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2015/01/02 18:00

 

大森靖子が女子のために歌った特別なクリスマス——OTOTOYライヴ・レポート

 

大森靖子が、12月25日のクリスマスに新宿duesにて、メジャー1stアルバム『洗脳』リリース記念の女性限定イベントを開催した。女性限定イベントは、去年も同じクリスマスに同所で行われ、女性ファンの好評を得ていた。しかしその内容は、参加できない男性ファンにとっては、もちろん謎に包まれたまま。今回、特別に、男である筆者に取材を許可していただいた。そこに流れている空気は、普段のイベントはもちろん、ワンマン・ライヴや彼女が毎月行っている自主企画〈続・実験室〉とも、やはり違うものだった。

イベントは無料招待制で、CDを対象店舗で購入し、応募した人のなかから抽選で選ばれたもののみが参加できる。会場のキャパが小さいこともあり、抽選に漏れた人もいたようだ。当選した幸運な人たちは、入り口で受付を済ませると、さっそくサプライズが待ち受けている。サンタ風の衣装に、ナナちゃん(大森愛用のクマのぬいぐるみ)をかたどったフードつきタオル・マフラーをかぶった大森が、お客さんを握手で出迎える。そして、当選者ひとりひとりのために自ら選んだという、クリスマス・プレゼントを手渡す。中身はCDや雑貨などさまざま。さらに、先日発売された大森靖子の写真集「変態少女」の撮影を担当した写真家の金子山から、生写真もプレゼントされた。

入場が終わると、ライヴがはじまる。先ほどのサンタ衣装のまま、ステージに現れた大森が軽くギターを鳴らすと、「ハンドメイドホーム」が演奏される。いつものようにひとりひとりの目を見ながら、ときにうなずきながら歌っていく。その瞬間に見せる笑顔は、いつもよりもほんの少しだけ優しく思えた。この日にぴったりの曲「絶対彼女」へと続く。女の子しかいない空間で「絶対女の子がいいな」と繰り返し歌った。大森が「クリスマスに大森靖子のイベントに来てくださって、ありがとうございます」とあいさつ。そして、このイベントや、自分が作る音楽への思いを語る。

「自分が中学生とか高校生のときとかに、こういう歌を歌う人がいればいいのにっていうのをしようとしていて。昔の自分に似ている人とかが聴いてくれたらいいなと思って、そういう人に会える空間がこの日にあるっていうのは、すごくありがたいです」

「自分と同じようなことを思っていた人が、結構いたわけじゃないですか。みんなが考えているようなことを言語化している人がいなかったから自分がしているだけで、別にメンヘラのつもりもないしっていうのがずっとあって。みんなが、ほら大森靖子はすごかったじゃん、メンヘラでもサブカルでもなかったでしょ、って言えるように、もっとがんばっていこうと思うので、よろしくお願いします」

「呪いは水色」「パーティードレス」をていねいに歌ったあと、ゆったりとしたトーンで再び話をする。

「歌いたいだけなのに、なんでこんなに戦わないと歌っていけないんだろう。私が歌いたい場所はこんな場所じゃなかったっていうか、なんでこんなに強く立ってないと歌えないんだろう。そういうのがいっぱいあって。ここに来ている人は、そういうことがいっぱいあると思うんですよ。自分が生きたいように生きるためには、なんでこんなにしないといけないんだろうっていう気持ちが。それは当たり前のはずなのに、なんでって思うけど…。そこは私とか、そういう役割の人が戦って勝ち取っていけばいいことだから。疲れたら辞めるんですけど、あと2年くらいは、がんばろうかなって思うんですよ」

か細い声でゆっくりと「あまい」を歌いはじめる。歌いながら、たまにぎゅっと目をつむる。「ノスタルジックJ-POP」では、マイクを外して客席の目の前にきて歌う。狭い会場でしっかりと後方まで視線を送り、ひとりひとりと目と歌で対話していく。客席にいる女の子たちは、そんな大森を無言で、じっと見つめている。大森はマイクの前に戻り、17歳の少女の気持ちを歌った「子供じゃないもん17」を演奏。続く「キラキラ」は、全身の力を抜いたように、ゆったりと歌う。フェスなどで見せる完全無敵の大森靖子とはかけ離れた姿。その姿は、どこか、か弱く思えた。

「最後」と小さくつぶやくと、未発表曲「ラーメンの話」へ。まるで自分の家で歌っているかのように、少しうつむき気味に歌いだすと、すぐに顔をあげて、また客席を見回しながら歌う。「デートはやめよう」や「君と映画」にも通じる、ごく距離感の近い相手のことを歌った曲。演奏を終えると、しばしの間、視線を落とす。そしてまた前を向いて、「聴いてくださって、ありがとうございました」と穏やかな笑顔であいさつ。一礼すると、会場は暖かい拍手に包まれた。ライヴ後には希望者を対象にしたチェキ会もあり、ひとりひとりとゆっくり話をして、充実した女子限定のクリスマス・イベントは終了した。

アルバム『絶対少女』ですべての女子を肯定した大森靖子。女の子への憧れを繰り返し語ってきた彼女自身も、当たり前だが、女子のひとりだ。自身の思いをMCで語る彼女の姿は、ときにひとり言を話しているように落ち着いているように見えたし、特に終盤の演奏は、普段よりも明らかに肩の力が抜けているように感じた。その姿を見ているだけでも、このイベントには、少なくとも大森自身にとって大きな意味があるように思えた。男としては少し寂しい気持ちもあるが、彼女があんな表情で歌える場があるのなら、今後もぜひ、この女性限定イベントを続けてほしいと思う。とても貴重な空間だった。(前田将博)

〈大森靖子『洗脳』リリース記念 女性限定クリスマスイベント〉
2014年12月25日(木)

<セットリスト>
1. ハンドメイドホーム
2. 絶対彼女
3. 呪いは水色
4. パーティードレス
5. あまい
6. エンドレスダンス
7. PS
8. 秘めごと
9. ノスタルジックJ-POP
10. 子供じゃないもん17
11. キラキラ
12. ラーメンの話

・大森靖子、メジャー・ファースト・アルバム『洗脳』5000字レビュー (音源もハイレゾで配信中)
http://ototoy.jp/feature/20141203

・大森靖子 オフィシャルサイト
http://oomoriseiko.info

[ニュース] 大森靖子

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