2010/10/04 00:00

パッとしないワット、脱力な快作

リアル・タイムなシーンを注視していない人間でも、ここ数年マイク・ワットの度重なる訪日を不可解に思っていた者は少なくないだろう。The Stoogesに参加しているとは言え、勿論それはイギー・ポップのバンドであるし、ワットのクリエイションとは違う側面と言える。数年前、欧州フリー・ジャズの雄ハン・ベニンクとのセッションを観た時、「これはっ」という瞬間は正直なかった。歳のせいにはしたくはないけれど、なにかワットは敢えて歳をとってしまったんじゃなかろうか、という寂しさすら感じたのは私だけではあるまい。どこか胸の奥が刺される思いであった。

そのワットが、ギターに元Red Krayolaのトム・ワトソン、ドラムにラウル・モラレスを従えてMike Watt名義の新譜を出したのであるが、試聴の際、私はもはや初めから諦めることで失望を避けようとしたのも致し方のない事である。私にとってワットはやはりヒーローであるし、ここ何年かの違和感を補って余りある全力の敬意を、彼に抱いていることには変わりない。だからこそ、これ以上パッとしないワットを聴きたくない。もう、そんな思いで聴いたのである。

しかし、しかしである。音源を再生するなり漂ってきたのは、どこか的の外れたリフ。10秒過ぎから顔を出す細切れの歌。「これはっ」と思わずにはいられない久々の感覚。何だか間を感じる。それも、何を企んでいるのかわからない間である。人を食った、それでいて(いや、だからこそか? )ハードコアのマインドを感じさせる空気感。30曲で45分。そういった意味では、これはまさしくminutemen的であるし、実際ワットはminutemenのドキュメンタリー『We Jam Econo』を制作したことで、インスピレーションを得たとのこと。しかし、それは必ずしも懐古主義的に響く音ではない。80年代以降のUSインディーの文脈を感じさせながら、minutemenが大人になった、とでも言おうか。勢いだけではない、老練なベテランの間合いを手に入れた感がある。この間合いも手伝ってリズムが単なるリズムとしての機能に専心せず、極めて音楽的な様相を帯びている。というのもギター、ドラムの両人のプレイが実に良い。ベースも同様、三者で決して出過ぎたパートはない。全体でリフを奏で、全体でリズムを刻む。力は入り過ぎていない。むしろ脱力。この軽さが近年ワットに欠けていたものだったのか。拳を握るだけが反抗ではない。石は紙で包めば良い。紙ペラ一枚、風に吹かれてヒラリと舞う。そんな軽さである。ツチノコにBGMを付けるなら、これだ。minutemenだけでは終わらない大人の反骨サウンドを仕上げたワット、ここにきて再び100%のリスペクトを禁じ得ない。敬礼! (text by 木村直大)

LITE井澤が主催するParabolica recordsから同時リリース!

LITEのベーシスト井澤惇が立ち上げたインディー・レーベルParabolica Records。「海外の良質なバンドをリアル・タイムで日本に紹介していきたい」というコンセプトのもと、先に挙げたMike Wattの新作『hyphenated-man』やtera melos等の音源をリリースしている。今回新たに、アイルランド出身の3ピース・マス・ロック・バンドAdebisi Shankの新作が到着!

Adebisi Shank / This is the second album of a band called Adebisi Shank

オックスフォード出身の3ピース爆裂マス・ロック・バンドAdebisi Shank、待望の2ndフル・アルバム。掻きならされるギター、けたたましいドラム、気狂いベースが異次元を作り出している。ShellacやDon Caballeroに代表されるようなマス・ロック、ポスト・ハードコアから影響を感じさせつつ、プログレッシヴで複雑な曲展開、聴く者の体を自然と揺さぶるストレートな8ビートは、ジャーマン・プログレ後継者の突然変異とも言える。熱球のような音の塊をぶつけ絡ませあうライヴは必見!

PROFILE

Mike Watt

80年代USハードコア/パンク界に革新をもたらし、レッド・ホット・チリ・ペッパーズほか多くのロック・バンドに影響を与えた伝説のバンド 、ミニットメンのベーシスト、そして現在、イギー・ポップ率いるストゥージズへの参加で知られる西海岸パンク・シーンのレジェンド、マイク・ワット。ギターにトム・ワトソン(レッド・クレヨラ)、ドラムにラウル・モラリスを迎え、30曲ノン・ストップの、6年ぶりの4thアルバムをリリース。

Mike Watt来日! hyphenated-man’ in japan tour 2010

  • 10/17(日)@ 六本木SUPERDELUXE
w / LITE / tera melos
  • 10/18(月) @山形SANDINISTA
w / LITE / tera melos
  • 10/19(火) @青森SUBLIME
w / LITE / tera melos
  • 10/20(水) @盛岡CLUB CHANGE
w / LITE / tera melos
  • 10/21(木) @仙台PARK SQUARE
w / LITE / tera melos
  • 10/22(金) @富山MAIRO
w / LITE / tera melos
  • 10/23(土) @金沢DOBULE
w / LITE and more…
  • 10/24(日) @奈良ZICO STUDIO
w / LITE / LOSTAGE / Cinema Staff
  • 10/25(月) @広島4.14
w / LITE / Adebisi Shank
  • 10/26(火) @福岡VIVRE HALL
w / LITE / Adebisi Shank / Autumnleaf / family
  • 10/28(木) @熊本DJANGO
w / LITE / Adebisi Shank / Doit Science / trial error / Kudoanova
  • 10/29(金) @岡山PEPPERLAND
w / LITE / Adebisi Shank / and more…
  • 10/30(土) @徳島CROWBAR
w / LITE / Adebisi Shank / NAMiDA
  • 10/31(日) @愛媛SALONKITTY
w / LITE / Adebisi Shank / forget me not
  • 11/01(月) @心斎橋CLUB QUATTRO
w / Lou Barlow / Adebisi Shank / LITE
  • 11/02(火) @名古屋CLUB QUATTRO
w / Lou Barlow / Adebisi Shank / LITE
  • 11/03(水) @松本ALECX
w / Lou Barlow / Adebisi Shank / LITE
  • 11/04(木) @渋谷CLUB QUATTRO
w / Lou Barlow / Adebisi Shank / LITE
  • 11/05(金) @旭川CASINO DRIVE
w / LITE / Lou Barlow / miscorner/c+llooqtortion / cloudy r tone
  • 11/06(土) @札幌HALL SPIRITUAL LOUNGE
w / LITE / Lou Barlow / miscorner/c+llooqtortion / FLUKE
  • 11/07(日) @札幌SOUND CRUE
w / Lou Barlow + the missingmen(from U.S.) / Discotortion / cigarettecase / Thee Dosanko Jones / The Lumdees / AEROSCREAM / AMusicA’ / material / 4points / DESERT

[レヴュー] Mike Watt

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