2012/09/24〜09/30の注目3作品をレビュー!!
暑かった今年の夏も終りを迎え、秋がそこまでやってきている9月の最終週。読書の秋といいますが、音楽も実に実り豊かです。このコーナーでは、OTOTOY編集部がオススメする今週の推薦盤をピックアップし、ライターによるレビューと共にご紹介いたします。音源を試聴しながらレビューを読んで、ゆったりとした時間をお楽しみください。あなたと素敵な音楽の出会いがありますよう。
ツチヤニボンド『20世紀青少年』
新たな色を見せる配信限定シングル
ツチヤニボンド / 20世紀青少年
【配信形式】 : mp3
【価格】 : 150円
ツチヤニボンドの前作『2』の特集ページはこちら
2007年の登場よりはっぴいえんど、ゆらゆら帝国、Os Mutantes、The Beach Boysに例えられ、かつそのどれでもないと評価されてきた土屋貴雅によるソロ・プロジェクト、ツチヤニボンド。ロック、ポップ、ファンク、サイケが混在する独創的な音楽を作り続けてきた彼の新曲のテーマは、意外にも「恋愛」!? 片思いの心情を描く歌詞と爽やかなメロディーに一瞬、これまでの道から一気に逸れたような印象を受けたが、ツチヤニボンドのコンセプト構想に楳図かずおの存在が大きく影響していることを知れば深く納得がいく。ホラー、SF、ギャグ、少女漫画などジャンルレスで多作な彼の作品群から「自分の世界が確立していれば何をやってもオッケー」と確信し、それを音楽で実践することをコンセプトとしたとのこと。ならば今作「20世紀青少年」はツチヤニボンド風青春恋愛漫画といったところか。これまでの楽曲と大きく毛色が違うのに依然ツチヤニボンド以外の何者でもない様子を見ると、彼は全くブレていない。あらゆる顔を見せるほど一貫性が高まるこのコンセプト、既に次の顔が見たくてウズウズしている。(text by 水嶋美和)
Jimanica『Torso』
約2振りとなる3rdソロ・アルバムをHQDで
Jimanica / Torso
【配信形式】 : HQD / mp3
【価格】
HQD 単曲200円 アルバム1,800円
mp3 単曲150円 アルバム1,500円
色鮮やかなブレイクビーツや、尖ったビートがウネるエレクトロ・ファンクから、弾むグリッチ・ホップめいたテイストまでを取り込んでみせる。d.v.dや、やくしまるえつことd.v.dのメンバーとして活動し、DE DE MOUSEやworld’s end girlfriend、蓮沼執太や木下美紗都などの活動にも携わるドラマー、Jimanicaの3作目。ドラムだけではなく、ギターなどのすべての楽器を担当し、作曲やエディット、ミックスまでを自身の手で行っている。中心になっているのは転げまわったり、駆け足になったりするJimanicaのドラムだ。ゲスト・ヴォーカルとして参加した山田杏奈や一十三十一、□□□の三浦康嗣らの声が切り刻まれて、そのドラムに絡み付く。ドラムをはじめとする楽器が歌い、ポップ・ミュージックとしての親しみやすさが失われることはない。楽器をいかに歌わせるか。これはそういうことを追求した作品ではないだろうか。(text by 小澤剛)
福岡史朗&FRILL『FRILL THRONE』
福岡史朗によるソロ7枚目のアルバム
福岡史朗&FRILL / FRILL THRONE
【配信形式】 : wav / mp3
【価格】
wav 単曲150円 アルバム1,900円
mp3 単曲100円 アルバム1,300円
福岡史朗の特集ページはこちら
フリルのメンバーと共に作り上げた福岡史朗のソロ7作目は、アメリカ南部と昭和の東京の下町が交錯したかのような、不思議な感覚を味わわせるブルースを聴かせてくれる。乾いた音色のブルージーなギターが爪弾かれ、その上に昭和の歌手を思わせる渋い歌声が乗る。ギターの音はアメリカ南部なのに、歌声は昭和の東京。そこに異物感や時代錯誤感を覚える。見たことのないとんでもないものに出くわしたか、過去と未来が交わるどこだか分からないところに行ってしまったか。そんな感じである。それと同時に味わい深い雰囲気を漂わせてもいる。福岡はいつの時代のことなのかよく分からない、日常らしきものを淡々と歌う。語る、あるいはつぶやくというニュアンスの方が近いかもしれない。2本のギターとベース、ドラムからなる演奏も平熱を保ち続けていて淡々としている。新しい時代と場所から古い時代と場所へと旅をする、さすらいの音楽。(text by 小澤剛)