2023/07/20 18:00
DURANが、2枚の新作アルバムをリリースすることを発表した。1枚はロックアルバム『Electric Man』(2023年11月29日発売)、もう1枚はブルースアルバム『30 Scratchy Backroad Blues』(2024年2月21日発売)。今作はどのように制作が進められていたのか、彼は今どんなことを考えているのか……久しぶりに話を訊いた。
――2023年に入ってからはソロアーティストとしての活動が鳴りを潜めていた感じですけど、今どういう状態なんですか。
主に制作ものばかりやってますね。基本は自分の制作もしてましたが、あまり発信できてないけどちょっと別件のレコーディングもしてたり、とある楽曲のアレンジもさせてもらったり。表にでるのは全部後々なのでね。セッションライブもたまにやったりしますが、僕は本当に好きな音楽家としか音は出したくないので沢山はやっていません。毎年似た様なルーティンが好きじゃなくて、、レコーディングの事もあるし環境も変えたくて都内から離れたとこに身をおいて制作したり、とにかくやった事ない事を一から勉強したくて、海外のレコーディングエンジニアからオンラインレッスン受けたり、一時期はレコードの事をもっと深く知りたくてプレス工場で働こうかなとも思ってましたが(笑)。流石にそんな時間は無かったんでやれてないけど。海外エージェントのおかげで国外の色々なミュージシャンとの新たな出会いもあったりと、とにかく今までにない新しい刺激のある日々を過ごしてます。ルーティンを変えたかったら環境をいきなりバーンと変えないとダメなんですよね。あとは仲間のレコーディングを僕がエンジニアをして録音からマスタリングまで手伝ったり、そんな感じかな。
――今回、久しぶりのアルバムのリリースが発表されましたが、レコーディングはこれまでDURANさんのアルバムを録っていたスタジオとは違うところで行ったんですか?
以前は世田谷にあるレコーディングスタジオで録っていて、前作の『Kaleido Garden』も自分でミックスはしてるんですけど、レコーディング自体はエンジニアの方がトラッキングしてくれてたんです。でも、今回の2枚のアルバムは全部0から自分でやりたいなと思って。録りたい音は自分の中にあるのに時間が限られちゃったり、エンジニアの方と聴いて育った音楽が違うとなかなかうまくいかずで……。どうにかしたいなと思っていたんですけど、ちょうど山梨に自由に使える場所があるので、そこに楽器とかマイクとか今まで集めてきたアナログ機材を全部持ち込んでやってます。
――それはいつ頃からやり始めたんですか。
2022年の1月頃、ツアー中からです。自分で全部やれたら簡単なデモもPC上じゃなくて、生音で録りながら制作できるなって。スタジオでいろいろ実験したくても、都内のスタジオはあまり好きじゃないし、だったら自分らでやってしまった方がクリエイティブだし色々早いですよね。山梨のその場所は楽器セットできる広さはあるし、無駄に防音されてない場所なんですよ。部屋鳴りガンガンなんですけどそれが逆に僕の好みというか、ガレージで録ってるようなのが好きで。海外に住んでた時もエンジニアのリビングとか、2017年に頼まれた仕事でシカゴとLAに行った時もガレージにみんな機材を持ち込んでレコーディングしたり。そんな経験があるんで僕の中でレコーディングってもっと”遊び場”っていう感覚なんです。大きいスタジオだとせーので録音しても結局お互いが何メートルも離れてて板で仕切られる。それって一緒に演奏してないですよね。みんなの顔が近くて相手を感じながら録れる環境でやりたかったので、山梨のその場所はばっちりでした。
僕の中の良い音って何をキャプチャーしたいかが大事になってくるんですよ。自分の場合はプレイヤーの素晴らしい瞬間を空気も含めとらえたくて、たとえ高価なマイクと整ったスタジオを使ってお上品な音が録れてもそういった瞬間をキャプチャー出来てなかったら、僕はそれを良い音とは思えないです。他の音楽家からも聞くけどたまにあるでしょ、デモの方がよかった時。何をキャプチャーしたいのか、ビジョンが明確にないのにこのスタジオ、このマイクを使えばいいってだけの考えの人は結構多いです。
――そのビジョンを実現するための場所が山梨にある空間なわけですね。そこでアルバム2枚分の曲を全部自分で録ってるわけですか。
そうです。1枚はロックアルバムの『Electric Man』で、もう1枚は『30 Scratchy Backroad Blues』というタイトルのブルースアルバム。自分は今30代なんですけど、30代のうちにブルースアルバムを作りたいなと昔から思っていたんで、このタイミングだなと思ってブルースアルバムも作りました。『30 Scratchy Backroad Blues』っていうタイトルは、30代ということなので数字の”30”と、”Scratchy”は荒らしさや感情の激しさを表していて、”Backroad”は小道や裏道、田舎や自然に近い場所を連想させます。まさに今回レコーディングした場所がそういう所なんで。
――「2枚作ろうと思ってる」というのは、昨年末に新代田FEVERでやったワンマンライヴの時点で言ってましたね。
曲作り自体はずっとやっていたので。デモを作って録るんじゃなくて、録りながら作っていった感じですね。今ずっと山梨にいて、ベースのMASAEとドラムのShihoにリズム録りのときだけ来てもらってました。田舎は良いですよ。携帯電話のこと忘れちゃうし。画面の中に勝手に飛び込んできてしまうものより、近くにある大切なものを自分の目と感覚、価値観でキャッチしていたいですよね。本当に大切だと思ってる人が今何してるのか気になるのなら、SNSじゃなくてすぐに会いに行くべきです。田舎が良いと思うもう一つの理由はLed Zeppelinのライブ映像で確かロバート・プラントが山?か牧場みたいなところに住んでいて一通の手紙が届いて、「ライブかあ。。。街行くかっ」って感じで会場に向かうんだけど、そういう生活をしたいですね(笑)。
――なるほど(笑)。「今日はどっちのアルバムの曲を録ろう」とかっていうのは考えながらやっていたんですか。
そのときの気分です。だから作ってて面白かったですよ。ロックアルバムは色々なエフェクターや機材を使ったり、様々な録音方法を爆音でレコーディングしていて、気分転換に「今日はブルースをやろう」って感じでした。今回、ロックアルバムが13曲、ブルースアルバムが10曲で、前作にあったようなインタールードはなしで、2枚合わせてフルに23曲収録してます。
――曲を作って行くうちにだんだん増えていって2枚になった?
いや、最初から2枚にしちゃおうって思ってました。ロックアルバムの方は前作と比べてもかなりヘヴィだと思います。『Electric Man』っていうタイトル通りエレクトリックです(笑)。かっこいい音を出してるバンドはいますが、それでも近年というか大分前からロックギターは寂しいご時世。何だかロックとか歪みギターがファッションになっちゃいましたよね。僕自身、鼻で笑われてるなあと感じる時もありますよ。こいつバカにしてんなあって。でもね、もっと笑われちまえと。誰も求めてないかもしれないけど、こういうギタリストもいなくなったらそれはそれで寂しいでしょ。だからこそ逆に振り切ってこうと思って『Electric Man』というアルバムタイトルを掲げました。この刺激的な生命体=俺はあなたの心を感電させ必ず昇天させます(笑)。ブルースの方は僕は1920~1940年代ぐらいのブルースも好きなので、アンプラグド寄りです。ベースは全部アップライトベースを使っていて、ドラムも所謂ドラムというよりは、1920年代のジャグバンドみたいな、太鼓だけで「ドーンドーン」とかっていう感じですね。サックスはDURANバンドにはお馴染みの鬼塚康介。そしてカナダとフィリピンの素晴らしいシンガー達やボストンのバイオリニスト、ベルリンのハーモニカ奏者なども参加してくれてますよ。それとデルタ・ブルースな歌とギターだけの曲もあります。
――2枚のアルバムを同時に出すんですか?
いや、せっかくなので時期をずらして出しますよ。11月にロックアルバムを出して、そのツアー中に年をまたいで2月にブルースアルバムを出して、またそのツアーに出る予定です。
――ツアーといえば、去年6月のツアーファイナル以降、今年上半期にかけてはギタリストとしての活動が主になってましたね。
そうですね。でも僕の場合、話がきたらなんでもやるっていうタイプでもないので。
――想像するに、おそらくギタリストとしてのオファーも多いですよね。
でもアーティストとしても活動してるから、そっちもちゃんと大事にしたいんですよ。DURANを観に来てくれるお客さんからすると、「えっ!?こんなのやるの?」みたいに思う人もいるんですよね。例えばジミ・ヘンドリックスがいきなりわけのわからない仕事をしてたら、「オイオイ。。」って思うじゃないですか。だから、ファンの人にそう思われる感覚もすごくわかるし、ちゃんとそういうことを考えながらやらなきゃいけないっていうか。それに、僕はバンドマンなので、コツコツサポートからやってきたわけじゃなくて、サポートの方はたまたま運よく凄いシンガーの方々に呼んでもらったっていうだけなので。サポートギタリストとして参加させてもらったのがいきなり大きいところだったから、そこから下げられないんですよ。呼んでくれたアーティストの方の面子を潰したくないですしね。「うわっこんなことやっちゃった」とか思われたくないし。偉そうな意味じゃなくて、夢を壊したくないというか。高いチケット握りしめてライヴを観に来てくれているお客さんたちに、「なんだ、ここに行けばいつでも会えるじゃん」とか思われるような存在にはなりたくないんですよ。
――ここ最近、ギタリストとしてテレビの歌番組やYouTubeの番組に出演したり大きなライブに出演したこともあり、これまで以上に注目されて一般的な知名度も上がってると思います。
ありがたいです。でも有名人になりたいわけではないので知名度とかそういうのはよく分からないし、僕は呼んでくれたシンガーのために今しか出来ない最高の演奏をする事しか考えてないので。ギタリストとしてそういう場で演奏するのは刺激だからそれはそれでやりたいんですけど、ただ自分の曲を出してコツコツやりたいなって。そうすると、自分の立ち位置がわかるっていうか。たまに大きな世界にいると、本当の自分の立ち位置がわからなくなって勘違いしますよね。だって、それってその人の横でギターを弾いてるから、そこに立てるわけじゃないですか?そこを勘違いしがちなミュージシャンも多いと思いますよ。例えば、大きな会場でサポートギタリストとしてライブをやった次の日、自分はライブハウスで演奏するわけです。そうすると、「ああ、自分はまだまだだなあ」って思えるんですよね。ちゃんと地に足を着けて自分の立ち位置がわかるように、自分自身でクリエイティブな活動をするのが大事なんですよ。
――だから自分の曲作り、レコーディングも常にしてきたわけですね。
山梨なら東京から1時間半とかで行けちゃうので、曲は思いついたら録ってる感じでした。今この時代だからこそ、どうしてもPC上で済ませたくないんです。今はAIが凄いみたいだし、それを使うのは全然いいんですけど、使われるのはダメですよね。プリンスが「コンピューターを使うのはいいけど、コンピューターに使われたらダメだ」ってどこかで言っていて、その通りだなって。なので今作も人間クサイ音を残したかったし、そこの部分は前作から何も変わってないですね。バズノイズやポップノイズ、鼻をすすってる音もそのままだし、ドラムをエディットでグリッド上ぴったりにして曲の魂、生命力を奪うような事は絶対にしたくないです。何でも簡単にしたらダメなんですよ。歌にオートチューンなんてものは使用しないし修正はしない。だからこそ良いものが残せた時の達成感は半端ないです。間違いの修正に何時間も費やすなんて時間の無駄だしバカげてます。そんな時間があるなら練習した方がいいし、間違えてしまう歌や演奏を無理に修正までして残そうとすると、みんな"間違えない演奏"をしようっていう方にいってしまうんですよ。そんな中身のないものを残すより、今の1番の自分を残してあげる方が音に魂もこもって生き生きとしてるし、グルーヴもいいです。クリックもほとんど使ってないし、ブルースアルバムに関してはクリック使ってる曲は一曲もなかったかな。僕がAIを使うとしたら、人間がライブ録音した曲と同じ曲をAIに演奏させたのを1枚にパッケージングしてリリースしてみたりかな。DURAN vs AIみたいな(笑)。
――それは聴いてみたい(笑)。今回、DURANさんとバンドメンバーで全部レコーディングしているんですか?
録音は全部、基本いつものバンドメンバーとやってます。今回フィーチャリングという形の曲は一つもないですが、ロックアルバムの方には、シンガーのナナ・ハトリとアルゼンチンのシンガーも参加してます。あとは落語家の方とか。
――落語家さん!?
落語が入る曲を入れたいなと思って。落語とロックの組み合わせって前から結構あるんですけど、もっと違う形でできないかなと思ってロックアルバムの方に入れてます。もの凄いファズサウンドに合わせて落語家さんに古典落語をやってもらってて、すごく面白いですよ。ブルースアルバムの方にはさっきも言った通り、色々な国のブルースミュージシャンの方々に参加してもらってます。僕が尊敬するレジェンドギタリストの方も参加してくれてますよ。
――ロックアルバム『Electric Man』からは、先行シングルとして「Real Eyes」が7月19日に配信リリースされました。この曲は2023年1月に7インチアナログ盤として限定リリースされた曲ですよね。
そうです。そのデジタル版で、アルバムにも入るんですけど、それプラス最近知り合ったマレーシアのヤバい人がいて。カマル・サブランさんっていう学者であり、現代音楽家なんですけど、とにかくやってる事がかっこいいし、音楽の捉え方が他と違う人で、科学者みたいな人なんですよ。その人に、「Real Eyes」のリミックスを頼みました。だからシングルには、通常のオリジナルバージョンと、カマル・サブランさんがアナログ機材でリミックスしたバージョン2曲の計3曲を収録しています。
――水面下でかなり面白い曲作りが進んでいたんですね。今年に入ってTwitterで全然発信しなくなったし、それこそ日本語で文章を書かなくなってるからどうしたんだろうって思ってたんですよ。
ははははは(笑)。確かにSNSではそんなに発信してないですね。だからこうやって喋りたいなと思えるんですよ。Twitterに関して言うとそのときの気分もあるし。英語で呟いたりするのも、海外のフォロワーさんもいるし、ただそれだけのことです。それに、ちゃんとファンの方にはファンコミュティで「今日は歌を録ってきます」とか書いてるので、レコーディングしてることとかも全部わかってますよ。
――なるほど、表立ったところしか見ていないと、「DURANって今どうしてるのかな?」ってなっちゃいますけど。
ミステリアスな部分も大切かなと。大事なことだと思うんですよね。今の時代、何でも知ることができちゃうから、なんか言葉ってものが軽いですよね。余計なとこで何でも発言し過ぎてアーティストの言葉に対する姿勢も軽くなっちゃうというか。レコードに針を落としてそいつの音楽と向き合うじゃないけど、発言や文に対してもそうであるべきだと思います。こういうインタビュー記事に価値があるっていうか。フィジカルで音楽を聴くのと一緒です。
――ここ最近、よりそういう考え方になったわけですか。
なんか、"キャッチー"っていいですよね。例えば「音がデカい」って、キャッチーじゃないですか。「この人といえば」ってすぐ出てくるような、そういうキャッチーさは大切ですね。何でも時代に馴染ませちゃダメなんですよ。馴染ませると、逆にキャッチーじゃなくなるっていうか。よくいるじゃないですか、「もっと今流行ってるようなキャッチーなものを」とか言う人。浅はかですよね。他と馴染ませちゃってどこがキャッチーなんだっておもいます。
――別にこの人じゃなくてもいいっていう。
だって、ビールを飲みたいときにビールっぽい飲み物は頼まないじゃないですか?。こいつは常にビールじゃなきゃいけないっていうか、変に流される必要はないっていうか。「いいからおまえはもうそこにいろ!」っていう。ロックミュージシャンも、例えば今時代的に輝きを失っていたとしても、別にいいんですよそんなことは。ちゃんとそこにいればいいのにプラプラするから弱くなるんですよ。
――DURANさんの場合、自分で全部やっていく上で、「これは良いのか悪いのかどっちなんだろう」って思ったときは誰がジャッジするんですか?
アートっていうものに対して、他からの良いか悪いかのジャッジなんていらないと思うんですよね。ビジネスってなると話は変わってきますけど。逆に自分が良いと思ってないのに、周りにジャッジされて仕方なくやる方がおかしいです。
――今日はアルバムの曲を聴いてない状態で話を訊きましたけど、完成したらまた改めてお願いします。
そうですね。これから徐々に情報を出していって、アルバムが出たときにまたバーンっと話しますので。よろしくお願いします。
取材・文:岡本貴之
2023年7月19日配信リリース
OTOTOY配信中
https://ototoy.jp/_/default/p/1728243
1. Real Eyes(Kamal Sabran Remix (Take 2))
2. Real Eyes
3. Real Eyes(Kamal Sabran Remix (Take 4))
『Electric Man』
2024 年 2 月 21 日リリース
『30 Scratchy Backroad Blues』