2013/09/01 00:00

小野島大の「配信おじさん」出張編 (前半)

~日本の音楽配信はどこへ向かうのか? オトトイ:竹中直純 対談~

音楽ライターの小野島大さんの連載「配信おじさん」(『ミュージック・マガジン』にて好評連載中)では、音楽配信をめぐるその時々のトピックやニュースを、第一人者にあたるなどして掘り下げてきた。その2008年から5年以上に渡る連載60本以上の記事が、このたび電子書籍として単行本化された。その発売を記念して、今回は連載誌面を飛び出し、オトトイ代表取締役の竹中直純氏と、「音楽配信が向かう未来」について語っていただいた。

サブスクリプション音楽配信ってどうですか?

小野島: 竹中さんにはどこかでお会いしたような気もするけれど、ちゃんとお話するのは初めてです。

竹中: ええ、クラブかライブ会場でお会いしたような記憶が…(笑)。

小野島: 「配信おじさん」の中ではオトトイは何回も採り上げさせていただいていて、高橋健太郎さんに「オトトイにも取材に来てよ」と言っていただいて行く予定だったんです。それがたまたま流れ、あれよあれよというまま、何年も経ってしまいました。

竹中: 今回は出張編ということで、ようこそお越しくださいました。 オトトイについて書いてくださる音楽批評家の方って、基本的に居ないんです。なので配信のことをお話する機会もあまりなかったりして、今回はこういう機会ができてうれしいです。

小野島: (オフィスの棚を見ながら)mishmashはお仕事したんですか?

竹中: mishmashのmash側の桝山寛さんは25年くらい知り合いで、坂本龍一さんと一緒にディジティ・ミニミをつくるきっかけになるdabbという会社を一緒に作った人です。mishmashはオトトイでも扱っています。mishmashとJurieちゃん(ボーカル)の組み合わせは固定じゃないということだったけれど、いまのところは変わる予定はないみたいですね。

小野島: まあ、バンドって顔が固定したほうがいいですよね。それはそうと、あらためて竹中さんのプロフィールを見て、ヒエー、偉い人なの?とびっくりしちゃいました(笑)。ナップスターもやられてたんですね。仕事が多岐に渡りますが、音楽の仕事が多いですね。

竹中: もともとはプログラマーですし、現在も電子書籍をやってるBCCKSではCTO職ですが、音楽に関わる仕事は、ずっとやっていますね。最近だとMusicityとか。逆に質問ですが、小野島さんが音楽配信のことを書くことになったきっかけは何ですか?

小野島: 単行本にも収録した2007年に書いた配信がらみの記事がきっかけです。その評判がよかったらしく担当編集者から翌年から連載にしませんか、と誘ってもらって今に至ります。私は配信ビジネスやインターネットサービスの知識は一般人に近い立場だし、詳しい裏事情を知ってるわけでもないんです。なので、始めた頃も今も、リアルタイムのニュースをベースに、自分のリスナーとしての経験や考え方の視点をふまえて書いているというだけなんですけれどね。

竹中: オトトイにとっては、小野島さんのような、音楽のことをちゃんとわかっていて、メディアできちんと文章を書いている人が配信について書いてくれているって、すごーく重要なことなんです。いま、SpotifyやRdioなどの定額課金の音楽配信サービスがメディアでも注目されていますよね。でもあれをもてはやしているのは、別に音楽が好きな人ではないんですよね。

小野島: リスナーでなく音楽業界人ということですか?

竹中: 音楽業界でもなくて…。平たくいうと、GoogleとAppleが大好きで、iPhoneが大好きみたいな人です(苦笑)。そういう人が、「イマ、コレがキテる!」と言いたいがために注目しているというか。音楽が好きでない人が、新しい万年筆を買ったから手紙でも書いてみようというかのように、ツールが使いたいから音楽を聴いてみようというように飛びついているというように思うんですね。

小野島: 最近、次世代の音楽配信サービスとして業界を救うといった言い方もよくされるのですが、救うかどうかも何も、実際のところ、使ったことがある人ってだいたい、日本にはほとんどいないですからね。

竹中: いま定額サービスに飛びつこうとしている人たちは、音楽を聴きたいわけじゃないから、そういう人はすぐ飽きちゃう。だから僕は、いま、すごくヤバイ状況だと思っているんです。音楽を仕事にしている人や音楽が好きで聴いている人の側から発想して使ってもらえないがために、今、金銭的価値も、それから文化的にも、音楽がどんどん、どんどんヤバい状態になって来ている。

小野島: その危機感は、オトトイをやってきて最近感じるということですか?

竹中: これは僕が、ナップスターなんかを通じて、なんとなく実感してきたことです。定額制サービスって、当時はユーザー側が今ほど慣れていなかったところもありますが、それでも、1000万曲の洋楽のデータがあって、聴き放題だ、っていうサービスにメリットを感じて月額を払うユーザーは、これくらいしかいないのか……というのがひとつ分かりましたし、おそらく、音楽について「お金を払うかどうか」の感覚は、当時とそんなに大きく変わっているはずがないんです。

小野島: 当時月1380円とかそんな感じでしたよね。

竹中: そうです。PCとモバイルのオプションで何タイプかあって。

小野島: 私はPC用を使ってましたが、だいぶ重宝してたんです。使い勝手は悪かったけれど(笑)。

竹中: HTML5の利便性もまだなく、かなり荒い作りのネイティヴアプリでしたからね(笑)。スマートフォン対応どころかケータイアプリでさえなかった。

小野島: しかも、ダウンロードさせるのに、それが自分のものじゃないというもどかしさがありました。最後サービスが終了したら鍵がかかって聴けなくなる。このデータ何とかして聴けないのかとか思ったものですよ(笑)。いまのSpotifyなどのサービスなんかは、まったく所有感はなくなってしまったのだけれど、使い勝手の意味では、便利そうだなあと思いますね。ただ、まだサービスインもしていない状態では、未来はこれしかない、と声高に言われると困ってしまう面もあります。

竹中: それに加えて、音楽が1000万曲くらいの塊である、ということは同じで、つまり、どのサービスでもサービス総体としての音楽の中身はあまり変わりがないんですよ。

小野島: どのサービスも、そんなに扱っている音楽のタイトル数自体に大きな違いは無い。

竹中: そうすると、なんだか矛盾しますが、音楽サービス自体、音楽ではなくてツールの利便性に依存したり、価格競争とかが選ばれるポイントになってきてしまう。どんどん音楽自体はどうでもよくなってるというか、死んでいってしまう。そこが、僕は堪らないです。

「音楽配信はどこへ向かう?」表紙 / [電子書籍] 2013/06/21発売 500円

音楽のことを知らないと、音楽を自発的に聴くことができない

小野島: 1000万曲音楽があっていつでも聴けたら、ふつうは満足するようにも思えるけれど、定額配信サービスが始まってもそうはならないよ、と。

竹中: そうなんです。仕組みだけあっても、ユーザーが音楽のことを知ってくれないとダメだと思っています。僕たちが音楽に期待していた感じを取り戻さないといけないと感じているんです。特にいま、音楽にお金を出すなんてアホじゃないの、という雰囲気が若者を中心にすごく強くありますよね。

小野島: あります、あります。

竹中: YouTubeでいいじゃん、とかね。YouTubeでもいいんだけれど、音楽に向き合う気持ちというのが、お金を出してもいい、というふうに考えられなくなるようなネガティブな教育がされているように思うんです。

小野島: 具体的には、たとえばどういうことだと思いますか?

竹中: たとえば、音楽テレビ番組がない状況が10年近く続いたこととか、「仕掛け」られたアイドルしか出てこないとか。いい音楽が出ても、どこにもかからないから、流行らないとか。そういうふうに視聴者をバカにし続けたり、自分たちの都合ばかり押し付けた結果、若い人にとって、音楽って自分と関係ないものなんだ、っていう気持ちになったんじゃないですかね。いい曲に自然に出会う方法がないから、聴きに行こうとか思うこともできない。すごく自発的に取りに行かないと音楽って聞けなくなっている。

小野島: こんなにめちゃくちゃ音楽がいっぱい氾濫しているように見えるのに。音楽雑誌は30、40代以上が買うものになってきてますしね。自分の記事を読んでくれたり、ツイッターをフォローしてくれている人もーーもちろん音楽にたくさんお金を出している若い子も少なからずいるかもしれないけれどーー今でも熱心にCDを買っているかというと、どうも、そうでもない感じがしますね。

竹中: でも、ネットに何でもある…みたいな時代になったのに、じつは雑誌やテレビが観られなくなったことで音楽との出会いが減ってしまったってなんか、不思議です。

小野島: だからこそキュレーションとか、レコメンドの必要性ってよく言われていますよね。最近、「Real Sound」という新しい音楽サイトができて、神谷弘一さんという元ロッキング・オンに居た方が編集長で、サイゾーと共同で立ち上げたんです。その中で私も書かせていただいているのですが、サイトが扱うものも基本邦楽なんだけれど、――それは、今の人たちは邦楽しか聴かないから。でも、「じゃあ洋楽も聴かせてみよう」っていう狙いで、邦楽のアーティストに影響を与えているアーティストを1人ずつ採り上げてちょっと解説するコーナーにしたんですね。その1回目をXTCにしたんです。こないだNHK FMの仕事をしたときにサカナクションの人がたまたまXTCが好きだとコメントをくれて。

竹中: そうそう、彼らはよく言っていますよね。

編集注: 小野島さんがレコメンドしたXTC のYouTube Videoの1つ。上記の記事全文はこちらです。


小野島: それをとっかかりに、ごくごく基本的なことをサラっと書いたんですが、それがエライ反響がよくて、驚いたんですね。「これはいい記事だ!」みたいなストレートに褒めている感想もあって(笑)。そこで話を戻すと、インターネット上には、基本的なキュレーションがやっぱり必要だったんだなあ、とすごい実感できたという(笑)。

竹中: 若い人にとっては、それが新しいことなんですよね。だからキュレーションとか出会いの場をていねいに提供してあげるべきというか。

小野島: たとえば、サカナクションの人がXTCを好きだってインタビューで発言しても、実際にユーチューブなどで検索してXTCを聴いてみようということころまではアクションが起こせないということがあって。きっとそういう丁寧なところからやっていかないと、竹中さんがおっしゃるような「危機的な状況」というのはなかなか変わっていかないんじゃないかなって思いましたね。

竹中: うん。そうそう。

小野島: 似たようなのでは、日本における現在のDEVOの人気の半分くらいはポリシックスのお陰だと思いますね。ハヤシくんがDEVO、DEVOと呪文のように唱え続けているから、ファンはもう聴かないといけないことになってる(笑)、たしかにあれはかなりすごい。

竹中: 出会いを作ってくれるメディアや記事や、ミュージシャンや、友達の情報やなんかが必要ですよね……。いま(2013年前半)のテレビ番組の洋楽特集って、せっかくやってても見てる範囲では毎回なぜかディープ・パープルばかりなのでちょっと残念なんです。

小野島: 一方でネットは掘ろうと思えば掘れるけれど、それなりに道筋を付けてあげないと、なかなかたどり着けないですよね。

竹中: いつでも検索できて、いつでも観られると思うと、ものすごいモチベーションがない限り、絶対にそこには行かないんですよ。

小野島: また、ググればなんでも簡単に出てくるというわけでもなくて、工夫して掘っていくスキルもないと、目的の情報をなかなか探せないようになってきてもいて。

竹中: 最近は、スマートフォン対応していないページは検索結果の上位に出なくなったりとかですね。

小野島: なるほど。探している人にとっては大きなお世話ですね。

竹中: そうなんですよ(苦笑)。

小野島: そうなってくると、ネット上での音楽キュレーションみたい必要性は、まだまだ需要があると期待したいですね。

(前半、終わり)後半は2013/9/5(木)に予定しています。

>>後半 ( ユーザーの選択肢が増えるDSD/ハイレゾ音源配信事情 など) はこちら。<<


BCCKSで「音楽配信はどこに向かう?」を試読できます。PCとスマホのブラウザで直接開きます。よろしければどうぞ。

●プロフィール

小野島大

音楽評論家。著編書は『音楽配信はどこへ向かう?(2008~2013)』(インプレスコミュニケーションズ)、『ロックがわかる超名盤100』(音楽之友社)、『NEWSWAVEと、その時代』(エイベックス)、『フィッシュマンズ全書』(小学館)など。
https://www.facebook.com/dai.onojima
Twitter: @dai_onojima

竹中直純

ディジティ・ミニミ/オトトイ/ブックス代表取締役。プログラマー。2005~2007年ナップスタージャパン取締役。現在、Ustreamによる音楽番組「MUSIC SHARE」を支援中。フルーツ大好き。
http://d.ototoy.jp/nt/
Twitter: @uhyoppo

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