2016/10/06 16:47

その呼吸に触れる39分間──世界を股にかける3人の音楽家が紡ぐ音、カフカ鼾『nemutte』音源配信!

カフカ鼾 / nemutte
【Track List】
01. nemutte

【配信形態 / 価格】
24bit/48kHz(WAV / ALAC / FLAC) / AAC
1トラックのみ 2,000円(税込)

“呼吸”する音楽

カフカ鼾(いびき)──このバンドを構成する3名の音楽家のそれぞれについて説明をしようと思えば、おそらくそれはとても長いものになるだろう。しかしまずは、そういった予備知識のない、まっさらな状態で彼らの音楽に触れてみてほしい。

静寂の中、まるでこの世界に初めて産み落とされた生物が呼吸をし始めるかのようにゆっくりと音が重なり、音楽が始まる。次第に熱量を高めていくそのサウンドは、生きているかのように予測のできない動きをし、音圧に頼らずに導き出される高揚感は、楽器そのものの持つ可能性を最大限に引き出している。「実験音楽」という言い方をしてしまえば簡単だが、ここには音楽の本質と対峙しようとする3人の音楽家の強い探究心と、互いの音楽に対する大いなるリスペクトが存在する。それが例えどんな音楽であっても「生きた音」を鳴らすという行為は、演奏家自身に強い信念がなければ起こり得ない現象だ。

カフカ鼾の音が鳴るその瞬間において「音楽が生まれる」という表現を使うとすれば、それは単なる比喩や誇張ではなく、私たちは本当にその場で音楽が誕生する瞬間に立ち会っている。その現象が起こり得る重要な要因の一つとして、彼らの音楽が“即興音楽”であるということを特筆すべきであろう。

“即興”であるということ

ここでカフカ鼾を構成する3人のミュージシャンについての答え合わせをしよう。カフカ鼾はキーボード兼ピアノの石橋英子、ドラムの山本達久、シンセサイザー、ギター、さらにはエンジニアも務めるジム・オルークの3名から成る。

シンガー・ソングライター、音楽プロデューサー、マルチ・プレイヤーという様々な顔を持つ石橋は、多くの有名ミュージシャンを排出する米インディー・レーベルのドラッグ・シティと契約。また、坂本慎太郎や星野源との共演も果たすなど、現在の日本の音楽シーンにおいても重要な人物だ。そしてこのバンドの要とも言えるジム・オルーク。過去にオルタナティブ・ロック・バンド、ソニック・ユースのメンバーとして在籍していたこともあり、そのジャンルを問わないマルチな音楽家としての才能で現在も第一線で活躍している。そしてジム・オルークがその才能に憑かれ、熱烈なラブ・コールを送ったというドラマー、山本達久。ハードコア・フリージャズ・バンドNATSUMENのメンバーでもあり、世界中のアーティストとの即興演奏やUAの作品・ライブへの参加など、その活動の幅は広い。

世界規模で活躍するこの3人の音楽家が鳴らす音がここまで強い生命力を持ち得るのは、彼らの長い音楽キャリアに裏打ちされた音楽への深い造詣があったからだろう。彼らの“即興演奏”とは単にその場で即時的に行われているわけではない。それまで連綿と続いてきた彼らと音楽との歩みそのものが、音となって具現化されているのだ。“即興演奏”という手段を用いて音に命を吹き込む──カフカ鼾の静かな呼吸に耳を澄ませれば、その鼓動の音がきっと聞こえてくるだろう。

文 : 岩澤春香

RECOMMEND

カフカ鼾 / okite

世界規模の活動を続けるジム・オルーク、石橋英子、山本達久によるトリオ編成カフカ鼾初となるアルバム。完全即興で演奏された一曲37分から成るインストゥルメンタル・アルバム。

PROFILE

カフカ鼾

2013年元日に目覚めたばかりのニューカマー。 ジム・オルーク (Synth, Guitar, Guitar) 、石橋英子(Key, Piano)、山本達久 (Drums)という説明無用のトリオ編成。まだ指で数えられるライブ本数ながら全てのライブでオーディエンスを熱狂の渦に巻き込んでいる噂のバンド。100枚限定で即完売したCD-RとBandcampで音源を発表。Bandcampで発売を始めた途端、日本のみならず、海外の音楽サイトで取り上げられるなどすでに世界規模で注目を集めている。

>>felicity Official HP

[レヴュー] カフカ鼾

TOP