2015/10/05 09:00

I Am Robot And Proudの「Ver.2.0」的新展開——最新作、初のハイレゾ配信&インタヴュー

カナダ・トロント出身のショウハン・リームによるソロ・プロジェクト、I Am Robot And Proudが、2013年発表の『touch/Tone』以来、約2年ぶりのオリジナル・アルバム『Light and Waves』をリリースした。あいだにバンド編成にて行われた『touch/Tone』のレコ発来日ツアー、さらにそのツアーの成果をスタジオで再現することに成功したバンド録音盤『People Music』のリリースがあったことを思えば、まだ先かと思われていたフル・アルバムがこの短いスパンでリリースされたことは多くの人にとって嬉しい誤算だろう。

OTOTOYでは本作をI Am Robot And Proud初のハイレゾ配信でお送りするとともに、2015年夏に刊行された『ポストロック・ディスク・ガイド』(シンコーミュージック刊)の編集を務め、同作を起点とした『2015年夏のポストロック事情』特集でも『People Music』を今夏のポストロック重要作としてピックアップしていたライター / 編集者の小熊俊哉にインタヴューを行ってもらった。ショウハン自身の言葉を通して、よりいっそう鮮やかに息づく本作を楽しんでほしい。


I Am Robot And Proud / Light and Waves
【Track List】
01. Colours With No Name
02. Light and Waves
03. Switch and Ramp
04. Kira Kira Zig Zag
05. A Way of Organizing Time
06. Weird Gravity
07. Pecah Tracks
08. Hujan
09. Mountain
10. Magic Numbers
11. Ghost Graffiti
12. Probability Maybe
※M11, M12は日本盤ボーナストラックです

【配信形態 / 価格】
左 : 24bit/48kHz(WAV / ALAC / FLAC) / AAC
単曲 250円(税込) / アルバム 1,800円(税込)

右 : 16bit/44.1kHz(WAV / ALAC / FLAC) / AAC / MP3
単曲 200円(税込) / アルバム 1,600円(税込)
※ファイル形式について
※ハイレゾとは?

INTERVIEW : I Am Robot And Proud

I Am Robot And Proud(以下IARAP)のことを“懐かしい”と感じる人も、いまや少なくないのかもしれない。カナダのトロント王立音楽院でクラシックを学んだショウハン・リームは、このソロ・プロジェクトを2001年にスタート。鉄腕アトムに由来するその名義を一躍知らしめたペンギン・ジャケの出世作『The Electricity In Your House Wants To Sing』のリリースから数えても、もうすぐで10年が経とうとしている。ところがしかし、猫も杓子もエレクトロニカだった時代のポップ・アイコンは、この2015年に音楽家としての新たなピークを迎えているのだ。以前から彼を知る人もそうでない人にも、新作『Light And Waves』が描く風景はきっとフレッシュに映るはずだ。

近況をざっくり整理すると、故レイ・ハラカミへのトリビュート曲も収録した2013年作『touch/tone』の発表後にツアーを共に廻ったバンドの演奏を素材とし、ショウハンがポスト・プロダクションを入念に施して既発曲をリアレンジしたアルバム『People Music』が今年3月に発表されたばかり。これが目を見張る内容で、エレクトロニクスと生演奏、エディットからなる三角形のバランスがうまくハマった『People Music』は、往年のポストロックをアップデートさせたような趣もあり、トクマルシューゴのバンドにも似たマジカルなアンサンブル、1人では生み出せない軽快なダイナミクスからは、これぞ新境地という手応えも感じられた。

そこから約半年の短いスパンで届けられた『Light And Waves』では、シャボン玉がカラフルに飛び交うような電子音のテクスチャーはそのままに、丸みを帯びたバンド・サウンドが全編で活躍している。この愛おしい質感には、近作からのパートナーである同郷トロントの奇才サンドロ・ペリ(11月にリリースされるTurntable Filmsの最新作『Small Town Talk』にも参加)によるマスタリングも大きく貢献しているのだろう。かつて街中に溢れたラヴリーで記名性の強い音像はそのままに、「Ver.2.0」的な新展開を迎え、作家として前進を続けるショウハン。10~11月にかけて全国ツアーも控える彼に、新作の背景などを尋ねてみた。

インタヴュー&文 : 小熊俊哉

このアルバムはライヴ・ミュージシャンがアレンジされたパートを演奏することが出発点になってる

——あなたにインタヴューする機会があったら、訊いてみたかったことがひとつあって。私も含む日本のリスナーがあなたの音楽を語る際、〈やさしさ〉〈切なさ〉〈心地よさ〉といった形容が多く用いられます。それらの表現は実際すべて当てはまると思うし、実際にとてもエモーショナルな音楽だと思うのですが、あなた自身はどういった音楽を作ろうと心がけているのでしょう?

普段、具体的な感情を表現しようと思って作り始めることはあまりなくて、むしろアイディアやコンセプトから始めるんだ。例えば「1つのホワイトノイズのサンプルからビートを作れるか」とか「バスドラムの位置をランダムに変えるプログラムを確率計算を基に組んだらどうなるだろう?」といった感じのね。こういったゲーム的なものやシナリオを起点に作曲を始めて、そこから自然と曲に導かれるようにして作っていくんだ。

——なるほど。『Light And Waves』の制作に至るまでの経緯を、レコーディングのプロセスを中心に教えてください。

2014年の初めごろに考え始めたんだけど、ちょうど『touch/tone』のツアーが終わって、『People Music』をレコーディングしている最中でね。これまでのほとんどの作品では、サウンド・デザインか曲のコンセプトから先に着手して、そこから徐々にメロディやアレンジを構築していったんだ。だけど『People Music』では、そういう従来のアルバム制作とプロセスが全然違っていて、バンドのリハーサルでまず初めにアレンジして(ライヴの現場ですることもあったけど)、それからバンドでスタジオに入って、ギター、ベース、ドラム、キーボードと順にほんの数日でレコーディングしていった。そこから、録音した素材を持ち帰って、数ヶ月かけてミックスやオーバーダブ、エディットを施した。でも、このアルバムはライヴ・ミュージシャンがアレンジされたパートを演奏することが出発点になってるんだ。

『Light And Waves』では、その新しいプロセスを自分の普段の作風に持ち込みたかったんだと思う。それに伴って、自分でキーボードとギターを弾き、他のメンバーにベースやドラム、ギターを弾いてもらって、より多くの生演奏を取り入れた。演奏を編集せずにそのまま使った場合もあれば、それらを素材にサンプリングしたり、カットアップして、コンピューターで加工したりして、断片を使って新しい楽器を作ったりもしたね。(曲でいうと)「Kira Kira Zig Zag」と「Mountain」に関してはほぼバンドでの生演奏で、これは今までやったことのない試みだったよ。

——特にテンポやメロディにおいて、IARAPの音楽にはキャリアを通じて一貫した個性があると思います。一方で、『Light And Waves』と『The Electricity In Your House Wants To Sing』を聴き比べると、新作のほうが音のレイヤーもより緻密になって、よりオーガニックになったといえるはずです。そういう変化を、あなたはどんなふうに捉えていますか?

僕がアルバムを作ってリリースし始めたころは、とてもシンプルなプロセスで作っていたんだ。コンピュータとヘッドホンさえあれば、1人で音楽が作れる方法でね。そういったシンプルさから得られる自由を本当に楽しんでいたんだ。そこから年月を重ねて、その手法を基に、機材が増えて、人やいろんな方法論がミックスされていったんだ。そういった新しい要素を加えながら、僕のサウンドは進化していったんだよ。

また、プログラムを組んでコンピューターで音楽を生成する、アルゴリズムを使った作曲テクニックも導入し始めたんだ。例えば、「バスドラムを検知し、ランダムに半ステップ前にずらしなさい」とか「曲中の音符を全て短三度上下させなさい」とかね。コンピューターのコード/アルゴリズムを使った作曲は、伝統的な奏法からは決して自分が導き出せないような音楽的なアイディアが生まれて、とてもおもしろい方法だと思っているよ。

楽器を演奏するとき、みな瞬時に多くの判断を無意識に行っている

——今回の新作や『People Music』のようにして、バンド・サウンドを取り入れることのメリットについて教えてください。

楽器を演奏するとき、みな瞬時に多くの判断を無意識に行っているよね。特に他のミュージシャンと演奏する場合は、常にタイミングを合わせながら変化して、ダイナミクスも感情やムードで変化する。指先の強弱も、演奏する空間の雰囲気に左右される。生楽器の演奏を録音することの美点、そのとき、その場所で、その特定の人物の演奏を収録するということで、もう二度と全く同じ物は作り出せないというところにあると思うんだ。

——ちなみに、ポストロックからは影響を受けていますか?

ティーンエイジャーのころは、The Sea and CakeとStereolabをよく聴いていたし、この2つのバンドはエレクトロニクスと生演奏のバンドをとてもおもしろく組み合わせていて、自分の作風にも影響を与えているね。

The Sea and Cake / Harps
The Sea and Cake / Harps

——『Light And Waves』というアルバム・タイトルの由来と、花びらが舞っているような素敵なアートワークについて教えてください。

アートワークとタイトルは、これまでずっと試みてきた、音楽とヴィジュアルの融合に関係があるんだ。ここ数年は、ライヴ用の映像ヴィジュアルもそうだし、MIDIデータを元に光や形状を生成するコンピューターのプログラムを自分で構築していてね。アルバムのアートワークも同じプログラムを使って生成したんだよ。自分のキーボードの演奏データが変換され、曲の中の構成音に反応して花びらが生成され、音程や音量が色や重さを表現するようになっているんだ。

——アルバムのオープニングを飾る「Colours With No Name」は、エキゾチックな旋律とともに、その曲名も印象的です。IARAPの音楽というか音色には“カラフルだけど、命名しがたい色彩感覚”があると思うので。この曲のテーマと、音色やテクスチャーへのこだわりについて教えてください。

馴染みのある質感と同時に、聴いたことがないような驚きや説明しようがないサウンドの音楽が大好きなんだ。自分でも、違った質感のサウンドや音符、コード、リズムを組み合わせて、何か新しい驚きのあるサウンドを作ろうと心がけているよ。「Colours With No Name」というタイトルは、「赤、青、白」のような具体名を持った色がある一方、それらの間には無数の名もない美しい色が存在し、認識しているという発想からきているんだ。

——(日本盤ボーナス・トラックを除いて)アルバムのラストを飾る「Magic Numbers」は、アルバム中の他の曲と比べても穏やかな曲調が印象的で、曲名の由来も気になります。

「Magic Numbers」はこのアルバムの中でも最初の方に完成した曲だよ。このタイトルはコンピューターのプログラミング用語で、基本的には、ミステリアスだったり説明のない(=プログラムした本人にしか意味がわからない)計算式や数字のことをいうんだ。

テクノロジーを駆使して新しいツールを作り、そのツールを使って新しい作品を作るという在り方に魅力を感じている

——ここ数作で連続して、マスタリングをサンドロ・ペリが手掛けていますよね。彼を起用し続ける理由と、ミュージシャンとしての魅力を教えてください。

サンドロとは長い付き合いで、実は2000年のIARAPとしての初ライヴは彼との共演だったんだ! その後も彼の音楽を聴いてきて、エレクトロニックなものでも、ダンス・ミュージックでも、ギター主体のアルバムでも、トロントの他のミュージシャンとの共作でも、彼は常になにかおもしろいものをやっている。それに実は、僕のバンドでベースを弾いているマイク・スミスは、彼のバンドのメンバーでもあるんだ。あとマスタリングに関しては、その人を信頼しているというのが最も重要なことで、サンドロと彼の耳をリスペクトしているし、彼が適任だと思っている。

——トロントのインディーな音楽シーンからは豊かな才能が次々と登場していますが、あなた自身は、そんなシーンにどのような形でコミットしてきたのでしょう?

僕はティーンエイジャーで90年代半ばから、トロント周辺で音楽活動をしてきたんだ。トロントはカナダで最も大きい都市だけど、小さな街の雰囲気があって、取り分け音楽シーンではその感じがあるから、ほとんどのミュージシャンは顔見知りで、それぞれ違うプロジェクトで一緒に活動している場合が多い。僕も他のバンドでピアノやキーボードをサポートで演奏したことがあるよ。僕のバンドのメンバーもそういった、他の人の数多くのプロジェクトを通して知り合った人達なんだ。マイク・スミスは、生演奏や電子楽器を駆使したプロジェクトをたくさんやってるから、ぜひみなさんに聴いてもらいたいな!

——最近おもしろいと思った音楽やアートについて教えてください。

違うフィールドの人達からもたくさん刺激を受けているよ。特に最近は、テレビ・ゲームの制作に関わるようになったから、トロントのローカルなゲーム・メーカーの人達が多いね。ゲーム制作は必然的にクリエティヴな表現であり、同時に多くの技術的な挑戦を必要とするんだ。彼らの仕事をこなすには、エンジニアであり、同時にアーティストでもなければならない。こういった経験もあって、自分の音楽制作でも使えるツールを作ることに興味が湧いたんだ。“エンジニア/アーティスト”という、テクノロジーを駆使して新しいツールを作り、そのツールを使って新しい作品を作るという在り方に魅力を感じているんだ。それが、音楽でもヴィジュアルでも、インタラクティブな何かでもね。

——10~11月にかけて、来日ツアーも控えています。今回のライヴはどういったものになりそうですか?

秋にまた日本に行って演奏できるのが本当に楽しみだ! 『People Music』と『Light And Waves』で演奏しているミュージシャンたち、ロビン・バックリー(ドラム)、マイク・スミス、ジョーダン・ハワード(ギター)によるバンド形式のライヴと、もっとエレクトロニックなスタイルとプログラミングしたヴィジュアルに特化したソロ・パフォーマンスをそれぞれ用意している。このツアーのために新たにヴィジュアルのプログラムを組み直したから、毎回自分の音楽を視覚化するのが楽しいよ。日本の新旧の仲間たちと一緒に共演するから、きっと最高だよ!

配信中の過去作

>>『2015年夏のポストロック事情』特集ページはこちら
>>『touch/tone』特集ページはこちら

LIVE INFORMATION

I Am Robot And Proud “light and waves" Japan Tour 2015

2015年10月20日(火)@渋谷TSUTAYA O-NEST
出演 : I Am Robot And Proud(Band Set) / 嶺川貴子&Dustin Wong

2015年10月21日(水)@松本ALECX
出演 : I Am Robot And Proud(Band Set) / fox capture plan

2015年10月23日(金)@神戸旧グッゲンハイム邸
出演 : I Am Robot And Proud(Band Set) / オオルタイチ+ウタモ
PA : 西川文章

〈I Am Robot And Proud & Jimanica W Release Party in Nagoya〉
2015年10月24日(土)@名古屋 得三
出演 : I Am Robot And Proud (Band Set) / Jimanica band set

〈ボロフェスタ 2015〉
2015年10月25日@京都KBSホール

〈I Am Robot And Proud & Jimanica W Release Party in Osaka〉
2015年10月26日(月)@大阪CONPASS
出演 : I Am Robot And Proud (Band Set) / Jimanica band set

〈I Am Robot And Proud & Jimanica W Release Party in Tokyo〉
2015年10月28日(水)@渋谷TSUTAYA O-NEST
出演 : I Am Robot And Proud (Band Set) / Jimanica band set

2015年10月30日(金)@熊本NAVARO
出演 : I Am Robot And Proud(Solo Set) / and more

2015年10月31日(土)@うきは 杉工場
出演 : I Am Robot And Proud(Solo Set) / Autumnleaf

2015年11月1日(日)@福岡 Keith Flack
出演 : I Am Robot And Proud(Solo Set) / ANYO / ネネカート / temperamental duo (little side effect & KT) / macro room group
DJ : コイデアイ

〈【狂言綺語】第3回〉
2015年11月3日(火祝)@富山市能楽堂
出演 : I Am Robot And Proud(Solo Set) / DE DE MOUSE / cuushe / smoug / ゆーきゃん

〈I Am Robot And Proud & Jimanica W Release Party in Sapporo〉
2015年11月7日(土)@札幌 PROVO
出演 : I Am Robot And Proud (Solo Set) / Jimanica band set / chikyunokiki / Qrion / Couple

〈I Am Robot And Proud & Jimanica W Release Party in Matsuyama〉
cowbells presents 「electrum vol'10」
2015年11月13日(金)@松山BarCAEZA
出演 : I Am Robot And Proud (Solo Set) / Jimanica / cowbells / and more

〈I Am Robot And Proud & Jimanica W Release Party in Kochi〉
2015年11月14日(土)@高知ONZO
出演 : I Am Robot And Proud (Solo Set) / Jimanica / tamura norihide / and more

〈I Am Robot And Proud & Jimanica W Release Party in Tokushima〉
ism rockfield presents「Azunai Yatsura #1」
2015年11月15日(日)@徳島CROWBAR
出演 : I Am Robot And Proud (Solo Set) / Jimanica / cowbells / and more

PROFILE

I Am Robot And Proud

カナダはトロント出身、ショウハン・リームによるプロジェクト。柔らかで丸みを帯びた記名性の高い音色と、牧歌的で優しく沁みるメロディ、どこまでも心地よいテンポの三位一体によるIARAPサウンドは2000年代初頭より多くの信奉者を生み続けている。ペンギンジャケで知られるサード・アルバム『the electricity in your house wants to sing』(2006)は日本でも大反響を呼び、TOWER RECORDSのNew Ageチャート、iTunesのElectronic Musicチャートで1位を獲得。日本との関係も深く、これまで単独でのツアー数回に加え、TAICOCLUB、朝霧JAM、渚音楽祭、ボロフェスタ等のイベントにも出演を果たしている。

>>I Am Robot And Proud OFFICIAL HP

この記事の筆者

[インタヴュー] I Am Robot And Proud

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