2019/10/16 12:25
パーティ、ダンス、ハピネス、そしてパンク。ホット・チップの赤坂BLITZ公演は、そんな4つの要素がせめぎあっていた。
今回が日本で初めての単独公演だということを知ったときは、意外に思った。というのも、バンドが最初のレコードを発表してから15年は経っているし、本国イギリスではかなりの人気を誇るバンド。日本でも、セカンド・アルバム『The Warning』(2006年)からはしっかりと紹介されていた印象だし、パブリック娘。の斎藤辰也によるファンアカウント“ホットチップくん”の活躍もあって(?)、ファンベースを築いていた。
というわけで、ホット・チップが4年ぶりの新作『A Bath Full of Ecstacy』を携え、記念すべき日本初単独公演をおこなうべくやってきた。とんでもなく強力な台風19号の影響で出演予定だった“朝霧JAM”は中止に。なので、彼らのライブは大阪とこの東京公演の2つに終わったけれども、そんなことはおかまいなしに、台風前夜で人影もまばらな東京の街をホットに沸かし、揺らした。
ホット・チップのライブで印象的だったのは、とにかくそのサービス精神旺盛なエンターテイナーっぷり。ワイングラスを片手に、優雅にステージに現れたアレクシス・テイラーは、1曲目の「Huarache Lights」の間奏で空き缶を使った不思議なスライドギターを披露。上手後方のロブ・スモウトンは、サイリウムのようにギラギラと発光するスティックでパッドを叩いている。オーウェン・クラークはシンセサイザーをいじりながらも、とにかく飛び跳ねて踊りまくる。自分たちの音楽を自分たちがいちばん楽しむ——ホット・チップのショーは最後までそんな態度で貫かれていた。
「One Life Stand」、「Night and Day」というストイックなダンス・チューンの後は、ゆったりとした「Bath Full of Ecstacy」でハンド・クラップをあおるバンド。『A Bath Full of Ecstacy』のジャケットをパッチワークしたジャケットをアレクシスが脱ぎ捨てると、救命胴衣のような黄色いベスト姿に。さすが、“ファッションリーダー”……。
「Flutes」では、大阪公演でも話題になっていたダンスを繰り出すアレクシスとアル・ドイル、ロブ、オーウェンの4人。“Work that inside, outside, work that more...”と繰り返すコーラスに合わせ、左、後ろ、右、前、と体の向きを変えていく。“なにあれ〜”と笑いながらも、大いに盛り上がるオーディエンス。“かわい〜!”という声が聞こえたこともよく覚えている。終演後にTwitterでよく見かけた感想が、“おじさんたち、かわいい”というものだった。英国のキュートなおじさんたちが(そう、“キュートネス”というのはホット・チップの大事な要素だ)、ひたすらに快楽的なダンス・ミュージックを演奏するパーティーを目の前で繰り広げている……。最高じゃないか。
ジョー・ゴダードが歌う“Hungry Child”から、名曲「Boy from School」へ。フロアではシンガロングする声が聞こえてくる。後半、ぐっとスロウダウンする展開を挟み込むと、隣で見ている斎藤辰也が、“これは(リル・ルイスの)「フレンチ・キス」ってハウスの有名な曲のパクリだね”とオタクらしい解説を入れてくる。
ショーが急展開を迎えたのは、ビースティ・ボーイズの「サボタージュ」をカバーしたとき。いい感じに横ノリで踊れていたフロア最前部に観客が押し掛け、一気に縦ノリのすし詰め状態に。手を振り上げ、首を振り、ジャンプするオーディエンスたち。2本のマイクを口元にくっつけて叫ぶアレクシス。楽しいダンス・パーティが激しいパンク・コンサートと化した瞬間だった。
ユーモラスなMCを挿んでから、ホット・チップ屈指の名ダンス・チューン“Over and Over”へ。イントロから歓声が上がる。歪んだベースに、打ち鳴らされるカウベル。アレクシスは印象的なギター・フレーズを「ギブソンのいいやつ」(斎藤辰也)で弾きながら歌う。“Laid back...”、“Over and over and over and over and over...”という詞を、観客たちもアレクシスと一緒に口ずさむ。
美しい、けれどもベタにロマンティックなメロディーの「Melody of Love」を聴きながら、こんな歌い上げるような曲もやれてしまうのが、ホット・チップというバンドのすばらしいところだ、とふと思う。両手を挙げ、左右にスウィングするメンバーの姿に、思わず笑みがこぼれる。締め括りは、これもホット・チップ・クラシックな「Ready for the Floor」。“You are my number one guy”とアレクシスに合わせて歌うオーディエンスたち。いや、“number one guys”はあなたたちだよ、とステージ上のおじさんたちに向けて言いたくなってしまう。
当然のようにアンコールを求める声は止まず、メンバーたちはステージへ舞い戻る。なんと斎藤辰也がリクエストしたという、ジョーの穏やかな歌声が響く「Clear Blue Sky」を演奏。そしてアレクシスとジョーが歌い交わす「Positive」。アンコールの最後は「I Feel Better」で、「サボタージュ」のとき以上にガンガンな縦ノリで、フロアの最前部はしっちゃかめっちゃかに。そんなフロアに向け、なぜかテンガロンハットを被ってステージ上から歌うアレクシス。大団円なショーの締め括りにメンバーたちの名前を呼んだ後は、ワイングラスをちゃんと持って袖へと去っていった。
繰り返しになるが、今回が初めての単独公演。だからこそ、各地のホット・チップ狂たちが詰め掛けていた。“来てよかった〜”“最高”という声がそこここから聞こえてくる。キュートなおじさんたちに踊らされっぱなしの、幸福な一夜だった。
text by 天野龍太郎
Photo by Masanori Naruse
当日のセットリストをまとめたSpotifyプレイリスト公開中。
https://spoti.fi/33Cvhyp
01. Huarache Lights
02. One Life Stand
03. Night & Day
04. Bath Full of Ecstasy
05. Flutes
06. Hungry Child
07. And I Was a Boy From School
08. Spell
09. Sabotage (Beastie Boys cover)
10. Over and Over
11. Melody of Love
12. Ready for the Floor
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13. Clear Blue Skies
14. Positive
15. I Feel Better
(内)