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2022/08/15 19:00

 

【極私的レポート】柴田聡子×家主のツーマンライヴに行った話

 

ライヴに行くのはいつぶりだろう。思い返せば、TSUTAYAでプッシュされていたフレデリックやカラスは真っ白のアルバムをipodに入れて、フレッシュな心持ちで音楽を楽しんでいたあの2015年前後以来のことだ。当時仲良くしていた友人にフレデリックを勧めるとハマってくれたようで、それを見かねた彼の母親が僕達をライヴに連れて行ってくれたのだった。

その後元々のインドア体質に拍車が掛かり、ネットに点在する楽曲の共通項を見つけては、その構造を分析する”おままごと”が趣味になった現在、音楽を楽しむ事とライヴを観に行く事は一概に地続きではなくなっていたが、熱心に聴いている柴田聡子家主のツーマン、見なければ大きく後悔するだろうと俊敏にチケットを購入し、2022年8月11日(木・祝)、重い腰を上げて、渋谷のライヴハウスLa.mamaへと向かった。

夏も佳境に入り、ライヴハウスに向かう時点で汗だくになってしまった。ビル群に囲まれた狭い青空の下で入場の案内を待っていると、ぞろぞろと人が集まり始めた。おお、これがライヴ前の雰囲気か。様々な土地から集まった人間が、今一同に介しながらも、干渉し合わない共同体としてここに立ち現れ、各々の時間を過ごしている。しかし共通の音楽が好きだという事実が、一帯のボルテージを静かに向上させていた。

程なくしてライヴハウスに入場し、開演を待っていると、初めに現れたのは柴田聡子だった。アディダスの赤パンツに白シャツ。そのすらっとした出で立ちは写真で見ていた憧れの柴田聡子そのものだ。彼女は「暑いですね」と観客に語りかけると、一曲目に「涙」を披露。キャッチーなメロディーと独特の詩世界が会場を包む。そこには柴田聡子と観客の、音楽を介した対話があった。曲を終えると彼女はあどけなく「サンキュー」と口にして、「ぼちぼち銀河」、「がんばれ!メロディー」収録の楽曲群を中心に演奏を続ける。MCに際しても、暗闇を手探りで歩くようにゆっくりと、そして紛れもなく私的な感性で言葉を紡いでいく様子は、まるでエッセイを耳で聞いているかのようだった。そして最後の楽曲「ストレートな糸」を演奏した際、なかなかイントロから進まないと思えば、冒頭の歌詞が出てこないことを打ち明け、会場は笑いに包まれた。それでも一人のファンが歌詞を教えてくれたようで、無事に完奏。和やかな雰囲気の中幕を閉じた。

次に出てきたのは家主。どこにでもいそうなあんちゃんのような風貌は、作り込みのない本物のイナタさを醸し出している。サウンドチェック時、柴田聡子の「芝の青さ」を演奏するなど、レアなシーンを拝見出来た所で、田中ヤコブのMCからライヴが始まった。「柴田聡子さんとツーマンできるようになるって、僕らも売れましたね」と軽く冗談を飛ばすと、「おはよう」~「ぜんまいじかけ」で狼煙を上げた。狭いフロアに爆音が鳴り響く。それは普段聴いている家主サウンドが、音源の臨界点を超えて立ち現れた瞬間だった。いい音が爆音で鳴る。家主をライヴで聴いている間は、根源的な事象の素晴らしさに、音楽の本質がある気さえしてくる。

そして次の曲を演奏する際、田中ヤコブがセットリストの順番を間違えたようで、「柴田聡子さんもワンミスしているし、拮抗した戦いが繰り広げられていますね」と軽妙な口ぶりで観客の笑いを誘う。なんだかヘラヘラしているのに、ひとたび楽器を持てば唯一無二の存在感を放つ彼は、まさにバンドマンの権化とも表現すべき神々しさがあった。アンコールでは「近づく」を披露。隣の部屋に住んでいる学生が毎晩パーティをしていて、眠れない日々を描いた楽曲だという制作秘話も聞けたところで、演奏を始め、ラストスパートを駆け抜けた。満身創痍でライヴを終えた彼らを拍手と共に見送り、本ツーマンは幕を閉じた。

何物にも代え難い音楽体験は、今日も見知らぬライヴハウスに鳴っている。だからこそ、今後はもっと現場で音楽と立ち会わないといけないと、あの頃の自分に問い正される。本当は思ってもいないくせに、旧友とまたライヴに行きたいなと、そんな綺麗事にふけても今日は許されるような気がした。

文・写真 熊谷風太

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[ニュース] 家主, 柴田聡子

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