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2021/03/19 08:30

 

羊文学 Tour 2021 “Hidden Place” online liveオフィシャルレポート

 

羊文学が3月14日、配信ライブ「羊文学 Tour 2021 “Hidden Place” online line」を開催した。

 

 オルタナティロック、シューゲイザーなどを独自のバンドサウンドに昇華した音楽性、そして、繊細かつ鋭利な感情を描き出す塩塚モエカ(G,V)の歌によって、確実に注目度を高めているスリーピースバンド、羊文学。昨年12月にリリースされたメジャーデビューアルバム「POWERS」を中心としたこの日のライブで3人は、幻想的にして生々しい映像とともに、ロックバンドとしての魅力を存分に見せてくれた。

 最初に映し出されたのは、ヘアメイクする塩塚モエカの姿。“Hidden Place”というタイトルが映し出された後、ステージセットが組まれた場所に移動し、ギターのフィードバック・ノイズから1曲目の「mother」が奏でられる。水面のように揺れる光の演出、青みを帯びたライティングのなかで、歪んだギターサウンドと美しいメロディ、<涙が出るほど美しい/全てが思い出に遠ざかる>というラインが共鳴し合い、羊文学にしか描けない音楽世界が出現。タムとスネアを中心にしたフクダヒロア(Dr)のリズム、楽曲のボトムを支える河西ゆりかのベースラインも鮮烈だ。

 さらにセピア色の映像とともに90年代のオルタナティブを想起させる「Girls」、ポップに響くサウンドと<わたしだけが一番可愛くなきゃやだ 両手いっぱいのハッピーをつかんでなきゃやだ>という女子の欲望を剥き出しにした歌詞が一つになった「変身」と、アルバム「POWERS」の曲順通りにライブは進行。紺のインナー、青みがかったドレスに身を包んだ塩塚、河西の儚い雰囲気のハーモニーも印象的だ。
青い光が差し込み、高揚感に溢れたビートと爆音ギターが共鳴した「コーリング」(アルバム「若者たちへ」)を演奏し――歌い終わった後の塩塚の気持ちよさそうな笑顔も心に残ったーー最初のMCへ。
塩塚「ようこそ、“Hidden Place”へ」
河西「久しぶりのワンマンだね」
塩塚「ツアーが本当はあって。1月31日からやるはずだったんですけど、9月に延期になって。今日がツアー初日になりました。『POWERS』はコロナのなかで作ったので。それも今年らしくていいのかなと思ってる」
 という会話を挟み、「Eテレさんの企画で、子どものために作った曲です」(塩塚)とアルバム「POWERS」の3曲目に収められた「ハロー、ムーン」へ。さらに柔らかいアルペジオから始まり、3連のリズムと穏やかなメロディ、<明日も平気なふりをして生きてる、君たちへ>というラインが共存する「ロックスター」、“耽美な叙情性”と称すべき旋律に<わたしを許せるわたしになりたい>と切実な願いを込めた「おまじない」、そして、どこかノスタルジックなメロディと思春期のぼんやりとした焦燥を描いた「花びら」。あえて曲順通りに演奏することで、アルバム「POWERS」の魅力をダイレクトに伝えるーーこれこそが、今回の配信ライブの意義であり、最大の見どころだ。派手な動きなどは一切なく、演奏に集中するメンバーの姿、花を挿した花瓶、観葉植物が置かれた部屋の雰囲気、陰影を活かしたライティング、メンバーの手元や表情をカットアップする映像も美しい。

 憂いに溢れたボーカルと鋭利なリズムが強いコントラストを生む「サイレン」の後は、再びアルバム「POWERS」の楽曲へ。「砂漠のきみへ」では、ピッキングの音まで聴こえる生々しいギターソロを響かせ、タイトル曲「powers」ではメンバー3人の厚みのあるコーラスで楽曲の世界観を際立たせる。曲の途中でテンポが変化し、細かいフレーズが絡み合う「powers」は、このバンドの音楽的な進化を示す楽曲と言えるだろう。アルバムのインタビューでは「かなり複雑なアレンジだから、ライブで演奏できるか心配」とコメントしていたが、3人はこの日、ライブならではの生々しさを加えながら、この楽曲を完璧に表現してみせた。<力の限りで胸ふるわせ/心の限り求めるならば/未来は変わるかもね>という前向きな歌詞を含め、羊文学の新たな代表曲と言っていいだろう。

「今日が初めて人前で(アルバムの曲を)演奏する機会で。衣装も新しく作っていただいて、この場所もすごすぎて……見せてあげたい。3人だから、3角のものをいっぱい作ってくれて。場所に負けないように、私たちも素晴らしい演奏を」(塩塚)というMCを挟み、「私たちの大切な曲をやろうと思います」「人間だった」(ミニアルバム「ざわめき」)を演奏。塩塚が凛とした表情で「デザインされた都市/デザインされる子供」「忘れないで 自然は一瞬で全てをぶち壊すよ」というフレーズを描き、ライブはクライマックスに向かい始める。最後の3曲はもちろん、アルバム「POWERS」の楽曲。鋭利なアンサンブルを背景に、クリスマスの風景をロマンティックに映し出す「1999」、朗らかな日差しのような照明、温かみのある歌声、“本当のことは後回しで、忘れちゃおうよ”と言い合う恋人たちの姿を描いた歌詞が溶け合う「あいまいでいいよ」、そして最後はダークな音像が広がる「ghost」。緊張感に溢れたアンサンブル、<見えないものの声を信じる/たとえあなたがもういなくても>というラインが響き渡るなか、ライブは終了した。

アルバム「POWERS」を存分に体感できた配信ライブ“Hidden Place”。この日のライブで3人は、オルタナを軸にした独自の音楽性、壊れやすさと鋭さを含んだ歌の世界を強くアピールしてみせた。このバンドの際立った個性はここから、さらに幅広いリスナーの心を捉えることになるだろう。

photo by 川島悠輝

[ニュース] 羊文学

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