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2024/07/17 19:00

 

【ライヴ・レポート】雷雨の夜に響いた、親友たちのうた──〈草野華余子 presents "vs bestie" special edition〉

 

雷雨の降り頻る東京で、4人のうたが響いた夜。それは温かく、優しく、ときに怒りや、癒しを感じる、素敵な時間だった。

これは、2024年7月6日に渋谷WWWXで開催された草野華余子の主催ライヴ、〈"vs bestie" special edition〉の記録である。

「vs bestie」と題されたこのイベント。この「bestie」とは、best friendが変化してできた「親友」という意味のスラングとのこと。これまでは、2マンライブとして開催してきたこの「vs bestie」シリーズ。この日のライヴは、special editionということで主催の草野華余子の「親友」である、植田真梨恵、ヒグチアイ、関取花が集結。3人は草野と親交があるだけではなく、それぞれが古くからの付き合いがあり、お互いの楽曲も全てを知り尽くしている仲。まさに親友同士の共演である。

ステージに立つのは、アーティストひとり。バンドメンバーもおらず、持つ楽器もひとつだけ。派手な装飾やスクリーンに映し出すような映像もなく、あるのは照明のみ。いろんなものを削ぎ落としているからこそ、「うた」の力をダイレクトに感じることができる構成だった。

この日のトップバッターを務めたのは、植田真梨恵。小鳥のさえずるようなSEのあと、ステージに現れた植田は、1曲目を“ダラダラ”でスタート。アコースティック・ギター1本の弾き語りで、初夏の空気に包んでいく。「こんばんばー!」と大きく叫ぶと、続いて“Stranger”、“ハイリゲンシュタットの遺書”を披露。スウィートな歌声のなかに潜む、強いメッセージに心を掴まれてしまった。MCのなかで、以前大阪で開催された「vs bestie」シリーズに出演した際、「bestie」は「野獣」(「beast」と勘違いしていた)のことかと思っていたと話す植田。そこからさらに、インディーズ時代の楽曲“kitsch”を歌い、続く“心と体”ではアグレッシブにギターをかき鳴らし、疾走感のある歌声を届けた。

今年2024年でメジャーデビュー10周年を迎える植田。物販では、10周年のテーマカラーである赤色のグッズを紹介。「まあ赤が好きじゃない人は買うものはないですね」といった独特のテンションで、トークを展開。植田はMCのなかで「このあとはお話がおもしろい方がいっぱい出るので、今日はお話より曲をやろうと思います」と語っていたが、植田自身のトークもしっかりおもしろく、もっと話も聞いていたいと思うほどだった。植田は最後に“スペクタクル”を披露。「雷鳴が響く」この日の天気を晴れやかにするような力強い歌声を届け、会場に手を振り、投げキッスをしながらステージを後にした。

2番目に登場したのは、ヒグチアイ。新曲“わたしの代わり”をピアノで弾き語り、会場の空気を自分のものにしていく。ヒグチは、この日の雷雨について「華余子さんらしい天気ですね」という、ちょっと毒っ気のあるMCからスタート。ヒグチと草野は互いに墓まで持って行くような秘密を共有している仲であり、ヒグチのボキャブラリーを借りれば「いつでも脅迫し合える関係性」とのこと。それだけ深い仲だからこそ、こういうふうに軽口を言い合えるのだと思う。

ヒグチはそこからTHE FIRST TAKEでも披露された“悲しい歌がある理由”、そして“悪魔の子”という2曲を立て続けに。そして、「いろんなことが変わった4.5年前の事を歌った歌です」と前置きして、“mmm”(読み:ハミング)を歌い始める。この“mmm”は、コロナ禍のある時点でのことを記録した日記のような楽曲である。曲間でヒグチは「いつかみんなでラララで歌えたらいいなと思って書いた曲です」と話し、最後には大きなシンガロングが起こっていた。ヒグチは最後に「また、生きてあいましょう。」と言い残し、最後は“大航海”を高らかに歌い、愛のメッセージを届けた。

続いて、客席に手を振りお辞儀をしながら入ってきたのは、関取花。関取はまず「雨の日のライブは嫌いじゃないんです。ライヴハウスは、雨の日でもここだけは大丈夫だと思える、シェルターのような、水槽のような場所です」と語り、1曲目の“きんぎょの夢”へと入る。歌い終えると、関取は「当方大変冷え性のため、ステージ上の空調を抑えていただいても良いでしょうか?」とスタッフに伝えると、温かな拍手が響いた。

関取は、“10月のあなた”、“石段のワルツ”、“むすめ”、“もしも僕に”という楽曲を、短いMCを間に挟む形で披露。それは少し進んで少し休憩するような優しい時間で、関取花の持つ空気感ともシンクロしているような気がした。関取も草野とは深い仲。以前草野が「アイスボックスにストロング0を注いだら、これがめっちゃ美味いねん!」と言っていたというトークを展開すると、草野らしさ全開のエピソードに、会場がどっと沸いた。ちなみに関取は、この日出演が予定されていた藤原さくらの代演としての出演。そのことにもMCで触れ、「藤原さくらさんも今日出ていたら、きっと素敵なライヴをされていたと思います」と真摯にメッセージを伝えた。最後は未発表の新曲、「わるくない」を披露。雨の日も「わるくないな」と思える素敵なライヴだった。

トリを務めたのは、このイベントの主催である、草野華余子。草野は“seize the day”、“東京より”の2曲を披露し、会場の空気を持ち味である、ロックな空気に染め上げていく。
草野は、この日の出演者について「ひとつ食べたらお腹いっぱいになるけど、定食にしてみました」と例え、楽屋も和気藹々としていたと語る。

草野は「今日は結構、曲をたくさんやろうと思ってますので」と続けたのだが、どこか話を聞きたそうなファンの姿が。これに対して草野は「もういいよ!めっちゃ押すしめっちゃ喋るしめっちゃ曲やるぞー!その代わり、延長したら1人1000円ずつ置いていってよ!」と返す。こういう観客とのコミュニケーションを取る姿が、草野が人に好かれる理由なのだなと感じた。

ライヴは草野の楽曲の中でもアグレッシヴな楽曲“カメレオンの憂鬱”、“断線”の2曲を立て続けに。まるで熱い炎のような激しいギターの音と草野の叫びがWWWX全体に広がっていく。草野は、さらに「今年は行きたい場所にも行って、言いたいことも言うような1年にしてたんですけど、それでもやっぱり思っていることが伝わらないなって思う瞬間がすごく多くて。それで溜まりに溜まったものを、今日の朝早起きして10時に完成させて新曲として持ってきました」と話し、次の曲はこの日の楽屋でサビを書ききった新曲を披露した。

新曲のタイトルは、“Now I'm Dreaming”。草野は、シンガーソングライターとしても作家としても長きに渡り、第一線で活躍しつづけるアーティストである。でもまだまだ草野にはやりたいことや叶えたい夢がたくさんあり、そのためにもがいている最中なのだと思う。この新曲は、そういった自分を鼓舞するような歌でもあり、未来に向けた決意のような曲だった。草野は最後に “それでも、まだ”という曲を歌う。どんなことがあって諦めないという、ポジティヴなメッセージを残して、草野はステージを去った。

万雷の拍手に導かれて、アンコールがスタート。ここでは、今日の出演者それぞれと草野の2人によるコラボコーナーが行われた。まず最初に現れたのは、植田真梨恵。かなりのハイテンションで現れた植田はそのままのテンションで、草野とのトークを展開。草野が今年に入って32曲もの楽曲を作ったことについて、植田は驚きの声をあげ、「野獣やん!もうビーストやん!」と自らのMCの伏線回収を行う。会場が軽快なトークに笑顔になるなか、ふたりは植田がいちばん好きだと語る草野の楽曲“LOVE IS BAD COMEDY!”という曲を披露。植田の甘い声と草野の力強い声が混ざり合う、素晴らしいコンビネーションを見せた。

続いてのコラボ相手は、関取花。ふたりがコラボした楽曲は、草野が「関取に歌ってほしい、というより楽曲をもらってほしい」とまで語る“夏と肉じゃが”。ふたりは以前、最寄りの駅が同じだったという共通点があり、関取はこの曲をはじめてきいたとき、「歌詞に登場するドラッグストアはもしかしてあの場所なのでは?」と思っていたとのこと。数年越しにその答えが正解だったとわかると、喜びの声をあげていた。そんなふたりが歌う“夏と肉じゃが”は、とにかく温かく日常の風景を感じさせる、どこかほっこりと心休まる空間だった。

コラボ相手として最後に登場したのは、ヒグチアイ。ヒグチは登場するや否や、“夏と肉じゃが”は「ヒグチに歌ってほしいって言ってたのに!」と草野に拗ねる。草野は、言い訳をしながら「私、浮気ばれた男の気持ちや」と語り、場を和ませる。ちなみに“夏と肉じゃが”というタイトルはヒグチと一緒に考えたとのこと。こういう関係性もまさに、親友だなと感じさせた。ふたりはそれから“世界の終わりにキスをしよう”という楽曲をコラボで披露。演奏にはかなりのテクニックを要する楽曲だが、その圧巻のパフォーマンスには、えも言われぬ凄みを感じた。

怒涛のコラボコーナーを終え、最後は草野ひとりで“カーテンコール”という楽曲を熱唱。曲の途中には、マイクから離れ肉声で歌声を届ける姿もあった。それはきっと、自分の気持ちをダイレクトに伝えたいという想いがあったのだろう。草野は、大切に大切に歌い上げ、この日のライヴを締め括った。

こうして草野と親友たちとの素敵な時間は幕を閉じた。4人とも本当に素晴らしいライヴだった。この日の出演者は、それぞれがソロで活動しているアーティストだが、長く音楽活動を続けていられるのは、こういった仲間がいるからなのだと思う。そして、4人はこれからも、互いに別々の道を歩みながらも、共に音楽を鳴らし、どこかで繋がっていくのだろうと思った。

草野華余子 presents
7月6日(土)渋谷WWWX
開場 / 16:45 開演 / 17:30
出演:草野華余子,植田真梨恵,ヒグチアイ,関取 花

セットリスト
【植田真梨恵】
M1.ダラダラ
M2.Stranger
M3.ハイリゲンシュタットの遺書
M4.kitsch
M5.心と体
M6.スペクタクル

【ヒグチアイ】
M1.わたしの代わり(新曲)
M2.悲しい歌がある理由
M3.悪魔の子
M4. mmm
M5. 大航海

【関取花】
M1.きんぎょの夢
M2.10月のあなた
M3.石段のワルツ
M4.むすめ
M5.もしも僕に
M6.わるくない

【草野華余子】
M1.seize the day
M2.東京より
M3.カメレオンの憂鬱
M4. 断線
M5. Now I'm Dreaming
M6.空
M7.それでも、まだ

【EN】
M1.LOVE IS BAD COMEDY! w/植田真梨恵
M2.夏と肉じゃが w/関取花
M3. 世界の終わりにキスをしよう w/ヒグチアイ
M4.カーテンコール

[ニュース] 草野華余子

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