News

2015/03/24 19:00

 

昆虫キッズとはどんなバンドだったのか? シーンのなかで独自の輝きを放ち続けた彼らの最終公演を振り返る——OTOTOYライヴ・レポート

 

昆虫キッズが、渋谷クラブクアトロにてワンマン・ライヴ〈BLUE GHOST TOUR FINAL -元気にさようなら-〉を1月7日に行った。この公演をもって、彼らは約7年に及ぶバンド活動を終了。タイトルどおり悲壮感を感じさせない、最後まで彼ららしいライヴとなった。もともと多種多様なバンドが存在するインディーズ・シーンにおいても、このバンドは独自の輝きを放っていた。その光は、活動終了から2ヶ月以上経ったいまでも色あせていない。しかし実感がわかないとも言うべきか、不思議と喪失感も感じない。彼らのライヴは、まるでファンタジーを観ているようなシーンがいくつもあった。彼らはいまも、そのなかで生き続けているように錯覚する。明日3月25日には、東京・下北沢モナレコードにてメンバーが参加しての〈昆虫キッズラストライブ上映会〉が行われる。昆虫キッズとはどのようなバンドだったのか。いま一度、あの日のライヴを振り返りたい。

彼らにとって最大キャパでのワンマン。チケットは完売とまではいかなかったものの、フロアはかなりの密度となっていた。もともと髙橋翔(Vo、Gt)が活動終了に向けたコメントで「涙はいらないぜ」と語っていたこともあるのか、客席には悲壮感はあまり感じない。そんななか、彼らを誕生から見守ってきたという澤部渡(スカート)がタンバリンを持って登場すると「今日は最高のロック・バンドが、ただただ最高のライヴをするだけでございます」と陽気に話し、「盛り上がってまいりましょう!」と宣言した。

最初にステージに佐久間裕太(Dr)が現れると威勢良くドラムを叩く。続いて冷牟田敬(Gt、Key)、のもとなつよ(Ba)、そして最後に高橋が登場すると、1曲目「Alain Delon」から勢いよくライヴははじまった。高橋は、つけていたサングラスを外すと「昆虫キッズです。今年もよろしくお願いします」とあいさつ。ライヴのタイトルに絡めて「おれは元気じゃないからね」と告げると、1月4日の名古屋公演で声帯を痛め、この日は朝から点滴を打ってライヴに臨んだことを明かした。序盤はアップ・テンポなナンバーを中心に畳みかける。冷牟田のソリッドなギター・リフとコーラス・ワークが印象的な「ASTRA」、狂おしいキーボードの音色に乗せて高橋のヴォーカルが感情的に響いた「主人公」と、強烈なグルーヴで場内を包み込んでいった。

「こんなときばっか、来るんじゃねーよ」と悪態づく高橋に、佐久間は「ほんとだよー」と応じる。高橋がどれだけ予測不可能な言葉を放とうとも、いつだって佐久間は満面の笑みでその話題を拾っていく。このふたりの微笑ましいやりとりも、彼らのライヴでは定番だった。続くパートでは、ミディアム・テンポな曲でファンタジックな世界に染め上げていく。「サマータイマー」では、高橋の歌の合間で、のもともアンニュイなヴォーカルを聴かせた。「わいわいワールド」演奏後には、高橋が自身の歌に納得がいかなかったのか、「ここだけ好きな人もいるかもしれないから」と同曲のサビだけを弾き語りで歌ってみせる。そして最後のアルバムとなった『TOPIA』収録の「Miss Heart」を優しく歌った。

「象の街」「27歳」では、これまでとは一転したサイケデリックな世界を観せ、高橋の感情的なヴォーカルが悲痛に響いていく。轟音が一瞬途切れると、音が加速していき「WIDE」へ。冷牟田も激しくネックを揺らせながらプレイする。彼らのライヴでは定番の2ndアルバム『text』収録「いつだって」から、名曲「まちのひかり」に続く。佐久間の軽快なリズムに乗せ、高橋が気持ちよさそうに歌う。冷牟田のキーボードが曲に彩りをくわえ、コーラスをするのもとも楽しそうな笑顔を見せた。曲が終わると、客席からは絶叫に近い歓声と、この日一番の拍手が響く。すると高橋は「ありがとう」と得意げに客席を指差した。ライヴはもう終盤。高橋が「街は水飴」を振り絞るように歌うと、「BLUE ME」ではギターを手放しマイクを握ってステージ中央へ移動。そのまま胸に手を当てて熱唱した。そして本編ラストの「FULL COLOR」の演奏が終わると、ノイズの余韻が残るなかメンバーがひとりずつステージを去っていった。

すぐにメンバーがステージに戻ると、「BIRDS」からアンコールがはじまった。「シンデレラ」では彼らのライヴでは珍しくコール・アンド・レスポンスがおこるシーンもあった。「なにかしゃべれば?」という高橋の声に応えて、のもとが「たくさんきてくださって、ありがとうございます」と感謝を述べる。すると高橋はメンバーの衣装の色がかぶっていることに苦言を呈する。それにツッコミを入れるメンバーたち。最後のライヴのアンコールだというのに、彼らはいつもの和やかな空気のままだ。「まぼろしで終われば良かった なんて 君は言う」という一節から「GOOD LUCK」へ。本編終盤では時折苦しそうに聴こえた高橋のヴォーカルも、調子を取り戻しているように思える。次の曲が最後であることを明言しつつ、高橋は「終わったら、男たちはおれを(会場のビルの下の階層にある)ブックオフまで連れていってくれ」と話し、「恋人たち」を演奏。曲のラストで、高橋は本当に客席へダイブ。客の頭上からステージに向かってうれしそうに手を振る高橋を、暖かく見守る3人の姿が印象的だった。いつだって自由奔放な高橋に魅了されて彼を支える3人。その愛情と絶妙なバランスで成り立っていたバンドだったように思う。

アンコールを求める声に応えて再度ステージ戻った高橋は「帰れよ。早く風呂入って寝たいんだからよ」とこぼしつつ、「最後だから、ちゃんとお礼を言わないとね」と話しはじめる。「何年やってきたかわからないけど、楽しいことも楽しくないこともいろいろあったけど、こんな変なバンドは出てこないと思います。おれのわがままで人を集めて、全部自分のやりたいようにやっても誰にも文句を言われないでさ」。そして客席を見つめながら「やっぱ、みんなの顔を見ているといいね」と笑った。続いて佐久間も「ほんと最後に集まってもらって、感無量って感じですね。愛されてるバンドだったんだなって思いました。無事ケガもなく終わることができてよかったなと思います」とあいさつし、冷牟田は「さっきダイブしたのおもしろかった。すごい良かったよ」と高橋に語りかけた。

「最後にやる曲はこれしかないなと思って。昆虫キッズでした。またね」と高橋が話すと、シングルとしても発売された「裸足の兵隊」が奏でられる。「海に行こう 見に行こう なにか 大きなものを見に行こう」と最後のフレーズを歌い終えると、4人が向かい合って噛みしめるように何度も繰り返しリズムを刻み、すべての演奏は終わった。一度去ったメンバーは、拍手に応えて再びステージに戻る。やりきったとばかりに最高の笑顔を見せた高橋がメンバーを紹介し、ひとりひとりと握手。「昆虫キッズでした。ありがとうございました。じゃあね」と言い残し、彼らの最終公演は終了した。

トータル2時間半近くのボリューム感をのぞけば、最後まで終わりを感じさせない、いつもの彼らライヴそのものだったように思う。とびきりロマンチックな高橋の感性で描かれる世界は、ファンタジーやメルヘンの要素を色濃くはらみながらも、日常と地続きのものだ。平凡な毎日のなかで、ふと迷い込む白日夢。昆虫キッズが鳴らしていたのは、そんな景色をいくつも映し出す音楽だった。そして彼らの活動は、いつだってどこか飄々としていながら等身大で、所謂大人たちに迎合することなく、音楽が好きなだけでここまで駆け抜けてきたような純粋さがあった。最後まで自分たちのスタイルを貫きながら、クアトロという大きなステージに立ってしまった。そんなバンドのあり方自体、希望を感じさせてくれるものだった。彼らが描いたストーリーは、どこか画一化されがちな音楽シーンに違和感を感じていたリスナーの思いを肯定してくれたように思う。高橋自身も言っていたとおり、こんなバンドはきっともう出てこない。その思いはきっと、ときを追うごとに大きくなっていくだろう。

高橋は最後のライヴをDVD化することを示唆している。メンバーは、今後も音楽活動を続けていくことを明言している。それぞれバンドに所属している佐久間、のもと、冷牟田と違い、高橋にはまだ目立った動きは見られないが、次の活動を楽しみに待ちたいと思う。(前田将博)

昆虫キッズ〈BLUE GHOST TOUR FINAL -元気にさようなら-〉
2015年1月7日(水)渋谷クラブクアトロ
<セットリスト>

1. Alain Delon
2. Metropolis
3. ブルーブルー
4. ASTRA
5. 主人公
6. 変だ、変だ、変だ
7. Night Blow
8. 冥王星
9. 楽しい時間
10. サマータイマー
11. COMA
12. わいわいワールド
13. アメリカ
14. Miss Heart
15. 象の街
16. 27歳
17. WIDE
18. いつだって
19. まちのひかり
20. 街は水飴
21. BLUE ME
22. FULL COLOR

アンコール1
23. BIRDS
24. シンデレラs
25. GOOD LUCK
26. 恋人たち

アンコール2
27. 裸足の兵隊

〈mona records 11th anniversary "昆虫キッズ ラストライブ上映会"〉
2015年3月25日(水)下北沢モナレコード
時間 : open 19:30 / start 20:00
料金 : 前売¥2200 / 当日¥2500 (1D¥500別途)
出演 : 昆虫キッズ(トーク)
予約・詳細 : http://www.mona-records.com/live/2015/03/live_032520.php

・昆虫キッズの音源はOTOTOYで配信中
http://ototoy.jp/_/default/a/41440

・昆虫キッズ オフィシャルサイト
http://www.theinsectkids.com/


[ニュース] 昆虫キッズ

あわせて読みたい


TOP