2011/01/19 00:00

ダブ、ロック、パンク、そして無国籍な極彩色グルーヴで縦横無尽に駆け抜ける7作目

常にアクチュアルな問題意識に根ざした視点から語る。政治的ステートメントが音楽的快楽やモチベーションを浸食しない。この実はとても実現が難しいバランスを保ってきたことが常にAsian Dub Foundation(以下、ADF)を時代遅れにさせなかった最大の要因だ。

自他共に認めるキャリア史上最大の傑作99年の『Community Music』 以後、当時のバンドをリプリゼントしていたディーダの脱退を含め、頻繁なメンバーチェンジを経ているADFだが、今回は久々に前作と同じメンバーで制作された。そして今作でも彼らは「今」と向かい合っている。そのタイトルは『A History of Now』。

本作においてADFは情報テクノロジーの爆発的且つ急速な普及とそれに伴うライフスタイルの変化に対するフラストレーションというテーマを携えながら、サウンド面においてはサウス・ロンドンのアンダーグラウンドのビートも新たに手にしたようだ。過度に深刻になり過ぎず、チアフルなヴァイヴを聴き手に与える手腕もこれまで同様に健在。どうやら彼らは'99年に迫るキャリアのハイ・ポイントを迎えつつあるようにさえ見える。

今回はバンドのリーダー格、アクターベイター(Aktarv8r)に個人的な社会への所感を中心に話を聞いた。

インタビュー&文 : 定金啓吾
翻訳 : 原口美穂

アクターベイター INTERVIEW

——まず前作『Punkara』からの3年間のインターバルはどう過ごしていたのでしょうか?

アクターベイター(以下ア) : そうだなぁ… ショーで色んな場所を廻ってたな。コロンビアにも行ったし、メキシコ、フランス、ドイツ… 他にも色んな国や街でギグをやったんだ。フェスにも出演したしね。それと同時に新しい作品作りにも取り組んでたし。あと、これはバンドじゃなくて俺自身のことだけど、ずっと勉強していて、去年やっと卒業したんだ。

——何を勉強してたんですか? 音楽ではないですよね?

ア : 音楽も勉強していたことはあるけど、それはもう終わって、今回は大学で社会事業を学んだんだ。卒業して、今は遂にソーシャル・ワーカーになったよ(笑)。

——そうなんですね! 仕事はどうですか?

ア : すごく楽しいんだ。18歳以下で、トラブルを起こして警察に世話になった奴らとか刑務所に入ってる少年達とか、そんな若者達のために働いてるんだよ。前も5年くらいそういうことをやっていたんだけどね。自分が育ったエリアと同じエリアで活動していて、それをやりながら同時進行で新しい音楽を作ったり、好きな音楽を聴いたりしていたんだ。

——新作の『A History of Now』について聞かせてください。まずどんな風に制作に取りかかりましたか? 何か特定のゴールをイメージして制作を始めたのでしょうか? また制作中に特定のサウンドに関するインスピレーションはありましたか?

ア : ゴールとか、そういうのはあまりないね。リハーサルして、ジャムって、途中でアイデアを出し合ったり、変えたり… そうしていくうちに出来上がったんだ。インスピレーションに関しては… そうだなぁ… このアルバムには色々なアーティストが参加してるだろ? ネイサン・“フルートボックス”・リーとかさ。彼は『Punkara』にも参加してくれたけど、今回は出番が多かったんだ。CHI 2のストリングスもそうだし、今回はより多くのアーティストとコラボしてるんだよね。やっぱり彼らからはインスピレーションを受けたよ。あとはショーで色んな場所を廻ったから、時が経つにつれて段々と各地からの影響が自分の中で広がって行ったと思う。そういったものが、今回の作品の音楽に反映されてるんじゃないかな。だからこそ、すごく興味深い作品に仕上がってるんだ。

——そうした影響は、意図的ではなく自然発生的ということ?

ア : そうそう。覚えてはいなくても、経験や印象ってものは頭にはちゃんと残っているものなんだ。何かを見たり聴いたりすると、それは自ら意識しなくても自動的に頭にインプットされて、自分が気づかなくても、あるとき自然と出てくるものなのさ。

——なるほど。ではちょっと角度を変えた質問をさせてください。あなたなら音楽にあまり興味のない人に、このアルバムをどう薦めますか?

ア : 興味のない人にだって(笑)! ? 変な質問だな(笑)。うーん、今回のアルバムは『A History of Now』って、タイトルなんだけど、A History of Now(現在の歴史)が人々にとってどういう意味をなすとか… 難しいな…。少なくとも、俺たちにとってはどういう意味かっていうのはこのアルバムを聴けばわかる。それをアルバムで表現しているからね。って、答えになってないよな(笑)。あとは… 超イージー・リスニングなところ。それでもちゃんとハードなトラックもあるし、聴き易く、且つ聴きごたえのある作品ってとこかな。

——今作においてはあなたは新たなテクノロジーについて警告を促しているように聞こえるが、あなたの考える理想的なテクノロジーとの共存とはどのようなイメージでしょうか?

ア : これまた難しい質問だな…。このアルバムのほぼ全体がテクノロジーについてと、それがいかに素早く、どういう風に変化しているかってことについて語ってるんだ。例えば、マイスペースにフェイスブック、ツイッター。こういったものが次々と出てきてるだろ? このアルバムに収録されているトラックのいくつかは、急速に変化するテクノロジーについていかなければいけないことに対するフラストレーションについて歌ってるんだ。初めから携帯やパソコンに囲まれて育った若い世代の連中に関してはわからないけど、俺たちみたいに、子供の時にはそんなのがなかった世代の人間まで、テクノロジーなしでは生きられない。次々と出てきて、ものすごいスピードで変化する。そういったものに嫌気が差しながらも、それなしでは生活できないのさ。一度使ってしまうと、それなしではいられなくなる。それが人間だからね。コミュニケーションや宣伝、プロモーションのやり方がどんどん変わっていくだろ? しかもものすごい速さで。そんな環境で、自分はいったいどうすればいいんだ? って話さ。今日、何かを覚えても、明日にはまた新しい何かが出てくるという環境の中でね。

——では新作の中であなたにとって最も印象に残っている曲は?

ア : 個人的には「A New London Eye」がめちゃくちゃ気に入ってる。ストリングスが多くて美しいから。あとは… 「London to Tokyo」かな。これもストリングスが沢山使われてるトラックなんだ。俺は、本当にストリング・サウンドが好きでね。あとは、イージー・リスニングなところも理由の1つ。気軽に、どこでも聴けるから。仕事へ行く途中とかさ。CHI 2がストリングスを担当してるんだけど、彼はマジで良い仕事をしてくれたと思うね。最高だよ。

——携帯等のガジェットのみならず音楽においてもDAWの技術の進化で音楽制作がより容易になってきていますよね? 例えばミュージシャンであるオウテカのロブ・ブラウンは「音楽制作におけるテクノロジーについて容量と処理スピードがあがっただけで本質的な進化は特に起こっていない」と話していましたが、あなたはどのような意見を持っていますか?

ア : うーん、俺たちは、あまり新しいテクノロジーは使わないし、特別興味もないんだよな。今でもギターを弾くし、ベースやパーカッションも演奏するし、今回のアルバムでも、CHI 2のストリングスやネイサンのフルートみたいに、沢山のライヴ・ミュージシャンが参加してるしね。音楽を作るのにテクノロジーを使うのもいいと思うけど、俺たちはやっぱり、生の楽器を使って何かを創り出したくなるんだよ。プログラミングや他のテクノロジーももちろん使うけど、取り入れるって感じかな。それだけで音楽を作りたいとは思わない。今回のアルバムでは、ドラムの生音もレコーディングされてるし。

——インターネットは過去の音楽、世界中の音楽を容易にアーカイブ化することを可能にしたことはポジティヴな側面も多いと思いますが、あなたの考えるインターネットの功罪は?

ア : 人々が音楽へアクセスする手段を手に入れて、ミュージシャンが自分の音楽をプロモートするには本当に良いツールだと思う。人々が簡単にアクセスできるっていうのは、インターネットが無い頃は、色んな音楽にアクセスするのはそう簡単ではなかっただろ? 手段が限られていたからね。でも今はインターネットがあるから、思いがけずお気に入りの曲をみつけたり、そのバンドについてや、歌詞を調べられたり、その曲についてすぐに情報を知ることができる。それで興味に火がつくことだってあるわけだよな。でもよくないのは、皆がすぐにタダでダウンロードしてしまうことだね。何でも良い面、悪い面があるから仕方ないとは思うけどさ。

——インターネット上のソーシャル・メディアの発達でジャーナリズムの影響力も落ちてきているように感じますが、あなたが音楽ジャーナリズムに期待するものがあれば、それはなんですか?

ア : 音楽のジャーナリスト達もインターネットを使うべきだとは思うね。最高のツールとして、有効活用するべきだと思う。彼らはとにかく、徹底的にリサーチした上でしたい質問をして、活動すればいいんじゃないかな。その上で、真実を伝えればそれでいいと思うね。

——現在の音楽ジャーナリズムについてはどんな意見をお持ちですか?

ア : 各ジャーナリストによるね。すごく良い質問をしてくるジャーナリストもいれば、答えようのない質問や意味の無い質問をしてくる奴もいる。質問もそうだけど、肝心なのはその質問をした後に、彼らがそれをどう使うかってことさ。理解ができなかったのなら、理解しているフリをするなってこと。理解できなかったのなら、ただそれを書かなきゃいい。それか、そのアーティストが言ったことをアーティストの発言としてそのまま載せればいいんだ。それでジャーナリストが傷つくことはないんだから。通訳を通したときみたいに、コミュニケーションの行き違いやミスでたまたまそうなってしまうならまだ仕方ないけど、自らそれをやるのはダメだ。コミュニケーションってすごく大事なんだ。理解しあうってのはとても大切で、時間や手間がかかっても、ちゃんと理解することが一番重要だから。

——ここ数年、ポップ・ミュージックの領域において、ポリティカルな表現が敬遠されてきているように感じます。将来、音楽はどのような役割を社会において果たすと思いますか? また音楽は社会に対して力や影響をもたらすことが出来るでしょうか?

ア : ミュージシャンによると思うけどね。ポップ・ミュージシャンでも色んなタイプのミュージシャンがいるし、ヒップホップやR&Bの中でも、コマーシャルなアーティストはいるし。彼らが何について歌うかを、どう選択するかによって違うと思うんだ。音楽は常に影響力を持っているものだと思う。広告だって、その効果をより強いものにするために音楽を選ぶわけだし、映画やゲームにだって音楽は欠かせない。音楽を使うのは、色んな場で必須だし、それってとても良い事だと思う。音楽を通じて、人々が1つになれることだってあるしね。音楽は、人と人を繋げることができるから。

——なるほど。では最後に以下に挙げるフレーズを聞いて頭に思い浮かぶことを一言でコメントしてくれますか?

ア : 一言だね? オーケー。

——「オバマ政権」

ア : ははは! ! (大爆笑)こういうフレーズがくるのか(笑)。言葉じゃなくてイメージなら思いついたよ。空の上での銃撃戦。でも一言だと… “戦争”かな。

——「グーグル」

ア : (これも爆笑)おつぎはグーグルか(笑)! うーん、そうだなぁ… “検索”。

——「アップル・コンピュータ」

ア : マック(笑)。じゃさすがにダメ(笑)? “クレイジー”。

——「ゴールドマン・サックス」

ア : って何? 知らないな。

——有名な証券会社です。

ア : そうか。なら… “泥棒”。

——「ウィキリークス」

ア : グレイト。

——「カニエ・ウエスト」

ア : (笑)。ビートかな。彼のビートはいいよね。カニエ・ウエストの音楽ってあまり聴かないけど、ビートはいいと思うから、“ビート”で!

過去作も一斉配信スタート!

3月来日決定! 攻撃的なグルーヴと切れ味満点のメッセージが大炸裂!

目の覚めるような痛烈なメッセージとダブ、ロック、パンク、そして無国籍な極彩色グルーヴ! 縦横無尽に暴れ回るサウンドとライヴは、まさにADFの真骨頂!3年振りの7作目を引っさげての来日ツアーが大決定! さらにスペシャル・ゲストとしてダンス・ロック系アクトの大本命ザ・ケミスツの参戦が決定!

  • 2011/03/04(金) @渋谷O-East
  • 2011/03/05(土) @名古屋クラブクアトロ
  • 2011/03/06(日) @心斎橋クラブクアトロ

>>ツアー詳細はこちら

PROFILE

Asian Dub Foundation
993年、ロンドンのインド / バングラデシュ系コミュニティで結成。ちょうど同時期にイギリス中を席巻していたジャングルとレゲエ / ダブやヒップホップに加え、インド北部をルーツとするバングラビートを融合した独自の作風を打ち出し、ヨーロッパを中心に爆発的な人気を獲得。98年のフジロック・フェスティヴァルで初来日を果たし、以降はここ日本でも数回に渡ってその壮絶なライヴ・パフォーマンスを披露、幅広い層から支持を得ている。彼らが発するサウンドとメッセージは、結成当時から現在においても全く変わらずゆるぎない。

この記事の筆者

[インタヴュー] Asian Dub Foundation

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