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2021/05/06 14:15

 

ドミコ、四方を観客で囲んだフロアライブ「Floor Live 『360°』」レポート公開

 

ここはどこなんだろう? もしや別の世界? 意識が遠のきそうになり、フッと我に返る。日常の何もかもから遊離し、自分の存在自体がうやむやになってしまう感覚。とにかく、ものすごい空間だった。

5月1日の土曜日、ドミコが行った「Floor Live『360°』」。会場の横浜ベイホールでは、いつもは観客がライブを観るフロアのど真ん中にステージが造られていた。それを取り囲むようにイスが設営され、イスは通常、ステージになるところにも並べられている。この日は2回公演が組まれており、僕が観たのはその第一部である。

場内が暗転すると、まず長谷川啓太(Dr.)が現れ、ドラムセットの位置につく。次に、さかしたひかる(Vo./Gt.)が登場し、アンプを背にした場所に立つ。2人はなんと完全に真向かいになるポジショニングで、その周囲をオーディエンスがぐるりと覆っている状態。ひかるがギターを鳴らし、それをフィードバックさせた音がふくらんでいく。そこに長谷川がリズムを刻み、音が動いていく。ギターのノイズがループによって反響し、そこにまた次の音が重ねられ……ここで1曲目の「まどろまない」のギターが放たれた。

反復されるドラミング、巨大な塊となったギターの音色の数々。ひかるの歌声がそこに溶けていく。空間は爆音に包まれていった。さらにパンキッシュな「びりびりしびれる」、やはりギターリフが強烈な「噛むほど苦い」と昨年のアルバム『VOO DOO?』からの曲が続く。ブルースロック? というか、ハードロック? いや、どちらとも違うが、ともかくギターの音色がすさまじい。さらに長谷川のドラミングが「問題発生です」へと導く。するとギターが、そしてひかるの声が、こちらをまた別の場所へと誘導する。ライティングはダークに、ディープに、この空間を色付けしていっている。

そして……ここからの「マカロニグラタン」、そして「My Body is Dead」の連射は壮絶だった。サイケデリックであり、またジャムセッション的でもあるサウンドの洪水は絶え間ない。それは何かの実験室のようでもあり、あるいは突然変異で生まれたひとつの宇宙のようでさえあった。音の数々は渦となり、あるいはまるで星雲のようにさえなって、フロアの中を巡っている。何しろこちらは2人と同じ高さにいて、その交信の間近で、膨張したり収縮したりする音を共有しているのだ。立ってノッている客も、座って浸りきっている客もいる。あの時オーディエンスは2人が出す轟音の中に完全に取り込まれ、まったく違う世界に連れて行かれたかのような感覚になっていたはずである。

「サンキュー、ドミコです。よろしく」

少し明るくなって拍手があり、やっと気を取り戻した。そうだ、ここは横浜のライブハウスだった……と思ったとたん、今度は「なんていうか」のフレーズが鳴らされる。話題の映画『ゾッキ』に提供された、メロディアスな楽曲だ。そしてここからは、先ほどまでの流れとまた別の世界をたどるような音が創出されていった。トロピカルな音色、ラップのような歌。ミラーボールが回った「WHAT’S UP SUMMER」はドリーム・ポップと呼んでもハマりそうな、しかしそれ以上の異様な恍惚感があった。

最後のブロックは「おばけ」に続いて「化けよ」、そして「ペーパーロールスター」だった。驀進していくラウドな音像の中で、ひかると長谷川は、向かい合っているのにアイコンタクトすら取らない。あくまで音で、呼吸で演奏している。その関係性は素晴らしいと思った。そうして出来上がるライブは、何もかもから解き放たれた場所だった。

アンコールで再登場した長谷川は「こうなってる(=客席が360°で作られてる)と、落ち着かないですね(笑)……どうもありがとうございます」と言った。そしてまず唄われたのは「ヘイ・ヘイ、マイ・マイ」だった。今までも演奏されてきたニール・ヤングの曲で、ひかるが唄う<ロックンロールはここにある>というフレーズは毎回心に迫るが、この時、その破壊力はことさらに強く感じた。世の中にロック・バンドはたくさんいるし、ロックへの、音楽への情熱を語るミュージシャンは無数にいる。しかしロックに対して格別どうこう語ることがないドミコがここまで圧倒的なライブをやって、その中でこの言葉をサラッと唄うことがものすごくパンクだと思ったのだ。いや、僕自身、ドミコがロックンロールだとも、あるいはパンクだとも、断定しようなんて気は全然ないのだが。

ライブは「こんなのおかしくない?」で幕を降ろした。頭を下げ、客の間を縫って去っていく2人。つい笑顔になってしまう。快感。ア然、ボー然。今やドミコのライブは生き物。そしてドミコというバンドは化け物になりつつある。そう感じた1時間強だった。

なお、彼らはこの数時間後に第二部を敢行し、そこではまったく異なるセットリストと構成でのライブを行っている。それに加えて、今回は照明、音響を含めた演出全般のスタッフの総合力が高いライブだったことも強調しておきたい。この数年、ドミコのパフォーマンス力が向上しているのは明らかだが、それに伴ってスタッフワークも素晴らしいものになっている。

そんなドミコの至福の音世界は、7月に予定されている東名阪を廻るツアーでも体験できるはずである。

オフィシャルライブレポート:青木 優
カメラマンクレジット:西槇太一

【ライブクレジット】
2021年5月1日(土) 「Floor Live 『360°』」yokohama Bay Hall
[part1] OPEN 15:00 / START 15:30
1.まどろまない
2.びりびりしびれる
3.噛むほど苦い
4.問題発生です
5.マカロニグラタン
6.My Body is Dead
7.なんていうか
8.くじらの巣
9.ロースト・ビーチ・ベイベー
10.WHAT’S UP SUMMER
11.おばけ
12.化けよ
13.ペーパーロールスター
EN1.深海旅行にて
EN2.こんなのおかしくない?

[part2] OPEN 18:30 / START 19:00
1.united pancake
2.ペーパーロールスター
3.なんていうか
4.地球外生命体みたいなのに乗って
5.噛むほど苦い
6.問題発生です
7.くじらの巣
8.ロースト・ビーチ・ベイベー
9.さなぎのそと
10.おばけ
11.化けよ
12.びりびりしびれる
13.まどろまない
EN1.WHAT'S UP SUMMER
EN2.こんなのおかしくない?

【NEW!】
「猿犬蛙馬周遊Tour」
2021年7月15日(木)名古屋BOTTOM LINE OPEN 18:15 / START 19:00
2021年7月16日(金)大阪BIG CAT OPEN 18:15 / START 19:00
2021年7月21日(水)渋谷TSUTAYA O-EAST OPEN 18:00 / START 19:00

2021年5月15日(土)「RUSH BALL☆R」大阪城音楽堂 OPEN 11:00 / START 11:45

2021年5月22日(土)「BAYCAMP2021 "DOORS"」新木場USEN STUDIO COAST OPEN 11:00 / START 12:00

2021年6月7日(月)「One on One」1000CLUB
出演:teto / ドミコ OPEN 17:30 / START 18:15

2021年6月9日(水)「BiSH’S 5G are MAKiNG LOVE TOUR」Zepp Fukuoka
出演:BiSH / ドミコ OPEN 17:30 / START 18:30

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