LANTERN PARADE INTERVIEW
柔らかで爽快感あるサウンドに心地よく身を委ねていると、気付けばそのぬかるみに足がうずまってゆく。そのサウンドの中を漂う鋭利な言葉がガラスの破片のように次々と肌に刺さる。温かな狂気を感じさせるこの秀作を収録したテープが、LANTERN PARADEこと清水民尋の家の隅で眠ったままになっていたことを考えると恐ろしい。10年の時を経て世に放たれるこの『初期のランタンパレード』は、彼のデビュー・アルバム『LANTERN PARADE』以前に制作された作品だ。
そして、2009年に発表されたベスト・アルバム『a selection of songs 2004-2009』より2年ぶりに彼の新作が発表される。この作品『DISCO CHAOTIC DISCHORD』は、見知らぬ地の果てにある地下のディスコを覗くような怪しさを持っている。ギラリと光るミラー・ボールと、せき込むほどの煙草の煙。吐き出される言葉は聴く者の精神に問いかけてくるようだ。52分48秒間、トランス状態に引き込まれた後には意外なほどの爽快感が押し寄せてくる。この度この2作品が同時リリースされる。両極端にあるように思えるが、確かに両作共にLANTERN PARADEの個が強く感じられる作品。その彼の個に迫るべく直接話を伺った。
インタビュー&文 : 水嶋美和
★ランタンパレード、ニュー・アルバムを2枚同時リリース!
DISCO CHAOTIC DISCHORD
ディープでスモーキーなビート、阿鼻叫喚のディスコ・グルーヴ、儚くも美しい調べ。まるで世界の果ての辺境から届いたMIX CDのよう! 古今東西のあらゆる音楽をカオティックにカットアップ。そこに乗る研ぎすまされた言葉たち。この自由な世界でダンスし続けよう! ランタンパレードのアルバム史上、もっともインパクトのある傑作が誕生しました!
初期のランタンパレード
習作と呼ぶには確信に満ち過ぎているデビュー・アルバム(2004年)以前に録りためられた9編の叙情詩。曽我部恵一を虜にし、ランタンパレードという新しい音楽スタイルを確立させた珠玉の原石達が遂に解禁! 原点であると同時に、年月が経っても全く色褪せずに輝いてます。
変化と言われるけど、僕にとってはごく自然なこと
——『初期のランタンパレード』は2004年のデビュー・アルバムより前の作品なんですね。
はい。2001、2年あたりに作った作品なので、もう十年も前ですね。
——この作品を今、改めてリリースしようと思ったのはなぜですか?
どこに発表するでもなく作ったまま放置していて、家の片隅からテープが出てきたので何となく聴いてみたら、ボツにするには勿体ない作品だなと思ったので。特に今のタイミングであることにこだわりはないです。
——LANTERN PARADEのプロフィールに「ハードコア・パンク出身」とありましたが、元々はバンドで活動されてたんですか?
97年から99年の2年ぐらい、ハードコア・パンクのバンドでギターを弾いていました。でも色々な音楽を好きで聴いていましたね。ハードコアだけじゃないです。
——そこからソロ・ユニットとしてLANTERN PARADEを始めたのにはどういうきっかけがあったんでしょう?
そのバンドを抜けて新しいバンドを始めようと思ったんだけどなかなかメンバーが見付からなくて、じゃあとりあえず一人でやろうと思ってサンプラーや機材を買って宅録を始めたらそっちの方が面白くなっちゃって、今に至るという感じです。
——LANTERN PARADEを始めて一番最初に完成させたのがこの作品?
そうですね。
——ハードコア・パンクのバンドをやっていた時からはだいぶ音楽性が変わったかと思うのですが、2001年あたりはどのような音楽を聴いていたんでしょうか?
『初期のランタンパレード』では多分、ソフト・サイケみたいなのをやろうとしてたんだと思います。ポップなサイケですね。どろっとし過ぎず。
——柔らかいけど少し違和感が残るような感じ。
そう。その頃聴いていたのはソフト・ロックとかポスト・ロックとか。あとブラジルの音楽ですね。カエタノ・ベローゾとか、ボサ・ノヴァも聴いてましたし。
——リスナーとしても音楽の幅が広いんですね。
でも、ボサ・ノヴァもリズムだとサンバになるし、サンバは黒人のものだし、僕の中ではレゲエもディスコもジャズもひとくくりにしてブラック・ミュージックなんですよね。基本、ブラック・ミュージックが好きなので。
——例えば、ブラック・ミュージックのどこに強く惹かれますか?
野性味、土着・呪術、神秘性などです。
——なるほど。『初期のランタンパレード』を聴いてから『DISCO CHAOTIC DISCHORD』を聴くと、ものすごく大きな変化を感じたのですが、ご自身ではどう思われますか?
作品としては10年空いてますからね。でもTHEO PARRISHとかのハウスは2000年ごろから聴いているから、その辺の影響はファーストから出ていると思います。ヒップ・ホップも元々好きだったから『清水くんからの手紙』などではラップも取り入れるようになったし、劇的な何かとの出会いがあって変化したということはではないです。
——リスナーとして蓄積していたものを徐々に出している感じ?
そうですね。変化と言われるけど、僕にとってはごく自然なことです。
何かが起こってその刺激で曲を作るということは全くない
——音楽を聴くとき、歌詞は重視しますか?
どうでしょう… しょうもない、くだらないことを言っている曲の方が好きですね。ハウスも実は下ネタだけの曲とか、ヒップ・ホップも内容はすごいくだらないことばっかり言ってたりするし、そういうのに惹かれます。
——意外ですね。そういう部分はLANTERN PARADEの音楽にも反映されていると思いますか?
くだらないことも言ってますよ。『DISCO CHAOTIC DISCHORD』の2曲目とかも。
——ああ(笑)。深読みしようとしていました。
適当に聞いて欲しいですね。そういうくだらないことも言いたいけど、真面目なことも言います。
——両極端なものを同じところに入れたい?
そうですね。音にせよ歌詞にせよ、そういうものに惹かれます。
——日常の出来事は歌詞に反映されますか? 例えば「甲州街道はもう夏なのさ」で描かれていることとか。
あれは実話ですね。でも、日常に思っていることを音に乗せるのが歌としては自然なことなんじゃないですかね。別に切り離してもいいとは思うけど。僕が切り離さないだけで。ただ、何かが起こってその刺激で曲を作るということは全くないですね。
——2004年から2009年まで頻繁に作品をリリースされましたが、今回の2タイトルが出るまでは2年が空きましたね。この2年はどのような活動をされていたんでしょうか?
音楽は作り続けていたし、今度バンド演奏でのアルバムも出させてもらえるとのことで、1年前ぐらいから隔週でリハに入ったりしていたし。聴くし、買うし、作るし、その間に何か特別な事があったという訳ではないですね。
——ライヴ活動はされているんですか?
しないですね、でも生バンドの作品を録り終えたらやりたいね、とはメンバーで話しています。
——LANTERN PARADEの前のバンド以来だから、ステージに立つのは10年ぶり?
バンドではそうですね。DJではちょこちょこ人前に出てやっていますが。
——秋にリリース予定のバンド編成のアルバムは、どういう感じの作品になりそうですか?
素朴なフォーク・ロックですね。『DISCO CHAOTIC DISCHORD』とはまた全く違う路線で、昔のシンガー・ソングライター風の音楽です。そういうのも好きなんで。
——振り幅の大きさにびっくりする方もいるかもしれませんね。
でも僕思うんですけど、昔のディスコの人もソウルの人も、フォ―キ―な曲を作ってるし、The Rolling Stonesだってディスコをやったりレゲエを取り入れたりしてるし、自分の中ではそんなに突拍子のないことをしているつもりはないんですよね。
——清水さんは昔の音楽の方がお好きですか?
そうですね。昔の音楽を聞いてる方が多いですかね。
——最近のアーティストはあまり聴かない?
昆虫キッズの高橋翔くんが僕のことを慕っていてくれていて(笑)、音源をもらって聴いたんですけど良いな、元気だなって思いました。あとバンド編成の時にドラムを叩いてくれている光永くんのバンドのチムニィに呼ばれていったり。でも自発的にライヴ・ハウスに行くことはほとんどないですね。疲れますから(笑)。
——掘り下げていく方が好き?
そうですね、レコード買う方が多いです。
音楽で登りつめたいという気持ちがあるなら、音楽は聴かなくなりますよね
——ちなみに、ランタンパレードという名前はどこからとったのでしょうか?
単純に「提灯行列」を英語にしただけです。特に意味はなく、適当ですね。あまり考え込まずに。
——曲を作る時もあまり考え込んだりはしないですか?
そうですね。つるつると出ていく感じです。曲にもよるけど1日で出来ることもあるし。でもヒップ・ホップだと5分で一曲作れちゃう人も居るし、そんなに珍しいことでもないですね。
——曲を作る時に重視する点は何ですか?
自分が聴いて面白いと思えるかどうかですね。
——頭じゃなくて、感性?
そうです。
——生活の中でどれぐらいの時間を音楽に費やしていますか?
特に意識はしていないです。
——清水さんは、音楽とどういう関わり方をしていますか?
普通に楽しむとか… でも誰でもそうなんじゃないですか?
——発散場所として考えたり、それで飯を食って行きたいと思っていたり、ただ単に音楽が好きだったり、ミュージシャンそれぞれに色々とあるとは思いますが、清水さんの場合はどうでしょう?
演奏するのも聴くのも楽しむためのものという認識ですね。ライフ・ワークにするとか、そこまでは考えてないです。
——では趣味として切り離している?
完全に趣味と思ってやっています。
——では、やらなくなることもある?
わかんないですね。やる気が無くなったらやめるし、やめてもまたやりたくなったらやるし。セールス的に音楽で登りつめたいという気持ちがあるなら、音楽は聴かなくなりますよね。
——というと?
たくさんの音楽を聴いて独自の音楽を生み出しても、それが多くの人に受け入れられるということは難しいと思います。世の中のほとんどの人ってそこまで音楽好きじゃないじゃないですか。大勢の人が一斉に反応する音楽って幅も狭くて偏ってるし、そこに向けて音楽をやろうと思うと、自分の好きなことが出来なくなるので。僕は色んな音楽を聴きたいと思うので、売れる売れないということは何も考えていないですね。売れるものを作ろうとして狙っても、当てる才能なんかないですし。でも曽我部(恵一)さんの懐が深いからそういうスタンスでも好きにやらせてもらえるし、恵まれた環境にあると思います。
——今後の活動についてお伺いしたいんですが、例えば、ハードコアの音楽をまたやりたいとは思いますか?
いや… 一回やったからもういいかな。今の気分ではないので、考えてないです。
——じゃあ、『初期のランタンパレード』のような雰囲気の音楽も、またやろうとはなかなか思わない?
曲があるからやるとは思いますね。勿体ないですし(笑)。
——では、これから新しく作るのはどういう作品になると思いますか?
バンド編成でやっているようなフォーキーな路線の作品が出来ると思います。バンドでディスコっぽいのもやってみたいですね。どっちも好きなんで楽しんでやれたら、やらせてもらえるなら、やりたいです。
——バンド編成でのライヴの予定は立っていますか?
お呼びがかかって、チャンスがあればいつでも。
——レコ発のツアーやリリース・パーティはやらないんですか?
考えてないですね。あまりばーんと前に出るよりは、いつの間にかLANTERN PARADEが何か出してた、ライヴやってたっていう軽いノリがいいんです。飄々としていたいです。
——生活の中に大きすぎず小さすぎず、自然な流れとして音楽がある感じ。
そうですね。それによって息苦しくなるのは嫌です。
LANTERN PARADE過去作品を一挙配信開始!!!
これまでにリリースされたランタン・パレードの作品を一挙販売開始! ジャズ、ヒップ・ホップ、フォーク、ハウス、ディスコやブレイクビーツ等々、作品によってがらりと表情を変える彼の珠玉の名曲達。CDでは廃盤になってしまっているタイトルも、配信にて再リリースです!
>>レビュー付き・LANTERN PARADE完全ディスコグラフィーはこちら!
PROFILE
LANTERN PARADE
煩雑な生活の諸々が波のように押し寄せるぼくらの毎日。それらは砕け散り、日々の泡となってぼくらを包む。そんな風景のなかを漂うランタン・パレードの調べ。2004年のアルバム・デビュー以来、硬い石に言葉を刻み込むようにして、黙々と音を紡ぎ続けて来たランタン・パレードこと清水民尋。浮ついたところのない彼の硬派なメロウネスに、ぼくは惚れている。優しくこぼれ落ちるピアノの音は、だれかの涙のように切実だ。ハードコア・パンク出身の彼のそんな風情にシンパシーを持ってくれるひとたちが、全国にゆっくりと増えて来ている。そのことがすごく嬉しい。ランタン・パレードの音楽。そこには、いつものぼくたちの気持ちが、想像もつかない色を付けられて、いっぱい転がっている。都市の新しい音楽。スウィート・ソウル・ミュージック。
(text by 曽我部恵一)