
「思春期にロックに夢中になった奴らはさ、27歳になった時に自分の薄っぺらさに愕然とするんだ。」と、27歳になったばかりの知人が煙草をふかしながら細い目をして言った。カート・コバーンなどの多くのロック・ヒーローが没した年齢だ。その夜、KING BROTHERSのライヴにて、マーヤは「ロックンロールは27歳からなんだよ。27歳で終わっちまった奴ら、かわいそうだなあ! 」と叫びステージから客席へダイヴした。フロアにびっしり詰まったファンの頭上を右へ左へ移動しながら、そのまま最後の二曲を演奏しきった。目の前の光景が答えだ。どうやらロックンロールは27歳では終わらないらしい。
1998年、ギター二人とドラムから成るベースレス・バンドで始まったKING BROTHERS。その疾走感のあるノイズがかった音と衝動を揺さぶるロックンロールのメロディはTHE WHITE STRIPESやTHE STROKESなどのビッグ・ネームをも魅了してきた。しかし2005年のサポート・ドラマー脱退の後、精力的だったライヴ活動は一時停止される。2007年に新ドラマー=タイチを引き連れライヴ・ハウスに戻ってきた彼らは、ベースレス・トリオにまさかのベーシスト=シンノスケを加え復活宣言。そして今、それから3年が経った。
今回リリースされる『THE FIRST RAYS OF THE NEW RISING SUN』は、スタンダードなバンド形態になった四人の新生KING BROTHERSとしての初音源となる。いや、形や人数ではない。三曲目「ロマンチスト」を聴けば、生み出す音楽そのものが大きく変化している事がよくわかる。十年以上全力疾走してきた彼らが、初めて歩みを止めて過去を振り返り、先を見据え、今を歌った曲だ。タイトルのままではあるが、KING BROTHERSの新しい夜明けの色を、目に突き刺さる閃光の鋭さを、今! 目撃してほしい。
インタビュー&文 : 水嶋美和
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何でもいいから俺をKING BROTHERSに入れてくれ
——前作「BLUES」から6年ぶりのアルバム・リリースですね。ライヴ・ハウスでは頻繁に見かけていたので、リリースに6年もかかったというのは意外でした。
ケイゾウ(以下、ケ) : ライヴや海外ツアーは頻繁にやっていたので、僕達も驚いています。「BLUES」の時にサポートでドラム叩いてくれていた和田シンジが自分の活動をメインにしていきたいとの事で外れてしまい、シンノスケ(Ba.)とタイチ(Dr.)が入って、今のバンドの形になってアルバムが出来るまで、6年もかかってしまいました。
——KING BROTHERSはフロントにギター二人とドラムの三角形のイメージが強かったので、ベースが加入した時には驚いたファンも多かったと思います。なぜ、ベースを入れようと思ったんですか?
ケ : 元々KING BROTHERSがベースレス・バンドで始まったのは、変則的な構成でプレイする事での主張でもあったんですね。でも「BLUES」がすごく満足度の高い作品に仕上がって、次に何をするべきかを考えた時には、もうそういった形態や意図的な狙いにこだわる必要は無い気がして。当たり前のフォーマットに則る事でもっと広くKING BROTHERSを聴かせたかったのかもしれない。もっとかっこよくなる気がしたんです。まあ、それはシンノスケとタイチに出会ったからそう思えたんですけど。
——二人は、どういう経緯でKING BROTHERSに加入したんでしょうか?
ケ : シンノスケは元々福岡で超能力を扱うバンドをやっていて(笑)、ツアーで知り合ったんです。それで、ある日いきなり僕に電話をかけてきて、「ケイゾウ君、何でもいいから俺をKING BROTHERSに入れてくれ」って。

——(笑)。
ケ : 「じゃあ、ベースなら空いてるよ」って言って、一度セッションしようと伝えて関西に呼んだんです。そしたら彼、関西に来た初日に全財産盗まれてしまって、今もそのまま西宮に残ってるんです(笑)。
——強烈な人ですね(笑)。タイチさんが加入したのはどういうきっかけで?
ケ : 元々、シンジに出会う前に彼には「キングに入らないか? 」と誘っていたんです。でも彼は「新卒で就職したいから」って断られたんです。それから暫くして会った時に「最近どうなの? 」って聞いたら「就職浪人してる」って、「じゃあ、入りなさい」と、正式加入させました。
——四人集まってすぐに今作の制作にとりかかりましたか?
ケ : 集まってから準備はずっとしていましたね。それでデモから作ってレコーディングが一年ぐらい。構想も含めると五年以上前になります。
——『THE FIRST RAYS OF THE NEW RISING SUN』と、KING BROTHERSにしては珍しく長いタイトル。なぜこの言葉を選んだのでしょうか?
ケ : 今までは『BLUES』『KING BROTHERS』『(No Title)』みたいに敢えてシンプルなタイトルや、無題にしたりしていたのだけど、今回のアルバムにはちゃんと作品を取りまとめる一つの言葉が必要だと思ったんです。で、ジミ・ヘンドリックスの本の中でこの言葉を見つけて「これだ! 」と。彼が死ぬ前に出そうとしていたアルバムのタイトルなんですけど、正式にはリリースされていないという事で使わせてもらいました。完璧なタイトルですね。
——今まではシンプルで良かったのが、なぜ今回は意味のあるタイトルが必要だと思ったのですか?
ケ : 四人で出す最初の作品なので宣言の意も込めて。あとやっぱり、曲、タイトル、ジャケットのイメージ、全部ひっくるめてひとつのテーマが成立していると思うんです。このジャケットや、盤面、歌詞の中にも、沢山のキーワードがたくさん入っている。
——テーマは先にありましたか?

ケ : 僕自身、テーマを持って曲を書けた事が無いんです。今回も何かを意識した訳ではなく、僕以外にマーヤやタイチが書いた曲もあるし、「ロマンチスト」ではand young...の加納良英君に歌詞をお願いしました。今回は色んな人が制作に関わっている作品だけど、いざ完成したものを聴いてみると一貫して一つの事だなとあらためて気付きました。
——「ロマンチスト」には正直、びっくりしました。今までのKING BROTHERSの作品には疾走感や衝動が中心にあった気がしたんですけど、これは曲の世界があって、ストーリーがあって、展開がある。掻き立てる曲というより聴かせる曲ですね。
ケ : 僕も、デモの段階で加納君に歌を入れてもらって初めて聴いた時にはゾクっとしました。この曲は、これからのKING BROTHERSにすごく関係がある曲だと思う。この曲が出来てからアルバムの方向性が見えてきて、どの曲を削るか、残すか、曲順もこの曲を聴かせる為に考えたり、制作のまとめに入っていけました。今回のアルバムのとても大切な曲ですね。
——他にも、今までのKING BROTHERSの傾向には珍しく、多くのミュージシャンがこのアルバムに関わっていますね。
ケ : 「楽園」ではエレクトーンでTUCKER君に入ってもらい、「×××××」では、昨年末のクリスマスに映画の「BLUES BROTHERS」のバンド編成でKING BROTHERSのライヴをやった時に手伝ってくれた大阪のマッカーサーアコンチやサントス君にホーンで参加してもらいました。
——エレクトーンもホーンも意外だったけど、しっくりきていますね。
ケ : TUCKER君は大好きで一緒にライヴもしていたので。今回は曲が出来てからの参加でしたが、次回は最初から一緒に作りたいですね。サントス君には、「なんかマイルスっぽい感じの…朝焼けか夕焼けが似合う感じで」と伝えて試しに吹いてもらった瞬間がこれなんです。これ、1テイク目なんですよ。本当に最高ですよね。
絶対根底に愛が無いとあかん
——マーヤさんが作詞作曲されている曲もあるんですよね。十年以上活動を続ける中で、今回が初めて?
マーヤ(以下、マ) : 初めてです。ようやく人にお見せできる曲が出来ました。
——それまでも曲は書いていたんですか?
マ : 書いてはいたんですけど、すごく断片的でした。構想だけ出来て、でもそれを自分で曲に昇華させる技術も無くて。歌って、歌詞があって歌じゃないですか。歌うならそれなりにメッセージも込めたかった。昔から、すごく歌いたかったんです。「こうありたい」っていう自分のビジョンの中に「歌を歌える人」っていうのは絶対に外せなかった。
——この曲「GET AWAY」で自分の理想のビジョンには近付けましたか?
マ : やっととっかかりが出来た感じですね。これからも影でこっそり練習します。
ケ : 次の作品にはもっとツイン・ボーカルの曲を増やそうというチャレンジがあって、このアルバムから展開してもっと面白い曲も増えると思いますね。マーヤの唄には俺と違って凄くスピードがあるんですよね。
——今回、アルバムとしては初参加のタイチさんも、早速作詞も作曲もされているんですね。
ケ : 「×××××」と「SLOW LIGHT」、「TFROTNRS」の歌詞がそうです。
——「TFROTNRS」って、『THE FIRST RAYS OF THE NEW RISING SUN』の頭文字ですよね? アルバムの中で何か特別な位置づけがあるんでしょうか?
ケ : レコーディングがほとんど終了したところで、このアルバムには何か味付けが必要だと思って、イントロ的なものとして考えた曲です。
——それが真ん中にあるのはなぜでしょう?
ケ : 段々形が変わってきて… 何となく、このアルバムにはレコードの様にA面B面がある気がしたんです。とはいえ、この曲でバチン! と切り替わる訳では無いし、A面B面で何かを分けている訳でもないんですけど。でもあの曲でシフトするのはアルバムを聴いてもらえば分かると思います。
——悪魔や牧師やお告げなど、歌詞の世界も他の曲と違って物語風で面白いですね。

ケ : 僕が映画の「BLUES BROTHERS」がすごく好きでバンド名もそこからとっているので、そこから来ているんじゃないかな。こんなすごい詩を書いてくれる人が入ってくれて本当にすごく嬉しいですね。
——KING BROTHERSの由来って「BLUES BROTHERS」なんですね! エンターテイメント性が強い映画だから、KING BROTHERSのクールなイメージから考えると意外ですね。
ケ : 僕もあの映画は単純に楽しいから好きなんですけど、あの時代に黒スーツで突如現れるブルースの使者という存在が、ヘンクツな自分の思想にどこかで影響していると思います。まあ、主な好きな理由としては、ただ単純におバカな所にあるんですけど、本当に最高の映画ですね。
——「BLUES BROTHERS」の映画の中には孤児院の子供たちを救うというテーマがありますが、KING BROTHERSのテーマは?
ケ : 何かを救いたいとは思って無いかな。でもロックし続ける事が自分の使命だとは思っています。僕はギターウルフのライブを見てこのバンドをはじめたんですね、だからKING BROTHERSに触れてその時の自分みたいに誰かが何かを思ってくれたらそれはとても嬉しい事ですよね、このアルバムが完成して、次に進むべき道ははっきりと見えてきたので、この作品は四人のスタートを象徴する物になりましたね。
——では最後に、KING BROTHERSに限らずギターウルフやTHEE MICHELLE GUN ELEPHANTなどのロックンロールの人たちって、よく「I LOVE YOU」を叫びますよね。その荒っぽい「LOVE」って、街中やテレビで耳にする「LOVE」とは意味合いが違うような気がするんです。ひねくれている様な、ストレートな様な。KING BROTHERSはなぜ「LOVE」を叫ぶんでしょうか?
マ : みんながどういうつもりで「LOVE」って言っているのかはわからんけど、多分行き着く先は一緒ですよ。一緒じゃないとおかしい。歌詞って怖いなあと思うのが、葛藤している事や自分の経験がそのまま反映されてしまう。僕に関して言えば、やっぱり「LOVE」ってテーマなんですよ。何かやるにあたって絶対根底に愛が無いとあかんなって思うんです。それだけはわかってるんですけど、愛が何なのか俺にはまだわかってなくて、それを知らないと人に何かを伝える事は出来んなあと、今、壁にぶち当たっている所です。
——今回のアルバムの中では、「GET AWAY」と「L.O.V.E」に「LOVE」が出てきますね。
マ : 「GET AWAY」の中の「I LOVE YOU」は、ライヴでは中指立てながら歌ってるんです。やっぱりなかなか恥ずかしくて受け入れてあげれないんですよ。心のどこかで愛について歌っている自分が許せなくて。だからライヴでもその部分だけ客にマイク向けるんですけど、簡単な言葉やからみんなが僕の代わりに「I LOVE YOU」って叫んでくれて、「あーようわからんけど伝わってんなあ」と思います。「L.O.V.E」の中でも、途中で「HATE」って叫ぶのは、何かやっぱり気持ち悪いっていうのもあるんですよ。けど、生活の中には好きな女が居るし、結婚したいし子供も欲しいと思う。親兄弟も友達も、人と人とのつながりの中で愛は切っても切れないものやから、気持ち悪いけど向き合い続けるしかないテーマなんだと思います。今はまだ中指立てながら気持ち悪がりながらでしか言えないけど、いつか中指立てず言える日が来るようにしたいです。
——これからの事は何か考えていますか?
ケ : もうイキまくりますよ。つまらないバンドが多いですしね、容赦なく全員潰して行きます。それがキングブラザーズの使命なので。どうか応援よろしくお願いします。
LIVE SCHEDULE
- 4/23(金)@静岡 SUNASH
- 4/24(土)@宇都宮 KENT
- 4/28(水)@神戸 マージービート
- 4/29(木)@大阪 堺FUZ
- 5/8(土)@和歌山 GATE
- 5/22(土)@山形 新庄VICTROLL CAFE
KING BROTHERS『THE FIRST RAYS OF THE NEW RISING SUN』発売記念スペシャル・ワンマン・ライブ!!
- 6/6(日)@渋谷 CLUB QUATTRO
- 6/12(土)@心斎橋 CLUB QUATTRO
PROFILE
兵庫県西宮にて1998年に結成の暴走爆裂ハードコア・ブルースな変態ガレージ・パンク・バンド。全曲日本語による1stアルバムがアメリカのインディーからリリースされるなど当時から話題に。99年のアルバム、通称:星盤では当時「東のミッシェル、西のキング」などとの異名を取る。その後東芝EMIに移籍しジョン・スペンサー・プロデュースのアルバムなども発表、過去数回の全米ツアーや巨大フェスにも連続参戦、ホワイト・ストライプス、ストロークス、ブルース・エクスプロージョン、ボスホッグ、ウィルコ・ジョンソン、ライトニング・ボルトやオブリビアンズ等のツアー・サポートなども行い、近年はベース・レス・スタイルを捨て新たな編成で旅をはじめた新生キング・ブラザーズが遂に約6年振りのNEW ALBUMをリリースする!! タイトルは『THE FIRST RAYS OF THE NEW RISING SUN/太陽が昇る時に届く最初の閃光』(かつてジミ・ヘンドリックスが生前完成させられなかった幻のアルバムと同名)。爆音と静寂が同居する過去最大のスケールで鳴り響く巨大なキラー・ブルースがいよいよ投下される!! 全てのキッズ達よ、怒れる大人達よこれが本物のロックンロール、本物のパンク・ロック、本物のブルースだ!!! 全13曲、圧倒的なスケールで鳴り響く超大作、さぁブルースでズタズタに殺されろ!!!!
衝動でズタズタに!
P・T・A!〜Pistols Tribute Anthem〜 / V.A.
シド・ヴィシャス没後30年記念でリリースされた、ピストルズ・トリビュート・アルバム。30年前、イギリスのちっぽけなレコード会社Virgin Recordsから出た「勝手にしやがれ!!」は20世紀を代表する名盤となった。そして今、日本のP-Vine Recordsから、ありそうでなかった日本人アーティストによる本格的ピストルズ・トリビュート・カバー・アルバムがカリスマ詩人・三代目魚武濱田成夫、初のプロデュースによって誕生!
ボーイズ・オン・ザ・ラン / 銀杏BOYZ
前作「17才」(オリコン初登場7位)から、約1年振りのリリース。映画「ボーイズ・オン・ザ・ラン」の主題歌として起用されている表題曲「ボーイズ・オン・ザ・ラン」は峯田、チン中村、安孫子、村井のメンバー4人によるむさ苦しいぐらいにストレートな感情が直球勝負で奏でられ、銀杏BOYZならではの中毒性の高い楽曲に仕上がっている。一方2曲目に収録されている「べろちゅー」は唯一無二な峯田の詩世界と、どこか懐かしくも優しいメロディー、そして残酷なまでに生々しい歌声と演奏がドラマチックに紡がれた楽曲だ。ライブ中に骨折、流血、公然猥褻行為が起きるような過剰すぎるバンドのイメージからは想像できないような、万人の心の琴線を震わせる美しいバラードが完成した。
友だちを殺してまで。 / 神聖かまってちゃん
2008年頃から活動開始。Vo.の子による2chでの自作自演の大暴れに端を発するインターネット上での活動が、PeerCastやニコニコ生放送での活動と相まって話題となり、YouTubeにアップしたデモ曲が2万ヒット以上を記録。各方面から大絶賛される。本作は待望のデビュー作。初期衝動に満ちた「ロックンンロールは鳴り止まないっ」をはじめ、生きづらい現代を生きる全ての人々へのメッセージが、多くの人の心を強烈に揺さぶり続けている。