fantaholicインタビュー
佐藤多歌子と高橋ヒロキの2人からなるユニット、fantaholicの初めてのリリースとなるミニ・アルバム『Me, You, Synthesizer』。さながら思春期の女の子が授業中にせっせと描き上げたかのような80’sテイスト溢れるファンシーなイラストのジャケットに油断することなかれ。シンセサイザーをタイトルに冠している通りの華やかなシンセ・ポップ・サウンドに泣きのメロディが美しい「Till the Party Ends」、エレクトロ・サウンドを突き破るUKロック調のギターが炸裂する「I’m Your Slave,Baby」、「Rich Girl, Geek Girl」等、躍動的でキャッチー且つ、クオリティの高い楽曲が並び、あっという間に疾走する5曲・19分。短い! もっと聴きたい! という思いを補完すべく、メンバーの2人に話を聴いた。現在の編成になってから約1年余りという発展途上なコンビの、型に嵌らない魅力を感じて頂きたい。聞けばなんと、早くも次回作への意欲を燃やしていた。作った本人達も、もっと聴かせたい! と思っていたのだ、きっと。
インタビュー&文 : 岡本貴之
ノスタルジックなシンセをフィーチャーしたキラキラ・サウンドに、ロマンティックなボーカルと野性のシャウト&ギターが交錯する正統派ねじくれテクノ・ポップを奏でる彼らが、ゲストにヴィンテージ・シンセ番長・齋藤久師、共同プロデュースにテクノ界のマッドサイエンティスト・渡部高士を迎えて衝動に満ちた1stミニ・アルバムをリリース。
1. Welcome to Another World, Here You Are / 2. Till the Party Ends / 3. I'm Your Slave, Baby / 4. Rich Girl, Geek Girl / 5. Cut-Out Happiness
販売形式 : HQD(24bit/48kHzのwav) / 750円
「心のコスプレ」
――fantaholicは当初、佐藤さんのソロ・プロジェクトだったんですか?
佐藤多歌子(Vo.G.Synth) : そうですね。最初は曲と歌詞を書いて、アレンジをやってギター、キーボードを演奏して、という風に全部自分でやろうと思っていたんです。で、私は打ち込みが好きなんですけど、非常に雑なんですね(笑)。もっともっとカッコ良くなるはずだと感じていて、それは自分一人でやるよりも、信頼できる人とやれて化学反応が起きればいいなと思っていたんです。
――なるほど。それが高橋さんだったんですね。そもそもユニットを組んだきっかけはなんだったんですか?
佐藤 : 大学時代の音楽サークルで出会ったんです。高橋さんはちょっと先輩なんですけど、なんとなく一緒にやってみようぜってバンドを組みました。
――そのバンドではどんな音楽をやっていたんですか?
高橋ヒロキ(the others) : 最初はロック・バンドですね。
――その時から既にオリジナルの曲をやっていたんですか?
佐藤 : もうちょっと歌ものっぽいオリジナルですね。そのバンドは何回かライヴをやったんですけど、高橋さんとは喧嘩してしまいまして(笑)。その後しばらく会わなかったんですけど、飲み会で再会したらお互い「あ、丸くなったな」って(笑)。その時曲が何曲かあったんで、「これをやりませんか? 」って持って行った感じですね。今は高橋さんにはアレンジをやってもらって、私は出来ること全部という感じのパート編成です。
高橋 : 僕は基本的に、佐藤がほとんど形にした曲を投げてもらって、それをキレイにするのが役割だと思っています。
――それはある程度荒っぽくアレンジされた物を整理するということですか?
佐藤 : でも、私の作ったパーツを使いつつ、テンポも雰囲気も違ったものになっていたりもするので。アレンジャーとしてかなりの仕事をしてくれていますね。
――じゃあ、戻ってきた音源はある程度高橋さんのカラーというか、エゴ的なものも入っている?
佐藤 : そうですね。私の作るものが、いかにもD.I.Yな感じのヨレヨレ・テクノ・ポップな時でも、より完成度が高くて面白いものになって返ってくるんですよ。
高橋 : でも完成させているわけでもないんですよ。粗いのを残したいと思ってやっているんで。完成度を高めるならもっと整理できると思うんですけど、あえてD.I.Yっぽい所を残すのは意識していますね。
――結成してからはどれ位経っているんですか?
高橋 : 僕が正式にメンバーになってからは1年位ですね。一緒に音楽やってるって意味では気が遠くなるほど長い時間が経ってますが(笑)。
――その時に改めて、こういう方向性で行こうという話をしたんですか?
高橋 : いや、してないです。もう千本ノックというか、投げてくるデモ音源を打ち返すって感じです。結構ノーヒントだったりするんで(笑)、こうなんだろうなって直感で作りながらやりとりをして、なんとなくまとまっていく感じですね。
――佐藤さんが生みだした音楽をどんどん高橋さんに投げて、返ってくるというラリーの結果出来たものがfantaholicの音楽性になっているということですね。
佐藤 : そうですね。ラリーの回数は多いですよ。私が結構駄目出ししてしまうんで(笑)。本当、高橋さんには申し訳無いんですけど。
高橋 : (苦笑)。
――ライヴも2人でやっているんですか?
佐藤 : そうですね。私はヴォーカルと、ギターも弾いています。
高橋 : 僕は主にエフェクトとコーラス、曲によっては、ヴォコーダーを使ってヴォーカルを取ってます。
――今作の歌詞はほぼ英語ですけど、これには理由があるんですか?
佐藤 : 特に深い理由はないです(笑)。ただ、今回のミニアルバムの曲は英語の方がのせやすかったんですよね。
――日本語の歌詞で何かメッセージを書こうということはあまり考えないですか?
佐藤 : 何かを歌詞で伝えることより、聴いた時に気持ち良いかどうかが私の中での最優先事項なんで、極端な事を言うと、曲とマッチして聴こえが良ければ何語でも良いんです。
――なるほど。あくまでもサウンドの一つとして考えているんですね。
佐藤 : そうですね。ただ、fantaholicというユニット名にはテーマがあるんですよ。「妄想中毒」っていう意味でつけた名前なんです。だから歌詞も、私の空想・妄想で誰かになりきったりしている内容が多いです。「心のコスプレ」というか。
――「心のコスプレ」!
佐藤 : はい(笑)。私の中で、誰かになって書いているんですね。だから5曲あれば全部違う人格が出てきているはずです。
「この人みたいになりたい」っていうことは特にない
――曲作りに関しては、影響を受けたアーティストはいますか?
高橋 : 僕はfantaholicの曲に関しては自分の音楽趣向とは切り離して考えてますね。脊髄反射でやってます。
佐藤 : スポーツね(笑)。
高橋 : ポジション的にはスティーリー・ダンのウォルター・ベッカーみたいなつもりでいますけど(笑)。
佐藤 : 私はチックス・オン・スピードが凄く好きです。自分達で服も作ったりして、可愛いですよね。デヴィッド・ボウイも好きだし、ディーヴォとかクラフトワークも好きだし、XTCとかブラーも好きだし、あとポール・サイモンやドノヴァンも大好きなんですよ。ただ、色々聴くんですけど、「この人みたいになりたい」っていうことは特にないんですよね。むしろ何かのアルバムを聴いて「この音いいな~! 」って感じたことが曲作りに反映されていると思います。
――ポール・サイモンやドノヴァンは意外な気がしますね。
佐藤 : ポール・サイモンは私、本当に大好きなんです。さっき言った話と矛盾してますけど、歌詞が凄く好きなんですよ(笑)。
一同 : (笑)。
――それは、音楽的にダイレクトに反映されてはいないけど、佐藤さんの人格を形成する上で影響を受けているということですか?
佐藤 : そうかもしれないですね。
――今回のアルバムについては、音楽的バックボーンが出ているというよりは人格的な面が出ているんでしょうか?
佐藤 : 両方ですね。ジャケットの絵は私が描いたんですが、これは性格出てる感じですね(笑)。本当はもっと上手い人に頼みたかったんですけど(笑)。
――今回のアルバムの制作を開始したのはいつ頃なんですか?
高橋 : 2011年の夏か秋頃から、リリースしたいねっていう話はしていました。元々ライヴでやっていた曲があるんで、あとはどういう形でまとめようかなっていう感じでしたね。
佐藤 : 元のアレンジとは全然違う感じになりましたけど、メロディと構成自体は以前からありました。
――今回、共同プロデュースにクレジットされている渡部高士さん(OVERROCKET)はどういう経緯で作品に関わることになったんですか?
佐藤 : OVERROCKETの本田みちよさんとイベントで共演させて頂いたんですけど、それ以来fantaholicを気にかけて下さって。高士さんに引き合わせて下さったんです。もうビックリでしたね。
――渡部さんは具体的にどう作品に関わっているんですか?
高橋 : 基本的にはミックスですが、音の出し入れからエフェクトの使い方まで、いろんなことを教えていただきました。
――齋藤久師さんはプレイヤーとしてシンセサイザーで参加されているんですか?
佐藤 : プレイしているのは私なんですけど、久師さんに音色を作っていただきました。その場で新たに生まれたフレーズもたくさんあります。
ダサくて嘘っぽくて、でも華やかな感じ
――『Me, You, Synthesizer』というアルバム・タイトルにあるように、シンセ・ポップへのこだわりは凄くあるんじゃないですか?
佐藤 : そうですね。アナログ・シンセの太い音が大好きです。
高橋 : 佐藤から渡されるデモはアナログ・シンセ系の音ばっかりなので、あえてデジタル系の音を混ぜて返すことが多いです(笑)。その辺がfantaholicの面白さかもしれないですね。
――お二人それぞれのシンセサイザーへの思いがありそうですね。
佐藤 : 私は中学生位までずっとピアノをやってたんですけど、じゃあクラシック音楽をやりたいかって言われたら1日8時間とか練習しなきゃいけないし、それで仮にピアニストになれたとして「パチパチパチ…」(拍手)みたいなのは別にいいやって思って、途中で辞めちゃったんです。あまりにもトラディショナルな世界なので。
――トラディショナルな世界から外れたいって思ったんですか?
佐藤 : 外れたい…というかどうしても外れてしまうというか(笑)。「できません」っていう感じで。その後もなんとなくキーボードで曲を作ったりはしていたんですが、ある日楽器屋で「プロフェット5」を触ったら、「ウォ~! 」ってかなりショックを受けまして。「こんなキーボードがこの世にあるんだ」って。アナログ・シンセが憧れの存在になって、常にツマミを「ミュイ~ン」ってしていたいってなってしまって(笑)。その憧れが今回のアルバムで叶った、という喜びでこういうタイトルにしたんです。
――fantaholicの世界観を構築する上で、中心になるのは佐藤さんの楽曲と歌になるわけですけど、高橋さんが導いている部分もあるんじゃないですか?
佐藤 : そうなんですよ。私がどうしていいかわからなくなった時に、高橋さんのセンスで統一感を持たせている所はありますね。
――佐藤さんが納得するツボはわかったんですか?
高橋 : いや~…(笑)。まあ自分の趣味をこっそり忍ばせる技は長けてきましたけど(笑)。
――例えばM3「I’m Your Slave ,Baby」、M4「Rich Girl,Geek Girl」のようなUKロック的なアプローチの曲もありますね。
佐藤 : 3、4曲目はギターで作ったんで、それはありますね。2人ともUKロックは凄く聴いてます。
――全体的に80年代的なテイストも感じますけど、これについては意識しましたか?
佐藤 : 80年代って世の中全体が明るい未来に向かっているようで、夢を見させてくれる音楽が多いと思うんです。90年代以降のオルタナティヴ・ロックみたいに内省的な音楽ももちろん好きなんですけど、今回のミニアルバムはキラキラした感じにしたかったので、必然的にそういう雰囲気になったんだと思います。
高橋 : 制作中はマドンナとかプリンスとかよく聴いてましたね。まあ80年代って一言でいってもいろんな音楽がありますし、僕が好きなエイティーズってあまりキラキラしていないんですが(笑)、fantaholicはダサくて嘘っぽくて、でも華やかな感じかなあってぼんやり考えてはいました。
佐藤 : 高橋さんとはその辺、共通の感覚がありました。
――ジャケットもドリーミー・ポップというか80年代的ですね。
佐藤 : カラフルだけど、あえてノスタルジックな雰囲気を出すようにしました。
――今後はどんな活動を予定していますか?
佐藤 : 来年の前半位にはフル・アルバムを出したいなと思っています。実はアレンジしていない曲がまだ数曲あるんで、早速制作したいですね。
――ライヴの予定はありますか?
佐藤 : リリース・パーティーが9月27日(木)に高円寺HIGHであるんですけど、その後は去年開催した自主企画イベント「Girls BITE Nights!」というイベントの第2回を開催したいですね。第1回はRocket or Chiritoriさんと一緒に企画して、音楽に限らず面白いことをやっている女性クリエイターを集めたなんでもありのイベントになりました。イベントの売上でブラジャーとパンツを買って、東北に贈ったりもしました。 女性だけのイベントっていうコンセプトということもあったんですけど、元々は被災地にお金を寄付しようと思ってたんですね。でもお金ってどう使われたかが見えないんで、一番確実なのは現物で足りない物を足りてない所に贈ることだなって思いまして。で、震災後に色んな掲示板を見ていたら下着が足りてないっていうんで、確実に届きそうな場所に贈りました。
――結果としてかなりの支援が出来たんですね。
佐藤 : はい。それ以外は今は当面フル・アルバムの制作に専念したいと思ってます。
――佐藤さんは、とにかくライヴをやってステージで爆発したい! っていう感じなのかなと思ってたんですけど、そうでもないんですか?
佐藤 : いや~(笑)。ライヴは楽しいですけど、毎日やりたいなっていう感じじゃないですね。(小声で)翌日眠いし…
――(笑)今、眠いって言いました!?
佐藤 : 毎日眠いんです、体力が無くて(笑)。いや本当はですね、今は制作の方に重きを置いて、まずはフル・アルバムを完成させたいんですよ。完成したらライヴもガツンとやりますよ。
――ではこのアルバムへの想いをそれぞれお願いします。
高橋 : アルバムの制作を始めて、高士さんにミックスして頂いて、そこで凄いフィードバックがあって。はじめに曲が出来た時と全く違った印象になっているんで、ライヴで観て頂いた方が聴いても改めて楽しめるアルバムになっていると思います。
佐藤 : 自分が物凄く好きな音しか入っていないアルバムになりました。私が気持ち良いと感じる音や、キラキラしてるなって感じる音とか。凄くわかってくれる人達と一緒に作れましたし、妥協なしの自信作です。
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fantaholic presents『Me, You, Synthesizer』リリース・パーティ!
2012/9/27(木)@高円寺HIGH
LIVE : fantaholic / OVERROCKET / 渡部高士 / kyoka / スパナ乙
DJ : maco(スパナ乙)
ADV 2,300円(+1D) / DOOR 2,800円(+1D)
OPEN 18:00 / START 18:30
PROFILE
佐藤多歌子(Vo.G.Synth)
高橋ヒロキ(the others)
fantaholicはキャッチーかつアグレッシヴな妄想爆発ソング製造機・佐藤多歌子と、卓越したオシャレセンスでいろいろなんとかしてくれるマシン担当・高橋ヒロキのテクノ・ポップ・ユニット。腰砕け本能ダンスでフロアを魅惑したかと思えばハード・ロッキンなギターをかき鳴らし絶叫、予測のつかない大雑把なパフォーマンスで話題のライブにも注目。9/20(木)にミニ・アルバム、『Me, You, Synthesizer』をリリース!