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2013/09/02 11:02

 

大森靖子、戸川純を迎えた新宿LOFTでの夜——OTOTOY最速レポ

 

8月29日(木)、大森靖子が新宿LOFTに戸川純を迎えて、〈shinjuku LOFT×大森靖子 presents ミッドナイト清純異性交遊〉を開催した。

クラブクアトロをたったひとりで満員にしたワンマン・ライヴから3ヶ月半。ロックの聖地として名高い新宿LOFTにて、対バン相手には、デビューから30年を経てもなお熱狂的なファンを多く持つ戸川純を迎える。大森自身、デビューEP『PINK』発売当時は、その強烈なインパクトを持つ歌詞や圧倒的なライヴから、戸川と比べられることも多かったように思う。そのため、発表当初から多くの注目を集めていたイベントだった。

開場前から、新宿LOFTには多くの人がつめかけ、入場列は開演予定時刻をすぎても途切れない。ワンマンのときと同様、このイベントへの注目の高さがうかがえる。場内は当然のごとく満員。客席の真ん中にある柱の裏にまで、人がぎっしりとつまっていた。開演予定の19時を少しすぎた頃に場内が暗転。ライヴがスタートした。

まず登場したのは、フロント・アクトと表記されていた、東京真空地帯。仮面とヘルメット、ど派手な電飾に身を包んだ男たちがステージに現れると、どよめきが起こる。浮遊感のある電子音を響かせると、場内は光と音が交差するクラブのような異様な空間に。彼らの表情は一切見えないが、ステージ上で白熱した演奏を展開。徐々にフロアは体を揺らす人の姿が増えていく。最後は、轟音のなかで楽器を手放したメンバーが、ダンスのような芝居のようなパフォーマンスを魅せる。赤いコスチュームを身にまとった男が、赤色灯を両手に光らせ客席を威圧したところで音楽が途切れる。30分ほどのステージは終了した。

転換を経て場内が再び暗転すると、前日に発売されたばかりのモーニング娘。の新曲「わがまま 気のまま 愛のジョーク」が流れる。幕があがると、ステージ中央には、背中に大きなリボンがついた和服のようなドレスに身を包んだ、ツインテールの大森靖子の姿が。客席からは、拍手と歓声があがる。しかし、大森がギターを鳴らすと客席は瞬く間に静寂と化し、ステージに集中する。1曲目に演奏されたのは、「over the party」。大森のライヴはスタートした。次に演奏された「あたし天使の堪忍袋」の曲中の合唱パートでは、客席の声に対して大森が「"歌"を歌ってください」とダメ出しし、歌い直す場面も観られた。客席に対しても、ただ単に声を出すのではなく歌心を要求するあたり、客席との対話によりライヴ空間をつくり出す大森らしい行動だと思った。逆に、それを要求できるくらいの信頼関係が、大森と客席との間に生まれつつあるのではないだろうか。歌い終えると、満足そうに「ありがとうございます!」と感謝の言葉を口にした。

ここで大森が、「こんばんは、大森靖子です! 今日はありがとうございます!!」と勢いよく挨拶。それに客席は、大きな歓声と拍手で応えた。そして、「新宿」の演奏を挟みつつ、バンドマンが新宿でよく〈女の子だけもらえるポケット・ティッシュ〉を配っているという話をすると、客席から笑みがこぼれる。今日のライヴは、いつも以上に客席とステージの精神的な距離が近く、アット・ホームな雰囲気を感じる。大森のMCも饒舌だった。この日は他にも、戸川純が「アコギで弾き語りなのにアキバ系みたいでかわいい」と言ってくれて嬉しかったことや、前日にアイドルが多く出演するイベントに出てポジティヴ寄りな曲ばかりを歌ったことなどを、おどけながら話した。彼女が話す度に、客席からは暖かい笑い声があがった。

ライヴが進行し、ひときわキャッチーな「ハンドメイドホーム」を歌ったあと、<きらいきらいきらきらきらきらい>という印象的なフレーズからはじまる「エンドレスダンス」が演奏される。曲中の<生きるって超せつなかった>という言葉に、ハッとさせられる。大森の曲には、否が応でも耳を傾けてしまうフレーズが至る所に散りばめられている。

気がつけば、大森のライヴ開始からもう30分以上が経過していた。彼女のライヴの間は、ときが経つのが本当に早い。それだけ、無意識のうちに集中させられてしまっている。そんなタイミングで、まだライヴでは数回しか披露されていないという、タイトルもまだない新曲が演奏される。<いい感じのゲリラ豪雨>という、またしてもインパクトのある言葉から曲がはじまると、ラップのように歌いだす。ラップというよりも、親しい相手に話しかけているような感覚に近いのかもしれない。それほど自然に言葉が音楽に乗って、心に入ってくる。〈なるべくずっと一緒にいようよ〉というフレーズが、なぜだかずっと心に残った。曲が終わったあと、一瞬の間をおいて客席から大きな拍手があがる。誰も言葉を発することなく、ただただ拍手をしていた。

後半に入るとMCも減り、曲の勢いがより一層際立つ。この日のライヴのタイトルにもなっている「ミッドナイト清純異性交遊」が演奏される。この曲も、比較的最近作られた曲だ。ファルセットを多用して音域を広く使い、まさにポップスのスタンダードとなりうるような、ひと際メロディアスな曲。この人は、いったいどこまで進化してしまうのだろうか。次から次へと新しい曲が生まれ、そのどれもが常に彼女にとっての一番の名曲と言えるほどの存在になっている。

ここで一度、大森はギターを持ち替える。そのまま歌いはじめるようなそぶりを見せたが、しっくりこなかったのか、再びギターを置く。そして、マイクをにぎってアカペラで歌いだす。曲は「キラキラ」から「さようなら」へ。彼女の視線はまっすぐと客席に向かったまま、決して逸らされることがない。だから客席も、誰も彼女から目を逸らすことができない。マイクをスタンドから外し、ステージ前方に歩み寄り、時折よろめきながら「PINK」を歌う。空調のノイズだけが微かに聞こえるなかで、痛々しいほどに叫ぶ彼女の声と息を切らす音が響く。<じゃあね ありがとう さようなら>と歌ったところで、曲が終わる。怒濤のアカペラ3連発。最後に、大森がマイクを置いて生声で「ありがとうございます!」と挨拶すると、笑顔で深々とお辞儀をした。静寂が支配していた客席から、大きな拍手と歓声があがる。1時間ほどの大森のステージは、これで終了した。

正直、もうここで次に他の誰かのライヴを観る精神的な余力はなかったのだが、戸川純のライヴも当然のごとく凄まじいものであった。いきなり「バーバラ・セクサロイド」「ヴァージンブルース」の連発からはじまったライヴは、まったく年齢を感じさせないどころか、演奏はどんどん熱を帯びていった。「腰が悪い」と語りながらも、マイクを握ってアグレッシヴにステージを駆け回る戸川の姿に、客席も拳をあげて応える。最近ではBiS階段もカヴァーしている名曲「好き好き大好き」を含む代表曲を中心としたセットリストにより、終始高いテンションのままライヴは進行した。結果として、戸川のステージは、アンコールを含めて1時間半を軽く超える大ヴォリュームとなった。

かなりの長丁場のイベントとなったが、どのアクトも3者3様にステージをまっとうした結果、ほとんどの人が途中で帰ることなく最後までライヴを観ていた。大森靖子と戸川純、そして東京真空地帯も含めて、目指している場所も、勝負しているステージも違う。同じステージに立つことで、それはより顕著に示されたように思う。共通していたのは、ステージへと向かうひたすら真摯な強い思いだけ。それがあるからこそ、異なる3者のステージをあれだけの人が最後まで目撃せずにはいられなかったのだろう。

大森のステージは、これまでは毎回、客席が圧倒されっぱなしであるイメージが強かった。でも今日は、曲で圧倒されながらも、MCや曲間ではどこか和らいだ空気が流れていた。大森自身も、それに寄り添っていたように思う。きっとそれは、彼女のライヴに繰り返し足を運ぶ人が増え、世界観が浸透してきているからなのだろう。そんな状況のなかで生まれる新曲は、どれも等身大で、自然体の彼女が宿っているように思う。先のインタヴューで、大森は「次のアルバムはもっと愛しいものができると思う」と語っていた。アンダー・グラウンドでもフォークでもアイドルでもない大森靖子は、きっともっと普遍的なものであると思っている。まだ前作が出たばかりで気の早い話ではあるが、次のアルバムがリリースされた先には、大森が進もうとしているもっと広くて大きな世界が現実のものとして広がっているのではないだろうか。そこに向けて、ライヴも曲も少しずつ変化を見せている。クアトロでのワンマンから3ヶ月半、彼女は一切歩みを止めずに、着実に進化し続けている。それを印象づけるライヴだった。(前田将博)

shinjuku LOFT×大森靖子 presents ミッドナイト清純異性交遊
2013年8月29日(木)@新宿LOFT

〈大森靖子 セットリスト〉

1. over the party
2. あたし天使の堪忍袋
3. 新宿
4. 魔法が使えないなら
5. 展覧会の絵
6. 夏果て
7. ハンドメイドホーム
8. エンドレスダンス
9. 君と映画
10. あれそれ
11. 新曲
12. パーティードレス
13. PS
14. プリクラにて
15. ミッドナイト清純異性交遊
16. キラキラ
17. さようなら
18. PINK

・大森靖子 最新インタビュー
http://ototoy.jp/feature/2013081600

[ニュース] 大森靖子

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