2021/08/24 18:00
2021年8月21日(土)ビルボードライブ横浜にて、作曲家、編曲家、シンガーソングライターの林哲司が稲垣潤一と国分友里恵をゲストに迎えたライブ〈林哲司 SONG FILE with 稲垣潤一&国分友里恵-City Pop in Summer-〉を開催。世界的にブームとなっている日本の“シティ・ポップ” の源流となっている名曲の数々で集まった音楽ファンを魅了した。
このレポートでは、1stステージの模様をお届けする。
近年、世界的にブームを巻き起こしている日本のシティ・ポップ。その源流ともいえる80年代の音楽シーンで、数々の名曲を世に送り出したのが林哲司だ。今回のイベントは、林が2018年から様々なアーティストを招いて開催してきたイベント「SONG FILE」が2021年夏のスペシャル版として、初めてビルボードライブで開催されることとなったもの。今年7月にはタワーレコードの企画により、林が手掛けた1,500曲を超える楽曲の中から「グルーヴ」を基準に厳選した『林 哲司 melody collection』3タイトルが発売され、改めてその楽曲のクオリティが再評価されているタイミングでのライブ開催とあって、新型コロナウイルス感染症対策用の座席レイアウトによる限られた座席はほぼ埋まっている様子。
開演時間に会場が暗転すると、客席後方からバンドメンバーたちがステージに上がる。ヴォーカルとアコースティックギターを弾く林に加えて、小川幸夫(Dr)、中村雅雄(Ba)、鈴木英俊(Gt)、清水永之(Key)、太田公一(Key)、大和邦久(Vo)、iCHiHO (Vo)、富岡美保(Vo)の9人編成。オープニングを飾ったのは、杏里が1983年に大ヒットさせた「悲しみがとまらない」だ。ドラムのタツタツタツ……と勢いよく前に出るリズムに乗って観客も一斉に手拍子で演奏に加わる。ヴォーカルを務めたのは、鮮やかな色のヘアスタイルと衣装が目を引くiCHiHO。ジャケットにジーンズ、スニーカー姿の林はステージ右手でアコギを弾きながらコーラスを取っている。歌詞の内容は結構ヘヴィな失恋ソングだけに、iCHiHOの感情が込められた歌声がじつにハマっていて、終盤でブレイクしたシーンで会場中に響き渡った声量は圧巻のひと言。
曲が終わると早速、林が客席に向かって挨拶。「コロナ禍の中、ようこそお越しくださいました。「SONG FILE」ライブを行うのは1年9ヶ月ぶりぐらい。ライブができない間、予期せぬシティ・ポップブームで「真夜中のドア –Stay with me-」が世界的にヒットして、このライブも背中を押されているような感じになりました」と、ヒットが予想外の出来事であったことを明かし、さらに自身の作品集がリリースされたタイミングでライブができる幸せを語った。
2曲目は中森明菜の「北ウィング」。富岡がヴォーカルを務め、張り詰めた緊張感のあるダイナミックな演奏の中、抑揚の効いた伸びやかな歌声を聴かせた。続いて大和のヴォーカルで歌われたのは、上田正樹の「悲しい色やね」だった。正直、この曲も林哲司の作曲だったのか⁉ と思うほど、意外なイメージだ。ギターのメロウなオブリガード、エモーショナルなソロ、大和のウェットな歌声もあり、観客はどっぷりと歌の世界に浸っている。
林に紹介されて、ゲストの国分友里恵がステージへ。1983年に発売したアルバム『Relief 72 hours』がシティ・ポップブームに先駆けて8年ほど前にCD化されており、今も長くファンに親しまれ名盤として再評価されているという。そんなアルバムの中から歌われたのは「Just a Joke」。16ビートのノリでファンキーな演奏に乗せ、〈薬指にはキラリとリング〉の歌詞に合わせて左手をヒラヒラ客席に見せたりとアクションを交えながら楽しそうに歌唱。続いても同アルバム収録のバラード「Love Song」をタメの効いたバンドの演奏で歌い上げた。
国分がステージを降りると、林が自らヴォーカルを取り「Rainy Saturday & Coffee Break」が歌われた。大橋純子 & 美乃家セントラル・ステイションの曲として有名になったが、歌う前のMCでは「この曲はもともと大橋純子さんに女性パートをお願いして自分がレコーディングしていたのですが、自分のレコーディングが延びて、彼女が気に入って自分のアルバムに入れたいって言ってあちらの方が先にリリースされてしまったという、ちょっとショックな曲です(笑)」と知られざるエピソードを披露して笑わせた。ミディアムテンポの軽快なサウンドと共に歌い終えると、「今日は“City Pop in Summer”ということで、ちょっと夏っぽい曲いこうか⁉」との呼び掛けから、杉山清貴&オメガトライブ「ふたりの夏物語 NEVER ENDING SUMMER」が飛び出す。大和がヴォーカルを取り、一気に爽やかな夏のムードに包まれた。まさにこの日のライヴに相応しい1曲だ。
2人目のゲストとして、スーツでキメた稲垣潤一がステージに上がる。「君は知らない」を歌い出すと、緩やかなメロディ、優しく包み込むような唯一無二の歌声により一瞬で観客の心を掴む。今回のライブで稲垣と林のトークを楽しみにしているお客さんが多い、という声を聞いて、林は昨夜プレッシャーで眠れなかったと心境を吐露。そんな林の譜面台に近づき「台本あるじゃないですか?」といじる稲垣。「メモですよメモ!」と林。お客さんの期待通りの2人の面白トークが続き、なかなか歌い出さない(笑)。曲に戻ると、バラードの「PS.抱きしめたい」でガラッと空気が変えるところはさすが。稲垣は歌い終わると「MCからの落差が激しい(笑)」と苦笑い。続く曲は1987年に日本作曲大賞を受賞した「思い出のビーチクラブ」。受賞の際のエピソードでしばしトークしてから歌い出すと、大きな手拍子が起こり、最高にキャッチーでポップなメロディとモータウンサウンド調の耳に残るリフ、躍動的なサウンドで会場が一体に。
稲垣がステージを降りると、メンバー紹介から大橋純子のバラード曲「Like a Seagull」を富岡が熱唱。タイトル通りカモメが海辺を飛ぶ情景が目に浮かび、会場がある横浜にぴったりなイメージの曲だった。ラストは「今までやったことがない曲を」ということで、スタジオミュージシャンたちで作ったグループEASTERN GANGの「Charlotte」が披露された。この曲がB面として収録されたシングル「ドライ・キャット」の7インチは今や入手困難となっているだけに、生演奏で聴けるレアな瞬間に思わず感激してしまった。女性ヴォーカル2人がセンターでボックスを踏んだりしながら踊り歌い、延々と繰り広げられるディスコチューンで、ひと際ファンキーな楽しい演奏で本編を締めくくった。
アンコールでは、iCHiHOのヴォーカルで松原みき「真夜中のドア –Stay with me-」が歌われた。クールな序盤から徐々に熱く盛り上がる歌と演奏。呼吸の合ったバンドのタイトなビートに乗せたiCHiHOの張りのある歌声、間奏のエキサイティングなギターソロを挟み、おおいに盛り上がった。「もう1曲やろうか!」との林の掛け声で、国分と稲垣を再びステージに呼び込み、最後は竹内まりや「SEPTEMBER」へ。1番は稲垣が、2番は国分がメインヴォーカルを取り、エンディングに向けて重なる2人のハーモニーと共に、バンドの演奏も一層熱を帯びていく。爽やかで少し切なく、尚且つ力強い余韻を残し、ライヴは終了。
林哲司が生んだ数々の楽曲は、“おしゃれで心地良い”だけではない、しっかりとした輪郭を持ったメロディ、ブラック・ミュージックの影響も濃いグルーヴィーなサウンドがあるからこそ、時代や国を超えて人々の心を掴んでいるのだろう。楽曲のクオリティの高さに酔い満喫すると共に、シティ・ポップと呼ばれる音楽の源流への興味、探究心を刺激されたライヴであった。
取材・文:岡本貴之
写真撮影:Yuma Totsuka
ライヴ情報
〈林哲司 SONG FILE with 稲垣潤一&国分友里恵-City Pop in Summer-〉
2021年8月21日(土)ビルボードライブ横浜
〈セットリスト〉
1. 悲しみがとまらない
2. 北ウイング
3. 悲しい色やね
4. Just a Joke
5. Love Song
6. Rainy Saturday & Coffee Break
7. ふたりの夏物語
8. 君は知らない
9. PS.抱きしめたい
10. 思い出のビーチクラブ
11. Like a Seagull
12. Charlotte
EN1. 真夜中のドア~Stay With Me
EN2. SEPTEMBER