2016/03/22 17:54

大森靖子ライヴ・レポート

大森靖子円盤月例企画vol.12「祝! 魔法が使えないなら死にたい発売前夜祭!」

アルバム『魔法が使えないなら死にたい』発売前夜の3月19日、高円寺・円盤にて大森靖子が毎月行っている月例イベントが行われた。この企画、普段は毎回様々なゲストを迎えて行われているが、この日は特別に「祝! 魔法が使えないなら死にたい発売前夜祭! 」と題され、大森靖子単独での出演となった。内容は当日まで未定というこの企画、いったいどのようなものになるのだろうか。開場直後に会場内に入ると、常連と思われる男性客が、すでに何人か席についていた。アルバム発売前夜という記念すべき日ということもあり、普段よりも早いペースで客席は埋まっていく。開演時には、身動きも取れないほどの満員となった。客席を見ると、女性は若い人が目立っていたが、男性は若年層から年配の方まで、実に幅広い。

混雑のため受付が追いつかず、定刻よりも少し遅れてライヴはスタートした。大森自身が用意したという、アルバム発売を祝したケーキに火をつけると、大きな拍手が起こる。そんな祝福ムードの中、BGMとして流れていた自身のCDの音に合わせて、「新宿」を歌う。普段の弾き語りとは違い、貴重なCDアレンジ・バージョンでの披露となった。続けて同じように「ハンドメイドホーム」も歌う。楽器を持たずに歌っているせいか、大きな手振りを交え、伸びやかに歌う姿が印象的だった。カラオケのように歌う姿を見て客席から「アイドルみたい」という声が上がったが、生の楽器を使わなくとも充分にステージが成立してしまうのは、彼女の歌の力によるものだろう。 2曲歌い終えると、いつものアコースティック・ギターでの弾き語りスタイルへと移行する。前半はアットホームな雰囲気のまま進行していった。大森のライヴは普段、張り詰めたような空気が場を支配していることが多いため、とても新鮮に思えた。そんな雰囲気のせいか、この日はMCも多く、曲の解説やアルバムの制作秘話などを演奏の合間に挟む。OTOTOYのインタビューでも語っていた、今回のアルバムが魔法を手に入れて終わるストーリーになっているという話や、きゃりーぱみゅぱみゅが自分達の時代の象徴であるという話もあった。

ライヴが進んでいくにつれて、徐々にいつものような張りつめた雰囲気に近づいていく。中盤、2012年にリリースしたEP『PINK』について「自分の痛々しい部分だけを誇張したら話題になって、売れると思って作ったら(自分のことを)誤解をされてしまった」と話し、今回のアルバムで「内容的には、その誤解が解けるんじゃないかな」と語る。その後に演奏された、<汚いオヤジとやらないと幸せが分からない>という強烈な歌詞が印象的な「パーティードレス」は、一段と熱がこもっていた。演奏後、この曲について「自分はこの曲が一番好きなんだけど、自分の歌ったことをみんな素直に信じちゃうんだ。じゃあ、裏返しに歌わなくていいんだって、がっかりしたというか、考えすぎてたなって思って、もっと簡単な言葉でいいんだって思うようになった」と話す。そして、<音楽は魔法ではない>と繰り返し叫ぶ「音楽を捨てよ、そして音楽へ」を歌う。「パーティードレス」は、これまでの彼女の象徴的な曲であり、「音楽を捨てよ、そして音楽へ」は、今の彼女の象徴のように思う。この2曲の演奏は、この日のライヴの核となる流れであると感じた。それだけ圧倒的なエネルギーがこめられた演奏であり、それまでたびたび和やかになっていた客席の空気も一気に引き締まった。

後半はMCも少なくなり、いつもの大森靖子のライヴの雰囲気になっていた。集中した客席で静まり返った会場の中、アコースティック・ギターの音と彼女の圧倒的な歌だけが響いた。最後の曲「サマーフェア」を終え、大森靖子が笑顔で挨拶するとライヴは終了した。ライヴ終了後は、冒頭で登場したケーキをお客さんも交えて食べる。その輪の中心に大森靖子が入り、会場内は再びアットホームな雰囲気に包まれていた。明日、いよいよ大森靖子の1stアルバムがリリースされる。

2013年3月19日(火)@高円寺・円盤

<セットリスト>
1. 新宿
2. ハンドメイドホーム
3. あたし天使の堪忍袋
4. コーヒータイム
5. 魔法が使えないなら
6. 夏果て
7. KITTY'S BLUES
8. I love you
9. あれそれ
10. お茶碗
11. 君と映画
12. 展覧会の絵
13. キラキラ
14. ぱるるの小包
15. パーティードレス
16. 音楽を捨てよ、そして音楽へ
17. 最終公演
18. ファミレス
19. プリクラにて
20. 背中のジッパー
21. 歌謡曲
22. サマーフェア

「TOKO-NATSU2013 どついたるねん&大森靖子Wレコ発 野方にて」

アルバム発売から2日、大森が高円寺の無力無善寺を中心に活動していた頃からの盟友、どついたるねんとのダブル・レコ発ライヴ「TOKONATSU’2013」が行われた。なお、この日は「大森靖子『魔法が使えないなら死にたい』リリースツアー」の記念すべき初日公演でもある。会場が区民ホールということで、普段彼らがライヴをしているライヴ・ハウスとは違い、この日は客席に座席がある。他にも、ロビーには大森の写真パネルが展示されていたりと、普段とは違う趣が感じられた。開演時間が近づくと、7割方の客席は埋まっていたのではないだろうか。先日の円盤でのライヴとは違い、この日は男女比は半々くらいで、比較的若年層の姿が多い。開演時間になると、司会の人がこの日のライヴの説明をしつつ、拍手の練習をするなど、客席を盛り上げる。その後、ライヴ前の大森の楽屋へ突撃取材した映像の上映を挟み、ライヴの本編が始まる。

モーニング娘。の「ブレインストーミング」が流れる中、大森がステージに登場し、客席は拍手で向かい入れる。普段のライヴ・ハウスと違い、お客さんはみな座ったまま。なんとも不思議な光景である。「新宿」から、ライヴはスタートした。先ほど映像が流れていた、ステージ後方にある巨大スクリーンは赤く染まり、広いステージの中央に位置する大森を、スポット・ライトが照らし出す。ホールでのライヴということで、音の響きも普段とは違う。彼女の歌とギターがホール全体を反響し、リヴァーブが深まった音が響き渡っている。そんな音の反響を確かめるかのように、時折マイクから顔を遠ざけ、生の声で歌う場面も見られた。そして、曲の表情に合わせるかのように、スクリーンの色は橙や黄、緑など、様々な色へと変化していく。

4曲歌い終えると、会場から大きな拍手が起こる。「今日は集まっていただき、ありがとうございます。大森靖子です」と挨拶し、漫画家の久保ミツロウがアルバムの発売日にオールナイトニッポンで曲をかけてくれたことなどを話す。それ以来しばらくMCはなく、集中して曲を立て続けに演奏する。その間、客席も静まり返り、みなステージに集中している。会場が広いせいか、大森はいつも以上に遠くへ視線を向けながら歌う。しかし、距離が遠くなってもいつもと変わらず、彼女は確実にお客さん一人一人の目を見ながら歌っている。そして放たれた歌は、確実に一人一人の胸元に届いている。どれだけ会場が広くなったところで、彼女のスタンスは変わらないのであろう。そして、どれだけ物理的な距離が遠くなっても、我々のところまで軽々と歌を届けてくれるのだろう。そう感じさせてくれた。

「パーティードレス」を歌い終えたところで、大森が再び口を開く。「パーティーをどんどん大きな、いいところで(やっていきます)。私のファンの人を連れてこうと思うので、これからもよろしくお願いします」。ライヴは終盤へ突入する。「音楽を捨てよ、そして音楽へ」では、4分足らずの曲の中に、叫んだり、笑ったり、囁くように歌ったり、不敵な笑みを浮かべたり、怒りや悔しさ、もどかしさをぶつけたり、実に多くの感情と表情が見えた。そんな勢いが余って、曲の最後でピックを落とすが、そのまま演奏を続けた。張り詰めた空気のまま、あっという間に最後の曲「お茶碗」が演奏される。演奏を終えると、大森靖子は「ありがとうございます」と笑顔でお辞儀をすると、足早にステージを去っていった。

自分の出番を終えた後、どついたるねんのステージでは、無邪気に踊る大森靖子の姿があった。本当に彼女にはいろんな表情があり、ライヴを見るたびに違った一面を発見する。それもまた、彼女の魅力の一つでもある。 今回、大森靖子のライヴを初めてホール規模の会場で見たが、驚くほど違和感がなく、むしろライヴ・ハウスよりも似合っているようすら感じた。例えばアイドルがよく公演をやる中野サンプラザであったり、ロック・バンドが世に出る際の登竜門的な存在であった渋谷公会堂だったり、これらよりも更に広い国際フォーラムであったり、更に広い会場で歌う彼女の姿が、容易に想像出来てしまった。それが現実になる日も、そう遠くはないと実感させてくれるライヴだった。この日から始まったツアーは、ファイナルの5月13日、渋谷CLUB QUATTROワンマンまで続く。先のインタビューでも、こちらのファイナルは特別な演出で行うことを予告していたので、確実に足を運ぶことをおすすめしたい。

文 : 前田将博
写真 : 二宮ユーキ

2013年3月22日(金)@野方区民ホール

<セットリスト>
1. 新宿
2. あれそれ
3. KITTY'S BLUES
4. あたし天使の堪忍袋
5. 魔法が使えないなら
6. コーヒータイム
7. さようなら
8. サマーフェア
9. キラキラ
10. 展覧会の絵
11. 君と映画
12. プリクラにて
13. パーティードレス
14. 音楽を捨てよ、そして音楽へ
15. 夏果て
16. I love you
17. 歌謡曲
18. お茶碗

[インタヴュー] 大森靖子

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