2015/12/06 12:00
冷たい雨が降る12月2日、代官山ループで行われたRie fuのワンマンライヴ〈Rie fu Daikanyama Piano Live vol.2〉。“旅”をテーマにして描き出された『fu diary2』の総まとめともなる1夜である。開演の30分前に会場に着いたが、冬の雨も気にならないという様子で、約5ヶ月ぶりとなる彼女の日本でのライヴを心待ちにしたファンが、すでに列を成していた。そして開演時間となると観客席はほぼ満席。静かに彼女の登場を待つファンの愛情で空間は温まった。
異国感のあるピンク色のドレスに身を包んで、Rie fuが登場し、スクリーンには彼女のペインティングや映像が映し出された。力強さ、優しさ、温かさ。前向きな感情を全て包み込んだシングル曲で前半は構成され、後半は新アルバムから旅を記録した楽曲が続いた。
Rie fuは自己表現に長けた人間である。自分が内に宿した感情を的確に表現する術を数多く知っている。歌手として、画家として、文筆家として、感情を見事に表出させる。そしてもちろん彼女がもつ才能は、パフォーマーとしても類稀ない。ステージに立った瞬間から聴衆を惹きつけ、伸びやかなその声とピアノの音色だけで空間を彩っていく。
感じ、宿し、また新たな形で生み出すというその一連の流れから分かることは、彼女の作る作品はどれも“その時しかいない”彼女自身を素直に映し出す鏡であるということだ。だからこそより一層、旅の記録をその場で録音し『fu diary 2』に収められた楽曲たちが保つ鮮度は高い。そして1曲1曲に込められた感情は、パフォーマンスとなると生身の彼女というフィルターを通してさらに強化され、その場にいる誰もがRie fuとともに旅したような感覚に陥る。観客は同じ空間にいながらも、NYのストリートの薄暗さも、バリでの神々に見守られて背筋が伸びるような緊張感も追体験することになる。
ライヴの最後を飾った「Life is like a Boat」は彼女にアーティストとしての道を開いた、初期の楽曲である。この曲がアニメのテーマに起用され、そのアニメととも世界を渡り、彼女と世界を繋げた。ぼやけた未来の輪郭とそれにつきまとう不安感、そして何者か分からない私自身。しかし、この焦りと不安をなだめ、前向きに進んでいきたいという切なる自分自身への祈りが込められた、若き日のRie fu自身を表すつぼみのような歌である。そしてその祈りは国境を越えて、聴く人の心と共鳴した。使う言語や生きる環境という差異を超えて、彼女は全てのファンとともに、とても純化された“あなたとわたし”という関係を築き上げた。世界を巡ってライヴを行ってきたことで彼女が肌で感じたであろうファンの愛情は、全て彼女の中に染み渡り、表現をより深化させる糧となっている。
歌が海を渡り、アーティストとしての生活、会社の設立、結婚と数多くの波を乗り越えて、今、凪いだ心持ちで選ばれた楽曲たちは、今の彼女の幸福に後押しされてどれも力強く、そして優しく響いて、観客の心を洗った。
「2015年は10カ国以上を巡った、旅の年なんです」
ライヴの冒頭でそう語ったが、奇しくも「Life is like a Boat」を書いたその時から、彼女は自分の人生そのものが長い旅だと知っていた。そして、この1夜はこれからも続いていくその旅の、ほんの通過点でしかない。しかしその通過点は、彼女がこれまでの織り成してきた旅とそこで出会った人々というそれぞれの要素が1つでも欠けていたらたどりつくことができなかった特別な、彼女だけが立つ場所である。この作品と1夜を境に、また新たな周期へと漕ぎ出す彼女の門出をそっと祝うような、そんな温もりに満ちたライヴとなった。(稲田真央子)
〈Rie fu Daikanyama Piano Live vol.2〉
2015年12月2日(水) 代官山LOOP
・Set list
01. Closer
02. 2cm
03. 5000マイル
04. Until I Say
05. For You
06. decay
07. あなたがここにいる理由
08. ツキアカリ
09. New York
10. Vietnam Song
11. Singapore
12. Present
13. Winter Love Song
14. Romantic
15. Life is Like a Boat
En
01. One Bite
02. Dreamer(新曲)
・Rie fu オフィシャルサイトはこちら
http://riefu.com/
・『fu diary2』についてはこちら
http://ototoy.jp/feature/20150401
・Rie fuの音源はOTOTOYでも配信中
http://ototoy.jp/_/default/a/47877