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2020/01/17 18:00

 

【連載コラム】白波多カミンの『引き出しからこんにちは』第17回

 

第17回「髪を切った」

3年間ずっと伸ばしていた。

髪は不思議だ。伸ばせば伸ばすほど、髪自身が意思を持った生き物のようになってくる。背中にずっとペットを飼っているような感覚だった。

長い髪との生活は根気が必要だった。可愛くもあり、面倒臭くもあった。絡まった髪をほどく作業に、かなり時間を費やした。ずっと髪をとかしていたと思う。あと、なかなか乾かないし、眠る時は首に巻きつく。本当に手がかかる奴だった。

ある日のこと、電車にのると、となりに乗っているひとの開いていたファイルにわたしの髪が挟まった。仕事に使っているファイルだろう。集中してファイルを見ていたところにいきなり長い髪が侵入したので、びっくりしただろう。わたしが相手の立場だったらギョッとする。

それまでいろんなところに髪が引っかかって不便はしてはいたが、他の人の生活圏内まで入っていったのを見て、目標は達成できた気がした。

目標……それは髪を伸ばし続けたらどうなるのか知ること。ただ知りたかった。

髪が自分自身のコントロールを超えたものになり、それを生やしているわたしが人間ならざるもの、のように見えたらいいなと思った。 良く言えば神秘的な、悪く言えば不気味な感じになってみたいなというのが始まりだった。

その目標は達せられた。

なので切った。

ヘアドネーションもした。

友人M(9歳)が髪を切ったとき、わたしが「髪切ったの?かわいいね。」と言うと、Mは自分のヘアースタイルが似合うとかかわいいとかよりも先に、「わたしね、ヘアドネーションしたの。だれかの髪になるんだよ。」と教えてくれ、それがとても誇らしげで美しく、憧れたので、わたしも初めてヘアドネーションしてみた。

だれかの髪になるって、不思議な気分だね。って今度会ったらあの子に言おう。

(次回掲載は1月31日)

文:白波多カミン

白波多カミン オフィシャル・ウェブサイト
http://shirahatakamin.com/


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