音源をアップしている弁慶のカヴァー曲)

――原曲の魅力っていうのは、具体的にどこにあるのでしょう?

美島豊明 (以下、美島) : あのサビのリフレインが頭から離れないっていう。

マスヤマ : あそこまで耳に残るキャッチーな歌詞とメロディーって、いまどき少ないですよ。

――〈起電力ロマンス、ロ・マ・ン・ス〉の部分ですね。

美島 : そう。「お・も・て・な・し」じゃないけど(笑)。

――たしかに似てますね(笑)。

美島 : 1音ずつナカグロで区切って(笑)。

――正直、私はJulieちゃんの歌が入ったヴァージョンを聴いて、初めて原曲のよさに気づいたんですが、マスヤマさんはどうしてこの曲を発見できたんでしょう?

マスヤマ : それはもう、長年音楽を聴いてきた自分の耳を信じてた。そこは誰が何と言おうと揺るぎない。まあ、さすがに美島さんが「これはちょっと…」って言ったら、考え直しただろうけど。

マスヤマコム

――なるほど。ではその「起電力ロマンス」のプチ・ヒットを受けて、アルバムの制作が決定し、マスヤマさんから美島さんに曲の発注が、という流れですか。

マスヤマ : いや、発注って感じでもなかったよね?

美島 : そうですね。

マスヤマ : 「やってみない?」みたいな。

――返事は?

マスヤマ : 「どんな感じがいいですか?」っていう返事ではなかった。ということは、美島さんの中には何かやろうとしてることがあるんだなって思った。

美島 : あははは(笑)。読まれてる。

マスヤマ : 3年近く一緒にやってきて分かったことなんだけど、美島さんって寡黙な人だけど、決して遠慮するタイプの人ではないから。

――美島さんとしては何かアイディアがあったんですか?

美島 : 「起電力ロマンス」がアップテンポで明るい曲だったから、逆にゆっくりめの曲とか、キーがマイナーの曲なんかをやろうかなと。

曲を作るときの着想なんて、そんなものだったりするんですよ

――そうなんですね。Julieちゃんのキャラはどのように活かしましたか?

マスヤマ : ファーストを作った頃って、まだJulieちゃんの特性を把握しきれてなかったし、あえてJulieちゃんが好きなゲームや電子工作といった要素は抑えていたんです。でも「起電力ロマンス」という曲をやってみて、あ、やっぱりこっちなんだなっていう方向性が見えた感じがした。

Julie Watai

――それでチップチューンに挑戦してみた?

美島 : 挑戦ってわけじゃないけど。僕は昔、シンセサイザー・オペレーターの仕事で、ゲームの曲をやったことがあるんですよ。ゲームボーイだった。

――そうだったんですか。

美島 : 曲を作ってゲーム会社に渡すじゃないですか。それを実装してもらうと、和音は潰れちゃうし、鳴るタイミングもバラバラになって返ってくるんですよ。だから、そういうのをもう一回やりたいという気持ちはずっとあって。

――とはいえ、いまの制作環境だと、普通に作ってもチップチューンにはならないですよね。

美島 : うん。だから「回れ右、逃げるんだ」の冒頭部分では、シンセサイザーの一番基本的な矩形波とノコギリ波を使いました。フィルターはかけずに。

マスヤマ : でも、ゲームボーイのスピーカーだとジャリジャリした音に聞こえるけど、スタジオのモニター・スピーカーってすごくハイファイだから。

美島 : そう。それで「違う」ってJulieちゃんに言われた。「これチップチューンじゃないですよ。ゲームボーイ感がないとダメなんです」って言われて(笑)。

――がっくりですね(笑)。

美島 : だから逆に「ハイファイなチップチューン」をやってやろうと思った。チップチューンの人たちが使わない、生っぽいストリングス・アレンジをあえて入れたり。あとはミュージカルの要素も入ってます。

――ミュージカルですか。それはまたどうして?

美島 : まあ、たまたま曲を作る前に「レ・ミゼラブル」(※2012年公開のミュージカル映画)を観て、面白いなあと思ったからなんですけど。

――たまたまなんですね。

美島 : 曲を作るときの最初の着想なんて、そんなものだったりするんですよ。

――ミュージカルのどんな部分に面白みを感じたんですか?

美島 : ミュージカルは台詞の部分も歌になるじゃないですか。普通に人がしゃべるような言葉を、へんてこな節回しで歌うっていう。

――たしかにミュージカルって、見慣れてないと違和感あったりしますよね。

美島 : いろんな音楽があるもんだなってあらためて思って。それで「回れ右、逃げるんだ」の中盤のコード進行を作り始めたんですよね。

――歌詞だと〈ここ 暗いね ライト!〉から始まる部分ですね。たしかにドラマチックな雰囲気があります。

美島 : それをマスヤマさんに渡したら、すごくイメージ通りの歌詞がついてきた。

――mishmash*は歌詞より曲を先に作るんですよね。具体的なイメージを伝えたんですか?

美島 : いや、全然。

美島豊明

マスヤマ : 美島さんと私の間で歌詞の打ち合わせをすることは、ほぼ皆無ですね。今回は最初から"チップチューン"というキーワードがあったので、「チップチューンって8ビットのゲーム機の音だよね。8ビットって十進法でいうと256だよね。で、美島さんから上がってきた曲のどアタマのメロに〈にひゃく、ごじゅう、ろっく〉ってぴったり合うじゃん。ラッキー(笑)」という自分的な流れで、スルスルと書けました。

――そうなんですね。

マスヤマ : 私は最近のゲームはまったくやりませんが、8ビット機の頃のゲーム体験は体にしみついてるので、曲に合わせて「ここは外を駆けまわっている。ここからは土管で地下に潜った」というイメージがすぐに湧きました。〈ここ 暗いね ライト!〉の部分、美島さんはミュージカルから発想したということですが、ゲームもミュージカルも、起承転結といった物語構造の基本は同じなので、ゲームから発想した歌詞でも合うってことじゃないですかね。

――なるほど。「回れ右、逃げるんだ」っていうタイトルは後向きにも見えますね(笑)。

マスヤマ : ゲームの世界だからといって「勝利を信じてがんばろう」なんていう歌詞は、私は絶対書かないので(笑)。

美島 : ああー。そういう歌詞は僕も苦手。

――そうなんですか。でも次の曲「ハートブレイカロイド」は失恋の歌ですよね。そういうのって苦手な部類なんじゃないですか?

マスヤマ : うん。でもカヴァー曲とはいえ「起電力ロマンス」で恋愛ソングをやってるからね。美島さんの作ってきた曲もちょっと哀愁のあるマイナー調だったから、まあ定石と言えないこともない。あ、そういえばこの曲、イントロがずいぶん長めですよね。

美島 : そうですね。

マスヤマ : それは意図的に?

美島 : はい。この曲は長い曲が作りたくて、わざとそうしたんですよ。展開もAメロ→Bメロ→Cメロ→Dメロ→Eメロ→Eメロ→Eメロ…みたいな。

マスヤマ : ああ、それでかな。歌詞も「回れ右、逃げるんだ」みたいに展開が多いものではなくて、淡々とした感じになってますね。失恋の歌詞って、キレイな落ちはありえないと思うので、タイトルで逃げた感じでしょうか。

――逃げたというと?

マスヤマ : Julieちゃんの声がヴォーカロイドっぽいっていうのもあるんだけど、失恋し続けるようにプログラムされたヒューマノイドっていうのがいてもいいかな、と思って『ハートブレイカロイド』という造語を作ってみました。

――なるほど。よくヒット曲に使われる王道のアレンジとして、「Aメロ→Bメロ→サビ→Aメロ→Bメロ→Cメロ→大サビ」みたいな定型があるじゃないですか。そういうことは美島さんは考えないんですか?

美島 : 一切考えないですね。「もっと普通に」って言われると「ちくしょう!」って思ちゃいます(笑)。

――コーネリアスでもそうなんですか?

美島 : 小山田くんもひねくれ者だからなあ。いつも定石から外れようとしている。

――定石の外しかたがお洒落ですよね。

美島 : そうそう。センスがいい。僕の場合、理屈で考えちゃうんだけど。

日本でいま一番熱いマーケットってコミケだと思う

――mishmash*はこれまでずっとインディーズで活動してきましたよね。インディーズで作品を発信することのメリットとデメリットってどの辺にあるんでしょう?

美島 : やっぱり少人数だから、関わっている人みんなの顔が見れるというのはいいですよね。「あ、この人ってこんなこと考えてるんだ」って分かる。低予算かつ少ロットでもこんなにちゃんとした商品を作れるんだな、って分かったのもよかったです。

マスヤマ : 作りたいものを自由に作れるのはインディーズのいいところだけど、それを広めていく面では苦戦することも多いですよ。だからいま重視しているのは、どう作るかっていうことよりも、作ったものがどれだけの人に届くかってことですね。曲を作って出しても、誰にも届かないんじゃ意味がないから。たとえば、「起電力ロマンス」以降はすでにそうしてるんだけど、これからは他の曲もYouTubeでフル尺を聴けるようにするつもりです。

――従来の物作りやマーケティングのやり方が、どんどん通じなくなっていますよね。

マスヤマ : 広告にお金をかければ何でもかんでも売れるってわけでもないし、かといっていいものさえ作ってれば売れるっていうわけでもないですよね。

美島 : 日本でいま一番熱いマーケットってコミケだと思うんだけど。

――えっ、美島さんコミケに行くんですか?

美島 : いや、こないだ初めて行って、もう驚愕でしたね。自分たちで作った作品を自分たちで売るわけじゃないですか。買うほうも売るほうも一緒になって、すごい熱気で圧倒された。これはもう普通のメーカーが普通に物を作ってても儲からないはずだと。

――どうしてコミケに行こうと思ったんですか?

マスヤマ : 社会見学の一環としてでしょ?

美島 : うん。まあ、Julieちゃんから話は聞いていて、ずっと行かなきゃと思ってた。でも「夏コミは暑すぎて行ったら死にますよ。行くなら冬コミの午後から行きなさい」って言われてて(笑)。その時間帯はずいぶん人出が減ってたんだけど、欲する若者たちの勢いっていうか、そういうのをすごく感じた。

――Julieちゃんがこのプロジェクトにもたらした最大の影響は、美島さんにコミケを教えたことだったりして(笑)。

美島 : そうかもしれませんね(笑)。

――最後に、2月1日(土)と3月1日(土)に"オトトイの学校"で行われる「美島豊明のLogic教室」の受講生にメッセージがあればお願いします。

美島 : 受講生の皆さんがどのくらいの内容を期待しているのか、予測できてないところはあるんですけど、質疑応答の時間も設けようと思っているので、興味のある人はぜひ参加してくださいね。

――Logic以外のことを質問してもいいんですか?

美島 : いいですよ! 僕に答えられる範囲のことなら、恋愛相談でも何でも!(笑)

美島豊明に楽曲アレンジを学べる講座がスタート!!

オトトイの学校では、2月1日(土)、3月1日(土)の2回にわたり、「美島豊明のLogic教室 Season 2 ~アレンジ実践編~」を開講します。この講座は、Appleの音楽制作ソフト"Logic"を使いながら、楽曲アレンジの工程を丁寧に解説していくというもの。受講者のみなさんは、美島から与えられる課題曲に挑戦しながら、すぐに使える実践的なアレンジのテクニックを学ぶことができます。講座には、司会としてマスヤマコム、生徒代表としてJuile Wataiも参加。実際の制作現場の雰囲気に触れながら、世界に通じるアレンジのノウハウを楽しく身につけてみませんか?

美島豊明のLogic教室 Season 2 ~アレンジ実践編~
日時 : 2014年2月1日(土) 14:00~17:00 / 2014年3月1日(土) 14:00~17:00 (全2回)
場所 : OTOTOY
講師 : 美島豊明 (司会 : マスヤマコム | 生徒代表 : Julie Watai)
料金 : 予約3,000円(1回) 当日3,500円(1回)

>>講座の詳細を見る

RECOMMEND

mishmash*Juile Watai / mishmash*Julie Watai (24bit/96kHz ver.)

mishmash*Juile Wataiの記念すべきファースト・アルバム。知性や感性の豊かさ、よく練られたメロディー、ポップな浮遊感、ひと目では分からない仕掛けがいっぱいで、聴くたびに新たな発見がある。曲ごとにガラッと変わる世界観は、癖になること間違いなし。mishmash*Juile Wataiのエンターテインメント性が凝縮された一枚。

HMOとかの中の人。(PAw Laboratory.) / 初音ミクオーケストラ

"HMOとかの中の人。(PAw Laboratory.)"による、イエロー・マジック・オーケストラのカヴァー・アルバム。「ビハインド・ザ・マスク」、「音楽」、「君に胸キュン」、「テクノポリス」といったYMOの名曲たちを、現代の歌姫、初音ミクが歌い切る。コミックマーケット会場にて販売された自主制作盤は即完売、大きな反響を呼んだ。20世紀に想像した、21世紀の声がここにある。

Anamanaguchi / single + remix collections

ニューヨーク発の8bitチップチューン・バンド、Anamanaguchi(アナマナグチ)の作品集。エモ、ポストロック、ブレイクビーツ、すべてが混ざり合ったサウンドを土台に、独自のチップチューンが展開される。海外版のファミコンとして知られる"NES"と任天堂ゲームボーイの奏でるメロディーは、一度聴いたら耳から離れない。限りなくポップでありながら、多分に実験性を含んだ作品。

PROFILE

mishmash*Julie Watai
コーネリアスのサウンド・プログラマを務める美島豊明と、音楽、映像、ウェブサイトといった総合的なプロデュースを担当するマスヤマコムの2人によるユニット、mishmash*(ミッシュマッシュ)。現在は、元アイドルであり写真家でもあるJulie Wataiをヴォーカルに迎え、mishmash*Julie Wataiとして活動中。これまでに2枚のオリジナル・アルバムをリリースしている。

>>OFFICIAL HP