2012/11/24 00:00

アメリカはニュージャージー出身、現在は東京で活動している女性シンガー・ソングライター、KATE SIKORA(ケイト・シコラ)。LINDSAY LUEDERS(リンジー・リューダース)とのデュオ、THE LOYAL WEなどでも活動してきた彼女が、7年ぶりとなるソロでの新作『JUST ENOUGH SPACE』をリリース。Liz Phairをはじめ、The PastelsやBelle & Sebastian、Camera Obscuraなどにも通じる、甘く優しく、どこかせつない唄心を持つ彼女の歌声を、HQD音源(24bit/48kHzのwav)でご堪能ください。

Kate Sikoraの新作が高音質でリリース

Kate Sikora / JUST ENOUGH SPACE
【価格】
HQD(24bit/48kHz) : 200円 / 2,000円
MP3 : 150円 / 1,500円

ニュージャージー出身の女性SSW。7年ぶりとなる本作は、これまでにティーンエイジ・ファンクラブ、ベル&セバスチャンなどを手がけてきたデイヴィッド・ノートンによるプロデュース。バンド・メンバーである岸田佳也(トクマルシューゴ他)、堀越武志(ex-OCEANLANE)、Minminはもちろん、世界中からゲストが参加。

アンビバレンツな感情が昇華された、素朴で繊細なアルバム

いつも笑顔を絶やさない人が、ふと陰のある表情を見せる瞬間。ケイト・シコラの2ndソロ・アルバム『JUST ENOUGH SPACE』を聴いていると、そうした瞬間に出会うことがある。やさしく素朴なメロディの中に、キュッと胸を締め付けるような切なさを感じるたびに、僕は彼女の音楽にぐっと心を掴まれてしまうのだ。

ケイト・シコラは、アメリカのニュージャージー出身のシンガー・ソングライターで、現在は日本で活動している。2005年に母国で1stソロ・アルバム『Grace In Rotation』をリリースした直後、日本へと移住。その後、同じくアメリカ出身のリンジー・リューダースとのガールズ・デュオ、THE LOYAL WEを東京で結成し、2010年にはアルバム『HOMES』をリリースしている。日本へ移住してもマイペースに音楽を制作してきたケイトだが、そんな彼女が約7年ぶりに作り上げた2ndソロ・アルバムこそ、本作『JUST ENOUGH SPACE』である。

本作には、1stソロ・アルバム『Grace In Rotation』ともTHE LOYAL WE『HOMES』とも大きく異なる部分がある。それは、日本人のメンバーをサポートに迎え、日本に腰を据えて作られたアルバムだということだ。アメリカにいる頃から、少年ナイフやコーネリアスといった日本の音楽に親しんでいたという彼女だが、もちろん実際に住んでみるのとは訳が違う。そういう意味では、本作は不安や戸惑いなども含め、彼女が日本で感じた思いのひとつひとつが、自然と反映された作品になっている。

そもそもケイトが日本に来たきっかけは何だったのだろう。今回の取材のために足を運んでくれた彼女に尋ねてみると、「はじめにピンときた場所に行って暮らそうって決めてたんです。ちょうどそのとき、日本から帰ってきた友達に日本の話を聞いて、『そこだ! 』って思ったんです」と話してくれた。まさに運命に導かれたとも言えるタイミングで日本にやってきた彼女は、ビザの関係で一度アメリカに帰るものの、再び日本に戻って生活することになる。生涯の伴侶である日本人の夫とも出会い、これから異国での暮らしを全うしていこうとする決意の中で、本作は生まれてきたのだ。

ここで、今作に参加しているバンド・メンバーを見てみよう。岸田佳也(ドラム / トクマルシューゴなど)、堀越武志(ベース / ex-OCEANLANE)、Minmin(キーボード)といった、経験豊かなプレイヤーたちの参加が目を引く。現在、日本のインディ・シーンが盛り上がっているのは、個々のプレイヤーの力量もさることながら、彼らが横に繋がりあって、それぞれをサポートしている点も大きいだろう。それは、ケイト・シコラのソロ作品にも言えることで、演奏面ではもちろん、アレンジ面でもメンバーの貢献度は高いようだ。彼女はこう語る。「大抵はまず私がバンドのメンバーに曲を弾いてみせて、あとは彼らに合わせてもらいます。バンドで曲を詰めていくうちに、メンバーからいろんなアレンジが出てきたので、その流れに任せました」。ここでも、日本人的な感性が、ごく自然に彼女の作品へと流れ込んでいることが想像できる。

だが、面白いのは、プロデューサーを務めているのが、ティーンエイジ・ファンクラブやベル・アンド・セバスチャンなどを手掛けた、スコットランド出身のデイヴィッド・ノートンだということだ。アメリカ人でも日本人でもない彼が、全体のプロデュースを担当したことで、作品は全く新たな響きを手に入れている。実際、ケイトの楽曲からは、良質なグラスゴーのバンドの雰囲気を感じることができるだろう。それと同時に、キャット・パワーやファイストなどの女性シンガー、あるいは、デス・キャブ・フォー・キューティやウィルコなどのメロディを想起させる曲もある。日本を軸に作られた作品とはいえ、やはりその中核にあるのは彼女の持って生まれたセンスであるし、それが全く違う環境や感性に触れることで、より先鋭化したのだと言えるだろう。

現在は日本の幼稚園で英語の先生をやっているというケイト。平日は全てその仕事に充てているそうだが、より音楽に集中するために、もっと自分の時間を作りたいとは思わないのだろうか? そんな質問に対して、彼女は笑ってこう答えてくれた。「仕事が音楽に良い影響を与えているんです。音楽だけになったら多分インスピレーションが失われてしまうし、時間がありすぎて怠惰になっちゃう。毎日仕事をしていることで、良い時間の使い方ができているんですよ」。まさに、日本での当たり前の生活の中から、楽曲のインスピレーションを受けているようだ。

その代表的な楽曲と言えるのが、今作にも収録されている「Satosan」という曲だ。この曲についてケイトはこう語る。「彼は英会話の生徒だったんですけど、1度か2度しか話したことがなくて。たしか、4、5年前だったと思うけど、突然彼がやってきたんです。60歳から70歳くらいで、とても自信に満ち溢れていて、クールなオジサンでした。彼は完璧な英語を話すんです。そんな人にどうやって英語を教えればいいんだろうって、たじたじでした。『Satosan』はそのときの気持ちを歌った歌なんです(笑)」。

そんな意外なきっかけから生まれた曲も収録された本作だが、3年前に半分の曲はレコーディングされていたという。それだけ長期間にわたって録音された楽曲たちを、ひとつのアルバムにまとめるのは難しかったのではないか。ケイトは言う。「基本的にアルバムのコンセプトについては考えていなかったので、曲に統一感がなくなることもそれほど心配していませんでした。同じようなサウンドの曲ばかりじゃなくて、アコースティックからフルバンドまで、自分の持っている振れ幅も見せたかったし」。その通り、今作は彼女が過ごした3年間を思わせる、実に多様な楽曲を収めたアルバムとなっているのだ。

そして何と言っても、アルバムを聴いて一番心に残るのは、冒頭に書いた、やさしく素朴なメロディの中に感じる、キュッと胸を締め付けるような切なさだ。異国の地にどれだけ馴染んだとしても、故郷への哀愁やノスタルジーは消えることがないのだろう。実際、その部分を尋ねてみると、「例えば『Circle in a Rectangle』という曲は、駅のホームに立つ日本人とか、電車に乗っている日本人とか、そういう風景から刺激を受けています。だけど、『Dusty Tables』とか、ほとんどの曲は、アメリカの家族を想ったり、当時の記憶からインスピレーションを得ています」と話してくれた。

現在の日常を愛する気持ちと、遠く離れた場所へのノスタルジー。そんなアンビバレンツな感情が、日本という土地、日本人のバンド・メンバー、そして異国のプロデューサーと制作をともにすることで、1枚のアルバムに昇華されたのが、『JUST ENOUGH SPACE』という作品だ。何気ない生活と、その中で感じる不安や戸惑い。本作を満たしているのは、そんな素朴で繊細な思いに違いない。それは、僕だけではなく、この作品を聴いた人の心をぐっと掴んで離さないだろう。(text by 長島大輔)

LIVE SCHEDULE

a place in the sun VS. ELECTRIC-FUZZ!!
2012年12月1日 (土)@渋谷O-nest
OPEN : 17:00 / START : 17:30
ADV : 2,000円 / DOOR : 2,500円 (ドリンク別)
出演 :
【5F】
Kate Sikora / Aureole / NETWORKS / miaou / broken little sister / Predawn

【6F】
Rocket or Chiritori / Shelling/fraqsea / She Talks Silence / swimmingpoo1 / tailor made for a small room / fusigi [opening act]

【5F Sub Stage】
Tessei Tojo (PROGRESSIVE FOrM) / trorez (Bunkai-Kei records)

【DJ】
Naoya Ishigaki (BGB) / DJ Kurock (SUGARCUBE) / さい2+(Funtrick Popmaker) / さとうひろし (The MONORALS)

RECOMMEND

Cat Power / Sun

米アトランタ出身のショーン・マーシャルのソロ・プロジェクト、キャット・パワーによる、約6年ぶり通算7枚目となるアルバム。ショーン・マーシャルというひとりの女性の存在感を強く印象づける作品。

aoki laska / it’s you(HQD ver.)

& records初の日本人女性シンガーソングライターとして、ART-SCHOOL、Ropesの戸高賢史が絶賛コメントを寄せるなどデビュー前から各方面で話題になっていたaoki laska。debut mini album『about me』から、わずか半年で、1stフル・アルバムが到着。前作同様、folk squatの平松泰二が全面プロデュース。ライヴでの核となりつつある「物語」や「ひとつになりたい」、平松のトラックが冴え渡る、ポップな「みてみて」「kiseki」、アメリカのシンガーソングライター、エイミー・マンのカヴァーなど、どんな楽曲にも彩りを与える彼女の歌声の魅力を存分に伝えるヴァラエティに富んだ全10曲。彼女は本物。

>>>aoki laskaの特集はこちら

Aniss and Lacanca / Aniss and Lacanca with the Chill Hearts

mmm(ミーマイモー)と、埋火の見汐麻衣による偽装姉妹「アニス&ラカンカ」 による待望のファースト・アルバム。軽快で爽やかな、タダならぬファンキー・フォーキー・サウンド。二人の個性が絶妙に絡み合い、えも言われぬ懐かしき空間を作り出しています。今作は、バンド・セットで録音しており、バックを固める「the chill hearts」のドラムには山本達久、ベースには千葉広樹、鍵盤 / シンセに坂口光央、ゲスト・ギタリストには宇波拓という、最強のミュージシャンを迎えています。「歌をうたうことの楽しさ」が素直に詰まった9曲。

>>>Aniss and Lacancaの特集はこちら

PROFILE

KATE SIKORA

アメリカはニュージャージー出身で、現在は東京で活動する女性シンガー・ソングライター。同じくアメリカの女性シンガー・ソングライターであるLINDSAY LUEDERSとのデュオTHE LOYAL WEとしても活動(現在はLINDSAYが帰国し活動休止中)。

2005年、セルフ・リリースの1stアルバム『Grace In Rotation』でデビュー。その直後、日本に移住。東京を中心に弾き語りで活動を始める。徐々にバンドでの活動を始め、この頃からすでに現在のバンド・メンバーである岸田佳也(トクマルシューゴ、OLDE WORLDE、よしむらひらく他)、堀越武志(ex-OCEANLANE、OLDE WORLDE他)、Minminら活動を共にしている。2006年、THE LOYAL WE結成。ソロと並行して活動する。2009年には中尾憲太郎(ex-NUMBER GIRL、CRYPT CITY)監修のコンピレーション『kill your T.V.09』(AVOCADO records)に、OGRE YOU ASSHOLE、LOSTAGE、MASS OF THE FERMENTING DREGSなどと共に参加。2009年にはFUJI ROCK FESTIVAL「ROOKIE A GO-GO」に出演する。同年には、contraredeより1stアルバム『Grace In Rotation』の日本流通盤が、そして2010年には同じくcontraredeよりTHE LOYAL WE の1stアルバム『HOMES』がリリースされる。その後、グラスゴー出身で、これまでにTeenage Fanclub、Belle & Sebastian、Mojave 3、The Lilac Timeなどを手がけてきたプロデューサー兼エンジニアのデイヴィッド・ノートンと制作に入る。レコーディング後、アメリカに帰国。2010年12月には、地元ニュージャージーのMaxwell’sで、敬愛するLiz Phairのオープニング・アクトを務める。デイヴィッドとレコーディングした6曲は、2011年12月、アメリカのカセット・レーベルPhantom Signals からカセットEPとデジタル・ダウンロードEPとしてリリースされる。

その後、日本に戻り、再びデイヴィッドと5曲レコーディング。ここに、実に7年ぶりとなる2ndフル・アルバム『JUST ENOUGH SPACE』として結実。レコーディングを開始したのが2009年なので、足掛け3年、本鵠沼の海岸や、雪の北海道、暑い屋根裏、積み上げた枕の中、そしてライヴハウス七針などで断続的にセッションを重ねて完成された本作は、岸田、堀越、Minmin といったバンド・メンバーはもちろん、The Lilac TimeのNick Duffy、Satoru Ono、4 bonjour’s partiesの浜田夕起子をはじめ、オーストラリアのDom CooleyやアメリカのHee Young Rheeなど、インターナショナルなゲストが多数参加し、ケイトの世界を彩る。その中心にあるのはケイトの甘くて優しい、そして芯のある唄声。共演したLiz Phairをはじめ、Jen Wood、Mary Lou Lord、Neko Case、MirahといったUSインディー歌姫の系譜、そしてThe PastelsやBelle & Sebastian、Camera Obscuraといったタイムレスなグラスゴーの香りを、東京から世界に向けて発信する稀有な存在であることを知らしめるに余りある、充実の11曲。

KATE SIKORA official HP

この記事の筆者

[インタヴュー] Kate Sikora

TOP