2009/05/17 00:00

僕の3つ年下の弟は高校受験のために勉強すべき時だった。だけどあいつは勉強しなかった。僕は押し倒してふざけんなって言った。母親しかいないんだ、私立なんて無理だってわかるだろう? 電車通だって無理なんだ。あいつは目いっぱいに涙を溜めて別れてほしくなかったんだって一言だけ言った。あいつは僕より父親と仲が良かった。僕はどうしていいか全くわからなかった。本当に全くわからなかった。


高校を卒業して専門学校に行って中退して山形に戻ってきてガソリン・スタンドで働いた。1年が過ぎ僕はベースを持って東京に出た。友達の家に居候してバイトをしたりバンドをしたり遊んだりした。僕が登録した派遣会社に土門拳の孫がいた。土門さんはいつも腰にネルシャツ巻いててそんでギターが好きだった。埼玉に2人で行ってポスティングしたのを鮮明に憶えてる。というかポスティングなんかほとんどやってない。ほとんど遊んでた。そしてその派遣会社には保健所の犬しか撮らない写真家がいた。僕は彼と出会って人生が変わった。あれは確か横浜駅付近の銀行の前。いつも通りバイトを終え違うチームを銀行の前に座って待ってた時だ。その写真家は言った。

「僕は保健所がこの世界からなくなるまで保健所の犬だけを撮る。」



「子供の教育のために買ったが子供も大きくなったのでもういらない、殺してくれ。飼い犬が事故に遭い手が折れてしまった。このままでは醜いので殺してくれ。こんな理由で毎日たくさんの犬を飼い主が連れてくる。僕がカメラを向けるとそんな犬でもまだ人間を信じて近寄ってくるんだ。例えば片目が無くても、例えば両足が無くても、格子越しに頭を近づける。僕を撫でてくれって。そして引取先が決まらなければ彼らは毒殺されてしまう。ベルト・コンベアーに乗せられてガスを浴びて死んだら燃やす。こんな不条理がどこにある? 動物実験に使われるウサギはね、オリの中だったり、クビを固定されてたりするから前に飛ぶ必要が無い。だから足が退化してしまって前に飛べなくなる。彼らは真上ににしか飛べないんだ。そして一生実験され続けて死ぬ。こんな不条理がどこにある? 僕は彼らの写真を撮って伝えたいんだ。」


そして続けてこう言った。

「もし君もそう思うのなら、君には歌がある。僕は写真家だから、その写真と10文字程度の題名でそれを伝える。君は音楽をやってる。もし君もそう思うなら音楽でそれを伝えてほしい。」


そしてこんな話もしてくれた。

「あそこのたんぽぽが見えるかい? そうアスファルトの間から芽を出した、たんぽぽだよ。人はあの花を強さの象徴としてる。アスファルトがあっても花を咲かせる。なんて強いんだって。でも僕はそう思わないんだ。だってあそこにアスファルトがなかったらもっと自由に咲けるだろ? 排気ガスを吸ってアスファルトに囲まれてなんて息苦しそうなんだって、どうしてもそう思うんだよ。」


そして最後に彼は言った。

「もし今の時代に生きる僕らに影響がないからって言って例えば環境に悪い色んな事を続けたとする。これは全然難しくなくてね、例えばタバコを側溝にすてたりそんな小さな事でもいいんだ。環境破壊をやめろとか温暖化だとか、小難しくするからわからないだけなんだ。もし万が一昨夜君が会社の帰りに道路に捨てたそのタバコを、間違って君の子供が食べたらどうする? もし万が一君が捨てた何かが風に飛ばされてね、君の実家の畑まで行ったとするよ。そしてもしそれに人体に影響のある何かが含まれてて、知らずに付着してしまった野菜を君の子供が食べてしまったらどうする? 例えば君の彼女が、君のお母さんが、間接的にでも君のせいで死んだらどうする? 悲しいだろ? 絶望するだろ? 自分で止めれる事は自分で止めよう。もし君がこれを誰かに伝えれば、きっと君の子供や君の孫の時代にそれは大きな流れになる。そしてそうなる事を君には信じてほしい。」


その時僕は19歳。僕の日常はこの日を境に全て変わった。 それから何ヶ月後ザリガニを見つけて山形に帰ることとなる。


この後勿論いまもだけど、ずっとずっと矛盾を抱えてる。

僕らは具合が悪くなれば薬を飲む、僕の嫁は化粧をする。僕らはシャンプーを使う。 でもそれを製品化する前に、凄まじい数の動物が死ぬ。そして僕らはメシも食う。 僕らは仕事に行くにもライブに行くにも車を使う。その排気ガスは必ず誰かを何かを傷つける。 僕らはフライヤーを配る。でもそのフライヤーのせいで木が切り倒される。 例えばそれが100パーセント再生紙だとする。でもその再生紙を作るのには工場がいる。 その工場を建てるために草木を切る。そしてその工場は必ずしも良くはない物質を地に還す。


例えこれを伝える事が矛盾だとしても、 例えば生きる事が矛盾だとしても、

僕らは生きて伝えなければならない。 僕が死んでも世界は終わらない。

そう、僕は矛盾してる。 僕は矛盾の塊だ。


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VOL.1 SHIFT結成〜AKUTAGAWAとの出会い〜

VOL.2 番外編〜小・中学校生活〜


PROFILE

船山裕紀。『笑顔が世界を平和にする』をモットーに活動している、無意味な殺生が大嫌いな4人組アヴァンギャルド・ダンサンブル・オーケストラ、SHIFTのボーカル。ライブではステージを縦横無尽・自由奔放に駆け回るため、フロント3人のコードは常に絡まっている。とにかく動き回る、地方発信のD.I.Y精神継承者。

artist page https://ototoy.jp/them/index.php/ARTIST/7542/

website http://shift.xxv.jp/

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