
なるほど・ザ・ボーカロイド第二回! FLEETに突撃インタビュー(自宅)

しかし… Twitter上では「ミクの魅力はこんなもんじゃねえだろ」というミクファンたちのツイートで炎上。炎上しすぎていつか本当に家に火炎瓶投げ込まれるんじゃないかと日々、怯えながら過ごしていました。とは言い過ぎですが、ボーカロイドについてはわかったけどその奥にある魅力についてまで届いていなかったのは確か。ならば現場の人に直接魅力を伝えてもらおうじゃないか! という訳で、今回からボーカロイド作曲者の家を数珠つなぎで訪問して回り、存分に語って頂きます。「突撃! となりの晩御飯」meets「テレフォン・ショッキング」です。
記念すべき一人目のボカロ(と略すらしい)作曲家は、本サイトが今年3月に緊急リリースした東日本大震災救済支援コンピレーション・アルバム『Play for japan』に「Cipher」で参加してくれたFLEET。といっても普段はメジャー・ミュージシャンとして第一線で活躍している方で、彼が作曲したボカロ曲は「Cipher」だけなんです。なぜ、あえてボカロを使って曲を作ろうと思ったのか? 彼が初音ミクに惹かれた理由とは? さあ、インテリ系男性の部屋に侵入し興奮する私に、思いのたけを語ってください!
(文、インタビュー : 水嶋美和)
Play for japanに収録されたFLEET『Cipher(サイファ) 』
東日本大地震救済支援コンピレーション・アルバムです。アルバム・タイトル『Play fo Japan』には、「日本の未来のために演奏する」と言う意味を込めています。我々の思いが、少しでも被災地に届きますように。みなさん、一緒に、粘り強く、再建と復興をめざして歩んでいきましょう。
DL期間 : 2011年3月17日〜2011年6月16日
・ディレクター : 小林美香子 / 佐々木亘
・マスタリング : 岩谷啓士郎
・ジャケット・デザイン : 名倉剛志
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「ボーカロイド」はもはや一つの共通言語になっていると思います。
――ボーカロイドの楽曲を作るにはどういう機材を使うんですか?
「VOCALOID EDITOR」というWindows専用のソフトがあるので、それで作ります。初音ミク以外にも初音ミクAppend(注2)とかGUMI(注3)とか、色々ありますよ。
――ア、アペンド。… グミ?
ボーカロイドにはいくつか種類があって、初音ミクのパワー・アップ版で初音ミクAppendというソフトが去年出たんです。ささやき声や暗い声など、声のバリエーションが6種類に増えました。
――GUMIも初音ミクのパワー・アップ版ですか?
ではなくて、初音ミクとは違う声優なんです。ex.SUPERCARのフルカワミキさんの声を使った「miki」(注4)ってソフトも出てますよ。2年前ぐらいかな。

――ボーカロイドの曲ってPCでだけで作れるんだと思ってたんですけど、FLEETさんの曲には生楽器が入ってますよね?
ボーカロイド自体はシンセなので、基本的には楽器と同じ扱いですよ。1つのジャンルとして見られがちなんですけどそうではなくて、ロック・バンドっぽい曲もあればアコースティックな曲もあるし、ポスト・ロックっぽい曲、エレクトロニカやテクノっぽい曲、メタルっぽい曲、歌謡曲やアニソンっぽい曲など色々ある。でも、ボーカロイドを聴く人って、ボーカロイドってだけでまず聴いてみようってなるんです。全部のジャンルが同じテーブルの上に乗っている。ジャンルというよりはコミュニティですね。
――コミュニティ?
はい。今はインターネットが普及して、様々な種類の情報がものすごい速さで流れていくようになって、カルチャーが細分化され、島宇宙化していって、それぞれ自分が好きなものしか受け入れなくなった。そうやって共有できるものが失われていく中で、バラバラになった人々をもう一度接続し直したのがボーカロイド・カルチャーなんです。あと、N次創作ってあるじゃないですか。
――ほう… N次創作?
コミケなどで販売されている同人誌ってオリジナルの漫画やアニメを改変して作られたものが多くて、そういうのを2次創作っていうんです。ボーカロイドも基にあるのが同人文化だから、あるボカロP(ボーカロイド・プロデューサー=ボーカロイドで曲を作っている人)が曲を作ったら、誰かがイラストを描いたり、PVを付けたり、実際に歌ってみたり、2次、3次創作を繰り返して改変されていく。そういうのをN次創作っていうんです。また、色んな歌い手さんがボカロの曲を「歌ってみました」ってニコニコ動画にアップしているんですけど、それがまたすごく人気なんです。今や歌い手さんの世界はもう一つの芸能界みたいになってますね。
――へー! そんなに盛り上がってるんですね。
それによって原曲がないがしろにされる訳ではなく、むしろ価値が高まっていく。大昔の芸術って基本的には一点ものじゃないですか。それを複製する技術が発展して、大量生産されることが前提のポップ・カルチャーが生まれた。音楽も元々は生演奏だけだったのが、楽譜が生まれ、レコードが生まれ、大量生産されてみんなの手に渡る様になった。それが今はデータになって、簡単にコピーできちゃうし、違法だとしてもどんどん流れていきますよね。その過剰流動性に、ボーカロイド・カルチャーはすごく適合してると思います。 ボーカロイドは重層的で日本的だと思いますね。
――佐藤さんが初音ミクを知ったきっかけは何ですか?
僕は普段ウェブ・デザインの仕事をしてるんですけど、ボカロ作曲者だったkzさんのlivetuneというユニットの特設サイトを作ることになったんです。「へーこれが初音ミクかー」と思いながらカチカチ仕事してるうちに、気が付いたら好きになってしまっていて(笑)。
――洗脳されてるじゃないですか (笑)!!
redjuiceさん(人気イラストレーター)のジャケット・イラストがまたかわいかったんですよね。ボーカロイド・カルチャーに対して自然に入っていけるかどうかは、キャラクターの壁を越えられるかどうかだと思うんです。ボーカロイドを嫌いな人はこういう萌え系のイラストに拒否反応を示していて、その向こう側にある音楽にまで辿り着けてないんです。
――佐藤さんは初音ミクというキャラクターのどこにそこまで惹かれたんでしょう?
SF的な要素と、儚さですね。歌うことしかできないボーカロイドで、それでも一生懸命に何かを伝えようとしている。だけど本当は存在していない。それが切ないんです。バーチャル・アイドルの試みは今までもいくつかあったんですけど、見た目をリアルなCGで作って、声は声優さんのアフレコというもので、どれも成功しなかったんです。でも初音ミクって逆なんですよね。見た目はすごく曖昧で、碧色の髪でツイン・テールでこの服でって、最低限の記号さえ揃えればミクに見える。だから描き手にすごく解放されるキャラクターなんだけど、その代りに「声」があった。自分自身の「声」を持った初音ミクが初めて成功したんです。声って不思議で、例えばシンセのピアノを弾くと、

「ポーン」
ただのピアノの音じゃないですか。でも、これが人の声だと何か霊的なものを感じてしまう。そういう「声」の不思議もありつつ、ボーカロイドがここまで拡散したのは、バーチャル・アイドル、キャラクターとしての初音ミクの魅力が大きいでしょうね。
――ボーカロイドの拡散に一役を担ったのも、足かせになっているのも、初音ミクというキャラクターなんですね。
そうですね。でもここまで広がってくるとキャラクター萌えしてる人だけじゃなくて、単に新しい楽器として楽しんでいる人もいれば、市場が盛り上がっているから利用しようという人もいます。クオリティの高い曲がたくさんあるし、作り手も聴き手も集まる理由は一つでは無いんです。キャラクター、N次創作、コミュニティ、ニコ動文化、シンセ、ボーカロイドには語り口がいっぱいあって、全ての要素が絡み合ってここまで盛り上がってきたから、一言では説明しきれない。ライヴもすごいんですよ!
――ライヴ!? ライヴがあったんですか? どうやって?
ボカロPさんたちがバンドを結成して歌い手さんが歌う普通のライブも人気ですし、もっと大掛かりな、ステージ上に透明のパネルがあって、そこに等身大の初音ミクが投影されて、生演奏のバンドをバックにミクが歌って踊るライブがあるんです。DVDあるんで観てみます?
――観ます観ます!
(初音ミクのライヴDVDを観賞中)
――これは… 鳥肌立ちました! 泣けますね、これは。だって、居ないんですよね。
そうなんですよ。本当は存在しない女の子が会場に居る人達とモニターの向う側で見ている人達の気持ちを一手に引き受けて、一生懸命に歌ってるんです。でも… 。
――居ない… 。
でも… 居るんですよね。
――なんて儚い… なるほど。初音ミクに夢中になる人の気持ちわかった気がします。そこに存在しない何かに対して、ここまで多くの人が熱狂する。バック・バンドの人も、実在しない存在のために演奏する。不思議な光景なんですけど、ぐっときます。
これを見てると、キャラクターって何なんだろうって思うんですよね。存在しないんだけど、みんなが彼女に自分の気持ちを託してて、心の中に確かに存在している。それが遂に目の前に降臨したのが、このライヴなんだと感じます。初音ミク自体に主体性は一切無いんだけど、曲を作る人や絵を描く人の思いを一手に引き受けて、感情移入させてくれる。日本人って、文脈を読み取ろうとする国民性があると思うんです。例えば桜を見て、「美しい」という視覚的なものだけじゃなくて、時間を推しはかって「儚い」という感情をよみとろうとする。お笑いにしても1つのキーワードから連想して色んな導線をひっぱってくる。何でもすごく重層的になっていて、アニメやライト・ノベルのキャラクターや物語にしても、作品の外にある大きな共通のデータベースみたいなものといかに交信するかが大事だったりする。初音ミクもまさにそう。そして複数の文脈があって色んな要素が絡み合っている。日本的だと思います。

――主体性がないからこそ、みんながそれぞれの思いを投影出来るんですね。
そうですね。さっき話に出たように、情報の流れが多方向になってそれぞれの価値観ごとに島宇宙化して、みんなが共有出来る物語がなくなってしまった。だからこそ、それぞれの物語を投影し共有出来るボーカロイドや、自前の物語を最初から内包しているアニソンは強いんだと思います。また、共有というキーワードでは、ニコニコ動画のコメントやツイッターのタイム・ラインが擬似的にもたらす「共時性」という要素も大きいと思います。人は、大勢で何か1つのことを同時に体験すると、一緒に体験した人々に対し何か連帯感みたいなものを感じますよね。ニコ動のコメントは、本当はバラバラの時間にみんなが書き込んだものだけど、みんなが同時に見てシンクロしているように錯覚出来る。ニコ生やUstの生放送は、コメントやソーシャル・ストリームがあることによって、空間を超えて同じ時間を共有し一緒に盛り上がれる。大きな物語が凋落したと言われている中、一方でインターネットでは様々なものが共有可能になっているんだと思います。
――今、日本のオタク文化が世界で注目されていますよね。
日本の芸術って映画にしろ音楽にしろ文学にしろ、基本的に欧米から輸入されてきたものじゃないですか。つまり評価の基準が欧米の文脈にある。日本独自の文化が生まれる時って江戸文化にしろ国風文化にしろ鎖国状態にある時だと思うんです。だけど近代以降ずっと欧米の文化を輸入するばかりだった。その中で鎖国状態で閉じこもって醸成されたものが何かあったかというと、それがオタク・カルチャーなんですよ。アニメーション自体は最初ディズニー・アニメなどで輸入されてきたものだけど、今はそれとは全く違うものになりましたよね。予算などを含めて色々な制約があるなか、海外での評価と関係なく日本の中だけで40年ぐらい独自に進化し続けた結果、唯一無二のオリジナルの文化になった。それが逆に海外でも評価されている。オタク文化は日本のポップ・カルチャーを語る上で欠かせないものになりました。その結実の1つが初音ミクをはじめとするボーカロイド・カルチャーだと思います。
――たとえばボーカロイドが海外進出するとして、ミクちゃんって英歌詞も歌えるんですか?
VOCALOID EDITERって、平仮名で打ち込むんですよ。

ミク「こ~~ん~~に~~ち~~は~~」
――おおおー!
だから、英語で打ち込んでも歌ってもらえないんです。英語を平仮名に直せば出来ないことはないんでしょうけど。
――これ、ビブラートを短くすることもできるんですか?
ミク「こ~ん~に~ち~は~」
――うおおー! これは楽しいですね。さて佐藤さん、この「なるほど・ザ・ボーカロイド」なんですが、「笑っていいとも! 」のテレフォン・ショッキング式にしようと思うんです。次回にお宅訪問させてくれるボーカロイド作曲者を紹介してもらえますか?
s10rw(ストロウ)というボカロP・サークルがあって、その中のそらいろくらぶさん、Whooさん、10日Pさんはどうでしょう?
――ありがとうございます! 今日はミクちゃんの魅力とボーカロイドの奥深さがわかりました。では最後に、佐藤さんにとってボーカロイドとは?
ショッピング・モールのようなものだと思います。百貨店は入り口と出口が決まってるけど、ショッピング・モールは出入り口がたくさんあって、どこから入ってどこから出ても良い。中にはテナントが沢山入っていて、お店の系統や売っているものもばらばらなんだけど、同じ建物の中にあるということで繋がっている。みんなが同じボーカロイドを使うことによって表面の質感は似ているんだけど、その向う側に本質的なものが宿っている。そういうところがボーカロイドとショッピング・モールは通じてると思いますね。また、3.11以降の震災によって様々な文脈が大なり小なり変わらざるを得ないと思うので、今後この文化がどのように変化していくか見守って行きたいと思います。

注1 : VOCALOID(ボーカロイド)はヤマハ株式会社の登録商標です
注2 : 初音ミクAppendはクリプトン・フューチャー・メディア株式会社の初音ミクの追加音声パック名
注3 : GUMIは株式会社インターネット社のVOCALOID2 Megpoid(メグッポイド)のキャラクター名
注4 : 発売元は株式会社 AHS
OTOTOYがセレクトする配信中ボーカロイド作品
FLEET PROFILE

2004年、デザイナーだった佐藤純一と、ギタリストの池田雄一を中心に結成。後に電子音楽や現代音楽の作曲家として活動する仲井朋子が加入。MyspaceやYoutubeの普及以前に、ホームページで公開した楽曲がインターネット上で話題になり、シングル『Brand new reason』でデビュー。ポスト・ロック、ニュー・ウェーブ、エレクトロニカ、ギター・ポップといったキーワードを随所に感じさせながら、独自のセンスとアイデンティティーで構築された、決してそのどれとも言えない音楽性が好評を博す。その後、オリジナル・メンバーの池田雄一、仲井朋子が脱退しFLEETは佐藤純一のソ・ロユニットとして再始動。2011年1月、時代の「変遷」や「移行」をテーマにしたアルバム『TRANSIT』をリリース。さらに、ボーカロイド楽曲を公開するなど発表の場にとらわれない活動を展開している。
初音ミクとムーブメントについて

PC画面上で歌詞とメロディを入力することによって歌声(ボーカル・パート)を作成することが可能です。このソフトはVOCALOID(ボーカロイド)と呼ばれる、ヤマハ株式会社が持つ歌声合成技術を使って、クリプトン・フューチャー・メディア株式会社が開発し、2007年夏に発売されました。
『初音ミク』発売後、ニコニコ動画などの動画投稿サイトを中心に、ユーザーたちの手により、たくさんの楽曲や映像作品などが発表されました。更に発表された作品は別のクリエイター同士の創作意欲を刺激し、新たな作品が生まれる創作の連鎖を生み出しました。
その現象は、主要なメディア媒体などに大きく取り上げられ、様々な賞を受賞。更に、赤十字社、文化庁や内閣府などでも取り上げられ、日本を代表するデジタル・コンテンツの一つとして、海外のフェスティバルなどでも紹介され、現在では、CD、DVDのリリースや立体化や書籍化、ゲーム化、CG技術を駆使したライブ・イベント等を展開し、音楽ソフトの枠をはるかに超えた多方面での活躍を見せています。
なるほど・ザ・バックナンバー
- vol.1 なるほど・ザ・ボーカロイド