1998年、大阪発ヒップホップ・バンド「韻シスト」を結成。数々のライヴと数々の音源を発表。2011年自身のレーベル「BASIC MUSIC」を設立。韻シスト結成から今年で15年、そして、自身のレーベル設立から2年を迎えたBASI。ソロでは『RAP AMAZING』『VOICERATION』という2枚のアルバムをリリースし、先月にはサード・アルバム『RAP U』をリリース。ほぼ同時進行で制作された韻シスト5枚目のアルバムもリリースを終えたばかりである。そして、間髪いれずにEP『笑み feat. EVISBEATS』が11月にリリース。今回、OTOTOYではSEX山口氏(※紅白出場経験有)とともに、インタヴューを決行!! この機会に、関西が誇るヒップホップ・アクトの歴史をふりかえってみようではないか。
BASI / 笑み feat. EVISBEATS
【配信価格】
単曲購入 mp3 200円
【作品紹介】
サード・アルバムでもトラック・メイクを担当したEVISBEATSが、本作ではトラック・メイクとラップで参加。サード・アルバム『RAP U』の延長線にある内容で、レイド・バックしたトラック上でBASIとEVISBEATSが、優しく心地よくフロウする。まさに年末の締めにふさわしい作品。
BASI / RAP U
【配信価格】
アルバム購入 mp3 2,100円 / wav 2,520円
単曲購入 mp3 200円 / wav 250円
【作品紹介】
2013年10月に発表された、3作目のソロ・アルバム。共有やYouをテーマに、約1年かけて制作された渾身の意欲作。特筆すべきはEVISBEATSが、8曲ものトラック提供している。また、関西が誇る孤高のリリシスト”茂千代”を招き初のセッションや、BASI本人が念願だったという歌姫AZ CATALPAとの共演、韻シストのメンバーなども名を連ねている。
韻シスト / HIPSTORY
【配信価格】
アルバム購入 2,400円
単曲購入 200円
【作品紹介】
2013年で結成15周年となる韻シストの、通算5枚目のアルバム。のっけから跳ねる4ビートが印象的なM1「一丁あがり」、韻踏合組合の組合長SATUSSYをフィーチャーしたM6「Neighborhood feat. SATUSSY(韻踏合組合 / CHIEF ROKKA)」、などバラエティに富んだ14トラック。
INTERVIEW : BASI x SEX山口
今回のインタヴューは大阪で生まれ、大阪で育ち、大阪の空気をたくさん吸ってLiveに盤に言葉を落とすブルージーなMC、BASIの登場である。BASIとの親交も深いとウワサされるSEX山口にインタヴューアーを依頼。結果、たくさんのヒップホップ用語が飛び交うアツいインタヴューとなった。
インタヴュー & 文 : SEX山口
ラップを始めたきっかけは… 映画『THE SHOW』
ーーBASIくん、本日はよろしくお願いします。
BASI : よろしくお願いします。
ーーではまず、BASIくんがラップを始めたきっかけから教えてください。
BASI : ラップを始めたきっかけは… 映画「THE SHOW」(注1)を観てですね。
ーーほほう。ゴーストフェイス・キラのBBキャップ×浴衣というレアな姿が拝めたりして最高でしたね。比較的ド直球なヒップホップ・ドキュメンタリー映画を観て感化されたと。
BASI : ランDMCやスヌープ・ドギー・ドッグが出てくるあの映像を観て、なにかを感じたというか。リリックを書くようになるずっと前に、ポエムに近い詩を書き溜めてる時期があって。なんかいいたいことがあったんでしょうね(笑)。
ーー思春期にして自然とペンが走っちゃったわけですね。そのポエム読みたいです。
BASI : で、ヒップホップという大きなカルチャー自体もすごく衝撃だったんですけど、僕はラップのリリックの内容に引っ掛かりまして。たとえば〈やべー車乗り回してるぜ〉とか〈あいつを撃ち殺せ〉とか〈ビッチとあーだこーだ〉とか。
ーー金・車・女・銃・ドラック…。むこうのハードな日常は日本に住んでいるこちらから見れば非日常ですしね。まずはそういった表現のリリックにアンテナが立ったと。
BASI : 「なぜこういうことをラップしてんねやろうな?」「自分だったらこういう表現をするけどなぁ」みたいなことを繰り返し起きて。漠然とですが自分と照らし合わせながら『THE SHOW』を観てたりしまして。で、その後に『さんぴんキャンプ』を観て「日本語でできる!」っていう事実を知ってから始めました。「これなら俺もできる!」と。
ーーラップはひとりで始めたんですか?
BASI : ひとりで始めましたね。
ーー友達と一緒にとか、韻シストになる前のグループがあったとかじゃなくて?
BASI : じゃないですね。当時、しかも、機材とかもまったく知らない状態。そんな感じだからラジカセを二つ用意して、片方に録音用の空のカセットテープを入れて、もう片方にはレコードのB面に入っているインストをダビングしたテープを再生用として入れる。思い出したんですけどSOUL SCREAMの『TOu-KYou』(注2)のインストを使ったりしてました。右のラジカセででインストを再生して、左の空のカセットの録音ボタンを押して。
ーーあー、なるほど(笑)。MTRの存在自体をも知らないからラジカセ二台で一発録り。うん、これは美しい宅録ですね。
BASI : そうです、そうです。そんな感じでレコーディングしてたんですよね(笑)。
ーーすばらしい初期衝動ですよ。じゃあもう初めから超アナログな手法だけど、RECすることに意識が向いていた、ということですよね。
BASI : そうですね。基本は自分で聴くための確認用だったんだけど、だんだんそれをスケートやったりDJやってるまわりのひとに聴かせるようになって。ラップしてるやつはまわりにいなかったなぁ。
時間があればリリック書いたりしてましたね
ーー日本のヒップホップシーンのざっくりとした大きな流れとして、ダンサーブーム → DJブーム → 最後にラップ、という感じでしたから、まだまだラッパーが少なかったころでしょうね。でもその前に、大阪は先輩方が育てた独自のSOULシーンもあるし、アツいですよね。
BASI : 僕の街は結構スケートとレゲエが盛んな街だった。そこからの延長でヒップホップのDJも出てきてた感じですね。まわりはみんな、ターンテーブルを買ってレコードをディグりだして。自分が高校3年生だったかな。ちょっとふてくされながら「俺なんて…」みたいな感じでひとりでラップしたり、時間があればリリック書いたりしてましたね。
ーー韻シストのメンバーとはいつごろ、最初は誰と出会ったのでしょうか?
BASI : 高校出てからベースのShyouに出会うんですよ。おたがい19歳でしたね。そこで自分のラップを高く評価してくれて、初めて受け入れられたというか。「今のままでいい」「これでいい」みたいな感じで背中押してくれたというか。そのころにちょうどShyouもベースを弾き始めた。僕がラップを始めた時期と、Shyouがベースを始めた時期が一緒なんです。
ーーなかなかグッとくる話ですよ、これ。ふたりそれぞれの武器を選び、手に取る瞬間ですからね。
BASI : 僕はマイクを、Shyouはベースを。そんな感じで、なんとなくですけど音楽と寄り添う関係ができてきたころですね。
ーー次に出会うのは?
BASI : サッコン。Shyouの高校の同級生なんですよ。
ーーなるほどー。それで韻シストの母体ができあがったワケですね。
BASI : そうですね。
ーー自分が一番最初に動く韻シスト、つまりLive映像を観たのはYOU THE ROCK★さんがMIC MASTAをやっていた「HIPHIP ROYAL 2001-Do The Next Thing!」でした。友人が録画したVHSを貸してくれて。放送された曲は「レッツ☆ダンス」(注3)。そのときのBASIくんとサッコンの着てた服まで鮮明に憶えています。
BASI : 東京は新宿LIQUID ROOM、大阪はマザーホールで同日・同時刻開催でした。生中継で大阪と東京をつないで、互いの会場にプロジェクターでLiveの模様をダイレクトに映しながらやるっていう。今考えるとUSTもない時代にすごいことやってますよね。
ーー確かに。
BASI : ZEEBRA氏、KICK THE CAN CREW、餓鬼レンジャー、SOUL SCREAM、瘋癲、GAGLEなどなど、すごかったです。
ーー他には… (ググりながら)。アルファ、LUNCH TIME SPEAX、D.O氏、夜光虫、レッキンクルー、そしてTHINK TANK!
一同 : おお〜!
ーーでもって、翌年に先の「レッツ☆ダンス」が収録された韻シストのセカンド・ミニ・アルバム『Relax Oneself』発売されます。ちょうどそのころ、ヒップホップ専門音楽誌・blastにインタヴューが掲載されましたよね。
BASI : 載ってましたね。凄いですねセク山さんの脳内アーカイヴ。
自分のルーツはスピーチにあるかもしれない
ーー『Relax Oneself』を買ったらAFRA氏が参加してて。「feat.勢も好きなひとしかいない。韻シストどうなってんだ!」って思って。そっから追い出したんですよ。
BASI : AFRAはサッコンの次に出会ったMCなんです。当時はビートボクサーというより、どちらかっていうとラップをやっていて。サラリーマンが仕事終えたあとに集まるバーとかにいって、おっちゃん達の生演奏の上でフリースタイルしてたりしてたんですよ。僕もそこに遊びにいって、初めてAFRAに出会ったんです。あとに段々ビートボックスに流れていったんですけど。
ーー酔ったおっちゃん達を相手にサイファーだなんて、とてもすばらしいですよね。エンターテイン芸の肥やしですよ。では、最初にやられたラッパー、覚えてます?
BASI : 最初にやられたラッパー…。そうだなぁ…。
ーーガーンとキた! これ好きっていう。
BASI : スピーチ。
ーーお〜素敵。そして、わかるぅ。
BASI : 高校のときにDJの友達がスピーチのファーストを持っていて。
ーー顔ジャケのやつですね。
BASI : そうそう、ちょっとを目つむったやつ。
ーーあれかっこいいですよね。「Like Marvin Gaye Said (What's Going On)」(注4)スピーチ、ソロの1発目でしたね。最近自分もスピーチを聴き直してて。やっぱり“ちょうどいい”ですね、SPEECH。
BASI : 「THE SHOW」を観て食らっている自分ですから「このソウルフルで柔らかい音楽はなんなんやろう」って、カウンター気味にスルッと引き込まれた感じがありますね。ひょっとして自分のルーツはスピーチにあるかもしれないっていう。
ーーBASIくんもスピーチも知ってるひとは、今画面の前で大きくうなずいていると思いますよ。
BASI : 初めて話したっすね。やっぱりこれだけ掘り下げていただいたら結構たどり着きますね。
ーー納得のアンサーが出てこちらも嬉しいですわ。では、ここ最近やばいって感じるラッパーは? 海外でも日本でも。
BASI : Paris Jones… って分かんないですかね? 3年ぐらい前の曲なんですけど『winter』(注5)っていう曲がすごく良くて。
ーーあ〜、いいですね! フロウとかもメロディアスだったり。
BASI : そう。メロディアスだったり、自身が遊びで鍵盤弾きながらラップしたりとか。
ーーなんだか思うんですけど、最近曲に関して自由度が高くなってますよね。シカゴのチャンス・ザ・ラッパー周りとかもそうだし。
壁だったり障害っていうのを全部なくしていきたい
OTOTOY : では、関西で共感できるひとっていますか?
BASI : やっぱり今回のアルバムに参加してる、あきらくん(※EVISBEATS)と茂千代君に関しては思い入れがありますね。
ーー自分も仲良くさせてもらってるT.R.E.A.M.っていう『田中面舞踏会』とかやってるクルーがあるんですけど「えっ! 茂千代入ってるの!?」ってなってましたよ。
BASI : 大阪は韻踏合組合とかデスペラードとか10年以上前からずっとやってるひとたちがいて、で、韻シストもあって、ずーっと続いてるなかで「続けてきたひとたちだけが色濃く残って、一緒に音出して、一つの作品を作ったりするのは、すげえすばらしいことやなぁ」と身に染みて思っていて。共感だけではなく、もういろいろひっくるめてEVISBEATSさんと茂千代君ですね。
ーー東京から見ててもすごく思うんですよね。今の関西シーンって、壁みたいな障害がなくなってきてるなあっていうのが見えるんですよ。住民ではないからこそ、冷静に俯瞰で眺めることができる。
BASI : 自分は自身のレーベル「BASIC MUSIC」として、やっぱりそういった壁だったり障害っていうのを全部なくしていきたいというか、交通整備じゃないですけど。なんかレーベルを利用して、なかったリンクだったり、なかったカードの組み合わせをやりたいなぁ、って思ってます。
OTOTOY : では大阪の話が出たので訊かせて欲しいのですが、昨今の大阪のクラブシーンには、やっぱり風営法のことが付きまとうと思うんですけど、それについてはどのように向き合っていこうと思ってますか?
BASI : いろいろと考えかたがあると思うし、賛否両論あると思うんですけど、僕は「難しい話より自分達で遊び場を作りたい」って意味で、環境やシチュエーションというよりは「音が出るとこやったらいつでもライヴやパーティーができる」ということをこれからの若いひとたちにも提示していきたいんです。今は『BASIC MUSIC』として大阪と東京でそういう音さえ出ればそこにライヴがあることを提示していきたいですね。それにそんなに悲観的なこともないですし、僕ももう36歳なので、時間帯も遊びかただったりルールが決められてるなかのほうが自分としては表現もしやすくなるし、「そこが楽しいんだよ」っていうことを表現者がアウトプットしていけばそこにはひとが集まってくると思っています。
OTOTOY : 週末のデイ・イベントとか増えてきてるんですよね。
BASI : そうですね。潜って夜中に遊ぶ方向というよりは「健全とした遊べる場所で最高のパフォーマンスをする」っていう、どんどん考えかたもシンンプルになってきて「できない物はできないし、無理なものは無理」なんで「じゃあ、なにをするか?」っていうことを念頭をおいてますね。
ーー次に先ほど話しにも出てきました、BASIくんも自身も所属するレーベル「BASIC MUSIC」の話を訊かせてください。立ち上げから2年がたちましたね。約半年前にZIMBACK氏が正式加入し、Jambo Lacquer氏を含め三名が所属アーティストとなるわけですが、共通点はどこだと思いますか?
BASI : 共通点は自分が好きなラップスタイルを持ったMC、それがJambo LacquerであってZIMBACKだった、ってことですね。あとはラップのスタイルが確立されてる、そのひとらしさが出ててオリジナル。だからJambo Lacquerを聴いて、そのもっと下の若い世代のフォロワーが出てきたりとかZIMBACKのああいうスタイルに感化されたMCがどんどん増えてくるとか、そういう巻き込んでいけるみたいなシーンを作っていきたいなと思います。僕らはいわゆるハスリンハスリンな感じではないし、また新たな今まで無かったものを提示したいっていうのがあって、そういう部分が共通点だと思います。
ーーJambo Lacquer氏に関してはダンスあるじゃないですか。Jambo Lacquer氏が擁するWARAJIクルーは全員が踊れる。ダンサー上がりでDJやラップをやるひとって多いと思うんですけど、しっかりと踊りを提示したステージができてるのはWARAJIだけしか思いつかないんですよね。それとZIMBACK氏に関してはスケートですよね。スケーターの先輩とかはやっぱ知ってるんですよね。音源も持ってるしっていう。
BASI : 多分ジン君に関してはスケートもチャリもラップもDJもすべてライフスタイルというか楽しいからやってるていう、凄い良い意味で遊びを重要視して歳を重ねてるなあっていうのは、側にいても分かりますね。
いちからヒップホップのフォーマットを追究したくなったんでやり始めた
BASI : そうですね。
ーー韻シスト13年目ぐらいのときにソロが始まるわけじゃないですか。その前にZIMBACK氏とアルバムを出したり、DJ A-1氏とアルバムを出したりとかはあると思うんですけどね。そこは一旦置いていて。ソロとグループの違いを訊きたいのです。
BASI : グループはやっぱり尊重し合うこと、協調性が大事ですよね。みんなで答えを出すっていう。ソロは逃げ場がないというか、自分ですべてアイデアからアウトプットまで考えたい、考えなきゃいけないっていう。作品が出るまで誰もが孤独で、その自分との戦いというか。ソロはストイックにやりたいから答えも次の策も自分で考える。韻シストは尊重しあってトータルで、ひとつの答えを出していく。あとは形の面でいったら韻シストは生演奏ですからライヴのときに、たとえばミスが出てもみんなでまた頭から戻して、いちから音を作り出すことができるけど、ターンテーブルの場合はそうもいかない。自分が走ろうがもたろうがターンテーブルが出てくる音はもう常に一定のリズムがキープされてて、そのなかで自分を表現する。どっちもしたかったんです。「韻シストやろ? 生演奏のやつやんな」っていうイメージだけじゃなくて「ターンテーブルもやってるよ。DJイングに対してもDJのパンチと日夜スキルを磨いてるよ」っていう。またあらためて、いちからヒップホップのフォーマットを追究したくなったんでやり始めたって感じですね。違いはそういう、両極端にある両サイドですね。
ーーずっとグループでのBASIくんを見てて、ソロで1MC1DJ、つまり1本のマイクと2台のターンテーブルだけになったときに、もの凄くヒップホップを感じましたよ。
BASI : ありがとうございます。
ーー「当然できるよなー」っていうのはあるんですけど、それを生で観るとグッときちゃいますよね。っていう。
BASI : どんどん研ぎすまして、さっきのストイックに繋がるんですけど、そこを強化したかった。というのと、いっかいメンバーの力ではなくて自分のセンスや感覚でやってみたかった。というのがきっかけであり、今もそれも続いてる感じです。
ーーDJのパンチくんとはどこで知り合ったんですか?
ーーパンチくんの擦りはタイトだし、なにより顔がいいですよね。いつもニコニコしてて、まわりがホッコリしちゃう空気感。では、今回のサード・アルバム『RAP U』の話を。
BASI : ハイ。
ーー15曲中9曲がEVISBEATS氏ですが、なぜこのような比率になったのかってとこなんですけど。どういう感じでこのアルバムが完成したのでしょう?
BASI : 単純に今回は自分はラップだけで50分を超えたいという想いと、スキット・イントロ・アウトロ一切なしで声だけで持っていきたいという一つの理想があって。そこに大阪で活動してるいろんなトラックメーカーに声を掛けていって、あきらくんにも声をかけて「今回こういうアルバムを作ろうと思ってる」っていう話をしたりして。あきらくん、最初は3曲の予定だったんですよ。
ーー3曲の予定だったのに9曲になる。これは良い話が訊けそうです。
BASI : 厳選させていただいて、まずは「あなたには」(注6)と「it`s all good」(注7)。
ーーその2曲は早めに決まったのですね。
BASI : デモを3回ぐらいに分けていただいたんですけど、1回目のデモに「it`s all good」のトラックは入ってましたね。これは必ず形にしたいっていうのがあって、あきらくんも同じような感じでしたね。あきらくんが作業中にiPhoneで「こんなビートもあるよ」ってビートを不意に鳴らしたりするんですよ。「いいな」って飛びつくころにはストップ・ボタンを押してまた作業を始めたりするんですよね。凄い気になる!みたいな(笑)。
ーーEVISBEATS氏、おもしろいことしますね(笑)。
BASI : 「さっきのトラックなんですか? なんでこんなタイミングで聴かすんですか(笑)?」みたいなことをいったら「タイミングでしょ」みたいなことをいったり。そうやっていろいろ聴かせてもらっているうちに単純に我慢できなくなったというか。「この曲もいいですか?」みたいな感じで訊くと、あきらくんも「まじで? この曲がいいの?」となり、どんどん僕が素直に反応することにブレーキをかけることなく「じゃあ、まず書いてみたらいいやん」みたいな感じになって、書いていく。そういうのが続いて結局欲張りに9曲いったっていう(笑)。すごく有り難いことなんですけど。
ーーそれってすごく自然な流れですよね。
BASI : あきらくんもあきらくんで最初は3曲という予定で進んでたんですけど、プリプロとかするとまたトラックをアレンジして返してくれたりとか。ミックスにも余念がなかったですし。色々なアイデアもくれるし、提案もしてくれるしで最高のひとですね。
ーー自分は「it`s all good」にやられました。
BASI : おそらく元ネタ的なとこもあったり。
ーー「まさかこんなところから!」っていう。聴き比べてみるとちょっと入れ替えてるだけで意外とまんま使ってるじゃないですか。サンプリングでトラック作ってるひとはみんな悔しいと思うんですよね、気付かなかった自分に対して悔しいというか。あれって95年のアルバムだし、日本でもそこそこ売れたと思うんですよ。そういうところも関係なく、いや、逆に意識したりしてEVISBEATS氏は作ってるんだろうなと思って。
BASI : あきらくんはすごく、イエス / ノーがハッキリしてますね。
ーーお、そうなんですね。
BASI : だから良くなかったら良くないっていってくれます。
ーー具体的には?
BASI : ラップとトラックの相性ですね。だから1曲ボツった曲もあるんです。あきらくんが聴いて「BASI君とこのトラックは合ってない」っていう。よくあるじゃないですか、音楽やってて好きな物が集まるから「ヤバい! ヤバい! ヤバい! いけてるいけてる!」みたいな進みかた。あきらくんの場合は素直に合ってるものは「合ってる」、合ってないものは「合ってない」っていってくれるんで、その辺もやりやすかったですね。
ーーなるほど。
BASI : あと妥協を絶対許さないですね。当然のことなんですけど。そして、ひと一倍音に対してはストイックですね。ミックスの作業を見ててすごく思いました。あれは貴重な経験させていただいたな。
ーーアルバムのティーザーでスタジオにてBASIくんとふたりでやり取りしてる動画を観て「こんな感じでやってるんだ〜」とか。あれってリアルな制作現場ですか?
BASI : そうですね。大阪のスタジオなんですけど、ミックスのときはドラムの音質やったり、音色とか鳴りを目の前で作業して見せてくれるんですけどその作業が自分にとってすごく新鮮で刺激的でした。
ーー良い音を出すひとの、いい音を探す作業を見れるのは確かに贅沢です。
BASI : そうですね。気にしてるとこやったり、不明なとこを解消しようとしてる過程を見れるのはめっちゃ贅沢やなと思いましたね。
「レペゼンなんとか!」「俺が俺が!」という表現に限界を感じた
ーー今回で3枚目のアルバムとなりますが、1枚目、2枚目、3枚目それぞれで、自分が推したいポイントを教えてください。
BASI : 1枚目はタイトルが『RAP AMAZING』というだけあって、言葉遊びを重要視しました。ソロではBASIのラップスタイルだったり、BASIの言葉遊びだったり。それを感じてもらうっていうところですね。基本フックがない曲も多かったし、ロングバースで持ってく曲もあったし、ストーリー・テイリングの曲もあるし、ラップにフォーカスを当てたアルバムですね。
ーーでは、2枚目。
BASI : 2枚目の『VOICERATION』は自分としてはダークっていう言葉って、けっこうネガティブなイメージだったり、あんまりいい意味では使われない言葉なんですけど、あえて挑戦というか。「ダークというものをかっこよく見せよう。ダークとクールを提示したい」っていうのが挑戦であったし、やったことのないテーマだったので、ジャケットもあんな感じで無機質なものですし中身もそういうイメージを。全体的に声ネタで持っていってたり自分の声をミックスでつぶしてたりとかして、結構実験的なアルバムですよね。
ーー最後に今回の3枚目。
BASI : 3枚目はー…。
ーーリリースはしているけど、実はまだ完結してないってことですよね。
BASI : そうですそうです。11月27日に各配信サイトで「笑み feat. EVISBEATS」というシングルをリリースします。もちろんトラックはEVISBEATS、なんですけど、この「笑み」ではラップもしていただいているという。あきらくんの家に遊びにいったときに「遊びで録っちゃおうか〜」ってなって。CDには入らなかったけどこの曲を含め『RAP U』なんです。
ーー先に聴かせてもらいましたが「笑み」すばらしいです。
BASI : 『RAP U』のUは“You”であったり共有の“有”であったり、ラップで“言う”であったり、遊びって漢字も“ゆう”って読むじゃないですか。
ーー結う、とかも。そんないろんな“ゆう”の意味を持たせたいという想いがあり、この“U”を正式な表記とした、というわけですね。
BASI : そうなんです。詳言ができないという意味でアルファベット一つに。一番最初に「あなたには」ができて、その流れかもしれないのですが、リスナーのことを考えたアルバムって感じですかね。簡単にいったら「レペゼンなんとか!」「俺が俺が!」という表現に限界を感じたんで、対リスナーと共有するということに興味が湧いていったって感じですかね。
大人も子供も楽しめるヒップホップを
BASI : そうですねえ、自分としてはある意味こういうアルバムは作れないなあと思うんですよ。作れないか作らないか分からないんですけど。自分としては大作を作ったと思いますし。長く聴けるようにそういう細かい仕掛けも作ってあるので。好きな映画ってひとそれぞれあるじゃないですか。そういうものになったらいいなみたいな感じもしていて、なんか大事に聴いていただいたらいいですね。
ーーあ、そうだそうだ。アルバムを聴いてて一番やられたラインは「ウルトラマン、キン肉マン、メソッドマン、唯一なれたのは営業マン」。
BASI : あーそこ、めちゃめちゃいわれますね。
ーーバシ君のアルバムを買う男性って同世代多いと思うんですよ。全部のワードがドンズバな世代じゃないですか。
BASI : ツイッターでもあそこピックしてるひと多いですね。自分ではやっぱり分かんないですね、どこがリスナーが引っかかるかって、自分はここパンチラインやと思っててもやっぱ重なることってなかなかないですね。
ーーそこが伝わるとは思ってなかったですか?
BASI : 思ってなかったですねー。
ーー韻シストのサード・アルバム『GOURMELOGIC』収録の「Is it good to you?」(注8)この曲大好きなんですけど、BASIくんのバースで「今に見とけオレはDOPE MC いつか這い上がるドブネズミ」って名ラインがあるじゃないですか。あれぐらいの衝撃がありましたね。
BASI : ありがとうございます。その辺り書いといてもらっていいですか、リリック面あんまり拾ってもらえることがないので(笑)。
ーーそれでは最後に、BASIくんはこれからどういうヒップホップを目指しますか?
BASI : 環境とかロケーションに対してこだわりが無くなってきましたね。音が出ればどこでもライヴしたいですし、安直ないいかたをすると大人も子供も楽しめるヒップホップを。
OTOTOY : 元々ブロック・パーティーから始まった音楽ですしね。
BASI : そうですね。そこに戻したいのかもしれない。ヒップホップを表現していくっていうのは、今まで培ってきたものや自分から出るアクションを指すわけです。あえてそれを「レペゼン」するとかそういうことじゃなくて、もっと楽しいものとしてこれからは捉えていきたいなぁって思いますね。
ーーPeace, Unity, Love, And Having Fun! これですべてよし!
BASI : すべてよし!
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PROFILE
BASI
日本におけるヒップホップ・バンドのパイオニア、韻シストのMC。1998年結成当初から大阪を拠点として活動する。2001年『ONE DAY』でデビューし、その後2003年『Hereee we go』をEPIC SONYからリリース。2006年には自主レーベル、Middle tempo productionを設立、メンバー個々の活動も活発化させる。2009年、ZIMBACKとBASI & ZIMBACKを結成し、アルバムをリリース。2010年にはSmall Circle of Friendsの東里起と、Designを結成し1枚のアルバムをリリース。2011年には自身のレーベル、BASIC MUSICを設立。同年10月、初ソロ作品となる『RAP AMAZING」をリリース。2012年はセカンド・アルバム『VOICERATION』、2013年は韻シストとしては5枚目となる『HIPSTORY』、ソロ作品ではサード・アルバム『RAP U』をリリース。