大西順子、待望の8年ぶりのレギュラー・トリオと、初のバラッド集をリリース──先行ハイレゾ配信
2度の活動休止(2012年には引退宣言も)からの復活を遂げ、昨年は菊地成孔プロデュースによるニュー・アルバム「Tea Times」をリリース「Tea Times」をリリースするなど、ここにきてまた活動を活発化させているジャズ・ピアニスト、大西順子。そんな活動の勢いを象徴するように2枚のアルバムを同時にリリースする。まずはファン待望、8年ぶりとなる待望のピアノ・トリオ・アルバム『Glamorous Life』、そして彼女が10年以上、そのアイディアを温め続けてきたという初のバラッド集『Very Special』の2枚だ。OTOTOYではこの2作を、11月15日のCDリリースを前に、24bit/96kHzのハイレゾ音源データにて、先行配信開始いたします。さらには本作を巡るインタヴュー敢行。『Jazz The New Chapter』監修のジャズ評論家、柳樂光隆によるインタヴューを掲載いたします。また次週には同インタヴューの後編として、往年の名ジャズ・ピアニストに関して、柳樂が大西に問う特別企画も掲載予定です。そちらもお楽しみに!
大西順子がさまざまなジャズ・ピアニストの魅力を語たった後半はこちら
8年ぶりとなる待望のレギュラー・トリオ作品
大西順子トリオ / Glamorous Life(24bit/96kHz)
【Track List】
01. Essential
作曲 : 大西順子
02. Golden Boys
作曲 : 大西順子(モントルーLIVE盤『Play Piano Play』より再演)
03. A Love Song (a.k.a Kutoubia)
作曲 : 大西順子
04. Arabesque
作曲 : 大西順子
05. Tiger Rag
作曲 : Nick LaRocca, Eddie Edwards, Henry Ragas, Tony Sbarbaro,Larry Shields / 1917年にODLJが録音。ジャズ誕生100周年。
06. Almost Like Me
作曲:Hasaan Ibn Ali(ハサーン)
07. Hot Ginger Apple Pie
作曲 : 大西順子
08. Fast City
作曲 : Joe Zawinul(ウェザーリポート)
09. 7/29/04 The Day Of (from "Oceans 12")
作曲 : David Holmes
【配信形態 / 価格】
24bit/96kHz WAV / ALAC / FLAC
AAC
単曲 324円(税込) / アルバムまとめ購入 2,700円(税込)
パーソネル
大西順子(piano)、井上陽介(bass)、高橋信之介(drums)
10年以上も前から温め続けたという、ホセ・ジェイムスも参加の初のバラッド集
大西順子 / Very Special (24bit/96kHz)
【Track List】
01. Very Special~Intro~ feat. 高橋信之介
作曲 : 大西順子
02. I Cover The Water Front feat. 馬場孝喜
作曲:Johnny Green
03. Lush Life feat. ホセ・ジェイムス
作曲:Billy Strayhorn
04. Easy To Love feat. 馬場孝喜
作曲:Cole Porter
05. 舟歌(ピアノ曲集『四季』第6曲より)feat. 大西順子(Rhodes)
作曲:Pyotr Ilyich Tchaikovsky
06. 柳の歌(オペラ『柳の歌』第4幕より)feat.森卓也, 佐藤芳恵
作曲:Giuseppe Verdi 編曲:狭間美帆
07. Começar De Novo (The Island) feat. 馬場孝喜
作曲:Ivan Lins
08. A Flower Is A Lovesome Thing feat. ホセ・ジェイムス
作曲:Billy Strayhorn
09. How Do You Keep The Music Playing feat. 馬場孝喜
作曲:Michel Legrand
10. After The Love Has Gone feat. 馬場孝喜
作曲:David Foster, Jay Graydon, Bill Champlin
11. Very Special~Outro~ feat. 井上陽介
作曲 : 大西順子
【配信形態 / 価格】
24bit/96kHz WAV / ALAC / FLAC
AAC
単曲 324円(税込) / アルバムまとめ購入 2,700円(税込)
03「Lush Life」、08「A Flower Is A Lovesome Thing」は単曲購入不可、アルバムまとめ購入のみダウンロード可能。
パーソネル
大西順子(piano, rhodes on 5,9)、馬場孝喜(guitar on 2,4,7,9,10)、ホセ・ジェイムス(vocal on 3,8)、狭間美帆(arrangement, conduct on 6)、森卓也(clarinet on 6)、佐藤芳恵(bass clarinet on 6)、高橋信之介(cymbal on 1)、井上陽介(bass on 11)
INTERVIEW : 大西順子
2016年にリリースされた『Tea Time』も大きな話題になった大西順子がインターバルを空けずに新作をリリースする。しかも、久々のピアノ・トリオでのレコーディングになる『Glamorous』と、挾間美帆、馬場孝喜に加え、ホセ・ジェイムスまでもがクレジットされているバラード集の『Very Special』の2枚同時リリース。自身が過去に書いた曲を再演したり、クラシックやブラジル音楽に取り組んだり、彼女らしいやり方で現在のジャズシーンの流儀を取り入れたりもしている。その中でも、大西順子は今年で初録音から100年を迎える「ジャズ」という音楽の歴史にも向き合っている。ジャズ・ピアニストとしての大西順子の多面的な魅力が表現された2枚のアルバムの話をしていると、そこからも彼女が考えるジャズピアノ観が滲み出てくる。後編では大西順子によるジャズピアノ講座的な流れにも。とりあえず、アルバムのことをじっくり語った前編からどうぞ。
インタヴュー & 文 : 柳樂光隆
大西順子がはじめて挑むスペシャルなバラード集
──2枚同時に出そうと思ったのは?
本当はずっとバラード集を作りたいなと思ってたんです。ただし、これまで散々欠席を繰り替えした学生というか、それで挙句の果てに「自力で作るのがバラード集を作る」だと許されないという感じで(笑)。レーベルからは「せっかく『WOW』でのデビューから25周年だしピアノ・トリオもやってくれ」と言われてしまいまして。「あれ、そうだったっけ」ってことでこうなりました(笑)。
──バラード集みたいなものははじめてですよね?
はじめてですね。
──そもそも大西さんの作品にギターが入っているのが意外ですよね。
いままで、レコーディング作品でリリースされたものとしてはあまりありませんね。ライヴでは、ジョンスコ(ジョン・スコフィールド)とかいろんな人とやっていたんですけど。日本でのレコーディング作品でも、ギターと共演したこともないですし。いまどういう若いギタリストの人がいるというような部分の知識もないし。でも漠然とギターをやりたいイメージいうのはあって。もともとジョー・パスとエラ・フィッツジェラルドのデュオとか、ビル・エヴァンスとジム・ホールの『アンダーカレント』とかすごい好きだったんで。
──ギターが馬場(孝喜)さんになったのはどういった経緯ですか?
みんなに聞いたら「馬場さん」ってみんなが答えて。そんなに訊いた人、全員の答えが一致するなんてことはいままでないから、間違いないだろうと。
──ジョー・パスとか『アンダーカレント』の名前を聞くと、馬場さんとやるのは納得できますし、サウンドもそんな感じがありますね。
そうですよね。
──とはいえ、大西さんが選ぶのであればもっとブルージーだったり、ソウルフルだったりする人だと思っていたので、逆に馬場さんみたいタイプがはまっているのがびっくりしましたよ。しかも、選曲に関して、クラシックもありますし、イヴァン・リンスとかアース・ウィンド・アンド・ファイアーとか。
アースは馬場さんが持ち込んでくれた楽曲ですね。
──イヴァン・リンスも意外ですね。
そうですか? この「Começar De Novo (The Island)」はものすごい名曲ですよね。大好きなんですよ。
──以前からやっていた曲目なんですか?
今回がほぼはじめてですね。この楽曲をギターと一緒にやろうと思って持ち込んだわけでもなく、個人的にすごく好きな楽曲なんです。今回、なにかしらの形でやれないかなと思って、馬場さんと相談したら「やりましょう」と言われて。
──この曲はどういうところが好きなんですか?
特にイヴァン・リンスのファンというわけではないのですが、もうこの曲だけがすごく好きです。この曲はコード進行がまず好きですね。あとは歌詞の内容。英語だと別の英詞がついて「The Island」という曲になっていて、そっちはストレートなラヴ・ソングで「どうでもいいや」って感じなんですけど、こっちの原曲の歌詞は、あるときに知って、すごく私なりに響くものがすごくあったんです。
──なるほど。あと、クラシックの楽曲が2曲ありますね。例えばチャイコフスキー「舟歌 (ピアノ曲集『四季』第6曲より)」。
それはなんとなく遊んでみた感じですね。実はチャイコフスキーが嫌いなんですよ(笑)。やたら派手なピアノがあるような“ロシアもの”が嫌いで。ロシア民謡からロシアのクラシックとか、日本は戦後のピアノ教育みたいなところで育った人間としては、ものすごいロシアのメロディって馴染みがあるんですよ。泣かせの感じとか、それをあえてオルゴールっぽくしてぶち壊してみたくなって。あんまりぶち壊すと怒られるので、そっとぶち壊したっていう感じですかね(笑)。
──あはは。実は、以前、坂本龍一さんにインタヴューしたときに、彼もとにかくチャイコフスキーが好きじゃないって言ってて(笑)。
「なんでそこまでしなきゃいけないの?」っていう感覚がとにかくあって、言ってみれば「バターの上にバターを重ねる」っていう。私はそのあたりがすごく苦手で。他だとラフマニノフとか。でも日本では人気で、特にフィギュア・スケートでテーマ曲に選ばれたりとか、なにかしら一般的に日本人の感情に訴えかけてくるものを持っているんだと思うんですけどね。それをあえてやってるんだけど、ちょっと遊んでみたっていう感じで。
──今回のはべったりした感じになってないですよね。
「子供がちょっとオルゴールを回している」みたいなイメージですね。
──「柳の歌(オペラ『柳の歌』第4幕より)」はどうですか?
オペラは全然詳しくないんですけど、これは単純にたまたまN響でオペラのその部分をやっているのをみて素直に感動して、それでCDを探して買って、いつかやってみたいなと思っていた曲です。古典オペラの筋書きって、だいたい「ポーギーとベス」の感じを、もっと濃くてドラマティックにした感じなんですけど。ビル・エバンスの「ポギーとベス」の「I Love You Porgy」の名演が好きで、私なりのマテリアルを探していて、そんな時この曲を聴いてそれになり得ないかと思いつきやってみたかった。それがひとつ。あとは冒頭でバス・クラリネットが五度で響くんですけど、その楽曲をはじめて聴いたとき、ちょうどエリック・ドルフィーを聴きまくってたころで「バスクラって本当は綺麗だったんだ」っていうことに気づいたときで、私もいつかやってみたいと思っていて。バスクラで綺麗にやりたかったんですよね。
──これは挾間美帆が編曲をしていますが、これはどういう風にリクエストをしたんですか?
まずはバスクラというのがあって、さらに彼女には「ビル・エヴェンスが“I Love You, Porgy”をやるような感じで、私なりのマテリアルを見つけたい」っていうのを伝えて。そうしたらすぐに理解してくれて。あとは彼女は木管楽器のアレンジが好きらしいんですよ。美帆ちゃんとはこの前も(セロニアス)モンクの楽曲をやったんですけど(7月9日に開催された〈挾間美帆 plus 十 featuring 大西順子 Thelonious Monk Centennial!〉)。あのときの「Ruby my dear」もすごいクラリネットのアレンジだったので、この曲のアレンジは適任だなと思ってお願いしたんですよ。そうしたら一生懸命今回も歌詞から調べてやってもらって。
──挾間美帆とのコラボレーションは2回目ですよね。
前に菊地さんとやった『Tea Times』のときは、彼女とはまったく顔も合わさずで進行をして。譜面が送られてきて、トリオの音源を先に録ってそのあとで管楽器を入れたんですけど。そのとき彼女はニューヨークだったんで、管をレコーディングするときにだけ菊地さんと美帆ちゃんがスカイプでやりとりしてレコーディングしたみたいですね。私はそこにも立ち会ってないので、会ってないんですよ。だから、その編成でライヴをやったときにはじめて会ったという感じですね。
──一緒に作ったのははじめてっていう感覚というか。
そうですね。
──あと、いきなりホセ・ジェームスの声が聴こえてきて、びっくりしたんですけど。
前に「Baroque」ってアルバムを出したときに、NYでライヴをやったんですね。それをホセが観にきてくれて。私は若い世代のことを全然知らなくて。ショーが終わって、感動したって言ってくれている若い子がいるなっていう感じだったんですよ(笑)。それがホセだったんですよね。当時、ホセの契約がたしかユニバーサルで、当時の私も〈Verve〉でそういった縁があったんで「なにかやりたいね」という話をしてたんですよ。で、ホセがマッコイ・タイナーと一緒に日本に来た時に(2011年1月の公演)、そのときにサッとスタジオでレコーディングした2曲なんですよ。それはずっとお蔵入りしていて。どういう経緯でこの2曲を録音したのか、何目的だったのかまったく不明なんですけど。
──へー、蔵出しなんですね。ちなみにホセの歌はどうでしたか?
単純に「いまきてる若い子だよ、ラップもやるんだよ」ってスタッフに紹介されて。「Lush Life」で2テイクぐらいとったんですけど。ホセがボソっと「これ最初の部分が早口で大変なんだよね」って言って、「あんたラッパーでしょ?」っておもわず言ってしまったのを覚えてますね(笑)。
──ホセのマテリアル以外は全部新曲なんですか?
そう、この間、まとめて録ったやつ。
──でも、ホセのも7年ぐらい前っていう感じもしませんね。
これは、どれも古いスタイルというか、馴染むというか。でもちょっとサウンドの処理はしてもらいました。個人的には7年前の音源を聴くと、自分のピアノがちょっと若いなっていう感じして。
──このころってどのくらいのタイミングですか?
『Baroque』作った直後って感じかな。
8年ぶりとなる待望のピアノ・トリオ作
──ちなみにその後で引退宣言をされましたけど、休んだ後と前では変わったところってなんですか?
体力は確実に衰えてますね(笑)。
──演奏の回数が減ったから?
いや、単純に歳をとったからだと思いますよ(笑)。
──他は変わってないですか?
今回みたいに、バラード集をやろうというような心境になったり。演奏内容とかも変わっているとは思う。昔のフレーズとか弾かなくなりましたね。
──その頃って演奏活動を完全に休んでたんですよね。
ピアノって調律とか防音とか、維持にもお金がかかるので、オークションをやって完全に手放しましたから。
──でも、ピアノを教えたりはされてたんですよね? 僕の友達が大西さんのレッスン受けてたんですよ。壺阪くんっていうんですけど。
あ、健登ね、あの子はバークリーいきましたよ。そうです、何人かバークリーに出しましたよ。教えるのはポツポツなんですけど、リクエストがあればやっています。壺阪くんは10代で伸び盛りでしたね。昔自分がやっていた練習方法を教えてましたね。でも長らく自分ではやってない練習方法なんですよ。そうなると「あ、やらなきゃ」って思うことがあったり(笑)。
──なるほど。
ある程度教えて「インプロしてみなさい」って言ってやらせたら、結構おもしろことやってて「あ、これいただき」とかね(笑)。
──休んでいた間にも小さな変化があって、それが演奏に出てるかもですね。ちなみに『Very Special』を聴いて思ったのは「大西さんって伴奏もしたい人なんだな」ってことで。
そうですよ。もともと私ってサイドマン出身だから、アメリカ時代にだいぶそこでしごかれたので。それこそ、上の世代がまだバリバリやってて、本当にいろんな種類のバンドがあって。
──ジョー・ヘンダーソンとかですか?
あとはベティー・カーターとか、今回も何曲か彼女のマテリアルも入ってますよ。あとは(ジャック・ディジョネット)スペシャル・エディション、ジャッキー・マクリーンとかもやりましたしね。そういういわゆるオーソドックスな方と、当時M-BASEという一派がいて、スティーヴ・コールマンとかゲイリー・トーマスとかね。その周辺ともバンドをやってたんで楽しかったですよ。曲にしても、自分がみたことのないいろんなアイディアをもらえるじゃないですか? 当時の経験はいまだにためになってますよ。いまだにサイドマンやるのが恋しくなることがありますね。
──でも、日本に帰ってきてからはサイドマンはないですよね。
そう、ないんですよ。まったくないですね。ツアーを重ねてバンドとしてやったというわけではないので、それはちょっといま寂しいですね。
──「Baroque」とかその前の「Musical Moments」とか、ああいうのを聴くとスペシャル・エディションとかM-BASEとかとやられている感じというのがすごくわかります。でも、それって伴奏っていうよりも、作曲の一部みたいな部分があると思うんですよ。ただ、ジョー・ヘンダーソンとかジャッキー・マクリーンとかと一緒にってなると、思いっきり伴奏ですよね。
そうですね。そういうときはよりバッキングが大事になってくるので。当時、すごい求められてたのがバド・パウエルとハービー・ハンコックですね。コンピングってことに関してピアニストに求められていたものはその二人でした。そこは勉強させられましたね。当時のサイドマンの売れっ子っていうことでいうと故マルグリュー・ミラーなんですよね。その辺のことをきっちり勉強している人だからなんですよね。いま一番レッスン受けたいのがマルグリュー・ミラーですよ。亡くなっちゃいましたけど。
──このアルバムだと馬場さんのギターがメインのところも多いですよね。 だからすごい伴奏的にやっているのかなと思って聴いてました。
今回、特にバラード集に関してはメロディを弾きたいっていうのがあって。だから、このアルバムではまずはテーマを弾いたら馬場さんに振るとか、そういうのが結構ありましたね。
大西順子がはじめて挑むスペシャルなバラード集
──対してピアノ・トリオの『GLAMOROUS LIFE』はゴリゴリという感じがしましたが。
いや〜、いままでのトリオ作のなかでは結構抑え…… 抑えつけられましたよ(レーベルのディレクターを見つつ)。「いまはメロディやバンド・サウンドも大事なんじゃ」とか言われながら(笑)。
──いやいや、前半はわりとそういう感じがあって例えば、「Tiger Rag」はゴリゴリでしたよね。
そう、そっちは昔からのイメージも大事にする枠っていうかね。
──「Tiger Rag」って100年前に録音されたオリジナル・ディキシーランド・ジャズ・バンドの曲ですよね。つまり、ジャズ誕生100年もテーマに入っているとか?
それは最近たまたま知ったんですよ。私がいった頃のバークリーって「アメリカン・ピアノ教育」って感じのもの、たとえば、ファッツ・ウォーラーとかを結構、授業のなかでやらせる先生がまだいたんですよ。で、最近、その当時やらされたのを思い出してやったら、ライヴでお客さんに受けたんですよ(笑)。そしたらたまたまジャズ生誕100周年の1曲目だったっていう、こりゃいいわってことで採用して。
──へー。いま、ファッツ・ウォーラーの名前が出ましたけど、当時ストライド・ピアノとかって結構練習したんですか?
やっぱりバークリー行った最初の1年とか2年はやらされるんですね、私の時代は。その後、モダン・ジャズの方にいっちゃうと、ほとんどやらなくなるんで、もっぱら右手ばかりになってしまうんですよ。昔、クラーク・テリーに「左をもっと使え」って言われたんですけど、そういうのをふと思い出して、たまにストライド・ピアノも練習するんです。
──いわゆるビパップの感じじゃなくて、もっと前の時代の感覚っていうのは大西さんにはずっとありますよね。左手が強い印象があります。
ああ、ピアニストっていうかアメリカって左利きが多いんですよ。身体も大きいし、手も大きいし、その辺もあって左手の使い方が上手い人が多いんですよね。それにずっと憧れてて、意識して左手を使ってたんですけど。あとはサイドマン時代に求められてきてたのは、ハービー(ハンコック)的なわりとクローズドなところで「ここから(上の)高音を弾く」ていう感じがあったりしたんですね。ロン・カーターには「(ピアノで)下(低音)を弾くな!」って言われたりして。若干、そういうストレスもあって自分のリーダー作では低音使いを意識してやったら、そういうゴリゴリの、とか左手がっていうイメージがついたっていうところがありますね。
──で、次の曲は、ハサーン・イブ・アリの「Almost Like Me」。マックス・ローチのアルバムの『The Max Roach Trio Featuring The Legendary Hasaan』の人ですね。
このカリーム・リギンスってドラマーが、「この『ハサーン』知ってるか? かっこいいぞ」って言ってて「たしかに、むっちゃスウィングしてるな」ってなって。そのアルバムのなかでなんとなくすぐにできそうな曲だなって思った曲をやったら受けたので、そのままやってみました。
──これこそ大西さんっぽいイメージだなと。
みんなそう言いますね。
──かと思えば、「Fast City 」はウェザー・リポートのカヴァーですね。
バークリーいたときに、ちょうど時代的に流行ってた時期だったんですけど。アルバムの流れで、なんとなくここに速い曲が必要だなと思って。で、これを選んだという感じですね。
──早くてスウィングしている曲ってことですね。
そうですね。
──原曲はシンセばりばりっていう感じの曲ですが。
好きですけどね、あれもいま聴くと。これは編曲はやってなくて、ほぼそのまんまですね。ただし、シンセのフレーズは表現できないんでどうしようかっていうのがあって(笑)。そこはフリーのところにすればいいんじゃないかってそれぐらいですね。
──もともとはフュージョンっぽいこってりした曲じゃないですか。意外とあっさりした感じにまとめられてますよね。
あっさりしているし、意外にピアノ・トリオでやっても響くんだなって思いましたね。
──管楽器がいなくても成り立つんだなって思って新鮮でした。ピーター・アースキンのあの早いドラムをやるのはドラマーは大変そうですよね。
(高橋)信之介(dr)ががんばってくれましたね。
──オリジナルに関しては最初に書いたのはどれですか?
「Golden Boys」かな。頭の半分くらいは1年前ぐらいに書いて、ほったらかしにして。今回の制作の前に慌てて、書きあげた作品ですね。私としてはポップな曲を書いたつもりなんですけどね(笑)。ただし、「いまどきは変拍子だ」なんて言われるから。
──ハハハ(笑)。
ソロを五拍子にして、だけどあからさまに五拍子にするとかっこ悪いんで、なるべくわからないように…… とかそのぐらいですかね。もとをただせばハービーがリハモで使うハーモニーなんですけど、そういうものを入れたら「(ロバート)グラスパー」っぽくなるんじゃないかって(笑)。そんな感じですかね。私なりに「いまどきのことをやらないとダメなのかな」とか思ったりもして、それなりにやったんですけど「あ、やっぱり無理だな」って思って。普通の曲になってしまったていう。でも「Golden Boys」は意外にライヴでやるとうけますね。
──グラスパーっぽくなるかもってのはおもしろいですね。
その4小節だけは若い方からするとそう聴こえるみたい。私からすると昔からリハモで使うことなんですけど。この前、一緒にやったドラマーの山田(玲)くんも「これグラスパーっぽくてかっこいいすね」って言われたり、若い人が聴くとそうなるっていうね。これが世代のギャップかっていう(笑)。
TOUR INFORMATION
大西順子Very Glamorous Tour 2018
@Billboard Live OSAKA
2018年1月25日(木)
出演 : 大西順子(pf) / 井上陽介(b) / 高橋信之介(ds) / 馬場孝喜(g)
問い合わせ : Billboard Live OSAKA 06-6342-7722
http://www.billboard-live.com/pg/shop/show/index.php?mode=detail1&event=10732&shop=2
@Blue Note 東京
2018年2月7日(水)
2018年2月8日(木)
2018年2月9日(金)
出演 : 大西順子(pf) / 井上陽介(b) / 高橋信之介(ds) / 馬場孝喜(g)
問い合わせ : Blue Note 東京 : 03-5485-0088
http://www.bluenote.co.jp/jp/artists/junko-onishi/
@Blue Note 名古屋
2018年2月23日(金)
出演 : 大西順子(pf) / 井上陽介(b) / 高橋信之介(ds) / 馬場孝喜(g)
問い合わせ : 名古屋 Blue Note : 052-961-6311
http://www.nagoya-bluenote.com/schedule/index.html
ほかオフィシャルHPで随時発表
大西順子オフィシャルHP
PROFILE
大西順子
ピアニスト
1967年4月16日、京都生まれ。東京に育つ。
1989年、ボストン、バークリー音楽大学を卒業、ニューヨークを中心にプロとしての活動を開始し、ベティ・カーター(vo)、ジョー・ヘンダーソン(ts)、ジャッキー・マクリーン(as)、 ミンガス・ビッグ・バンド、ミンガス・ダイナスティらと共演する。
1993年1月、デビュー・アルバム『ワウ WOW』を発表。大ベストセラーとなり、同年の『スイングジャーナル』誌ジャズ・ディスク大賞日本ジャズ賞を受賞。
1994年4月、2neアルバム『クルージン』が米国ブルーノートより発売される。
5月、NYの名門ジャズ・クラブ“ビレッジ・バンガード”に日本人として初めて自己のグループを率いて出演し、1週間公演を行う。同公演を収録した、『ビレッジ・バンガードの大西順子』は、『スイングジャーナル』ジャズ・ディスク大賞銀賞、出光音楽賞を受賞。 1995年のスイングジャーナル誌読者投票では、ジャズマン・オブ・ジ・イヤーをはじめ、「アルバム・オブ・ジ・イヤー」、「コンボ」、「ピアノ」の4部門を受賞。人気実力ともに日本ジャズ・シーンのトップに昇りつめる。その後日本のジャズの牽引者として縦横無尽の活躍を果たし、近年の本格的な女性ジャズ・ ミュージシャン・ブームの先駆けともなるが、2000年3月の大阪公演を最後に突然の長期休養宣言。
そして2007年、多くを語らず活動再開。かつての力強く、グルーヴ感あふれるプレイに加えて、繊細さも兼ね備えたダイナミズムあふれる演奏は、大きな話題を呼ぶ。 2009年7月、実に11年ぶりのアルバム『楽興の時/Musical Moments』よりリリース。11月にはベルリン・ジャズ・フェスティヴァルに自己のトリオで出演。
2010年2月、『楽興の時』がフランスにてリリース。3月には、ユニバーサル移籍第一弾と なる新作『バロック』を、かつてプロとしてのキャリアをスタートさせたニューヨークでレコーディング。同世代のファーストコールのミュージシャンをずらりと揃え、ダイナミックでリッチなアコースティック・ジャズ・サウンドを存分に披露。この作品は全世界発売され、米ジャズ雑誌でのポール獲得など、高い評価を得た。オーチャードホールでのCD 参加メンバーによる豪華なコンサートは大きな話題となる。
2012年夏、突然の引退宣言。
2013年9月、クラシックの祭典〈サイトウ・キネン・フェスティバル松本〉へ出演。小澤征爾氏の猛烈な誘いに負け、一夜限りの復活とし出演を決める。小澤征爾率いるサイトウ・ キネン・オーケストラと大西順子トリオの共演は、この夏の大きな話題となり、素晴らしい反響を呼ぶ。
2015年9月、東京JAZZへ出演。日野皓正&ラリー・カールトンSUPER BANDのサポー ト・メンバーとして出演し、その圧倒的な存在感でシーンに復帰を飾る。 2016年6月、菊地成孔プロデュースによるニュー・アルバム「Tea Times」をリリースする。