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2020/01/31 18:00

 

【連載コラム】白波多カミンの『引き出しからこんにちは』第18回

 

第18回「更地の味わい」

わたしは、建物が建て替わるとき、新しいビルや家があるのをみて、そこに以前立っていたはずの建物が思い出せない。

良いときは、カタチ、大きさ、古さ、雰囲気がなんだかモヤにかかったような感じでふんわり思い出せるか、悪いときは全くもってどんな建物だったか検討もつかないときもある。

最近、近所のおうちが建て壊されて更地になっていた。

さすがに毎日の通り道にあった建物なので、なんとなくは思い出せる。たしか、木が生い茂っている、古い、しかし立派な家だった、と思う。広い平らな土の上に黄色いショベルカーがあって、夜だったので真っ暗で、だれもいなかった。朝の行き道にはあったと思う。帰り道にはなくなっていた。なんともあっけない。

この気持ちはなんだろう。

さみしいような、でもなんだかすっきりしたような、気持ち。

あとは個人的に更地というものが好きだ。わたしは、なにもない、平べったい土地というものが好きだ。例えば、デカイ田んぼとか、何にもない、どこまでも続きそうな芝生とかが大好きだ。

住宅街の更地の味わいは、ポッカリとそこだけなにもないというところだ。となりのおうちや裏側に建っているおうちはそのままに建っていて、壊されたおうちに面していた壁が剥き出しになり、更地だけがポッカリしている。そこだけ、ポッカリと時間が止まっている。

いつまでお気に入りの更地でいてくれるだろうか。また明日の朝には時間が動き出して、工事が始まり、新しい建物が立つのだろう。

いまのうちにこの更地をたくさん見たい。

毎日、通り道を変えずにその前を通って、経過を観察しようと思う。

この写真は近藤さくらちゃんの実家に2人で帰省したときに行った田んぼと、さくらちゃんの後ろ姿。
昔、湖だったところが埋め立てられて作られた田んぼが特にデカくて好きだ。

(次回掲載は2月14日)

文:白波多カミン

白波多カミン オフィシャル・ウェブサイト
http://shirahatakamin.com/


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